表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/11

【第5章】覚悟の風

町中を走り回る。

いない。どこにもいない。どこに行ったんだ。

悪い奴らに捕まったか?


最悪なことしか出てこない。

絶望で足が止まったその時だった。


「エビン、どこ行ってたの?探したんだよ?迷子になってたのー?」

細くて甲高い声が聞こえ、振り向くとーーポップだった。


「ポップ…!お前こそっ、どこに行ってたんだよ!!」

安堵と悔しさと恐怖と苛立ちが一気に押し寄せる。


「ごめんなさい…エビンの手、離れちゃったから…」

細い声はもっと細く、小さくなる。


「大丈夫、もう離さないから。」

俺はポップの手を握り直す。

すると後ろから棘のように刺す声が聞こえた。


「あれ?何そのこ、人間じゃないよな。」

無法者の群れだ。

咄嗟にポップを後ろに隠す。


「なんだよお前ら。俺らに構うな。どっか行け。」

自分でも驚くほど、声に殺気がこもった。


きっと後ろに隠れてるこの子も怯えてるだろう。

それでも無法者はポップに手をかけようとした。


「…いい加減にしないと殺すぞ。」

無法者は舌打ちをし遠く立ち去っていく。


ーーー


俺はこの光景を知っている。

あの緑と白が混ざり合う場所。

…そうだ。俺はそこでポップを助けたことがある。


大きな白い建物の前で、少年らにいじめられてた狐。


俺は木の棒を振り回して、

騒ぎを聞きつけた先生が、「コラー!」と叱りにきて。

少年らは舌打ちをして去ってった。


怯えて草陰に隠れた狐に、俺はそっとお昼ご飯の残りをあげて、それからーーー


次の瞬間、まるで視界が開けたように明るく鮮明に見えた。

そうだ、この景色は俺たちが本当に居た場所だ!


「…っ!!!ポップ行くぞ!」

全てを思い出した。


「早くダイラに伝えなきゃ、この世界のこと、俺らのこと、本当のこと!教えてくれてありがとうポップ!お前は俺の大切な友達だ!」


なんで忘れてたんだろう、アカネの”魔力”は本当に強い。

隣でホカホカに顔を溶かしながらなんか言ってるポップには悪いけど今はそれどころじゃない。


俺が、ダイラが、いやこの町の人全てが、思い出せないくらいの願いだったんだ!

でもどうやってアカネを救う?!

わからない、俺には力がない…


「力…?そうか、俺は”ここでは”魔術師の息子!!」


今度こそ、手をしっかり握り、ふわふわで温かい感触を逃さない。

もう二度と、あんな思いはごめんだ。


「わぁあっ!エビン何するの、高いところ怖いよ!」

ヒョイっとポップを抱き抱えながら俺は全力疾走した。


「ダイラ!!ちょっと話が!!」

ぶわっと突風が吹き抜ける。

まさにアカネが魔法を発動させた瞬間だった。


「わぁすげぇー…」

まるで初めて魔法を見るかのような反応をしてしまう。


「アカネいい感じだぞ、今のをタイムラグなく発動できるようになること。練習しておきなさい。」

ダイラの指示に対し、アカネは少し焦った様子で食い気味に返す。

「はい、でも、私も話聞きたいです!」


久しぶりに室長室へ戻ると、あの時と同じように机には地図が広がっていた。


「ダイラ、俺、わかったんだ。この世界のこと。」

アカネはダイラに練習しておくよう強く言われ渋々練習場に残っている。


「そうか。実は私もアカネと話をして薄々勘づいておった。この世界はーーアカネの幻想、そうだろ?」


町きっての知識人ともなれば会話だけでわかってしまうもんなのか。


「あぁ。本当の世界はもっと”外”にある。俺たちはずっと見ないようにしてた。いや、見ないように”させられていた”んだ!」


沈黙の後、ダイラはゆっくりと椅子から立ち上がり、少し悲しげな表情を浮かべながら窓の外を見る。


「なぁエビンよ。お前は何を思った。それでもアカネを救いたいと思ったか?心からの願いが作り出したこの世界を、アカネから奪うことが本当に正しいと思うか?」


まさかダイラからそんな言葉が出てくるなんて、びっくりした。


「私は、正直わからんよ。何が正しいのか、何がアカネにとっての救いなのか。私たちは確かにここにいた。ずーっと、長い間な。」


そうか。ダイラは悲しいんじゃない。

思い出してるんだ。

この世界での全てを。


「大丈夫だよ、ここで過ごした時間は幸せだっただろ?父さんも、きっとそう思ってるよ。」


俺も椅子から立ち上がり、窓に反射するダイラを見つめた。


「俺は幸せだよ、ここで過ごしたたくさんの日々。アカネもきっとそうさ。もう十分過ぎるほど幸せを過ごしたよ。アカネはきっと…受け止められる。」


自信はなかった。

だけど自分自身にもそう言い聞かせた。

アカネを救う。

今度は、必ず…!


「そうだな、そうかもしれないな。エビン、お前は本当に、強くなったな。」


ダイラは困ったような微笑みで俺の頭に手を乗せた。

それはとても力強い手のひらだった。


ぶわっ!ワインレッドのマントが空を切る音ーー

「さぁ行こう、エビン!我々がやることはただ一つ!共に戻ろうではないか!」


それは、魔法なんかよりよっぽど強力な、覚悟の風だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ