【第4章】再会と一時の休息
重たい門を開けた瞬間、なんとなく心がざわついた。
ーーこの門、こんなに重たかったんだ。
見た目からして重たいのはわかっていたけど、魔法力管理大宮殿の人たち以外、多分誰も本当の重さを知る人はいない。
「ねーエビン、ここで何するの?一緒に暮らす?前みたいに僕にご飯くれるの?」
相変わらずキラキラした目で俺を見上げてくるポップ。
「…え?今なんて言った?」
聞き逃さなかった。
あり得ないことを言ってる!
「だーかーらー、一緒にここで暮らすの?」
「いや、そこじゃなくてーー」
肝心な部分を聞き出す前に、脳みそに一瞬映像が映った。
雑草の上に雪が積もり始め、緑と白が綺麗に混ざり合い、太陽の光で輝く景色。
俺はそこにしゃがみ込み、草陰の方を見つめてる。
「ポップ!!お前、いつどこで俺に会ったんだ?」
そうだ、忘れてはいけないことがあるような気がする!
だけど、思い出せない。
今回の町にはアカネの石像はなかったけど、ロイゾはやっぱりそこにあった。
ダイラが言うことはいつも正しい。
「エビン、何これ…なんかやな感じがする。」
繋いだ手をぎゅっと強く握りしめるポップは、やはり広場の注目の的になっている。
「うん、いや、違うんだよポップ。これはロイゾって言って…まぁ、お前はこれに近づかない方がいいかもな。」
なんだか、正直説明するのが少し億劫だった。
その時広場の方から聞き覚えのある声がし、反射的に視線を向ける。
「皆の者よく集まってくれた。これは魔力の源。魔力の根源。…我々の命であり終わりである。」
ダイラだ!!生きてた!!!
人混みを掻き分け、最前へ。
「あの、ダイラ様、それは一体どういう意味ですか?」
アカネもいる!!!
あの時だ、あの時に戻ったんだ!
ロイゾの説明が一通り終わると、アカネの元へいき一緒にダイラを引き留めた。
「ダイラ、良かった!!ここって!」
ダイラの演説が終わり、魔法力管理大宮殿へ戻る途中。
意味ありげに二人は視線を交わす。
「まだ油断はできんぞ、な、アカネよ。」
どうやらダイラは、このループは町で目が覚めたらしい。
俺より先にアカネを見つけていたようで、その時の会話を小声で教えてくれた。
「...アカネに聞いたんだ。『今お前はどこにいるんだ。本当の願いは何だ?』とな。」
「え、それでなんて?!」
一瞬、ダイラの瞳が暗くなった。
「アカネは困った表情でこう答えた。『私の本当の願いは平和な世界です。でも、私はそれから逃れることは、きっとずっと、できません』...とな。」
俺は息を呑んだ。
そして思わず大きな声が出てしまった。
「え?!なんでアカネ…龍とかのこと知ってんだ?!お前もまさか、何度mーー」
ガツン。
唐突にダイラからのゲンコツを喰らった。
痛すぎて、しばらく何も言えない。
「アカネよ、私と一緒に魔法の特訓を始めてみないか?」
俺の言葉に一瞬目を大きくしたアカネ。
それでもダイラの提案を聞くなり、アカネの顔に見たことのない笑顔が咲いた。
「いいんですか?!ダイラ様!!」
ーーそれはとても希望に溢れ、しばらく見惚れてしまうほどの綺麗な花だった。
「ッテー!何すんだよダイラ…!」
「お前なぁ…アカネに時空を超えてるのかって聞くつもりか?アホかっ!アカネは当事者だぞ。この、アホ!」
小声なのに刺さる、強烈な罵倒。
そこらの魔法なんかよりもよっぽど痛い…。
「何回アホアホ言うんだこのアホ!くっそムカつくけど…ありがとう。俺を守ってくれて。」
やっと言えた。
ずっと言いたかった言葉。
「あぁ、私もまた会えて嬉しいよ。アルゼルに感謝だな。」
ー父さん?
その時、俺の手は冷たい空気を掴んだ。
「あれ…ポップ?」
繋いでいた手が、ない。
振り向く。
ポップが、いない。
「ポップ!!」
しまった!!
ダイラやアカネに気を取られて、手が離れていたことに気が付かなかった!
人混みではぐれたんだ!!
絶望と恐怖が押し寄せる。
アカネの綺麗な花に水をさしてしまった。
普通なら花に水は生命の水だけど、今は違う。
「ポップってなに?」
キョトンとしたアカネ。
無言で俺を見つめるダイラ。
ーー責任が重すぎた。
調子に乗った。
大丈夫、なんとかなるって思い込んだ。
「俺の友達!!探してくるっ!!」
転びそうな勢いで駆け出す俺の肩をグイッと引き止める大きな手。
「エビン、そのポップというのはお前の友達なんだな?」
頭が痛いくらいドクドクと脈を打ってるのが自分でもわかる。
「あぁそうだよ、だから早く探さないと!」
いつもなら頼もしいこの手のひらが、どうしようもなくもどかしい。
「…少し落ち着きなさい。焦ると見えるものも見えなくなるぞ。大丈夫だ、お前なら絶対に見つけられるさ。」
ダイラの言葉を聞いて少しだけ頭がスッと軽くなるのを感じる。
「わかった、ありがとうダイラ!でもやっぱりダメだ、探してくる!!」
肩の重みがなくなると同時に俺は全力疾走した。
「エビン!気を付けてね!」
アカネの声が聞こえ、後ろ向きで手を振る。
アカネとダイラの会話が遠くなる。
「さ、我々は魔法の特訓といこうじゃないか。あの戦いに向けてな。」
「はい、よろしくお願いします!」
こうして俺たちは二手に分かれることになった。
ーー急がなきゃ。
ポップには、何か大切なものが隠れている気がする。




