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【第3章】揺れる耳と、揺れる心

目を開けると、そこは俺の部屋だった。


——あれ?ロイゾは?ダイラは?

「エビン目が覚めたのね?今スープとパン用意してたよ!」


アカネの声を聞いた瞬間、胸の奥がぐしゃっと潰れた。

涙があふれて止まらない。

情けない顔を見られたくなくて俯くと、涙も鼻水も余計に垂れてくる。


「え、ちょ…どうしたのエビン?怖い夢でも見てた?」

驚くアカネはそう笑いながら、わざと俺を見ないように慌ただしくキッチンへ向き直る。


「そんなに頑張らなくていいのに。…勉強のしすぎじゃない?」


ーー違う。アカネはそんな言い方、絶対しない。


その瞬間ーー


っ!!強烈なノイズと痛みが頭を突き刺す。

視界が歪み、そのまま意識が途切れた。


ーーーー

さっきのベッドとは違う、硬い感触。

「あれ、ここは?」


見上げると、見慣れない天井が見える。

「アカネどこだ?ダイラは?」


声になっているかもわからないが、自分的には声を出してるつもりだった。

すると、足の先から甲高い声が響いた。


「ひゃっ!!しゃ、喋った!!」

どこかあどけなさが残る声の正体は、なんと狐のような耳を持つ小さな女の子だった。

驚きより先に、理解が追いつかない。


「え?!キミは?誰?その耳、本物?!」


「え?本物って何が?僕の耳?なんか変かな?」

どうやらこの子が俺を拾ってくれたらしい。


「…ってことがあってね、僕のお家に連れてきたんだ!」

エッヘン!と言わんばかりにとても誇らしげに教えてくれるもんだから、少し緊張の糸が緩んだ。


「そういや…俺の近くにもう一人いなかったか?おっさん…いや、中年の男!」


ーーダイラ。

一緒にロイゾに入ったはずだ。

どこに行った?


「んーん?お兄さんだけだったよ!お友達なの?」

この子の耳がしゅんと垂れた。

表情より先に”耳”で気持ちがわかる。


「友達…なのか?わかんねーけど大事な人なんだ。探さないと。」


おもむろに立ち上がると、またひどく目の前が揺れる。

学習しない自分が恨めしい。


「じゃあ僕も一緒に行く!!」


何故か目をキラキラさせて前のめりになる狐。


「行くって、旅行じゃねーんだぞ。魔物もいるし、危険だ。」


「それでも行く!僕お兄さんのこと見たことあるもん!!」


見たことある?どこでだ?

こんな変わったやつ見たら絶対覚えてるはずだけど。


「嘘つくなよ、俺は見たことないよ。…それよりお前、名前は?俺はエビン。」

出発のため、使い古した盾を準備しながら聞いてみる。

世話になったしな。


「僕はね!…僕はね。」


一向にその先が出てこない。


「もしかしてお前…名前、ないのか?」


また耳が垂れた。

この世界に”名前がない”なんてことあるのか?


「…言っとくけど、俺は弱いぞ。自分のことは自分で守れるか?」


助けてくれた恩もあるし、放っておく気にはなれなかった。


そんなこんなで外に出ると、俺は思わず口をあんぐりさせた。

「なぁここ…どこだ?」

「ここは僕たちの村!狐の村だよ!」

「こんな場所があったのか…」


俺たち町の住民は、基本的に町の外へは行かない。

別にルールとかじゃないけど、ただ、そういうもんだった。


「でもエビンの町はすぐそこだよ?ほら!」

小さな指の先には、確かに見慣れた町があった。

きっとこの子はずっと、ここから町を観察していたんだろう。


人間よりずっと自由で、ずっと賢い。


もし俺たちが町の外に目を向けていたら…。

ロイゾにも、世界の異変にも、もっと早く気づけていたのかもしれない。


町へ向かう途中、とある狐の親子に声をかけられた。

「ねぇそこのあなた。その子どこに連れていく気?」

「え?」

「私たちは好奇の目で見られるの。あまり人に近づかない方がいいわ。」


親子は深くフードを被っている。

好奇な目で見られる…。

こんな賢いものたちが。

憐れみ、同情、いや、違う。

今、自分がどういう気持ちになってるのかわからない。


何を言っていいのか、結局わからなくて、俺は会釈だけし、そっと狐の手を握った。

それはとても温かく、ふわふわで。

もう一度強く握ると、さらにぎゅっと返ってきた。


「エビンどうしたの?」

耳をぴこぴこさせながら笑っている。


「いや、んー。お前はさ、”今のまま”でいたいだろ?」

「えー?変な質問!もちろん今のままでいたいよ!」


しばらく見つめて、俺は一つ決意した。


「ポップ。…お前の名前はポップだ!」


軽くて明るい響き。

この子にぴったりだと思った。


「正々堂々と狐人間でいろ、フードなんて被らせねーからな!」


なんとなく恥ずかしくて、顔は見れなかったけど、ブンブンと風を切る音で尻尾を激しく揺らしてるのがわかる。


「ポップ…僕、ポップだ!!ありがとうエビン!!!」


わーっと嬉しそうに俺の周りを走り回るその姿は、

寒い冬、どこかでこうやって話しかけたことがあるような、不思議な懐かしさがあった。


ポップと手を繋ぎながら歩くと、町はすぐそこだった。


問題は…ここからだ。

アカネーー。


重たい門に体重をかけ、ゆっくり押し開いた。

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