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【第2章】歪んだ帰郷

360°果てしなく続く草原。

目の前には小さな白い花がたくさん生えてる。

「…ここは…?」

陽射しが心地いい。

重たい体を起こそうとした瞬間。


「………っ!!ダイラ?!ダイラ!!」

勢いよく起き上がると、激しい立ちくらみが襲ってきた。

まるで砂嵐のように視界が揺れる。

目の前が真っ白になる。


「エビン。目が覚めたか。」

少し遠くから声が聞こえる。

「ダイラ!!よかった!でもなんで起こしてくれなかったんだよ!…って、え?なんかダイラ若返ってね?」

声のする方へ向くと、確かにダイラがいた。

白髪だったはずなのに、今は茶色が混じった髪で、髭もない。


「あぁ、やはり…そうかもしれないな」

ただそれだけ言うとダイラは優しい微笑みを浮かべる。

本人には心当たりがありそうだけど、結局俺には教えてくれなかった。


「さぁ行こう。ここは知ってるか?町の外にあるヒヨコエイ平原だよ。」

俺の顔についた泥を指で拭いながら続ける。

「この平原にはかつて、凶暴な魔物がたくさんいてな。お前の父さんと、私で全部片付けたが…この世界では、どうだろうな。」


周りを見渡すダイラの瞳には、懐かしさと覚悟が宿っているように思えた。

「あぁ、なんだっていいさ。早くアカネに会いに行こう。」


しばらく平原を歩いていると、どちらからともなくとてつもない音がした。

腹の虫だ。いつ何時、どんな状況でも腹は空く。


「ごめんダイラ…俺腹減ってるみたい…」

恥ずかしさを誤魔化すようにはにかんだ笑みを浮かべると、「そうだな、まずは腹ごしらえだ!」と豪快に笑ってくれた。


ダイラが一緒にいてくれる心強さは半端なかった。


「町まではまだ遠い、出来ればたくさん食べておきたいな。」


「でもこんな原っぱに食えるもんなんてあんのか?」

「あるさ、例えば…」

そう言った瞬間、目の前に現れた1匹の大きな獣。

俺は盾を構えるが、なんとそれより早くダイラは1発の魔法で倒してしまった。

「これとかな。」

俺はただただ、引きつった笑顔を浮かべるだけだった。


強すぎるだろ…。


俺が唯一知ってる炎の魔法で獣を焼いて、再び町へ向かう。


町へ着くと俺は一気に体から力が抜けるのを感じた。

”いつもの”町だ…。

「帰ってきた…」

俺は思わず駆け出した。

「待てエビン!!」

既に遠くから聞こえる声に耳を貸さず一心不乱に向かう先。

「アカネ!!!!」

…いない…。

「なんっでだよ!!でも大丈夫、買い物に行ってるだけかもしれない…」

アカネ行きつけのパン屋へ行く。


「おいおっちゃん!!アカネ見たか?!」

入店とともに大声で問いただす俺にビクつく店主。

「え、アカネ…?あ、あ、さっき出ていきましたけど…」

さっき!

「ありがとう、おっちゃん!!」

急いで店を出るが背中で聞こえた店主の独り言は聞き逃さなかった。

「なんだよ全く、誰だよ小僧…」

頭が白くなるのを感じ一瞬振り向いた景色に俺は思わず足を止めた。


「なん…で…」


”パン以外は主食じゃありませんよ、パンが正義!”

がモットーだったパン屋がーーー


パスタを茹でて色んな種類のパスタを並べていた。



「エビン!!」

「ダ、ダイラ…ここ、違う…」

俺は今にも溢れてきそうな感情を押し殺しながらダイラを見上げる。


「落ち着け、エビン。」

ダイラが俺の肩に手を置く。

「この長いループの間にも、私はロイゾを研究していた。ロイゾは甘くない。」

そしてそのまま、俺の目を見据えて続けた。

「魔力の源。都合のいい魔法なんかじゃあない。扉に入った者のたった小さな心の隙間も見逃さない。」


真剣な言葉に相反して俺の口から咄嗟に出たのは、

「じゃあ俺…パンよりパスタが好きだってこと…か?」

なんとも弱い。

自分のことながらも恥ずかしい。

「そうかもしれないな。…それだけだといいけどな。」


これから何が起こるのか、不安に押しつぶされそうになったその時。


「あれ?エビン?どうしたの?」

絶望の狭間で奇跡の声が聞こえた。

「アカネ?!…アカネ!!!」

声が震える。

目の前の彼女は、確かに”生きて”そこにいた。

俺の中の緊張の糸が切れる音が聞こえる。

人は、衝撃が強い時ほど言葉がでないことを実感する。

その代わり、考えるより先に俺はアカネへ駆け寄り抱きしめていた。


「わ!!何よ犬みたいに飛びついてきて、ちょっと怖いんだけど!」

なんだっていい、アカネがいる。ここに!

「アカネ…よかった、アカネ…!」

アカネは今、どんな顔をして俺の頭を撫でているんだろう。

「もうっ、エビンってば!」

楽しそうな声が聞こえる。

だけどとても慈愛に満ちた声だった。


その時。

心からの安堵を感じている俺を嘲笑うかのように、凄まじい音が聞こえてきた。


「む?!何故この音が…いかん!エビン、アカネ、今すぐ逃げなさい!」

ダイラが珍しく焦っている。

「そうか…ロイゾを利用して時空を超えているからには、必ずロイゾがある世界に辿り着いてしまうのか…!」


その瞬間、また、空に龍がやって来た。

そしてそれは、何度超えても変わることの無い、残酷な運命の事実だった。


ーーー


「アカネ!!ダメだ行くなアカネーー!!」

——また、だ。


何度目だろうか。

俺は何度も、何度もこの光景を見てきた。

何度ロイゾに入っても、同じ結末が待っている。


龍、蛇、亀…。

そしてアカネの言葉…。


「ごめんねエビン…でも、きっと私の魔力なら大丈夫だから…ありがとう」


そしてアカネは微笑みながら、折れた足を引きずりロイゾの扉を開く。


「くそ!くそっ!!なんでだよ!!!なんで変わらねーんだよ!!」

絶望の縁で、血が滲む拳を何度も何度も地面に叩き込む。


俺はまた何もできなかった。

また、救えなかった…。


「エビン、いかん!!」

力無くへたり込む俺を、ダイラが抱え上げる。


「待て、ダイラ!」

「行け!!」


次の瞬間、俺の体は宙を舞っていた。

ダイラが、ロイゾへ向かって俺をぶん投げていた。


その瞳の奥にもまた、深い暗闇が宿っている。

ダイラも、苦しんでいるんだーー。


「ここは私が抑える、先に行け!」

声が聞こえた次の瞬間、ダイラは龍の影に向かって、まっすぐ立ちはだかった。


「ダイラ!?」


振り返った俺が見たのは、常識を遥かに超えた光景。

若返ったダイラの全身からは、圧倒的な光が溢れ出している。


それは、炎を吐く龍の赤い閃光とは違い、まるで全てを包み込むような金色の光だった。


「案ずるな、必ず私も後を追う!さっさと入れ!」


「…わかった、絶対!絶対待ってるからな!!!」


心の底から願った。

必ずまた会えることを。

一緒にこの地獄を超えることを。


俺は、あの瞳の暗闇の奥に宿る全てのものを信じてロイゾへと飛び込む。


「アルゼルよ、力を貸してくれ。」

そして小さく呟くダイラの声が、遠く聞こえた。

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