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いざ参る。




 齢90。周りも亡くなって、未来に希望もない。

息子も、娘も、妻もいない、孤独な身。しかし、人生は何があるかはわからない。


「次雄さん。」


 愛する女性が私の腕に手を回す。


「あぁ、行こうか。」


 花畑の道を、2人並んで歩く。ここは異世界………とは言っても、仮想現実。作られた世界。しかし、生命はこの地に根付き、実在している。


 近年の発展によって、AIは人間に遜色ない知能を得た。仮想世界では人権が生まれ、国が生まれ、街が生まれ、そして家族が生まれた。


 私もまた、この地で育まれた国、土地、そして西洋を模したこの街で、愛する女性と結ばれようとしていた。


「あの、綺麗ですね。花。」


 彼女は私の方を見て微笑む。


「え、ええ。本当に。」


 思わず彼女の美しさに見惚れて顔を逸らしてしまった。彼女はそれを見て、嬉しそうにまた微笑む。

 

 わたしは、現実の姿ではない。そして、それは真っ先に彼女に伝えてある。追い先短いかもしれない身である事。近年比較的長寿の傾向に見られるが、それでも、やはり90ともなるといつ死ぬのかわからない。


 それを承知の上で、彼女は私を受け入れてくれた。あなたが好きですと。私に、こんな私に告白してくれた。だから、応えなくてはならないと、今日は指輪を持ってきたのだ。



「ミラーデさん。」



 彼女は、私の呼びかけに振り返る。



「はい。」



 彼女は驚いたように手を口に当てた。



「これを。」



 私が指輪を差し出そうとした、そのときだった。






 ヒヒーンッ、と馬の(いな)なく声が聞こえる。ミラーデさんの体が掴まれて、視界から消える。


「ミラーデさん!!!」


 わたしは、手を伸ばすがそれは彼女の手を掠めて、届かなかった。


「次雄さん!!!」


 どんどんと距離が遠くなる。

いくら走っても、彼女の姿は遠くなるばかり。


「ハァ、ハァ………。」


 愛する人が、攫われた。わたしは、目の前が真っ暗になり、倒れてしまった。










「次雄さん………、次雄さん!」


 ハッと、目を覚ます。気づけばわたしは、木造の古い小屋にいた。数々の被害者が集まり、愛するものを取り戻す計画を立てている。


「どうして、魔物たちは人を攫う!?」


 男の怒号が響く。そうだ。私だけではなかったのだ。多くの人々が、愛する者を奪われ、苦しんでいた。わたしもその中の1人として、この会議に参加している。


 リーダーである、目黒(めぐろ) (とおる)は立ち上がり、みんなに向かって話す。


「人権があるといいながら、今やこの世界は無法地帯だ。それもこれも、『魔物』の出現によって。現実世界における、『見せ物』として知能のある化け物がこの地に放たれたのだ。これは許されざることだ!当然、警察もいない。我々を守ってくれるものは、何1つない。今、我々が!立ち上がらなければ、このまま多くの人々が、さらなる悲劇に見舞われる!!」


「そうだ、そうだ!我々でここで止めなければ、もはや魔物のやりたい放題だ。このままでは、私達の愛した人は戻ってこない。戦おう。みんなで、戦おう!!」



 うおおぉー!!と、男たちは立ち上がり、雄叫びをあげる。私は座りながら、彼らを見上げ、静かに感じていた。今ならば、私の力が役に立てるかもしれないと。


「………ただ問題なのは、我々自身がただの人間であるという事だ。魔物の異常な力には到底、敵わない。何か強力な力が、武器があればいいのだが。」


「あのー。」

 

 私が手をあげる。みんなの視線が一斉に集まり、私は少し萎縮してしまう。


「ど、どうしました?」


 今の私は若者の姿だ。しかし、年齢のことはみんなに伝えており、齢90を越えていることはみんなが知っていた。だから、みんなはわたしを丁重に扱ってくれていた。


「私が、その『武器』に『強力な力』になれるかもしれません。」


その言葉に、みんなは顔を見合わせる。まるで素っ頓狂な話を聞いたかのように肩を諌める。


「その、何かお力添えをいただけるのでしょうか?」


 私の提案とは、はたして金銭面か?それとも、老人の知恵か?みんなが想像するのはそう言ったところだろう。私は彼らに答える。


「私が皆さんに役立てるとすれば、それは、悪を成敗いたす私自身の『戦闘力』でございます。」



 キョトンとして、みんなはお互いを見合わせる。当然だろう。齢90を超えると自分で言っておいて、何が化け物に立ち向かえると、言うのだろうか。しかしながら、私はただの老人ではない。


「あ、あの、気持ちは嬉しいのですが、そう言った事は我々が行いますので、どうか無理をなさらずに。」


 優しい若者が私を気遣ってくれる。しかし、それは不要だ。何故なら、恐らく私はこの世界にいる誰よりも強い。


「この世界では体がよく動きます。刀さえ、持てれば。」


 私は、持ち出してきた刀を取り出す。すると、一瞬にして、空気は変貌し、この場にいる全員の体に悪寒が走る。彼らが見るのは、鬼神と呼ばれた者の姿。


「う、うわあぁーーー!!!!!」


 全員が自分の死を予兆する。斬られる光景が脳裏に浮かぶ。明確な死の錯覚に、彼らは腰を抜かして、倒れた。


「失礼しました。」


 慌てて、すぐに刀を納める。彼らは驚いたように、私に問うた。


「あ、あなたは一体、何者なんですか?」


 私は答える。


「私は、日本国士が一人、沢渡次雄。しがない老兵でございます。」















 雷鳴が響く。魔物の巣食う居城は、数々の人間を攫い、牢屋に閉じ込めていた。日々、平穏に暮らす人々の暮らしを脅かし、物品を奪い、それを生業としていた。そして、攫ってきた者を奴隷同然のように扱うのだ。


「今日は、お前だ。来い。」


 魔物の差し出す手に、女性は、反抗的な目を見せる。ものの多くの女性は心が折れ、魔物の言うままに従っていた。しかし、彼女は違った。手を借りず牢屋から自ら出たあと、縛られた腕で魔物の顔面を穿った。


「ぐっ!この!!」


 魔物は、女性を蹴り飛ばす。女性はひとたまりもなく壁に叩きつけられた。


「ぐっ…………」


彼女はぐったりとして身体を地面に横たえる。当然である。低級の魔物であっても、平均的な成人男性よりはるかに力が強い。ましてや、女性などひとたまりもないだろう。


「さぁ、来い。」


しかし、女性はそれでも怯まずに、口に溜まった血を魔物に吐きかけた。


「誰か、お前らなどに従うか。」


「ほぅ、よかろう。ならばここで死ねい。」


 魔物の手が振り下ろされようとした、その時だった。ズーンッ!と鈍く大きな地響きが門の方から伝わってくる。何事かと、城門の方へと目を向ければ、兵士の魔物がこちらに急いで駆けてくる。


「襲撃!襲撃ッー!!」


「何、こんな時間に何者だ!?」


「そ、それが………人間が1人。」


「は?」


 あまりにもあり得ない言葉に、一瞬耳を疑う。人間が1人?あの、脆弱な生物がたった1人で乗り込んできたと言うのか?


「人間がたった1人で……もう、持ちません!」


 うわあぁぁぁーーー!!!という、叫び声と共に門が吹き飛び、その事の主が現れる。煙の立った門前にひとつの影。











 日本国士とは、




 かつて日本は魍魎跋扈(もうりょうばっこ)魑魅魍魎(ちみもうりょう)の、世間には公表できない未曾有の危機に立たされていた。その日本の裏側で、

人とも知れず戦った、4人の国士。




 その内の1人。




 最も苛烈な戦場に身を置きながら、身にひとつも傷はなし。もはや、人を超え神と呼ばれた男。その名は、沢島(さわしま) 次雄(つぐお)




「いざ、参る。」










 魔物はすぐさま城を出て、門の前の人影を再び目にした。刀を身につけているようだが、それを振るうのにも身が振り回されそうな小柄な体躯である。



「な、何がそんなたった1人に………」


 気づけばその人影は消えていた。


「はっ?」




 気づけば、影は魔物の後ろに移り住む。もはや、風や音、五感のすべてを置き去りにして、まるで最初からそこにいたかのように。


「起きる頃には全て終わってる。いい夢、見ときな。」


 カチャリッと、刀を納める音が城内に静かに響く。


「い、今さっきまで遠く……に……」




「さて、手早く終わらせるか。」











 暗い影が駆ける。魔物たちの悲鳴が、上がっていく。


「なに?何が起こっているの?」


 牢屋に囚われた女性は、あまりにも多くの魔物が慌ただしく城前に駆けていく光景に、呆然としていた。


 突然、目の前で駆ける数十の魔物が一瞬にして倒れる。突然の出来事に女性は驚きの声を上げる。


「えっ?」


 目の前には、気づけば1人の男性が、立っていた。その男性は私に向かって言う。


「あんた、囚われてんだな?」


「は、はい。」


 コクリと頷くと、瞬く間に格子の柵が斬れ、扉が開いた。


「さぁ、逃げなさい。」


 男性は私に対して出口の方向へ目配せし、それから自分は城奥へと視線を向かわせた。私は感謝の言葉を伝える。


「あ、ありがとうございます!」




















 女性が出口へとかけていく。


 これで全て助け出したかと、思った矢先、城の奥から悲鳴が聞こえた。


「人質ダァ!!今すぐ出てこい!」


 城奥から響き渡る鈍重な声。きっとこの城の主であろう。先までの魔物たちとは違うオーラを感じる。



「仕方ない。」


 刀をしまい、城奥に向かった。

























 城の奥にいたのは、体長10メートルはあるかと言う、巨体であった。牛の風貌に、棘のついた棍棒を携えたそれは、まさにこの城の主。


 牛鬼の化け物。


「貴様、よくも俺の部下たちをやってくれたな。」


「全て峰打ちだ。いいから、お嬢さんを離しなさい。


「離せと言われて離す馬鹿がどこに………」


 突然走った悪寒に、城の主は後退りする。牛鬼は目の前の男の背後に見える鬼の姿に、思わず瞬きをした。


「な、なんだ、気のせいか?」


 次の瞬き後、男の姿は目の前から消える。


「い、いないっ!?どこだ!?」


 牛鬼は辺りを見渡すが、その姿は見えない。気づけば男は、牛鬼の肩の上に乗っていた。



『四肢切り一刀』



「ぐわぁっ!?」


 牛鬼は自らの四肢から血が吹き出す。そんな光景を目の当たりにした。しかしそれは、恐怖が写した虚の光景。実際には、あまりにも強烈な打撃によって、しばらく動けなくなるほどのダメージがあっただけだった。


 そして、その衝撃で牛鬼に掴まれていた女性は、牛鬼の手から落ち、それを彼は受け止める。


「きゃあっ!?」


バシッ!


「お嬢さん、大丈夫かい?」


「え、えぇ。ありがとうございます。」


 女性は安堵した。これまでの魔物の暴虐に、力に抗える者を見たのは初めてだったからだ。思わず、涙が溢れそうになる。それでも、この彼の視線はまだ戦いが終わっていない事を、知らせていた。






「貴様!!?何者だぁ!!?」


城の主は、すぐさま四肢を全快させる。異常なまでの治癒能力を備えていた。


「もう、動くとは………」


「ガハハハハッー!!俺様に中途半端な打撃など通用せんわ!!貴様など、粉々にしてくれる!!!」


 しかし、そう言う牛鬼の額には酷く汗が浮かんでいた。今の一太刀で既に体では理解していたのだ。この男と自分との圧倒的な力の差を。



 途端、男の背後からオーラが溢れ出す。その背後には、牛鬼である自分より遥かに大きな鬼神が地獄の門を開け、自分が来るのを今か今かと待ち侘びているように、こちらを見ていた。


「な、何なんだこれは!?」


「お前さん、あの世を見たことがあるかい?」


「はぁ?あの世?」


 瞬間、牛鬼が男の背後に見たのは、地獄の光景。灼熱地獄に、阿鼻地獄、針地獄に、先ほど男の背後にあった鬼の待つ地獄。


「さぁ、選びなさんな。」




「う、うわぁぁぁーー!!!!!!!!!」


 城の主はもはや正気を失い、棍棒を掲げ、男に叩きつけた。


『ハンマーインパクト』!!!!


 次雄は刀に手をかける。


「いざ。」
























 真っ白な世界。気づけば、俺はそこにいた。


「ここは?」


 生まれてこの方、俺は親と言うものに会ったことがない。魔物であることは、人であることとどう違うのか。小さい頃から、魔物がどうしてここまで忌み嫌われるのか不思議に思っていた。

 あぁ、でもそうか。死ぬ寸前になって、ようやく分かった。俺は自ら魔物と呼ばれる道へと踏み進んでいたのだ。魔物を『魔物』へと変えるのは、結局自分自身であった。最初から、化け物だなんて、そんな悲しいことはなかった。俺だって最初は、無垢な子どもだった。

 俺は、目の前にいる小さな頃の自分を、目の前にいる子どもをやさしく抱きしめる。


「ごめんな。」










 衝撃でヒビ割れた、城天から光が降りそそぐ。それはまるで神がその者を照らすように、優しく、その身体を包み込んだ。



『天照皇大神』


光に包まれ、生涯を思い出す。

赤子の頃に還りなさんな。是、生まれ変わりの剣。


みな、最初は純なるもの。

天照の光は、命を照らし、明日へと繋ぐ。


神剣。是我授かりし力なり。




 光の霧となって、城辺を照らす。それを見て、起き上がった魔物たちは、ただ立ち尽くしていた。




「あ、あなたは一体……?」


 女性が彼に問う。


「待っている人がいます。行きましょう。」


 そう、待ちに待ったとき。愛する人が彼女を待っている。


「は、はい!」






息を切らせて、走ってくる男性がいた。男性は、彼女の名前を呼ぶ。愛する彼女の名前を。


「セリーデ………。」



「アルテさん!!!」


 2人は駆け寄り、抱きしめ合う。

 待ちに待ったその瞬間は、まるで永遠にも感じられるようで、2人はしばらくその時を過ごした。


「よかった。本当によかった!!!」


「やっと、やっと………。」


 彼は、愛する人を優しく抱擁した後、その肩を優しく離し、その場にゆっくりとひざまずいた。


 そして、懐から美しい指輪を取り出す。


「愛してる。セリーデ、俺と結婚してくれ。」


「はい……はいっ!!」


 2人は涙を溢れさせ、抱擁し、キスを交わす。


 様子を見にきた周囲のみんなは、優しくあたたかい視線で彼女たちを見守る。


こうして、2人は結ばれた。


 この世界で未来永劫、幸せな時間を過ごせますように。どうか、止まることのない幸福を2人に。





















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