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第七章 時間は停滞する者には長く歩み続ける者には短い

4月、学部生としての最終学年を迎えた麗子、良子、カリン、そしてみやびは、A201教室に集まっていた。

「珍しいわね、みやびが早めに来るなんて。」

「たまには・・・な。」

時間通り来ただけなのにどや顔のみやび。

「もっとも、すみれたち新2年生がしっかりと準備してくれているから、早く来ても特にやることはないんだけどね。」

今年もこの教室では十一星団新入生説明会が予定されている。麗子たちは、すみれから時間があれば様子を見に来てほしいと言われここに集まっている。今年は隣の教室も一緒に借りられたようで、仕切りを外して大きな一部屋にして、入口から教室中央までに長机が6~7個並べられ、椅子も左右に6個ずつ並んでいる。きっとあそこにすみれ以外の執行部の面々が並び、入口の席に座ったすみれが席に案内して、入ってくる新入生に個別面談をするのだろう。教室の奥でたたずみながら、麗子は感慨深く、頼もしい後輩がてきぱきと進める準備の様子を見ていた。

「看板、立て終わりました!」

「机と椅子、セット完了です!

「説明用のチラシも受け取ってきました!」

田中、大森、小林の灰色の三連星がすみれに報告に行っている。

「よ~し、じゃあ会場のセットアップは完了したから、星蘭と未来を呼びに行ってくれる?さっき広場あたりにいたからさ。」

「「「はい!」」」

ダッシュで仲良く駆け出す三連星。

「結局、あの3人も残ってうまくやってるじゃん。てっきり今年も良子を中心とした抗争が勃発してサークルクラッシュを起こすかと思ったけど・・・。」

カリンがジト目をしながら、隣に立つ良子に語り掛けた。

「私もちょっと心配していたんだけど、去年の秋くらいからかな・・・急におとなしくなって・・・どうしてかわからないけど、よかったわ。」

微笑み返しながら、さりげなく『サークルクラッシュ』を受け流す良子。

「きっと、すみれちゃんがリーダーシップを発揮しているおかげね。それにしてもすみれちゃんもすっかり成長したわね。」

「まあ、ファッションセンスは相変わらずだな。なんだ、あの目に痛い赤色と白い水玉のワンピースは?そして緑に白の水玉の靴?パックンフラワーじゃないんだぞ。新入生が見たら指をさして笑うぞ。」

「みやび、あの子が好きで選んだファッションなんだからディスらないの。そんなこと言ってると、いつかみやびも同じ目に会うわよ。」

「わたしは何があっても他の人の目は気にしないからいいんだ。『批判される勇気を持つ者のみが、批判せよ』だよ。」

教室の隅でそんな会話がなされているとも気づかず、すみれは忙しく立ち働いている。そこへ尾方柳が教室へ入ってきた。

「すみれ、僕は今日はどうしたらいいの?」

「ああ、新入生が入ってきたら席に案内するから、あの向かい側の席に座って待っててもらえる?それで、それで座った新入生にチラシを渡してその内容に従って活動内容とか説明してもらえるかな?」

「チラシって、これかな・・・?」

と、教室を見回した柳は、端の方にみやびがいることに気づいた。

「山澤先輩!今日はわざわざ来ていただきありがとうございました!」

みやびの方へ駆け寄る柳。その顔は満面の笑みだ。

「おお、久しぶりだな。富岡先生からもよく勉強していると聞いてるよ。」

「はい!山澤先輩からお借りした本も春休みに読み終わりました。今日は持ってきてないので今度、お返ししたいのですが・・・。」

「あの本は勉強になるだろう。私はもう覚えてしまったから、よければ尾方が持っているといい。進呈しよう。」

「・・・・そうですか、ありがとうございます・・・。あのっ、また勉強になる本あればぜひご紹介ください!」

「ああ、また今度な!ところで、さっきから大河内がこっちを見ているようだが、尾方に何か用事があるんじゃないか?行った方がいいぞ。」

「あっ、わかりました。山澤先輩、今日は終わった後、懇親会があるんですがいらっしゃいますか?」

「いや、今日は遠慮しておくよ。また今度な。」

「・・・・はい。・・・それではまた・・・。」

そう言ってその場を離れ、すみれの方へゆっくりと歩く柳を麗子、良子、カリンは少し離れたところから温かい目で見守っていた。

「相変わらずの忠犬ぶりだよな~。少しでもみやびとつながりを作ろうと必死じゃん。」

「かわいらしいわね。でも、みやびちゃん、少し対応が柔らかくなったわね。少しは気持ちが届き始めたのかしら、そこのところどうなの、カリン?」

「わからないけど、嫌っているわけではなさそうだな。外見とか表情とか雰囲気としては、みやびが好きな弟タイプにだいぶ近づいてきているし、後は内面がどう仕上がるかだな。」

「まったく、尾方くんも別にみやびにこだわる必要ないのに・・・」

少し怒ったような口調で麗子が言った。

「麗子としては、すみれちゃんとのカップリングを推してるのよね。確かにあの二人はよく一緒に勉強してるし、仲良さそうではあるけど・・・。そこのところどうなのかしら?」

「別に推してるわけじゃないわよ。でも、正直、尾方くんが、みやびとうまくいく未来は想像つかないわね。きっと、みやびが来年卒業して、会う機会も少なくなったら、自然とあきらめるんじゃないかしら。」

「いやいや、みやびのために外見も変えて、一日8時間以上の勉強を半年以上も続けるやつだぞ。そこまでやるんだから、きっといつまでもみやびを追いかけ続けるぞ、遠くに置いてきた犬みたいに、どこに行っても見つけ出して追いかけてくる。それはそれで、ある意味恐怖だけどな・・・。」

「カリンちゃんは、みやびと尾方くんのカップル推しなの?」

「いや、カップルというよりも、いつまでも追いかけ続ける姿を見たいだけかな。みやびもすっかり立ち直ったみたいだし、見てて面白いじゃないか。ケケケッ・・・。」

そのとき、すみれとの話を終えた柳が、またみやびの下へ戻ってきた。

「彗星みたいなやつだな。いったいどうした?」

「あの、先ほどお聞きするのを忘れていたのですが、山澤先輩は、十一星団の優等学生選抜試験に参加しますか?」

「ああ、今年が最後だから参加するつもりだよ。節子は去年1位だったし、予備試験も合格したから参加を辞退したらしいが、わたしは遠慮することはないからな。」

「あの・・・僕も参加するんですけど、もし僕が3位以内に入ったら・・・メンターとして僕を指導していただけないでしょうか・・・・。」

「うん?尾方はまだ2年生だろ?十一星団には予備試験・司法試験を目指して勉強を重ねている3、4年生が100人近くいるんだぞ。節子と大差ない実力者も少なくない。本気でその中で3位以内に入るつもりなのか?」

「はい・・・。難しいことはわかってます。ただ、山澤先輩にメンターになっていただくためには、それぐらいできなければいけないと思っています。」

「フーン・・・・なるほど。じゃあ、もし3位以内に入れなかったら・・・どうする?来年もう1回とかはなしだぞ。チャンスは1回限りだ。」

「・・・・はい。もし3位以内に入れなければ、きっぱりとあきらめます。」

「いいだろう。そこまでの覚悟があるなら。1位になればメンターを引き受けてやろう。」

「・・・・1位・・・3位じゃなくて・・・」

「不満か?」

ニヤリと笑うみやび。

「いえ、やります。1位になります。」

まっすぐとみやびの目を見つめる柳。

「言っておくが、私も含めての中での総合1位だぞ。それから私も全力を出して臨むぞ。」

「はい。」

「2位以下だったら、きっぱりあきらめるんだぞ。」

「・・・・はい。」

「じゃあ、この約束は覚えておこう・・・。」

魔王のような覇気をまといながら、みやびは振り返って入口の方へとカツカツ靴音を鳴らしながら歩み、そのまま教室を出て行った。

「みやびちゃん、どこに行くのかしら?まだ説明会も始まっていないのに。」

「トイレじゃね?しかし、面白いことになってきたな!」

またケケケと笑うカリン。

「またそんなこと言って!」

「でも、これはいい機会かもしれないわね。」

「麗子ちゃんまでそんな・・・絶対無理よ。あんなの断るための口実でしょ!」

「だからよ。これで尾方くんも、ずっと追いつけない蜃気楼を追いかける悪夢から解放されるわ。そして、すみれがうまくそれをなぐさめて関係が深まれば話としてもキレイにまとまるし一石二鳥じゃないの。」

「結局、推しカプのことしか考えてないの?」

ガヤガヤと騒ぐ3人。当初はヒソヒソ声だったが、思わず声が大きくなり、教室の反対側で立ち働いていたすみれにも声が届いていたことに気づかなかった。

「つまり、私が1位になればいいってことね・・・。」

すみれは小さくつぶやいた。

その時、教室に灰色の三連星、星蘭、及び未来が入ってきた。また、廊下には話を聞きに来たと思われる新入生の姿も見えた。

「まずは目の前のことに集中!」

すみれは、今日の説明会を成功させることに気持ちを切り替えた。


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