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オカルト研究部 田中祐一 今日も怪異あり  作者: waku


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祐一、車を手に入れる

祠の封印を終えてから、しばらくの間、何も起こる事なく日が過ぎていた。

 祠の封印が完了してから、目立った特別な変異も発生せず、

手がかりのないまま時間だけが過ぎていった。やがて調査は一旦打ち切りとなった。


 その間、祐一は自動車教習所に通い、免許を取得した。つばき壮の大家さんに報告すると「おめでとう、祐一」と嬉しそうに肩を叩いてくれた。免許証を眺めながら、祐一は胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。「ありがとうございます……!」これまで調査に出向く際は、装備品を含め、毎回誰かの車に同乗させてもらうしかなかった。


 だからこそ祐一は、自分の足となる車をずっと欲しいと思っていた。つばき壮では仲間たちがささやかな免許取得祝いを開いてくれた。「祐一くん、ほんとに頑張ってたもんね」さくらが笑顔で拍手する。「初心者マークはちゃんと貼れよ。調査中は安全第一だからな」遼は兄のように厳しい口調だったが、どこか嬉しそうだった。


 「車中泊用の道具、揃えておくからね」由香が笑顔で言った。


 「後は、美紀と春香に頼んで車用の札とお守りの用意もしておくよ」寮が微笑む。


***車選び***

 

 免許取得祝いの翌週末、遼が祐一に声をかけた。「祐一君、今日時間あるか? 車を見に行こう」「はい! お願いします」二人は遼の車で、市内の中古車ショップ街へと向かった。最初に訪れたのは、大型の中古車販売店だった。広い展示場には、色とりどりの車が並んでいる。「まず、どんな車種があるか見てみよう」遼が歩きながら説明する。「調査用なら、荷物が積めて、ある程度悪路も走れる車がいい」祐一は興味深そうに車を眺めて回った。セダン、SUV、ワゴン、そして軽自動車。「軽バンって、どうですか?」祐一が一台の白い軽バンの前で立ち止まった。


 「おっ、いい目の付け所だな」遼が微笑む。「実は僕も、最初は軽バンだったんだ」「そうなんですか?」「免許を取って、最初に買ったのが中古の軽バンでね」遼は懐かしそうに目を細めた。「車中泊をしたり、色々な冒険もできて楽しかったよ。山道も意外と走れるし、狭い林道でも入っていける」「今は乗ってないんですか?」「ああ……その車は、調査中に地震が起こって、岩が落ちてきてダメになったんだ」祐一は少し驚いて「そんな事があったんですか」と返した。「命は助かったけど、車は廃車になった。


 その後、中古の軽バンに乗り換えて、結局五年くらい使ったかな」遼は車のボンネットを軽く叩いた。「中古でも最初は良いかもな。多少傷がついたり凹んでも気にしないで、実用車として使いやすいし」「なるほど……」「今度、僕が知ってるカーショップに行ってみよう。そこの店主、車に詳しくて信頼できる人なんだ」翌週、遼が案内したのは、住宅街の一角にある小さなカーショップだった。看板には「オートガレージ・大和」と書かれている。「遼さん、久しぶり!」店主の大和さんが笑顔で迎えてくれた。五十代くらいの、人の良さそうな男性だ。「大和さん、お久しぶりです。今日は、彼の車を選んでもらおうと思って」「おお、免許取ったばかりかい? おめでとう」「ありがとうございます」祐一は頭を下げた。「どんな車を探してるんだい?」「荷物が積めて、山道も走れる車が欲しいんです。予算はそんなにないんですが……」「なるほどね。じゃあ、ちょうどいいのがあるよ」大和さんは展示場の奥へと案内した。


 そこには、白い軽バンが停まっていた。少し年季は入っているが、丁寧に手入れされているのが分かる。「この軽バンはターボ付きだ」「ターボ車ですか」祐一が興味深そうに近づく。「ターボ車なら多少重い荷物を積んでも馬力があるし、坂道や高速も走りやすいからな」寮が助言する。「調査で山に行くことも多いし、ターボは助かるぞ」大和さんがボンネットを開けて見せてくれた。「エンジンの状態も良好。前のオーナーさん、車中泊が趣味でね。丁寧に乗ってたよ」「走行距離は?」「八万キロ。軽バンとしては、まだまだこれからだね」祐一は車内を覗き込んだ。後部は広く、マットを敷けば寝られそうだ。装備品を積むスペースも十分ある。「値段は……」「四十五万円。遼さんの知り合いだし、四十万でどうだい?」祐一は寮を見た。


 寮は小さく頷く。「これ……いいと思うよ。状態も良いし、年式も悪くない。初めての車としては十分だ」祐一は胸の奥が熱くなるのを感じた。自分の車。自分の足。「お願いします。これに決めます」「よし、じゃあ手続き進めようか」大和さんが嬉しそうに笑った。


 帰り道、寮が車を運転しながら言った。「良い買い物したな」「はい……でも、本当にあの値段で良かったんでしょうか」「大和さんは信頼できる人だから。それに、僕の最初の軽バンも、あそこで買ったんだ」「そうだったんですか」「納車まで二週間くらいかな。その間に、車中泊の道具を揃えておこう」祐一は窓の外を見ながら、もうすぐ来る自分の車での冒険に思いを馳せた。調査に、ドライブに、そして──。新しい日々が、始まろうとしていた。


 納車二週間後。「祐一さん、納車できましたよ」大和さんから電話があった。祐一は寮と一緒に、カーショップへ向かった。展示場の前に、ピカピカに磨かれた白い軽バンが停まっていた。「洗車とワックスがけ、サービスしておいたよ」田中さんが鍵を手渡してくれた。「ありがとうございます!」祐一は初めて自分の車のハンドルを握った。革のステアリング。少し使い込まれているが、手に馴染む感触。「じゃあ、祐一君が運転してつばき壮まで帰ろうか」寮が乗って来た車に乗り込んだ。祐一はゆっくりとエンジンをかけた。エンジン音が静かに響く。「よし……行こう」初心者マークを付けた白い軽バンが、ゆっくりと走り出した。


 祐一の新しい相棒と共に。納車後、つばき壮の駐車場に停めることになった。数日後、寮が大きな段ボール箱を抱えてやってきた。「これ、お祝いだ。車中泊に必要な物を揃えておいた」箱を開けると、ポータブル電源、簡単な炊飯器具、モバイルバッテリー、折り畳み式の机、寝袋など、最低限必要な物が揃っていた。「ありがとうございます、寮さん……!」祐一は感激して頭を下げた。


 寮は照れくさそうに頭を掻く。「調査で泊まり込みになることもあるからな。あと、これ」遼が取り出したのは、小さな手帳だった。「僕が使ってた車中泊スポットのメモだ。安全で静かな場所、トイレや水場が近い場所……参考になるはずだ」手帳をめくると、細かい字で場所の情報や注意点が書き込まれている。中には「ここで不思議な光を見た」「夜中に獣の声」といった調査らしいメモも混じっていた。「大切にします」装備の準備週末、祐一は軽バンに装備を積み込む作業を始めた。


 すると、さくらが手伝いに来てくれた。「窓に目隠しのカーテン付けた方がいいよね」桜が布を広げる。後、「寮さんから、橘さんと春香さんからのお札とお守り。それから由香さんからのお香も車にって」手渡し優しく微笑む。「ここに寝袋入れて……」「ランタンは吊れるようフックを取り付けて」さくらの手伝いもあり軽バンは「祐一の相棒」らしくなっていった。「ありがとう、さくらさん……大切に使うよ」


***近くの公園へのドライブ***


 ある日、祐一は軽バンに乗り、人があまり来ない近くの公園に向かった。木々に囲まれた静かな駐車スペースに車を停め、バックドアを開け、後部席のスライドドアも開けた。風通しが良く、読書や大学の課題に取り組むには最適な環境だった。バックドアの下に折り畳み式のテーブルと椅子を出した。


 軽バンの屋根には、前オーナーが使っていたルーフキャリアも取り付けられており、これからの調査に使えそうだった。


 昼間は温かい日差しと心地よいそよ風が吹き抜ける。祐一はノートパソコンを開き、レポート課題に取りかかった。静かな環境のおかげで集中でき、予想以上に作業が捗った。ふと時計を見ると、午後一時を回っていた。「昼ごはんにしよう」祐一はポータブル電源に湯沸かしポットをつなぎ、ペットボトルから水を注いで湯を沸かし始めた。その間にコンビニで買ってきたカップラーメンと、おにぎりを三つ取り出す。湯が沸き、カップラーメンの蓋を開けて湯を注ぐ。待ち時間の三分間で、まず昆布入りのおにぎりを一個頬張った。


 シンプルな味わいが、外で食べるとより美味しく感じる。残ったポットの湯で、インスタントのお茶をカップに入れた。温かいお茶を一口飲むと、体がほっと緩む。ちょうどタイマーが鳴り、カップラーメンの蓋を開けた。湯気と共に味噌の香りが広がる。「こういうところで昼ごはんを食べるのも、いいな」祐一は一人呟きながら、ゆっくりと麺をすすった。食事を終え、後部席を片付けてマットを敷き、毛布を掛けて昼寝をすることにした。スライドドアとバックドアは少しだけ開けたまま、風が通るようにしておく。横になると、木々の葉擦れの音と、遠くで鳥の鳴く声が聞こえてきた。


***謎の老人***


 心地よい疲労感と満腹感で、祐一の意識はゆっくりと沈んでいく。どれくらい眠っただろうか。ふと、何かの気配で目が覚めた。車の外から、誰かの足音が聞こえる。祐一は目を開け、そっと上半身を起こした。スライドドアの隙間から外を覗くと、公園の入り口付近に人影が見えた。老人だろうか。杖をついて、ゆっくりとこちらに近づいてくる。(散歩かな……)だが、その老人は祐一の車の前で立ち止まった。じっとこちらを見ている。祐一は少し緊張したが、会釈をしようと身を起こしかけた、その時。老人の姿が、ふっと消えた。


 「……え?」祐一は慌ててスライドドアを開け、外に出た。辺りを見回すが、誰もいない。公園は相変わらず静かで、風が木々を揺らしているだけだった。(幻覚……? いや、でも確かに……)祐一は胸の奥に冷たいものが走るのを感じた。スマートフォンを取り出し、時刻を確認する。午後四時半。2時間以上眠っていたようだ。もう一度周囲を確認したが、やはり誰もいない。「……気のせい、だよな」自分に言い聞かせるように呟き、祐一は車に戻った。


 だが、胸の奥の違和感は消えなかった。荷物を片付け、エンジンをかける。バックミラーに映る公園の景色を見ると、木々の間に、また白い影のようなものが見えた気がした。祐一はアクセルを踏み、公園を後にした。(何かあるのか?)そんな予感が、静かに胸に芽生え始めていた。



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