さらなる洞窟の奥へ向かって
祐一たちは、さらに奥へと向かって進んで行った、そこには、何があるのか謎を解こうとして・・・
***洞窟の奥で見つかる第二の封印***
洞窟の奥へ進むにつれて、空気がさらに冷たくなっていった。
四人の吐く息が白く見える。
懐中電灯の光が、岩肌に奇妙な影を落としていく。
通路は徐々に狭くなり、やがて一人ずつしか通れないほどになった。
「……気をつけて。足元が濡れてる」
峯川が先頭を歩きながら注意を促す。
確かに、足元には水が流れている。
地下水脈だろうか。
その水は、不思議なほど透明で、冷たかった。
橘が立ち止まる。
「……ねえ、聞こえない? 水音じゃない。もっと……呼吸みたいな」
四人は息を潜めた。
確かに——
ゴォォォ……ゴォォォ……
規則正しく、何かが呼吸をしているような音が聞こえる。
それは、洞窟全体が息をしているようにも聞こえた。
「返事をすると、その"何か"に気づかれそうな気がする……」
星川が小声で呟いた。
誰も返さない。
ただ、黙って前へ進む。
やがて、通路が開けた。
広い空間に出たのだ。
四人が懐中電灯を上に向けると——
天井は遥か高く、まるで地下の大聖堂のような空間が広がっていた。
「これ……自然にできたものなのか?」
峯川が驚きの声を上げる。
「いいえ。これは……人の手が入ってる。いえ、人以外の何かが……」
橘が空間の中央を指さした。
そこには——
巨大な木札と麻縄で設えられた封印があった。
しかし、木札の片側は黒焦げのように炭化し、麻縄は半分溶けたようにほどけている。
まるで、内部から何かが噛み破ったかのように。
「誰かが破ったんじゃなくて……中からだ。外側に向かって裂けてる」
峯川が封印に近づき、注意深く観察しながら言った。
その瞬間だった。
壁の内側から——
ドンと鈍い衝撃が響いた。
全員が息を呑む。
もう一度。
ドン
まるで、何かが——壁の向こうから、こちらへ出ようとしているような。
「まだ……残ってる。ここに封じられてた第二のものが」
星川が小声で言う。
四人は懐中電灯を封印の奥へ向けた。
光が、壁の奥に何かを照らし出す。
人影ではない。
輪郭が一定せず、黒い水のように揺らめいている。
それは——影。
しかし、ただの影ではない。
明確な意志を持った、生きている影。
*** 悪霊群との遭遇***
その時、橘がぴたりと足を止め、眉をひそめた。
「……来る。数が多い……!」
言葉が終わるより早く、橘の身体から朱色の光が弾ける。
朱雀が羽ばたきながら出現し、洞窟の闇を赤く染めた。
峯川は即座に浄化スプレーを抜き、「全員、構えろ!」と短く叫ぶ。
祐一は胸の前に手をかざし、霊力を集める。掌の上に白い光球が生まれ、ほのかに震えながら膨らんでいく。
星川は静かに霊府を取り出し、息を合わせるように構えを取った。
――その瞬間。
洞窟の闇の奥から、黒い影がゆっくりと浮かび上がった。
形は蝙蝠に似ているが、羽ばたくたびに血のような黒煙を撒き散らす。
まとわりつく怨念の波動に、祐一の肌が粟立つ。
一体、二体……やがて十数体が洞窟の天井を埋め尽くした。
「数が……こんなに……?」
祐一が思わず息を呑む。
橘が鋭く叫んだ。
「――朱雀、行けッ!!」
朱雀は火柱となって悪霊の群れへ突撃した。
燃え上がる浄化の炎が、闇の蝙蝠たちを次々と焼き払っていく。
消滅するたび、甲高い悲鳴のような声が洞窟全体に反響した。
それでも、後ろからさらに新たな悪霊が押し寄せてくる。
「まだ来る……っ!」
祐一はためらわず、光球を前方へ押し出した。
霊光の玉が白い軌跡を描き、一体の胸部へ直撃する。
悪霊は裂けるような声を上げ、煙となって消えた。
峯川は浄化スプレーを広い範囲に散布し、結界のように霧を張る。
黒い蝙蝠が霧に触れた瞬間、断末魔のように身をよじり、そのまま崩れ落ちて消滅した。
「この一帯は俺が押さえる! 前に集中しろ!」
峯川の声が響く。
星川は静かに印を切り、霊府へ力を注いだ。
霊府が眩い金色の光を発し、空気が震える。
「――破ッ!!」
投げ放たれた霊府は空中で炸裂し、
巨大な光の柱が洞窟奥まで伸びた。
轟音と共に、悪霊たちが一斉に悲鳴を上げる。
影の群れは光に焼かれ、次々と霧散した。
洞窟内の冷気が、嘘のように引いていく。
やがて――
最後の一体が星川の光の余韻に触れ、溶けるように消えていった。
洞窟には残響のような静寂だけが漂う。
「……終わったか」
峯川がスプレーを下ろし、息を吐く。
橘は朱雀を消しながら周囲を警戒する視線を走らせた。
「全部、浄化できたようです。今のうちに進みましょう。
ここの結界は、長くは保たない」
橘の声に、全員がうなずく。
祐一は掌に残る光の温もりを感じながら、胸の奥に、まだ何か“別の気配”が潜んでいるような不穏さを覚えていた。
四人は再び隊列を整え、暗い奥へと足を踏み入れた――。
***新たなる発見***
「……やっぱり、前に祠で見たのと同じ?」
橘が震える声を漏らす。
「第一の封印を破った反動で、こちらも弱まったんだ。だから出てこようとしている」
星川が崩れかけの封印に触れず観察した。
影の正体はまだ分からない。
ただ、封印が崩れかけている以上、いずれ解き放たれる。
そして——
祐一は、背後から何かの気配を感じた。
振り返る。
しかし、何もいない。
だが、確かに——
こちらへ興味を持ち始めている。
そんな感覚が、肌を這うように伝わってきた。
「……急ごう。これ以上、ここを刺激しちゃダメだ」
峯川が喉を鳴らす。
祐一はうなずきながら懐中電灯を強く握りしめた。
第二の封印は、まだ完全には破れていない。
しかし、それ以上に——
この封印の奥に眠るものが、今、彼らに気づき始めている。
***封印を強める儀式と、それぞれの視点***
第二の封印は半ば破れかけ、内部の影はゆっくりと形を変えながら蠢いていた。
その前に、橘が携帯した小さな祓具を並べ、星川が持参した紙札を四方に貼る。
「急いで。影がこちらを認識し始めている」
橘の声に、全員が動き出した。
●星川の視点
星川は封印の痕跡を丹念に見つめていた。
(……内部からの圧が強すぎる。通常の結界なら、とうに破られているはずだ)
焦げた木札の文字はほとんど読めない。
しかし、かろうじて残った線の癖や配置から、かつて施された術者の意図が見えた。
(古い地鎮型……この山そのものの流れと連動している)
壊れたまま放置すれば、いずれ山の霊脈が歪み、別の場所に"吹き出し"が起きる。
それは、T字路どころの騒ぎではなくなる。
「急ごう。影はまだ完全には目覚めていない」
星川は冷静に判断し、橘に声をかけた。
●橘の視点
橘は震えを隠しながら息を整える。
(前に祠で見たやつと似てる……でも、こっちのほうが、もっと深い……)
足元から聞こえる微細な振動が、脚の裏を通じてじわりと体に上ってくる。
まるで封印の中の存在が——こちら側の温度を確かめているようだ。
でも、やらなければいけない。
ここで逃げたら、すべてが水の泡になる。
橘は紙片を捧げ持ち、祝詞を唱え始めた。
「——天地開闢、陰陽分かれし時より……」
空気が硬質に震え、影がひとつ縮む。
●峯川の視点
峯川は後方で警戒しながら、内心の緊張を抑えていた。
洞窟の天井から落ちる水滴の音が、やけに大きく響く。
(やっぱり……何かこっちを"見てる"。姿が分からなくても、分かる。気配が重い)
もしもの時は祐一や橘を前に逃がすつもりで、峯川はライトを持つ手に力を込めた。
同時に、道具袋から塩と麻縄を取り出す準備をしている。
(来るなら来い。でも、みんなは守る)
●祐一の視点
祐一は中腰の姿勢で、影のわずかな動きをじっと注視していた。
(まだ出る気はない……でも、こっちの様子をうかがってる)
彼の手にしたライトがかすかにチカチカと瞬く。
そのたびに影がゆらぎ、息を潜めるように沈む。
——まるで、自分たちと光の境界を計っているかのように。
(これは……敵意じゃない。警戒? それとも……試されている?)
祐一の直感が、何かを告げていた。
この影は——ただの悪霊ではない。
***封印の強化***
橘の指示で、全員が配置につく。
「星川君、今——」
星川が一息吸い、祓詞を強める。
同時に橘は新しい木札を旧封印の中央へ差し込み、峯川が麻縄で四方を固く締め直した。
空気が一度、抜けるように沈黙した。
次の瞬間——
洞窟全体が低くうなり、内部の影が深い渦へと吸い込まれるように押し戻されていく。
「ギィィィィ……」
影から、苦痛にも似た声が漏れた。
峯川が思わず息を呑んだ。
「……閉じた……?」
「いや、眠らせただけだ。でも、これでしばらくは動けないはず」
橘は汗を拭いながら答えた。
封印の縄はぴんと張り、木札が淡い光を放つ。
影は奥の闇に沈み、再び姿を見せることはなかった。
しかし——
祐一は、影が完全に消える直前、何かを"見た"気がした。
それは——
龍の目。
巨大な、黄金色の、龍の目。
「田中君、どうした?」
星川が声をかけると、祐一は我に返った。
「……いや、何でもない」
本当は、何でもなくなかった。
しかし、今はまだ——
それを口にする時ではない。
***調査完了、しかし——次なる霊道へ***
洞窟を出ると、夜気が肺に広がり、ようやく現実に戻ったような感覚がした。
空は、すでに夕暮れに染まっている。
どれだけの時間、洞窟の中にいたのだろう。
峯川が肩を回す。
「ふう……なんとか終わったな。だが、橘さん、言ってたよな。霊道が動いてるって」
「そう。ここで封印が弱ったということは、周囲の霊道にも歪みが出ている」
橘が疲れた表情で答える。
「——特に、用水路沿いの祠。あそこは水の流れと霊道が重なっている危険な地点だわ」
星川が青ざめる。
「前に、夜にあの用水路のそば通ったとき……変な冷気感じたところですか?」
「そう。おそらくあの祠の封印が最も早く影響を受ける」
祐一が拳を握る。
「じゃあ次は、その祠の封印……調査して、強める必要があるんですね」
「ええ。今回の封印は完了。けれどまだ終わりじゃない。むしろ——」
橘は遠くの山並みを見つめた。
「これからが本番になりそうね」
夜風が揺れ、遠くで用水路の水音がかすかに響く。
その音が、まるで"呼ばれているように"聞こえた。
峯川が車の鍵を取り出す。
「今日はもう遅い。明日、用水路の祠を調査しよう」
「そうね。今日は一旦戻りましょう」
四人は車に乗り込んだ。
しかし、祐一の胸の中には——
あの龍の目の残像が、消えることなく残っていた。
(あれは……何だったんだ?)
答えは、まだ見えない。
しかし、確実に——
この土地には、まだ語られていない古い物語が眠っている。
その真実に辿り着くまで——
彼らの調査は、終わらない。
購読、ありがとうございました。




