表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オカルト研究部 田中祐一 今日も怪異あり  作者: waku


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/143

T字路の供養当日

 いよいよ、供養当日になりメンバーが集まり供養を行う事になった。

***現地到着***

 

 午前九時半。

 祐一たちは、つばき壮を出発した。

 寮の車に、祐一、さくら、弘子が乗り込む。春香、橘美紀、陽菜はそれぞれ別の車で向かう。

 

 道中、弘子は窓の外をじっと見つめていた。

「山田さん、大丈夫ですか?」

 祐一が声をかけると、弘子は小さく頷いた。

「はい……今日で、すべてが終わる。そう思うと、少し緊張しますけど……でも、ほっとしてもいます」

「ええ。きっと、あの子も待っていますよ」

 さくらが優しく微笑んだ。

 

 車は住宅街を抜け、T字路へと近づいていく。

 やがて、見覚えのある場所が見えてきた。

 T字路。

 そして、昨日設置された供養塔と祭壇。その隣に佇む、小さな地蔵。

「着いたね」

 寮が車を停めた。

 すでに、多くの人が集まっていた。

 

 オカルト研究会のメンバー——河餅部長、岡田副部長、峯川、広末、星川。

 東照寺の住職。

 不動産会社の田村と佐藤常務。

 そして、春香、橘美紀、陽菜も到着していた。

「皆さん、お集まりいただきありがとうございます」

 住職が深々と頭を下げた。

「昨日、祭壇の準備と悪霊の浄化が完了しました」

 寮が報告する。

「おかげで、今日の供養は安全に行えるでしょう」

「それは何よりです」

 住職が安堵の表情を浮かべた。

 祐一は周囲を見回した。

 朝の陽射しが、T字路を明るく照らしている。

 昨日の悪霊の気配は、もう感じられない。

 長年、闇に包まれていた場所が、今、光の中にある。

「祐一君」

 峯川が近づいてきた。

「警戒配置についた。周囲に不審者はいない。一般の通行人には、工事中ということで迂回をお願いしている」

「ありがとう、峯川君」

 広末と星川も、それぞれの持ち場についた。

 すべての準備が整った。

 時計を見ると、午前九時五十五分。

 あと五分で、供養が始まる。

***供養の開始***

 

 午前十時。

 住職が、供養塔の前に立った。

 その後ろには、春香、橘美紀、陽菜、そして遼が並ぶ。

 祐一たち、オカルト研究会のメンバーは、少し離れた位置で見守る。

 さくらと弘子は、さらに安全な場所に立っていた。

「それでは、始めます」

 住職の声が、静かに響いた。

 読経が始まる。

 低く、厳かな声。

 般若心経の言葉が、空気を震わせる。

 祐一は目を閉じて、耳を澄ませた。

 経文が、心に染み入ってくる。

 読経が続く中、祐一はふと、周囲の空気が変わったのを感じた。

 風が止まった。

 鳥の声も、聞こえなくなった。

 まるで、時間が止まったかのような静寂。

 

 そして——

 

 祐一は目を開けた。

 T字路の突き当たり、藪の周りに、うっすらと人影が見え始めていた。

 一つ、二つ……いや、もっと多い。

 十数人、いや、数十人。

 透明な人影が、静かに集まってきている。

 祐一の隣で、弘子が小さく息を呑んだ。

「見える……たくさんの人が……」

 さくらが弘子の肩を抱く。

「大丈夫。怖がらないで」

 霊たちは、供養塔と地蔵を取り囲むように集まっていた。

 老人、若者、子供。

 様々な姿の霊たちが、静かに佇んでいる。

 そして、その中に——

 小さな女の子の姿があった。

 白い服を着た、髪の長い女の子。

 地蔵の前で、じっとこちらを見ている。

 弘子が、震える声で呟いた。

「あの子……あの子だわ」

 住職の読経が、続いている。

 春香が前に進み出た。

 

 白い巫女装束を纏い、手には榊を持っている。

「祓い給え、清め給え」

 春香の声が響く。

 榊を振り、神道の祓いを行う。

 その動きは優雅で、しかし力強い。

 霊たちが、少しずつ光を帯び始めた。

 

 次に、橘美紀が前に出た。

 白袴の姿で、手には陰陽道の護符を持っている。

「天地の理に従い、この地を清めん」

 美紀が護符を掲げると、空気が振動した。

 陰陽道の術が発動し、T字路全体を包み込む。

 霊たちの輪郭が、さらにはっきりとしてきた。

 そして、陽菜が進み出た。

 

 手には、古代の文様が刻まれた石を持っている。

「古の力よ、この地に安らぎを」

 陽菜が石を掲げると、不思議な光が放たれた。

 淡い青白い光が、T字路全体を包み込む。

 その光の中で、霊たちが穏やかな表情になっていく。

 遼が最後に前に出た。

 手には、祈祷を込めた護符を持っている。

「すべての魂に、安らぎを。すべての苦しみから、解放を」

 遼の声が、優しく響く。

 そして、住職が最後の経文を唱えた。

「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……」

 その瞬間だった。

 

 光が、一段と強くなった。

 T字路全体が、眩い光に包まれる。

 祐一は思わず目を細めた。

 光の中で、霊たちがゆっくりと上へと昇っていく。

 一人、また一人。

 笑顔を浮かべながら、光の中へと消えていく。

 ——そのはずだった。

 だが、突然。

 空気が激しく揺れた。

 ゴォォォォォッ——

 不吉な音が響き渡る。

「何だ!?」

 峯川が叫んだ。

 T字路の突き当たり、藪の中心部に、黒い亀裂が走り始めた。

 空間そのものが裂けていくように、闇が広がっていく。

「異空間の亀裂……!」

 遼が顔色を変えた。

「まずい、何かが来る!」

 亀裂から、禍々しい黒い霧が噴き出してきた。

 霧は渦を巻き、みるみるうちに膨れ上がっていく。

 その中から——

 巨大な影が姿を現し始めた。

「こ、これは……」

 住職が息を呑んだ。

 黒い霧の中から現れたのは、人の形をした巨大な何かだった。

 三メートルはあろうかという大きさ。

 全身が黒い靄に包まれ、赤く光る目だけがギラギラと輝いている。

 口からは、低く唸るような声が漏れていた。

「ウウウウウゥゥゥ……」

 その声を聞いた瞬間、祐一の全身に悪寒が走った。

 圧倒的な悪意。

 圧倒的な怨念。

 これまで感じたことのない、恐ろしい存在感。

「強大な悪霊だわ……!」

 春香が叫んだ。

「長年この地に溜まった怨念が、一つに集まって実体化している!」

 成仏しようとしていた霊たちが、悪霊の出現に怯えて動けなくなっている。

 女の子の霊も、怯えた表情で地蔵の前に縮こまっていた。

「このままでは、霊たちが取り込まれてしまう!」

 橘美紀が叫んだ。

 悪霊の巨大な手が、霊たちに向かって伸びていく。

 その瞬間——

「させない!」

 陽菜が前に飛び出した。

 手に持った古代の石を高く掲げる。

「古の力よ、我に応えよ! 封印の壁よ、顕現せよ!」

 陽菜の叫びと共に、青白い光の壁が霊たちの前に展開された。

 悪霊の手が光の壁に触れると、激しい火花が散った。

「ギャアアアアアッ!」

 悪霊が苦痛の声を上げる。

「今よ、美紀!」

 春香が叫んだ。

「分かってる!」

 橘美紀が護符を三枚取り出し、空中に投げた。

「陰陽五行、天地の理! 悪霊退散、急々如律令!」

 護符が炎のように燃え上がり、悪霊に向かって飛んでいく。

 護符は悪霊の身体に張り付き、黒い靄を押さえ込んでいく。

「ウオオオオオッ!」

 悪霊が暴れ、護符を振り払おうとする。

 だが、橘美紀は両手で印を結び続けた。

「まだよ……もっと力を!」

 春香も榊を振り、祓いの言葉を唱え続ける。

「祓い給え、清め給え、神々の御力をもって、この悪しき存在を浄化せん!」

 神道の力が、悪霊を包み込んでいく。

 しかし——

 悪霊はあまりにも強大だった。

 護符が一枚、また一枚と剥がれていく。

 光の壁も、少しずつ削られていく。

「くっ……このままでは……!」

 陽菜が歯を食いしばった。

「みんな、力を合わせるんだ!」

 遼が前に出た。

「住職、読経を続けてください! 僕も加勢します!」

「はい!」

 住職と遼の声が重なる。

 読経の声が、さらに大きく響き渡った。

「祐一君!」

 遼が振り返った。

「君たちも、心の中で祈ってくれ! 霊たちを救いたいという、その想いが力になる!」

「分かりました!」

 祐一は目を閉じ、心の中で強く念じた。

 ——どうか、霊たちを救ってください。

 ——どうか、あの女の子を、安らかな場所へ。

 峯川、広末、星川も、同じように祈り始めた。

 さくらは弘子の手を握り、二人で祈っている。

 その時だった。

 地蔵が、淡く光り始めた。

「地蔵が……!」

 祐一が目を見開いた。

 地蔵から放たれる優しい光が、女の子の霊を包み込んでいく。

 女の子は怯えた表情から、少しずつ穏やかな表情に変わっていった。

 そして——

 女の子が立ち上がった。


 小さな手を、悪霊に向かって差し出した。

 ——やめて。

 声にならない声が、空気を震わせた。

 ——もう、誰も苦しまないで。

 女の子の言葉に、他の霊たちも立ち上がり始めた。

 老人も、若者も、子供たちも。

 みんなで、悪霊を取り囲んだ。

 ——私たちは、もう恨んでいない。

 ——もう、苦しみたくない。

 ——安らぎが欲しいだけ。

 霊たちの想いが、光となって集まっていく。

 その光が、悪霊を包み込んでいった。

「今だ!」

 遼が叫んだ。

 春香、橘美紀、陽菜が、同時に術を解き放った。

 神道の祓い。

 陰陽道の封印。

 古代魔法の浄化。

 三つの力が一つになり、巨大な光の柱となって悪霊を貫いた。

「ギャアアアアアアアアッ!」

 悪霊が最後の叫びを上げた。

 黒い靄が、光に飲み込まれていく。

 巨大な身体が、少しずつ小さくなっていく。

 そして——

 完全に消え去った。


 異空間の亀裂も、ゆっくりと閉じていく。

 T字路に、再び静寂が訪れた。

 春香が膝をついた。

「はぁ……はぁ……何とか、間に合ったわね……」

 橘美紀も額の汗を拭う。

「あんな強大な悪霊、初めてだったわ……」

 陽菜も疲れた表情で座り込んだ。

「みんな、大丈夫?」

 寮が三人に駆け寄った。

「ええ、何とかな……」

 

 春香が立ち上がる。

「でも、まだ終わってないわ。霊たちを、ちゃんと送り出さないと」

「そうだな」

 寮が頷いた。

 住職が再び読経を始めた。

 

 その声は、先ほどよりも穏やかで、優しかった。

 光が、再び強くなっていく。

 今度は、邪魔するものは何もない。

 霊たちが、一人、また一人と、光の中へと昇っていく。

 笑顔を浮かべながら。

 安らかな表情で。

 そして——

 

最後に残ったのは、あの女の子だった。

 女の子は、地蔵の前に立ったまま、じっとこちらを見ていた。

 弘子が一歩前に出た。

「待って」

 さくらが止めようとしたが、弘子は優しく首を振った。

「大丈夫……あの子に、伝えたいことがあるの」

 弘子は、ゆっくりと女の子の方へ歩いていった。

 祐一も、弘子の後を追った。

 女の子の前に立つと、弘子は膝をついた。

「ごめんね……怖がって、逃げたりして」

 弘子の目から、涙が流れた。

「ずっと、寂しかったよね。誰も遊んでくれなくて、ずっと一人で……」

 女の子は、静かに弘子を見つめている。

「でも、もう大丈夫。もう、苦しまなくていいの」

 弘子は優しく微笑んだ。


 「安心して、眠っていいのよ。向こうには、きっとお父さんやお母さんが待ってる」

 女の子の表情が、少しずつ柔らかくなっていく。

 そして——

 

 女の子が、初めて笑顔を見せた。

 小さな、でも本当に嬉しそうな笑顔。

 女の子は、弘子に向かって小さく手を振った。

 ——ありがとう。

 そんな声が、聞こえた気がした。

 女の子の姿が、光の中へと溶けていく。

 ゆっくりと、穏やかに。

 そして、完全に消えた。

 光が、静かに収まっていく。

 T字路には、もう霊の姿は見えなかった。

 ただ、供養塔と地蔵が、静かに佇んでいるだけ。

 弘子は、その場に座り込んで泣いていた。

 

「よかった……本当に、よかった……」

 さくらが駆け寄り、弘子を抱きしめた。

 祐一も、目頭が熱くなるのを感じた。

 すべてが、終わった。

 長い間、この場所で苦しんでいた霊たちが、ようやく安らぎを得た。


 ***供養の後***

 

 供養が終わると、住職が深々と頭を下げた。

「皆さん、本当にありがとうございました。これで、この地に眠る魂たちも、安らかに旅立てたことでしょう」

「こちらこそ、ありがとうございました」

 遼が応えた。

 

 田村と佐藤常務も、感謝の言葉を述べた。

「長年の悩みが、ようやく解決しました。本当に、ありがとうございます」

「これからは、この土地も安心して使えますね」

 佐藤が安堵の表情を浮かべた。

 河餅部長が、祐一の肩を叩いた。

「よくやったな、田中。お前の調査と行動力が、今日の成功につながったんだ」

「いえ、僕一人では何もできませんでした。みんなのおかげです」

 祐一は深く頭を下げた。

 峯川、広末、星川も集まってきた。

「無事に終わって、よかったね」

 広末が笑顔で言った。

「ああ。これで、山田さんも安心して暮らせる」

 星川が頷いた。

 祐一は、弘子の方を見た。

 弘子は、さくらに支えられながら、まだ涙を流していた。

 でも、その表情は穏やかだった。

「山田さん」

 祐一が声をかけると、弘子が顔を上げた。

「田中さん……本当に、ありがとうございました」

 弘子は深々と頭を下げた。

「私、もう大丈夫です。あの子も、みんなも、安らかになれた。本当に、よかった……」

「ええ。これからは、普通の生活を取り戻せますよ」

 祐一は優しく微笑んだ。

 春香、橘美紀、陽菜も近づいてきた。


「お疲れ様です、祐一さん」春香が微笑む。

「今回の供養、大変でしたけど……成功してよかったです」


 「あんな強大な悪霊が出てくるなんてね。でも、みんなで力を合わせて乗り越えられたのね」

 橘美紀が言った。


「また、次に困ったことがあったら、いつでも声をかけてね」

 陽菜も明るく言った。


「ありがとうございます、皆さん」祐一は、改めて全員に頭を下げた。

 寮が全員を見回した。


「さて、それでは片付けをして、引き上げよう。皆、お疲れ」

「お疲れ様でした」

 全員の声が重なった。

 T字路には、もう不穏な空気はなかった。

 ただ、穏やかな風が吹き、供養塔と地蔵を優しく包んでいた。

 祐一は、最後にもう一度、地蔵の前で手を合わせた。

「安らかに……」

 心の中で、静かに祈った。

 そして、みんなと一緒に、その場を後にした。

 

 空は、どこまでも青く澄み渡っていた。

 新しい一日が、始まろうとしていた。



 購読、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ