お寺への聞き込み調査へ
祐一たちは東照寺といった寺へ話を伺う為の聞き込み調査に出向くことになった。
果たして、問題は、解決するのか?
東照寺は、静かな住宅街の一角にある小さな寺だった。古い山門をくぐると、手入れの行き届いた境内が広がっている。
本堂の前で、四人は住職に声をかけた。六十代ほどの穏やかな表情の男性だ。
「すみません、少しお話を伺いたいのですが」
「はい、どうぞ」
祐一は調査の目的を簡単に説明した。住職は静かに頷きながら聞いていた。
「ああ、旧東町の供養塔ですね。確かに、こちらにあります」
住職は四人を境内の奥へと案内した。墓地の一角に、小さな石碑が立っている。まさに、図書館で見た写真の供養塔だった。
「こちらです。十年前、区画整理で移転することになりまして」
「その後、何か……変わったことはありませんでしたか?」
祐一が尋ねると、住職は少し困ったような表情を浮かべた。
「実は……移転した直後から、あの辺りで霊を見たという話が増えたんです。近所の方々が何人も、同じような体験をされて……」
「やはり……」
峯川が呟いた。
「供養塔は、元々その場所で亡くなった方々を慰めるために建てられたものです。それを移してしまったことで、霊たちが行き場を失ってしまったのかもしれません」
住職の言葉に、祐一は胸が締め付けられる思いがした。
「住職、もし可能であれば……元の場所で供養をすることはできませんか?」
「それが一番良いのですが……」住職は申し訳なさそうに首を振った。「あの場所は今、私有地になっていまして。所有者の許可が必要なんです」
「所有者……」
「ええ。以前、話をしようとしたのですが、取り合ってもらえませんでした」
四人は顔を見合わせた。
「とりあえず、僕たちで所有者と交渉してみます」
峯川が言った。
「ありがとうございます。もし供養ができるようになれば、私も喜んで協力させていただきます」
住職は深々と頭を下げた。
寺を出ると、すでに昼を過ぎていた。
「次は、あのT字路の土地の所有者を調べないとな」
「法務局で登記情報を確認できる。午後から行こう」
星川が提案する。
「その前に、昼食を取ろう。少し休憩も必要だ」
広末が不安そうに言った。
四人は調査を続けるため、一旦休憩を取ることにした。
だが、祐一の心には、供養塔のことが重くのしかかっていた。
行き場を失った霊たち。
そして、その霊たちを元の場所に戻すために、何ができるのか。
答えは、まだ見えていなかった。
***翌日・市立図書館***
翌日の午前中、祐一は峯川、広末、星川と共に市立図書館を訪れた。古い建物で、郷土資料室には地域の歴史に関する膨大な資料が保管されている。
「さて、どこから調べようか」
峯川が資料棚を見渡しながら呟いた。
「まずは、あの地域の古い地図を見てみよう」広末が提案する。
司書に尋ねると、戦前から現在までの地域地図を出してもらえた。四人はテーブルを囲み、慎重に資料を広げる。
「これが昭和初期の地図か……」
星川が古い地図を指でなぞる。
「あった。このT字路、昔からあるんだな」
祐一が地図上の該当箇所を指さした。興味深いことに、T字路の突き当たりには、小さな記号が描かれていた。
「これ、何だろう?」
「待って、凡例を見てみる」
峯川が地図の端を確認する。
「……墓地、だな」
四人の空気が一瞬で張り詰めた。
「墓地……あの藪の場所に?」
「ああ。戦前は、あそこに小さな共同墓地があったらしい」
広末が別の資料を手に取った。
「こっちの郷土史にも記載がある。『旧東町墓地。明治時代から使用されていたが、昭和二十年代に区画整理のため移転』……って」
「移転したのか」星川が呟いた。「でも、墓地だった場所に、あの藪が残ってる……」
「墓石や遺骨は移転させても、土地そのものに染み付いたエネルギーは残る」
祐一は遼の言葉を思い出していた。
「しかも、移転が不完全だった可能性もある」峯川が付け加える。「戦後の混乱期だ。すべてが適切に処理されたとは限らない」
広末がさらに別の資料を開く。
「あ、これ……事故の記録だ」
四人が広末の手元を覗き込む。そこには、昭和三十年代の新聞記事のコピーがあった。
「『旧東町付近で交通事故。女性一名死亡』……日付は、昭和三十五年八月」
「場所は?」
「詳しくは書いてないけど……『T字路の突き当たり付近』って」
祐一の背筋に、冷たいものが走った。
「白い服を着た女性の霊……」
「山田さんが言っていた目撃情報と一致するな」
峯川が手帳にメモを取る。
「他にも何かないか、調べてみよう」
四人はさらに資料を漁り続けた。そして、もう一つ重要な発見があった。
「これ……供養塔の記録だ」
星川が古い写真を見つけた。白黒の写真には、小さな石碑が写っている。
「『旧東町墓地跡地供養塔。昭和二十八年建立』……でも、現在の場所には記載がない」
「供養塔が、消えた?」
「いや、移転したのか、それとも……」
祐一は立ち上がった。
「司書さんに聞いてみよう。この供養塔が今どこにあるのか」
司書に尋ねると、少し調べてから答えてくれた。
「ああ、この供養塔なら、確か十年ほど前に近くの寺院に移されたはずです。区画整理の際に、邪魔になるということで……」
「寺院の名前は?」
「東照寺です。ここから車で十五分ほどの場所にあります」
「ありがとうございます」
祐一は四人を見回した。
「行ってみよう。供養塔が移転されたことで、何か影響が出たのかもしれない」
「賛成だ」峯川が頷く。
四人は資料を返却し、図書館を後にした。
***東照寺***
東照寺は、静かな住宅街の一角にある小さな寺だった。古い山門をくぐると、手入れの行き届いた境内が広がっている。
本堂の前で、四人は住職に声をかけた。六十代ほどの穏やかな表情の男性だ。
「すみません、少しお話を伺いたいのですが」
「はい、どうぞ」
祐一は調査の目的を簡単に説明した。住職は静かに頷きながら聞いていた。
「ああ、旧東町の供養塔ですね。確かに、こちらにあります」
住職は四人を境内の奥へと案内した。墓地の一角に、小さな石碑が立っている。まさに、図書館で見た写真の供養塔だった。
「こちらです。十年前、区画整理で移転することになりまして」
「その後、何か……変わったことはありませんでしたか?」
祐一が尋ねると、住職は少し困ったような表情を浮かべた。
「実は……移転した直後から、あの辺りで霊を見たという話が増えたんです。近所の方々が何人も、同じような体験をされて……」
「やはり……」
峯川が呟いた。
「供養塔は、元々その場所で亡くなった方々を慰めるために建てられたものです。それを移してしまったことで、霊たちが行き場を失ってしまったのかもしれません」
住職の言葉に、祐一は胸が締め付けられる思いがした。
「住職、もし可能であれば……元の場所で供養をすることはできませんか?」
「それが一番良いのですが……」住職は申し訳なさそうに首を振った。「あの場所は今、私有地になっていまして。所有者の許可が必要なんです」
「所有者……」
「ええ。以前、話をしようとしたのですが、取り合ってもらえませんでした」
四人は顔を見合わせた。
「とりあえず、僕たちで所有者と交渉してみます」
峯川が言った。
「ありがとうございます。もし供養ができるようになれば、私も喜んで協力させていただきます」
住職は深々と頭を下げた。
寺を出ると、すでに昼を過ぎていた。
「次は、あのT字路の土地の所有者を調べないとな」
「法務局で登記情報を確認できる。午後から行こう」
星川が提案する。
「その前に、昼食を取ろう。少し休憩も必要だ」
広末が不安そうに言った。
四人は調査を続けるため、一旦休憩を取ることにした。
だが、祐一の心には、供養塔のことが重くのしかかっていた。
行き場を失った霊たち。
そして、その霊たちを元の場所に戻すために、何ができるのか。
答えは、まだ見えていなかった。
***定食屋での昼食***
寺の近くにある小さな定食屋で、四人は遅めの昼食を取った。カウンター席に並んで座り、それぞれ日替わり定食を注文する。
「それにしても、供養塔の移転が原因だったなんてね……」
広末が箸を置いて呟いた。その表情には、複雑な思いが浮かんでいる。
「行政の都合で移転させられて、霊たちは行き場を失ってしまった。なんだか、切ない感じね」
「ああ。でも、これで対処の方向性は見えてきた」
峯川が冷静に分析する。
「元の場所で供養ができれば、霊たちも成仏できるかもしれない」
「問題は、土地の所有者だな」
星川が味噌汁を飲みながら言った。
「住職の話では、取り合ってもらえなかったらしいけど……」
「僕たちが直接交渉してみる価値はあるよ」
祐一は前向きに言った。
「もしかしたら、状況を詳しく説明すれば、分かってもらえるかもしれない」
「そうだね。午後から法務局で所有者を調べよう」
峯川が頷いた。
広末がふと思い出したように言った。
「そういえば、山田さんは大丈夫かな。昨日、お守りとお札を渡したけど……」
「今朝、メールで連絡があったよ」
祐一がスマートフォンを取り出す。
「昨晩は何事もなく過ごせたって。お守りを持っていると、気持ちが落ち着くらしい」
「よかった……」
広末はほっとした表情を見せた。
「でも、根本的な解決にはならないからね。早く原因を取り除かないと」
星川が真剣な顔で言う。
「ああ。だからこそ、今日中に所有者の情報を掴みたい」
祐一は決意を新たにした。
四人は食事を済ませると、すぐに法務局へと向かった。
***法務局での調査***
法務局では、地番を指定して登記情報を閲覧することができる。峯川が窓口で手続きを進める間、他の三人は待合室で待機していた。
三十分ほどして、峯川が戻ってきた。手には、数枚の書類が握られている。
「分かった。土地の所有者は、『株式会社東開発』という不動産会社だ」
「不動産会社……」
祐一が書類を覗き込む。
「本社の住所は……ここから車で二十分くらいの場所だな」
「今から行ってみるか?」
星川が提案する。
「ああ。でも、相手は企業だ。どう交渉するか、戦略を立てないと」
峯川が慎重に言った。
四人は法務局の駐車場に戻り、車の中で作戦会議を開いた。
「まず、僕たちがオカルト研究会だということは前面に出さない方がいいかもしれない」
祐一が提案する。
「霊がどうこうって話をしても、信じてもらえない可能性が高い」
「じゃあ、どう切り出す?」
広末が尋ねた。
「地域の歴史保護という観点で話してみるのはどうだろう」
峯川が言った。
「供養塔は地域の文化財的な意味合いもある。それを元の場所に戻したい、という形で交渉すれば……」
「なるほど。それなら、話を聞いてもらえるかもしれない」
星川が頷いた。
「でも、最終的には供養の話をしないといけないよね」
広末が不安そうに言う。
「その時は、住職に同行してもらうのはどうだろう」
祐一が提案した。
「お寺の住職が一緒なら、説得力も増すはずだ」
「いい案だ。じゃあ、今日は会社に行って、まず状況を説明してみよう。その上で、改めて住職と一緒に交渉の場を設けてもらう」
峯川が方針をまとめた。
「よし、行こう」
四人は車を発進させ、株式会社東開発の本社へと向かった。
***株式会社東開発***
本社は、駅前の雑居ビルの三階にあった。看板には「株式会社東開発」と書かれているが、小規模な会社のようだ。
四人はエレベーターで三階に上がり、受付を訪ねた。
「すみません、土地の件でお話を伺いたいのですが……」
峯川が丁寧に切り出すと、受付の女性が少し困惑した表情を浮かべた。
「土地の件ですか? どちらの物件でしょうか」
「旧東町のT字路、突き当たりの土地です」
祐一が地図のコピーを見せる。
「少々お待ちください」
受付の女性は奥に引っ込み、しばらくして中年の男性が現れた。スーツ姿で、少し疲れたような表情をしている。
「私、営業部の田村と申します。旧東町の土地について、何かご用件でしょうか?」
「初めまして。私たちは近隣の大学の者です」
峯川が名刺代わりに学生証を見せた。
「実は、その土地にあった供養塔について、お話を伺いたいのですが……」
「供養塔……ああ、あれですか」
田村の表情が少し曇った。
「あの土地、実はずっと開発が止まっているんですよ。十年前に取得したんですが……」
「何か問題でも?」
「ええ……正直に言いますと、あの土地、何をしようとしても上手くいかないんです」
田村はため息をついた。
「最初はアパートを建てる予定だったんですが、工事中に事故が続いて。それで計画を中止したんです。その後、駐車場にしようとしたんですが、それもダメで……」
四人は顔を見合わせた。
「やはり……」
祐一が小さく呟く。
「田村さん、実は私たち、その土地について調査をしていまして」
峯川が慎重に言葉を選びながら続けた。
「あの場所は元々墓地だったんです。そして、供養のために建てられた供養塔が、十年前に移転されました。その後から、様々な問題が起きている……」
田村の表情が変わった。
「まさか……それが原因なんですか?」
「可能性は高いと思います。私たちは、近くの東照寺の住職と協力して、元の場所で供養を行いたいと考えているんです」
「供養……」
田村は考え込むような表情になった。
「正直、会社としてもあの土地は持て余していました。開発もできず、売却もできず……。もし供養をすることで、何か変わるなら……」
「ご協力いただけますか?」
祐一が真剣な眼差しで尋ねた。
田村は少し迷った後、深く息を吐いた。
「分かりました。一度、上司に相談してみます。供養をすることに、特に反対する理由はないと思いますので」
「ありがとうございます!」
広末が思わず声を上げた。
「ただし」田村が付け加える。「正式な供養として、きちんとした形で行っていただきたい。住職の方と、具体的な日程や方法を相談させてください」
「もちろんです。すぐに住職にも連絡を取ります」
峯川が頷いた。
四人は連絡先を交換し、改めて詳細を詰めることを約束して、会社を後にした。
***帰路***
ビルを出ると、夕方の空が広がっていた。
「よかった……協力してもらえそうだね」
広末がほっとした表情で言った。
「ああ。田村さんも、あの土地のことで困っていたんだろう」
星川が頷く。
「今日はここまでにして、明日、住職に連絡を取ろう」
峯川が提案した。
「そうだね。それと、部長にも報告しないと」
祐一が手帳を確認する。
四人は車に乗り込み、大学へと戻る道を走り始めた。
車窓から見える街並みは、いつもと変わらない日常の風景。だが、その裏側には、見えない世界が確かに存在している。
祐一は助手席から空を見上げた。
供養が無事に行われれば、あの場所に彷徨う霊たちも、ようやく安らぎを得られるかもしれない。
そして、山田弘子も、普通の生活を取り戻せる。
まだ、やるべきことは残っている。
だが、解決への道筋は、確かに見えてきた。
祐一は静かに、心の中で祈った。
どうか、すべてが上手くいきますように——。
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