つばき壮での相談
祐一は帰路につき、そこで待っていたのは帰りを待っていたさくらだった。
***つばき壮での相談***
祐一がスクーターでつばき壮に戻ると、玄関先でさくらが待っていた。
「お帰りなさい、祐一君。どうだった?」
さくらの表情には、友人を心配する気持ちが滲んでいる。
「今のところ、原因は分からないけど……何か重い空気のする場所だった」
祐一はヘルメットを脱ぎながら答えた。
「なんだか、怖い感じだね。こういった所があるなんて……」
さくらが不安そうに呟いた時、玄関のドアが開いた。
「ただいま。今日の編集部の仕事も、一息ついたよ」
現れたのは、遼だった。つばき壮の住人で、オカルト専門の出版社で編集者として働いている。三十代半ばの落ち着いた雰囲気の男性で、様々な心霊体験の取材を通じて豊富な知識を持っていた。
そして、遼自身にも霊能力があり、これまで数々の悪霊を浄化してきた実績があった。
「あ、遼さん、お帰りなさい」
祐一は思わず声をかけた。
「ちょっと相談してもいいですか?」
「祐一君? ああ、いいよ」
遼は優しく微笑んだ。
「裏庭のカフェで話を聞こう。僕が奢るから」
「さくら、私も参加していいですか?」
さくらが遠慮がちに尋ねると、遼は頷いた。
「ああ、いいよ。むしろ、さくらさんも一緒の方がいい」
「ありがとうございます、遼さん。私の知り合いのことで心配だったから……」
こうして三人は、つばき壮の裏庭にある喫茶スペースへと向かった。夕暮れの柔らかな光が、庭の木々を照らしている。
***裏庭カフェでの会話***
遼がコーヒーを三つ注文し、三人はテーブルを囲んだ。祐一は今日の調査について、T字路で感じた雰囲気、弘子の証言、そして測定器の異常な反応まで、一通り説明した。
遼はコーヒーを一口飲んだ後、静かに口を開いた。
「確かに、霊道の可能性もありそうだね」
「霊道……ですか」
さくらが不安そうに繰り返す。
「ああ。霊的なエネルギーが流れる道のことだ。そういう場所には、様々な霊が集まりやすくなる。対策も色々あるけど……」
遼は少し考え込んでから続けた。
「何か碑がないか、調べてみるのも良いと思う。供養塔とか、慰霊碑とか。昔、そこで何かあった証かもしれない」
「碑……なるほど」
祐一は手帳にメモを取る。
「もし、本当に霊道があったら、ちょっと厄介かもしれないね」
遼の表情が少し険しくなった。
「地縛霊だけだったら、きちんと浄霊すれば解決するけど……霊道の場合は、次から次へと霊が現れる可能性がある。根本的な対処が必要になる」
「そんなに……」
さくらの顔色が青ざめる。
「でも、心配しすぎることはないよ」
遼は優しく微笑んだ。
「まずは、ちゃんと調査をして、原因を特定することが大事。それから適切な対処をすればいい。祐一君、明日は何か予定がある?」
「明日は、メンバーと一緒に図書館で地域の歴史を調べる予定です」
「それはいい。過去の記録を調べるのは重要だ。もし必要なら、僕も手伝うよ。編集部で扱った資料の中に、その地域の情報があるかもしれない」
「本当ですか? 助かります」
「それと……」
遼はコーヒーカップを置き、真剣な表情で祐一を見た。
「もし、現場で危険を感じたら、絶対に無理をしないこと。霊道があるような場所は、予想以上に強いエネルギーが渦巻いていることがある。君たちの身の安全が第一だからね」
「はい、肝に銘じます」
祐一は深く頷いた。
さくらがそっと祐一の手に触れた。
「祐一君、気をつけてね。弘子のことは心配だけど、祐一君たちが危険な目に遭うのも嫌だから……」
「大丈夫。僕たちは慎重に調査するから」
祐一はさくらに微笑みかけた。
裏庭のカフェには、他の客たちの穏やかな話し声が響いている。日常の風景。だが、その日常のすぐ傍に、見えない世界が存在している。
遼が静かに言った。
「祐一君、霊というのは、必ずしも悪意があるわけじゃない。ただ、成仏できずに彷徨っているだけの存在も多い。もし本当に霊がいるなら、その霊が何を求めているのか……それを理解することが、解決への第一歩になるかもしれない」
「……はい」
祐一は遼の言葉を心に刻んだ。
夜が深まり、つばき壮の灯りが温かく三人を照らしていた。
明日からの調査に向けて、祐一の決意は静かに固まっていった。
***翌日・市立図書館***
翌日の午前中、祐一は峯川、広末、星川と共に市立図書館を訪れた。古い建物で、郷土資料室には地域の歴史に関する膨大な資料が保管されている。
「さて、どこから調べようか」
峯川が資料棚を見渡しながら呟いた。
「まずは、あの地域の古い地図を見てみよう」広末が提案する。
司書に尋ねると、戦前から現在までの地域地図を出してもらえた。四人はテーブルを囲み、慎重に資料を広げる。
「これが昭和初期の地図か……」
星川が古い地図を指でなぞる。
「あった。このT字路、昔からあるんだな」
祐一が地図上の該当箇所を指さした。興味深いことに、T字路の突き当たりには、小さな記号が描かれていた。
「これ、何だろう?」
「待って、凡例を見てみる」
峯川が地図の端を確認する。
「……墓地、だな」
四人の空気が一瞬で張り詰めた。
「墓地……あの藪の場所に?」
「ああ。戦前は、あそこに小さな共同墓地があったらしい」
広末が別の資料を手に取った。
「こっちの郷土史にも記載がある。『旧東町墓地。明治時代から使用されていたが、昭和二十年代に区画整理のため移転』……って」
「移転したのか」星川が呟いた。「でも、墓地だった場所に、あの藪が残ってる……」
「墓石や遺骨は移転させても、土地そのものに染み付いたエネルギーは残る」
祐一は遼の言葉を思い出していた。
「しかも、移転が不完全だった可能性もある」峯川が付け加える。「戦後の混乱期だ。すべてが適切に処理されたとは限らない」
広末がさらに別の資料を開く。
「あ、これ……事故の記録だ」
四人が広末の手元を覗き込む。そこには、昭和三十年代の新聞記事のコピーがあった。
「『旧東町付近で交通事故。女性一名死亡』……日付は、昭和三十五年八月」
「場所は?」
「詳しくは書いてないけど……『T字路の突き当たり付近』って」
祐一の背筋に、冷たいものが走った。
「白い服を着た女性の霊……」
「山田さんが言っていた目撃情報と一致するな」
峯川が手帳にメモを取る。
「他にも何かないか、調べてみよう」
四人はさらに資料を漁り続けた。そして、もう一つ重要な発見があった。
「これ……供養塔の記録だ」
星川が古い写真を見つけた。白黒の写真には、小さな石碑が写っている。
「『旧東町墓地跡地供養塔。昭和二十八年建立』……でも、現在の場所には記載がない」
「供養塔が、消えた?」
「いや、移転したのか、それとも……」
祐一は立ち上がった。
「司書さんに聞いてみよう。この供養塔が今どこにあるのか」
司書に尋ねると、少し調べてから答えてくれた。
「ああ、この供養塔なら、確か十年ほど前に近くの寺院に移されたはずです。区画整理の際に、邪魔になるということで……」
「寺院の名前は?」
「東照寺です。ここから車で十五分ほどの場所にあります」
「ありがとうございます」
祐一は四人を見回した。
「行ってみよう。供養塔が移転されたことで、何か影響が出たのかもしれない」
「賛成だ」峯川が頷く。
四人は資料を返却し、図書館を後にした。
べてが上手くいきますように——。
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