最後の封印
憑りつかれた広末摩耶を追ってポータルに入った祐一たちは果たして無事に帰還できる事ができるのだろうか?
ポータルの中へと飛び込んだ祐一たちは、再び空間の揺らぎに呑み込まれ、身体の感覚が宙に浮いたように失われていった。
光と闇が交錯する中、彼らが目を開けると、そこには――
過去の世界が広がっていた。
──鮮やかすぎる色彩、穏やかな空気、かつての娯楽施設が、まるで時間が巻き戻されたかのように、元の形で存在していた。
「これは……過去のこの施設……」美紀が息を呑む。
彼らは、まるで導かれるようにして一つの部屋へと足を運ぶ。そこは、古びた和室。中央には、魔法陣のような文様が刻まれており、その上に少女が横たわっていた。
傍らには、一人の男性――この施設の元オーナーと見られる男が、祈るように手を組み、震える声で唱えていた。
「お願いだ……この子の命だけは……どんな代償を払ってでも……」
娘は、目を閉じたまま弱々しく息をしていた。病に伏せ、医師にも見放された彼女を救うため、男は禁じられた儀式に手を出してしまったのだ。
その瞬間――部屋の空気が変わった。
魔法陣の中心から黒い霧が立ちのぼり、そこから赤い瞳を持つ悪魔が姿を現した。
「……願いは、聞き届けよう。だが、その代価は貴様の魂と、この子の器だ」
「……なに?」
男が狼狽する暇もなく、魔法陣が光を放ち、娘の体が激しく震え出す。
「いや……あああああああッ!!」
少女の身体が空中に浮かび、その瞳が真っ赤に染まった。
「お父……さ……ま……?」
その声は、もう彼女のものではなかった。
「契約、完了……器は整った。私はこの肉体をいただく」
悪魔は少女の肉体を通して現世に残り、オーナーの魂を一瞬で燃やし尽くした。床に崩れ落ちた男は、もはやただの抜け殻と化していた。
***現代と繋がる呪縛***
悪魔に取り憑かれた少女――その存在が、施設の霊的中枢となって今も残り続けている。
そしてその魂は、現在、広末摩耶に重なってしまったのだ。
「広末さんの中にいるのは……あの時の少女……?」祐一が驚愕をこめて言った。
「正確には、少女の肉体を媒介にした悪魔だ」寮が冷静に分析する。「本来ならば浄化されるはずだったが、誰にも気づかれないまま、ここで彷徨い続けた。そして、感受性の強い人間――広末に目をつけた」
「彼女の魂は……大丈夫なんでしょうか?」祐一が不安げに尋ねた。
「今ならまだ間に合う。だが、この悪魔は本体の一部でしかない。完全な力で現れようとしているようね」美紀が厳しく言う。
***広末の奪還戦***
ポータルの奥――その最深部。
そこに広末はいた。
彼女は浮かび上がったまま、漆黒の霧に包まれていた。傍らに、あの悪魔の少女の姿。だがそれはもはや、人の形をしたなにかでしかなかった。顔には深い裂け目、目は赤く、口は裂け、声は地鳴りのように響く。
「この子の魂は、私の中で溶けていく。いまさら、取り戻せると思うのか?」
「させるか……!」祐一が前に出ようとするが、強力な結界が行く手を阻んだ。
「今よ、祐一!」陽菜が彼の肩に手を置き、二人の霊力が重なった。
「霊光弾!」
巨大な二重の光弾が闇を裂き、結界を砕く。同時に、美紀が手にした召喚符を掲げ、空に向かって叫んだ。
「白虎よ、来たれ!天招・白虎神槍!」
空が裂け、白銀の神獣・白虎が現れた。その咆哮は空間を揺るがし、悪魔の影を穿つ。
「ぐ、あああ……! 我はまだ……完全ではないのに……!」
悪魔は断末魔のような声を上げて霧散し、広末の体がゆっくりと地に降りた。
「……あれ……わたし……?」
祐一が駆け寄り、彼女をしっかりと抱きしめる。
「戻って来るんだ、広末。君の居場所は、こっちだ」
***終焉への序章***
だが、その戦いの余波で空間が不安定になり、ポータルが暴走し始めた。
「急げ!ポータルが閉じるぞ!」寮が叫ぶ。
一行は急ぎ出口へと向かう。だが、その瞬間――
奥の虚空から、さらに大きな気配が姿を現そうとしていた。
「これは……古代悪魔……!」陽菜の表情が蒼白に染まる。
「間に合うか……!? 早く、封印を!」祐一が叫ぶ。
陽菜が最大パワーで霊光弾を放ち、古代悪魔の一体は、完全に消滅した。
「早く出口へ」と橘美紀が声を掛ける。
祐一たち全員、ポータルから出ると、春香、小川、松井あゆみが立っていた。
「春香さん、みんな、どうして?」祐一が質問を投げかける。
「話は後で、封印の儀をはじめましょう」春香が答える。
メンバー全員で封印の儀をはじめる。ひかりが集まりポータルが光に包まれて行く。
「今だ……結界を重ねて!封印の印を!」全員が力を合わせ、最終封印術式を完成させる。
「――封神結印・終ノ式!!」
爆風のような光と音が空間を満たし、ポータルは激しくうねった末、音もなく、静かに閉じ消滅した。
***帰還と再会***
爆風のような光が消え去り、ポータルが閉じた瞬間、空間は静寂に包まれた。
「……やったのか?」と、祐一が息を飲むように言った。
「完全に封印されたわ」と橘美紀が頷いた。額の汗をぬぐいながら、白虎の姿が霧のように消えていくのを見送る。
立っている地面が確かに現実のものに戻った感触が、彼らの心を安堵で満たしていく。
「よし全員、車に戻ろう」寮が合図し、全員車の前へとに戻った。
「みんなっ!」と駆け寄ってきたのは、星川だった。1年生たちも後から掛け寄って来た。
「祐一先輩! 広末さん……!」鮎川が目を潤ませながら声をかける。
広末は、少し戸惑いながらも微笑んだ。「……大丈夫。ちゃんと戻ってこれた」
「よかった……!」鮎川は思わず彼女を抱きしめる。
星川も真剣な顔で祐一に言う。「ポータル、消えたな。全て……終わったのか?」
祐一は静かにうなずいた。「ああ。終わった……でも、また何かが起きても、僕たちなら対応できる。そう思えた」
ひとつ、またひとつ、仲間たちの笑顔が戻っていく。
***車での帰路***
日がすっかり落ち、月明かりのもとで彼らは駐車場へと戻っていた。何時間も前に降り立った時とは、まるで違う空気だった。
広末はやや疲れた様子だったが、しっかりと自分の足で歩いていた。隣には祐一がそっと寄り添う。
「もう、悪魔の気配はないわね」橘美紀が後ろを振り返って言った。
「けど、油断は禁物だ。帰ってからもしばらくは監視を続けた方がいい」寮が冷静に言い、運転席に乗り込んだ。
道中の車内は、最初こそ疲労のせいか静かだったが、少しずつ皆の口から今日の出来事がぽつりぽつりと語られはじめた。
「結局、あの少女の霊……もう、救われたのかな」と広末がぽつんと言った。
「救えたと思いたい。少なくとも、あの苦しみからは解放されたはずだ」と祐一が答える。
後部座席でうつむいていた広末が、そっと声を発した。
「……あの子の記憶、少しだけ残ってる。お父さんのことが……すごく好きだった。怖かったけど……悲しかった」
「……」車内の全員が言葉を失う。
「だから……ありがとう。助けてくれて」広末の声は震えていたが、心からのものだった。
「広末が戻ってこなかったら、どうしようかと思ったよ」と峯川が茶化すように笑った。「せっかく仲良くなってきたのにさ」
「ごめんなさい……でも、またみんなと一緒にいられてよかった」
車はようやくつばき壮に到着し街の明かりが見える場所へと戻ってきた。夜が深け空には淡く星が瞬いている。
「一旦、つばき壮で休んでから、明日、報告と記録をまとめよう」と寮が言い、皆がうなずいた。
「熱いお茶と甘いものが欲しいな……」陽菜がぼそっと言う。
「戦いの後は、甘いものに限るね」と祐一が笑った。
その笑顔に、メンバー全員、少しだけ明るくなった。
今日一日で、彼らはまた一歩、見えない世界の深みへと足を踏み入れた。
けれど、戻る場所があり、迎えてくれる仲間がいる――それだけで、心は少しずつ癒されていく。
購読、ありがとうございました。ひとまず、今回のエピソードシリーズも完結しました。




