施設内の2階へ
一階のポータルの封印に成功した祐一たちは、再び、2階を目指す事にした。
一階のポータルを無事に封印した一行は、ゆっくりと2階に続く通路へと引き返していた。空気は少し澄んだように感じるが、建物全体に漂う「何か」はまだ消えていなかった。
「まだ終わったわけじゃないな」寮が前を見据えてつぶやいた。
進むたびに、壁の隙間や天井の影から、ぽつりぽつりと悪霊が現れる。
橘美紀の召喚した朱雀の炎が闇を焼き、陽菜の霊光弾が空間を浄化していく。
「よし、少しずつだが、浄化が進んでいる」峯川が仲間たちを鼓舞した。
そのとき、祐一がふと足を止め、左側の部屋を指さした。
「ここ……覚えてる。前回、ここから脱出したんだ」
「脱出……って?」と、広末摩耶が怪訝そうに聞いた。
「これ以上、進むのは危険と判断して撤収が決まったんだ」
「もともと部屋の窓が割れていたから、脱出できたんだ。運が良かった」峯川が補足する。
「そ、そんなことが……」広末は背筋を震わせながらその部屋を見た。
慎重に扉を開け、全員が中に入る。風で揺れるカーテンの隙間から、外の木々の影が揺れて見えた。室内には霊的な気配は感じられなかった。
「……安全そうね」橘美紀が言い、寮と共に結界を張る。
空間が静まり返り、ようやく皆はその場に腰を下ろした。
***結界内の安堵と再確認***
祐一は床に座りながら、水を一口飲んでから言った。
「前回、この施設の中で……ある女の子の霊が現れたんだ」
広末が顔を上げる。「え? そんな話、初めて聞きましたけど……」
「前回の調査に広末は参加してなかったからな」峯川が補足する。「その霊は、ただの悪霊じゃなかった」
祐一は窓の向こうを見つめながら話を続けた。
「その霊、こちらの魔法がまったく通用しなかったんだ。あの時は、小川くんの魔法も意味がなかった。結局、逃げるしかなかったんだよ」
「おそらく……悪魔化していたのだろうな」と、寮がつぶやいた。
「悪魔化……」広末の声が震える。
「異界の存在と同化してしまった状態だ。通常の魔法では太刀打ちできない」
「倒すにはどうすれば?」峯川が問いかける。
「陽菜と僕の霊光弾……そして、美紀の召喚する白虎と青龍だ。あれなら、悪魔的存在にも対抗できる」
橘美紀が静かにうなずいた。「必要になれば、召喚します」
祐一は深く息をついた。「あの時、撤退した判断は正しかった。でも今回は……退くつもりはない」
30分ほどの休息の後、結界を解除し、一行は再び調査へと進む。
「行こう。二階を確認する」祐一が言った。
「慎重にな。霊的な圧力はまだ完全には収まってない」寮が背後を振り返りながら続けた。
階段を上ると、二階の空気は一階以上に重く、じっとりとした霊的気配が漂っていた。壁には所々、手形のような黒い染みがこびりついている。
一行は慎重に扉を開きながら、一部屋ずつ確認していく。
ある部屋で、鏡に悪霊の影がちらりと映りこみ、それを見た広末が一瞬立ちすくむ。
「来る!」祐一が叫び、陽菜の霊光弾が即座に悪霊を吹き飛ばす。
美紀は朱雀を再召喚し、灼熱の羽で一帯の空間を浄化していった。
「結構な数が潜んでるみたいだ……」峯川が浄化スプレーを構えながらつぶやいた。
だが、一行は動じることなく、確実に悪霊を浄化しながら、次の部屋へと進んでいった。
***悪意の気配と広末への憑依***
二階へと続く階段を上がるにつれ、空気が再び重たく淀んでいくのを、全員が肌で感じていた。先ほどまで清浄だったはずの空間が、じわじわと暗く濁り始めていた。
「……気をつけて。何か来るわ」陽菜が立ち止まり、霊光の気を集中させる。
階段を上りきった先にある部屋の前に差しかかる。扉はわずかに開いており、その隙間から、冷気が漏れ出していた。
「……ここは、、、、」祐一が呟くように言った。
広末が扉に手をかける。
「わたし……行きます」
祐一が止めようとしたが、広末は意志を強く保ったまま部屋の中へと足を踏み入れた。寮、陽菜、美紀も続いて入り、最後に祐一と峯川が部屋へ入った。
中は、がらんとしていて家具もほとんど残っていない。ただ、部屋の奥、床の上に何か黒ずんだ染みが浮かんでいた。
「これは……血痕?」峯川が目を細める。
次の瞬間――
「……来て……」
誰ともつかぬ、けれど明らかに少女の声が部屋に響き渡った。
「上だ!」寮が叫び、全員が天井を見上げた。
そこには、逆さまに浮かぶ少女の姿。黒髪は垂れ下がり、目は虚ろ、口は微笑を形作っていた。
「来て……助けて……」
「霊光弾!」陽菜が即座に霊光弾を放つ。白い閃光が天井を焼き、少女の姿を貫く。
爆発と共に霧のように消えたその姿を見て、誰もが一瞬、安堵した。
その瞬間――
「……あれは幻影!」美紀が鋭く叫ぶ。
視線を広末に向けた瞬間、彼女の体がぴたりと静止し、その表情が不自然に歪んだ。目は虚ろになり、口元には見たことのない、異様な微笑が浮かんでいた。
「……いかないと……わたし、行かなきゃ……」
「まさか……憑依された!?」祐一が駆け寄ろうとするも、広末はそれを避けるように踵を返し、部屋を飛び出して廊下を走り出した。
「広末!」峯川が叫ぶ。
「追うぞ!奥だ!」寮が叫び、全員が後を追って走る。
***再び目覚める闇***
薄暗い廊下を駆け抜けた先、かつて1階でも発見されたような、歪んだ空間の裂け目が、2階奥の部屋にも開かれていた。広末は、そのポータルの前で立ち尽くしていた。
「戻って来るんだ、広末さん!」祐一が手を伸ばした瞬間、広末の体がふわりと宙に浮き、ポータルの中へと吸い込まれるように消えていった。
「しまった!」祐一が駆け込もうとするが、空間が激しく揺れ、無数の悪霊がその場に出現する。
「くっ……数が多い!」峯川が叫ぶ。
だが、次の瞬間、突然その悪霊たちがひとつ、またひとつと光に包まれ、浄化されていく。
「……春香の力だ」寮が小さく呟いた。「どこかで祈ってくれてるんだな……」
「今のうちに、ポータルへ!」祐一の声に応え、寮、陽菜、美紀、そして峯川がそれぞれ結界を強化しつつ、ポータルの中へと駆け込んでいった――
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