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オカルト研究部 田中祐一 今日も怪異あり  作者: waku


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休息と浄化の儀式

 屋外の調査と浄化活動は、比較的上手く進んでいた。

春香の法力の力により、敷地内の浄化も進み、次のステップに進んで行った。

 ポータル封印の儀式を終えた屋外メンバーたちは、疲労と暑さに包まれながら、車両のある駐車場へと戻ってきた。全員が、重たい空気の中を抜けてきたばかりで、表情には安堵と緊張の混じった複雑な色が浮かんでいた。


 持参していたエネルギーグッズや浄化スプレーも、すでにほとんど使い果たしていたため、補充が必要だった。星川はバッグを確認しながら、メンバーに声をかけた。


 「まずは一度、補給と休憩をしよう。無理は禁物だ。少し体を休めよう」


 メンバーたちは頷き合い、

車の影にそれぞれ腰を下ろして、水筒の水を飲み、簡単な軽食を取り始めた。


 「田中先輩たちは、大丈夫かな?」と、佐藤が呟く。

鮎川も頷きながら「広末さんも大丈夫かしら?」と、心配する。



「遼さんがついていますから、大丈夫です。私たちがする事をしましょう」話を聞いていた春香が静かに答える。



 時計を見ると、すでに午後1時を過ぎていた。真夏の日差しはますます強まり、木陰であってもじわりと汗がにじむほどの蒸し暑さだった。


 1年生たちは、初めての実地調査で心身ともに消耗した様子が見て取れた。それでも皆、言葉を交わしながら、自分たちが成し遂げたことの意味をかみしめているようだった。


 「……今回の調査活動、思ってた以上に大変だな」

小川が、ぬるくなったスポーツドリンクを飲みながらぽつりとつぶやく。


 佐藤も、頷きながら続けた。


 「心霊スポットっていっても、全国にいろいろあるけど……ここは特に異質です。いくつもの霊的な干渉が重なり合っている。しかも、異常に場の空気が重い」


 鮎川がうつむきながら、両手を軽くこすり合わせた。


 「……正直、怖かった。心霊スポットって聞いて、多少は覚悟してたけど……ここって、本当に怨念が染みついている感じ。苦しみや、悔しさとか……」


 その言葉に、一瞬、誰もが黙った。


 星川が、静かに口を開く。

「……おそらく、この土地は禁忌の地になっているんだろうな。普通なら人が近づくべきじゃない場所。だけど、だからこそ、浄化する意味があると思う」


 誰かが深く息をついた。その空気の中で、次第に会話は静まり、皆が各々の心の中で、先ほどまでの出来事を反芻していた。


 春香が水を飲み終え、静かに立ち上がった。

「次は、施設の正面玄関前に、祭壇を設置して浄化の儀式を行います」


 再び空気が引き締まるのを感じながら、全員が顔を上げた。


 「施設全体も浄化する必要がありそうね」


 松井あゆみが確認するように言った。


 「はい。建物の内と外、両方から清める事も大切です。ここで場を整えることができれば、施設内への霊的干渉も弱まります」


 佐藤が、建物の方をちらりと見た。

「…施設の中は、もっとやばそうな気がする……」




 春香が、穏やかに、しかし確信に満ちた声で答えた。


 「……寮さんたちでしたら、大丈夫です。これまで、幾度となく霊的な試練を乗り越えてこられた方々です。きっと、今も冷静に、慎重に動いておられるはずです」


 その言葉は、1年生たちの胸に静かに染みわたった。経験の差はあれど、同じ空間で今、一緒に戦っている仲間たち。その存在の確かさが、不安に傾きかけた心を支えていた。


 「……そうですね。僕たちは、僕たちの役割をしっかり果たさないと」


 織田が静かに口にすると、全員が頷いた。


 そのとき、遠くの空から、雷鳴のような低いうなりが響いた。


 空を見上げると、分厚い雲が再び空を覆い始めていた。



***玄関前の浄化儀式と静かなる変化***


 午後の陽光が傾き始めるころ、春香たちは再び立ち上がった。蒸し暑さが肌にまとわりつく中、心を整えながら、施設の正面玄関へと足を運んでいく。


 そこには、かつて人々を迎え入れていたであろう自動ドアが見えた。正面玄関は、完全に封鎖され正面入れなくなっていた。


 その前に、メンバーたちは慎重に小さな祭壇を設置した。


 白い布を広げ、浄化用の香と塩、ハーブ、清酒と水、霊符と結界石。小川と松井あゆみがその手順を手伝いながら、慎重に祭具を並べていく。


 祭壇が整うと、春香は静かに目を閉じた。


 「――では、始めます」


 彼女の声と同時に、柔らかな音色で鈴の音が鳴る。


 その場に立つ者すべてが、自然と背筋を正し、息を詰めるようにして春香の所作を見守った。


 春香の口から、低く静かな声でお経が唱えられ始める。


 「般若心経……観自在菩薩……行深般若波羅蜜多時……」


 その声は、最初は小さかったが、次第に力を帯び、周囲の空気に震えるように響き渡っていった。言霊が空間を満たし、場の気が少しずつ変化していくのが感じられた。


 周囲に立っていた1年生たちも、自然と口をつぐみ、祈るような面持ちで儀式の場を見守っていた。


 いつの間にか、周囲に漂っていた重苦しい気配が薄れ始めて行く。


 空気が澄み、風が少しだけ動いたかのような錯覚とともに、どこか遠くから聞こえていた呻き声のような“霊の気配”も消えてゆく。


 ――しばらくして、お経が止む。


 静寂が戻ると、春香はそっと目を開けた。


 「……ひとまず、儀式は終わりました」


 そう告げた彼女の声には、わずかな疲れと、安堵の色が混じっていた。


 その言葉に、松井あゆみが玄関のまわりをぐるりと見渡す。


 「確かに……周囲の気配が変わった。重苦しさが、消えているわ」


 小川も、浄化用のペンデュラムを確認しながら頷いた。


 「お経の間、集まって来ていた悪霊たちの存在が……すっと、消えていったのが分かりました。完全に浄化されたようです」


 1年生たちは、緊張の糸がほどけたように小さく声をあげ、互いに目を合わせて笑ったり、そっと肩を叩き合ったりした。


 「……終わったんだ……!」


 「すごい……本当に空気が軽くなった……」


 その光景に、春香も微笑む。


 「この儀式で、施設の敷地内と内部にいる悪霊も、浄化されたはずです。場の波動を整えることで、内部の乱れも鎮まって行きます」


 メンバーたちは、儀式を終え後片付けを始める。


 夕陽が建物の影を長く伸ばし始める中、皆がそれぞれの呼吸を整え、次の指示を待つ。


 だが――


 「……もう五時を過ぎてるのに、まだ連絡がないですね」


 小川が不安そうに腕時計を見ながら言った。


 「祐一たちは、施設内の調査を続けているはずだけど……何かあったのかな」


 その言葉に、場の空気が再び緊張感を帯びた。


 星川が真剣な表情で地図を広げながら言った。


 「念のため、裏口の様子を見に行こう。裏からなら、田中くんの位置も確認できるかもしれない」


 春香はすぐに頷いた。


 「分かりました。私と、小川さん、松井さんで向かいます。残りのメンバーは、駐車場で待機をお願いします。何かあればすぐに知らせてください」


 「了解です。気を付けて」星川が短く答えた。


 こうして、春香、小川、松井の三人は、慎重に裏口へと向かっていった。


 夕刻の風が、どこかひんやりと肌を撫でる。


 封印されたポータル、清められた玄関、そしてなお沈黙を保つ施設の奥――


 そこには、まだ何かが“待っている”ような、不穏な気配が残されていた。

購読、ありがとうございました。次から、施設内、祐一たちの視点から物語が進んで行きます。

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