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オカルト研究部 田中祐一 今日も怪異あり  作者: waku


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再び、あの場所へ

 オカルト研究会の一年生たちは、祐一たち上級生とオカルト編集者の寮たちと

心霊スポットの調査、娯楽施設跡地に向かう事になった。

 夏休みが本格的に始まって間もない朝。空はすでにまばゆい陽光に満ちていた。じりじりと焼きつけるような日差しの中、つばき荘の前には二台の車が並び、1年生のオカルト研究会のメンバーたちがそれぞれ荷物を積み込みながら、出発の準備を整えていた。


 表向きには活気ある遠出のようにも見える光景だったが、その表情には皆、張り詰めた緊張と静かな覚悟を浮かべていた。今日、彼らが向かうのは、一度調査を断念した、あの「娯楽施設跡」。前回の撤退は苦い記憶として胸に残っており、祐一にとっても今回の再調査は、いわば過去への挑戦であり、再確認の旅でもあった。


 先導車には祐一、松井あゆみ、星川、峯川、広末摩耶、佐藤、鮎川が乗り込んでいた。後続の車には寮、橘美紀、春香、陽菜、小川、織田が乗っており、二台は時間差なく静かに出発した。


 車内では、普段なら軽口や雑談が飛び交うはずの時間も、今日は皆が沈黙を守っていた。ラジオも切られ、ただタイヤがアスファルトを叩く音だけが響いている。助手席の松井あゆみが、ふと窓の外に目を向けた。


「空の色……少し濁ってる気がするね」


 誰かが応じるわけではなかったが、その違和感は、他の乗員も感じていた。やがて車列は山間部に入る。木々が生い茂り、太陽の光は葉の間からかすかに差し込むだけになった。ここから先は、携帯の電波も通じにくくなる。まるで現実世界との接続が断たれ、別の領域へ足を踏み入れていくような感覚だった。


 後続を走っている寮がハンドルを握りながら、低くつぶやく。


「……やっぱり、空気が変わってきたな。山に入ってから、胸の奥がざわざわしてる」


 その隣で橘美紀がそっと目を閉じ、呼吸を整えながら頷いた。


「負のエネルギーと歪み……強くなって来ている。波長が乱れてるわ。何かがこちらに気付いた可能性もあるわ」


 春香は静かに手の中の念珠を握りしめ、その念に集中していた。


「この先は、場所そのものが意志を持っているかもしれません。油断は禁物です」


 一方、先導車の中では、広末摩耶が後部座席で窓の外をじっと見つめていた。彼女の視線の先、木立の影が風もないのに揺れていたように見える。


「……あそこ、木の影が……動いてた」


 小さく呟いた彼女に、佐藤が顔を上げる。


「え? 何が?」


 だが摩耶は首を横に振った。


「……ううん。気のせいかもしれない。でも……何か空気が詰まるような、妙な感覚があるの」


 松井あゆみが静かにバッグから小瓶を取り出し、蓋を外した。中には浄化用のハーブ塩が入っている。


「念のため、車内にも撒いておこう。多少は魔よけの助けになるはずだから」


 彼女がハーブ塩を振りまくと、他のメンバーも小さく頷き、互いに言葉を交わすこともなく、緊張感を共有していた。空気が、確かに違っているのだ。


 そしてついに――目的地に到着した。


 かつて娯楽施設としてにぎわっていたその場所は、今ではすっかり自然に飲み込まれ、朽ち果てた廃墟となっていた。草に覆われた駐車場の端には、錆びついたフェンスが倒れかけており、風に揺れる「立入禁止」の看板が、かすかに軋んだ音を立てていた。


 祐一が車を降りながら、ポケットから調査記録のコピーを取り出す。


「……ここだ。入口から入って、すぐの所にある駐車場に止めよう。前回と変わっていない。でも、中の霊的流れは……前より酷くなっている」


 車を止め、メンバーたちが、準備を整えて行く。


 寮の運転する車も近くに止まり、後部から儀式用の祭壇とケースを取り出していた。

メンバーたちは慎重に場のエネルギーを確認するように周囲を見渡す。


 陽菜が、異変を感じ取り呟く。

「敷地内の波動も重い。場が不安定になっている。……異次元と繋がっているかもしれないわ」


 春香は目を閉じて、周囲の気を読むように静かに言った。

「何か……開いてしまったものがあります。この土地全体が、異界との接点になっている様です」


 その言葉に、新入生たちは思わず息を呑んだ。恐怖が背筋を走る――だが、その中で、祐一が静かに話す。「ここからは、無理は絶対にしない事。少しでも異変を感じたら、すぐ引き返そう。独断で動くことは厳禁だ。今回の1年生の目的は、無事に戻ること。それが、最優先だ」


 全員がその言葉に静かに頷いた。決意と緊張を胸に、メンバーは心霊スポットへ足を踏み入れていた。


***屋外・屋内調査チームの分割と開始***


 かつて娯楽と賑わいに満ちていたその建物も今は廃墟と化し、崩れかけた骨組みと風に軋む看板だけが、過去の面影をかすかに残していた。建物の外観は、ただ朽ちているだけではなかった。まるで何かが内部から外へ滲み出ているかのような、異様な存在感を放っていた。


 空気は重く、湿り気を含んだ風が周囲を覆っていた。気温はさほど高くないはずなのに、背中にじっとりと汗がにじむ。虫の鳴き声もここでは途切れ、耳に届くのは風に揺れる木々の軋みと、どこからか漏れ聞こえるような、微かな呻き声のようなノイズだった。


 その場に立った1年生たちは、一様に動きを止めた。恐怖というよりも、理屈では説明できない違和感が、彼らの身体を縛りつけていた。


 「……ここが、心霊スポットの空気……」佐藤が小さな声で呟いた。彼の声は震えていた。自分の口から出た言葉すら、すぐに闇に吸い込まれてしまうような錯覚に陥りそうであった。


 織田はぎこちなく額の汗を拭きながら、目の前の建物を見上げる。


 「画像で見たよりも……何倍も重い感じの場所だな。これは……ただの廃墟じゃない」


 その言葉に誰も異を唱えなかった。全員がそれを感じていた。


 やがて、祐一が1年生たちを見渡し、静かに問いかけた。


 「屋内の調査に同行したい者はいるか?」


 数秒間の沈黙が流れた。1年生たちは互いに視線を交わすが、誰一人として手を挙げなかった。場の空気が彼らの判断力を鈍らせ、足元をすくっていた。


 しかし、その沈黙を破るように、一人の手がゆっくりと上がった。


 「……私、行きます」


 声の主は、広末摩耶だった。彼女の手はわずかに震えていたが、その瞳はしっかりと前を向いていた。恐怖は確かにあった。だが、それ以上に何かを越えたい。という意志が、彼女の背を押していた。


 祐一が一瞬目を見開いた後、真剣な眼差しで彼女に向き直った。


 「広末……無理するなよ。行くってことは、冗談抜きで命の危険があるかもしれない」


 「分かってます。でも、私……前から感じてたんです。この場所に、呼ばれてるような気がして。ここに来る意味が、あるような気がしてならないんです」


 言葉に迷いはなかった。その真剣な表情に、誰もが圧倒された。


 しばらく沈黙していた寮が、祐一と峯川に視線を向けて言う。


 「お前たち二人が同行するなら、許可する。ただし、広末には絶対に無理をさせないこと。それが条件だ」


 「分かりました」


 祐一と峯川が同時に頷く。その表情は、戦いに臨む者のそれだった。


 こうして、屋内調査チームは、寮、橘美紀、陽菜、祐一、峯川、広末の6名に決定した。


 一方、屋外の調査および浄化作業には、小川、松井あゆみ、星川、春香、佐藤、織田、鮎川の7名で行われる事になった。それぞれ、準備を整え二手に分かれての活動が行われる。


 ***屋外の浄化活動***


 春香が静かに説明を始める。


 「この施設跡の敷地内からも強い霊的な乱れが広がっています。まずは浄化を行って施設全体を少しでも緩和させましょう。ここを安全圏にすることで、屋内調査組の避難ルートも確保できます」


 春香の声には、揺るがない安心感と信頼が込められていた。その一言で、1年生たちは徐々に覚悟を取り戻していく。


 星川が周囲を観察しながら言った。


 「まずは車両を囲むように周囲に簡易結界を張ろう。ここが全体の拠点になる。一年生は、装備品と所持品を各自確認。忘れないように。」


 的確な指示が飛び交い、動き出すメンバーたち。恐怖に支配されていた空気が、徐々に緊張感と集中力に置き換わっていくのが感じられた。


 屋外の浄化メンバーは、車の周辺に結界を張った後、

春香の指示に従って敷地内奥へと進んで行った。


 こうして、屋内調査と屋外調査の両輪が、いよいよ動き出したのだった。


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