新たなる調査活動へ向けて
祐一たちは公園での強化合宿を続ける事になり、当日は公園の清掃活動を行う事になった。
翌朝、公園には、心地よい初夏の風が吹いていた。
空は青く澄み渡り、昨日までの重苦しい空気とは打って変わって、どこか穏やかな気配が漂っていた。オカルト研究会のメンバーたちは、地元自治体との合同活動としてゴミ拾いを行っていた。
「こういう活動も、案外いいリフレッシュになるわね」
宮村優子が笑いながら、トングで空き缶を拾い上げる。隣では松井あゆみが黙々とゴミ袋を持ち、落ち葉の影に隠れていたペットボトルを拾っている。
一方、新入生の広末たちは、公園の隅のゴミ拾いを行っていた。
「せっかくオカルト研究会に入ったのにゴミ拾いなんて、つまんないね」
鮎川がごみ袋にパンの空き袋を入れながら応じた。
「確かにゴミ拾いだけだったら、つまらないけど、まだこの公園に着いたばかりだし、これからが本番ね」
織田が周囲を見渡しながら声を落とした。
「さっき、地元のボランティアの人に聞いたんだけどさ……公園から5キロ程先に、昔の娯楽施設跡があるんだってさ。今はもう廃墟になっていて、地元じゃ有名な心霊スポットらしいよ」
「僕も聞いたよ」佐藤がうなずく。「そこに行った人の中には、帰りに交通事故に遭ったって噂とか、霊に取り憑かれて精神的におかしくなったって話もあるみたいだ」
「そんな所があるの? そっちにも行ってみたいな」
広末が興味を持って目を輝かせる。
そのとき、先輩の田中祐一が新入生の活動の様子を見にやってきた。広末がすかさず話しかける。
「田中先輩、公園から5キロくらいのところに、すごい心霊スポットがあるって聞いたんですけど、本当ですか?」
祐一は一瞬ためらったが、静かに頷いた。
「ああ、知っている……」
「そっちの調査も行うのですか?」と佐藤が真剣な表情で尋ねる。
祐一はしばらく考え込み、低い声で答えた。
「残念ながら、今の僕たちの力では、安全の保障ができない。行くべきではないと思う」
「そんなにヤバイ場所なんですか?」
広末の声には、興味と不安が入り混じっていた。
そこへ、小川が「新入生、全員集合だ」と呼びかけながらやってきた。
祐一が説明する。「小川君、どうやら新入生たちも娯楽施設跡の噂を耳にしたみたいなんだ」
「そうか……」小川は少し驚いた顔を見せつつ頷いた。「実は、他のメンバーもその話を地元の住人から聞いたばかりだ。まずは本部テントに集合しよう」
***新たなる心霊スポット***
オカルト研究会の本部テントでは、ちょうど地元の清掃ボランティアの数名が河餅部長に話しかけているところだった。
「君たち、学生さんたちはオカルトの研究をしているんだってね。実は、公園から5キロほど先にある娯楽施設跡……あそこを調べてくれないかい?」
年配の男性がそう切り出すと、周囲の住民も不安げな表情で頷く。
「あの辺りに近づいた人が体調を崩したり、夜に変な夢を見るようになったって話を聞いたんです」「知り合いが通勤であの近くを通ってるんだけど、毎朝、胸騒ぎがするとか……」
中には、お祓いや祈祷を試したがまったく効果がなかったという人もいた。
話を聞き終えた河餅部長は、落ち着いた口調で返した。
「お話は理解しました。私たちとしても調査は可能ですが……原因の究明や、完全な改善をお約束することはできません。それでもよろしいでしょうか?」
住民たちはそれでもいい、と頭を下げた。
その後、数名の部員が周辺の聞き込み調査に出た。ベンチに腰掛けている高齢の女性、近くの清掃スタッフ、ジョギング中の若者など、様々な人に声をかける。
「娯楽施設跡のことで何か聞いたことはありますか?」
「ええ……あそこは昔、賑わっていたけど次第に廃れて行って閉鎖されたの。今では怖い幽霊の噂もあるし、夜は絶対に近づかないようにしてるのよ」
「中学生のとき、肝試しで行った友達が、帰ってからずっと様子がおかしかったんだ。すぐに転校しちゃったけど……」
こうして、部員たちは「娯楽施設跡地」がただの廃墟ではなく、地元でも封じられた場所として知られていることを知るのだった。
***娯楽施設跡地の調査をめぐって***
集まった情報と報告書がテーブルに並べられ河餅部長と岡田副部長を中心に、オカルト研究会の幹部陣と新入生たちによる緊急ミーティングが行われていた。
議題は一つ――地元住民から要望のあった娯楽施設跡の調査に着手すべきかどうか、ということだった。
新入生たちは一様に目を輝かせ、好奇心を隠せない様子だった。
「僕たちも現地に行って調べてみたいです! せっかく入部したんですから!」
「現場での体験こそ、最大の学びです!」
それに対し、上級生は意見が分かれていた。
「僕は調査に賛成だ。今の段階では、ただの噂の可能性も高いからね」一谷が静かに手を挙げた。
「たしかに現地を直接確かめたいと思う」と星川が続いた
岡田副部長は首を横に振る。
「ネットで調べてみたけど、悪い噂が多すぎるわ。辞めておきましょう」
祐一も険しい表情を浮かべながら「僕も、反対です」
その言葉に一瞬静まりかえる。
続いて、松井あゆみ、小川、峯川も、それぞれ静かに反対の意志を示した。
「珍しいな……」河餅が驚いたように眉をひそめる。
「普段だったら真っ先に賛成しそうな田中、峯川、小川までもが反対するとはね」
祐一は少し躊躇いながらも、口を開いた。
「実は……ゴールデンウィーク期間中、数人でその娯楽施設跡に行ったことがあります」
メンバーたちがどよめく。
「その時は春香さんも同行してくれて、万全の結界と札を準備していました。けれど……」
祐一の口調が重くなる。
「調査中に建物の鍵が勝手に閉まり、僕たちは中に閉じ込められました。霊府で守りを強化していたにも関わらず、ドアは内側から開けられず、結局、割れた窓から脱出することになったんです」
小川が付け加える。
「僕の魔法が、出現した悪霊の女の子に全く通じなかった。あれほどの力を持つ存在に出会ったのは初めてだった……」
重苦しい空気が流れた。
その話を聞いた河餅部長は、しばらく黙った後、静かに首を横に振った。
「……ダメだ。それだけの備えをしても、春香さんがいても、そうだったというのなら、今の僕たちだけであの場所に挑むのは、危険すぎる」
岡田副部長も神妙な面持ちで頷いた。
その後、祐一が当時の調査で記録していた霊の特徴や、周囲で発生した不可解な現象の詳細を河餅部長に報告した。彼はそのまま、公園で相談をしてきた住民のもとへ出向き、その出来事の詳細を伝えた。
「女の子の霊……そんな、まさか……」
話を聞いた住民たちは青ざめ、恐怖の表情を浮かべる。
「どうにか、できないんでしょうか……?」
一人の女性が震える声で尋ねた。
しばらく沈黙が続いた後、祐一が深く考え込みながら口を開いた。
「……今の段階では、娯楽施設そのものの浄化は難しいです。ですが、まずは周辺の土地――たとえばこの公園や周囲の霊的影響が及んでいる場所から、一つずつ浄化・調査を進めていくべきです」
彼の言葉は落ち着いていて、同時に現実的だった。
「準備と人員が整った時点で、再び娯楽施設跡に挑戦しましょう。それまでに、できるだけ周囲の悪影響を取り除いておく。それが、今できる最善だと思います」
河餅部長がうなずいた。
「ありがとう、田中君。……それで行こう。今は、無理をする時ではない」
新入生たちは少し残念そうな顔を浮かべたが、先輩たちの真剣な様子に、やがて納得したようにうなずいた。
こうして、オカルト研究会は娯楽施設跡への直接調査を一時保留し、公園とその周辺地域の霊的浄化活動に注力することを決定したのだった。
***公園と地域の浄化活動の終わりに***
公園で発生していた小さな心霊現象は、祐一たちの簡単な祈りと、エネルギーグッズの埋設によって次第に落ち着きを見せた。
特に目を引いたのは、公園の片隅にひっそりと建てられていた小さな石碑――その表面には風雨による傷みと共に、長年放置されてきた名残が見られた。
メンバーたちは、石碑の周囲を丁寧に清め、結界を施し、静かに手を合わせた。
「ありがとう。これからは、もう安心して眠ってください」
祐一の言葉に、どこか空気がやわらぎ、風が穏やかに吹き抜けた。
その後も地域を巡りながら、道端のお地蔵様や、小さな祠の一つひとつにきちんと参拝を行い、浄化を進めていった。誰も気づかない場所にも、長く放置されていた気の滞りが残っていた。
「地味だけど、こういうのって大事なんだよな……」
峯川が呟くと、松井あゆみが頷いた。
「うん。私たちの活動って、結局こういう積み重ねなんだよね」
そうして、二週間が過ぎた。
オカルト研究会は、心霊現象の火種となりそうな小さな不調和を一つずつ丁寧に整えていき、ついに一連の活動を終えることができた。
最終日、夕暮れ時の公園にメンバーたちが集まった。
整備された石碑の前で、最後の挨拶と感謝の祈りを捧げる。
「また来ることがあったら、その時は静かに見守っててくれよな」祐一がそう言うと、どこか名残惜しそうな風が、彼らの間を吹き抜けた。
こうして、オカルト研究会は、地元の平穏を取り戻すための活動を終え、大きな課題を残しつつも大学への帰路についた。
購読、ありがとうございました。




