新たなる調査と亡霊の訪れる家
祐一たちは墓場の調査に訪れ、火の玉に遭遇した。より詳しい調査に向けた準備を行う一方、霊的なリスクの懸念から、活動方針に揺れていた。
祐一たちは、さらなる調査の為、再び、墓地に行く事が決まった。
だが山田先輩の忠告もあり、部員たちからも迂闊に出向く事について危険といった意見も多く挙がっていた。
岡田めぐみが「でも、前回の調査で火の玉が現れた時、私たちは、車の中に閉じこもるしか選択肢が無かったわ。もう一度、お墓の調査をするにしても、もっと対策を考えてからで無いと」
一谷も同意し「僕も岡田さんの意見に賛成だ。前回より危険度が増している可能性もあるからね。今の段階では、対策が無い以上、慎重に進めよう」
一方、河餅は「科学的な視点で考えると超自然現象の可能性もあります。心霊的な考えに偏り過ぎると、判断を見誤ってしまいます。再調査を行いましょう」と、再調査に出向く事に積極的だった。
吉村の意見は「特別、何か危害を被ったわけでも無いのに危険と考えるのもビビり過ぎかな。もう一度、調べに行くのありかも」と、調査に肯定的だった。
沢田部長は「闇雲に墓地で調査をするより、まずは土地の歴史や背景を深掘りして情報を集めたほうがいい。火の玉や石碑の謎も、過去に関係している可能性が高いからね」
再調査に向けた準備が進む中、
山田先輩の警告を重く受け止め周辺住民からの聞き取り調査を行うことを決めた。
***墓地周辺の聞き取り調査***
部員たちは二手に分かれ、地元の長老や歴史に詳しい住民や
お墓に比較的近い民家を訪ねた。その中で、いくつかの重要な話を聞き出すことができた。
ある家の話では、墓地には落ち武者たちが追い詰められ、最期を迎えた場所に供養の為に建てられた碑がある事が分かった。
さらに聞き取り調査を進めて行くと、ある怪奇現象に悩まされている家があった。
***落ち武者の亡霊が迫る家***
祐一たちは、墓地の再調査を前に周辺住民への聞き取り調査を行う中、ある家に住む女性から不気味な相談を受けた。
「毎晩、深夜になると誰かが家の中に入ってくる気配がするんです。鍵をかけているはずのドアが勝手に開き、寝室まで入ってきます……」女性の言葉には恐怖が滲んでいた。
祐一たちは、亡霊の正体を突き止めるため、家の中にカメラを設置し、深夜の調査を行うことにした。
その夜、午前2時を過ぎた頃、家の中で奇怪な現象が起き始めた。
リビングのカメラがまずは異常を捉えた。鍵をかけているはずの玄関のドアが、ギギギ……とゆっくりと音を立てて開く。やがて甲冑をまとった亡霊の姿がカメラに映ったが、次の瞬間、映像が激しく乱れ、画面がノイズだらけになる。
亡霊たちはリビングを通り抜け、寝室の方へ進んでいく。途中、何もしていないはずの寝室のドアが軋むような音を立てて開いた。
「……若からのご達者です……おぬしも共に参れ……」
低く重い声が聞こえ、カメラが捕捉した最後の映像は、寝室の中へと入る亡霊の姿だった。
その後、カメラの映像は完全に途絶えた。
異変を感じた祐一たちは、女性の部屋に駆けつけようとした。だが、廊下に足を踏み入れた途端、見えない何かの力に強く押し付けられるような感覚に襲われ、金縛りのように体が動かなくなった。
「……な、なんだ、これ……?」
祐一は必死に声を絞り出そうとするが、口も思うように動かない。一谷や河餅も同じように身動きが取れなくなり、額に汗を浮かべながら耐えていた。
廊下の奥からは、女性の寝室から聞こえる亡霊たちの低い声が響いてきた。
「来るのだ……共に行こう……若からの命じゃ……」
***亡霊の引き返しと回復***
やがて、寝室の中から女性の震える声が聞こえた。
「嫌です……行きません!」
その瞬間、甲高い風の音が鳴り響き、押さえつけていた力が急に消え去った。廊下にいた祐一たちは、一気に体の自由を取り戻した。
リビングのカメラが映し出す映像が元に戻り、そこには玄関から火の玉となって墓地の方へ向かう亡霊たちの姿が映っていた。
***調査後の結論***
翌朝、祐一たちは沢田部長に、昨夜の出来事を話した。
沢田部長は「直ぐに山田さんに連絡しよう」と急いで連絡をした。
祐一は、女性の住まいに美紀から貰ったお札を玄関に貼り、
クリスタルを女性の家の四方に埋設し結界を張った。
さらに玄関の両脇に盛り塩を行った。
女性の部屋にもお札を貼り、魔除けのお香を焚き対策を施した。
午後になると山田先輩が、女性と一緒に訪れた。「今回の現象は、亡霊たちがこの女性に強い執着を持っている様です。」と山田は語った。
今回、応援に「霊能者の瑞希さんにも同行して貰った。」と山田が簡単に紹介する。
「瑞希さんは、緑大学のオカルト研究部に所属していた事があり、大学では寮さんの後輩なんだ。」
「瑞希です。よろしくお願いします」と、神秘的な雰囲気のある女性が挨拶をした。
***次なる課題***
亡霊たちは「若からの命」を口にし、女性を連れて行こうとしていた。その「若」とは誰を意味するのか。そして、亡霊たちが墓地へと戻る理由は何なのか。
「亡霊たちの望みを解き明かし、その未練を晴らさない限り、事態は収束しないかも……」
祐一はそう呟きながら、次なる調査に向けた準備を進める決意を固めた。
祐一と一谷は、山田先輩たちに女性の家の事を任せて、さらなる手掛かりを探し訪れた片桐老人の家では、興味深い伝承が語られた。
***片桐老人の語る悲劇の伝承***
祐一と一谷が片桐老人を訪ねると、彼は墓地にまつわるさらに深い話を語り始めた。
「中心にある石碑じゃな。あれは、戦国時代にこの地で討ち死にした落ち武者たちの魂を鎮めるために建てられたものじゃ。だが、ただの慰霊碑ではない。その裏には悲劇的な話が隠されておる」
片桐老人はしばらく目を閉じ、まるで当時の光景を思い出すように語り続けた。
「落ち武者たちの中に、祝言を挙げたばかりの若い武将がいたそうじゃ。その武将は戦に敗れ、命を落とした。しかし、その妻となったばかりの女性は、勝った側の将に見初められ、無理やり連れ去られてしまったそうじゃ」
祐一が驚いた表情で尋ねる。「その女性はどうなったんですか?」
老人は重い口調で続けた。「詳しいことは分からん。ただ、その女性が望まぬ相手に従う代わりに、この地で最期を迎えた夫の墓を守りたいと訴えたとか。その後も、その地には彼女の嘆きの声が響き渡ったと言われておる」
「それが、石碑に封じられた落ち武者たちの怨念に関係しているのですか?」一谷が冷静に質問を重ねる。
「そうじゃ。あの亡霊たちが語る『若』というのは、きっとその若い武将のことだろう。そして女性に執着するのも、自らの妻を奪われた無念から来ているのかもしれん」
***落ち武者たちの未練***
祐一は片桐老人の話を聞き、亡霊たちの言動が繋がった気がした。
「若からのご達者です……」という亡霊たちの言葉は、彼らの敬愛する武将の無念を晴らしたいという執念の表れだったのだ。
「つまり、亡霊たちは女性を、かつての武将の妻の代わりと見ている可能性が高いですね」と一谷が分析した。
片桐老人は悲しげに微笑んだ。「そうかもしれん。だが、そんな怨念に支配されたままでは、落ち武者たちも成仏することはできんじゃろう。彼らの望みを叶えるか、供養で鎮めるしか道はないのかもしれん」
***別の住民が語る「怨念」の噂***
一方、沢田部長と河餅が訪れた別の住民からは、さらに不穏な噂が聞かれた。
「その石碑の下には、落ち武者たちの遺骨が埋められているという話もあるが、中には武士たちを追い詰めた者たちの骨も混じっているらしい。つまり、あそこは鎮魂だけじゃなく、怨念を抱えたまま亡くなった者たちが集まる場でもある」
住民は続けてこう言った。「昔の話じゃが、あの石碑を壊そうとした者が何人かおったそうだ。そのうちの一人は、家で謎の病に倒れ、そのまま亡くなってしまったとか……触れないほうがいい、あれは何かを封じておるのじゃ」
***歴史と現実が交差する不安***
祐一たちは聞き取り調査を終えた後、女性の家に戻り沢田部長に報告した。
「どうやら、あの石碑は単なる慰霊碑ではなく、落ち武者たちの魂を封じる役割も果たしているようだな」と沢田部長は言った。
一谷は地図と資料を広げながら補足する。「そして、その封印が弱まったことで、火の玉や影のような現象が頻発しているのかもしれません」
しかし、河餅は不安げな表情で言った。「でも、もし封印が完全に解けたらどうなるんだろう? 僕たちの手で何とかできるのかな」
***亡霊に備える準備と新たな展開***
夕方4時過ぎた頃、祐一たちは、女性の家に戻り、再び亡霊たちが訪れるに違いないと考え、万全の準備を整える事にしていた。
山田先輩と瑞希が協力し霊的な防御を施していた。
女性の名前は忍と言い、落ち武者の妻だった子孫にあたる事が分かった。
「忍さんが武将の妻の子孫であることを考えると、彼らの執着は相当強いものだろう。これ以上忍さんが危険な目に遭うわけにはいかない」と沢田部長が説明し、準備を整えている最中だった。
瑞希たちは家の各部屋に新たなお札を貼り、念入りに結界を強化していた。
「祐一君、これを使って」
瑞希は、袋に入ったお清めの砂を渡した。「これは霊的な存在に対して浄化する力が込められています。亡霊たちに遭遇した時役立つはずよ」
山田先輩はお香を焚きながら言った。「今夜、亡霊たちが侵入しないように結界を張っているが何が起きるか分からない。みんな気を抜かない様に」
忍さんは緊張した面持ちで、自らの運命に思いを巡らせていた。
「私が武将の妻の子孫だなんて……信じられません。でも、もし私に何かできることがあるなら」
祐一はその言葉にうなずいた。「忍さんがここで亡霊たちに屈しない限り、必ず僕たちで守ります」
忍さんは祐一に感謝の意を込めて微笑むと、「ありがとう」と呟き、準備を続ける彼らを見守った。
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