夕暮れの帰宅と、静かな気づき
祐一が初めて一人で行った浄化活動を終えつばき壮へと戻っていた。
夕方、街をやわらかな茜色が包む頃、祐一はつばき壮の駐輪場にスクーターを静かに停めた。
「……ふぅ」
空き地の浄化、そして廃屋での出来事。霊的な戦いを経た後の疲労は、身体というより心に重くのしかかっていた。
その時、後ろから優しい声がかかる。
「おかえり、祐一くん」
振り返ると、さくらがちょうど自転車を駐輪しているところだった。
「今日はどこに出かけてたの?」
軽やかな口調だが、その視線はどこか探るような鋭さを含んでいた。
「……ちょっと遠出しててね。少し疲れたかな」
祐一は笑顔を作りながら、できるだけ自然に答えた。
「ふうん……なんだか怪しい。いつもの祐一くんと、ちょっと違う気がする」
さくらがにやりと笑う。祐一は一瞬言葉に詰まり、慌てて否定した。
「そ、そんなことないよ」
「まあ、詮索はしないけど、気をつけてね」
軽く手を振って、さくらは自室へと入っていった。
彼女の視線が、どこか核心に触れていた気がして、祐一は静かに息を整える。そして足を運んだのは、つばき壮のもう一人の住人、寮の部屋だった。
*** 経験と助言 〜先輩の言葉〜 ***
ノックの音にすぐ反応があり、ドアが開く。
「おっ、祐一か。どうした?」
顔を出した寮の表情には、少しだけ驚きが浮かんでいた。
「少し……話を聞いてほしくて」
部屋に通され、祐一は今日の出来事をすべて話した。空き地での穏やかな浄霊、そして廃屋での数多の悪霊との戦い、朱雀の召喚と逃走の顛末まで——。
寮は黙ってすべてを聞いていた。そして、話が終わると静かに頷いた。
「……やっぱり、簡単には終わらなかったか」
その言葉には、理解とわずかな悔しさが滲んでいた。
「でも、よくやったな、祐一」
穏やかな笑みを浮かべながら、寮は続ける。
「ひとりで現場に行って、判断して、無事に戻って来た。それは立派な経験だよ。何より、“逃げる”という選択肢を選べたことが素晴らしい」
「……でも、結局は逃げたんです」
俯いた祐一に、寮は優しく言った。
「祐一、逃げるってのは、負けることじゃない。霊の世界では、無理をせず、命を守ることが一番大切なんだ。何も、全てを解決する必要なんてない。少しずつ、できることを重ねていけばいい」
寮の言葉は、夕暮れの光とともに、祐一の心に深く染み込んでいった。
*** 春、新しい幕開けと会の再始動 ***
春休みが明け、新学期が始まる頃。大学のキャンパスには新入生の姿が目立ち始めていた。
その日、祐一は久しぶりにオカルト研究会の部室を訪れた。
あれ以来、心霊スポットへは行かず、春香の寺での修行を続けながら、自分の内面を見つめる時間を過ごしていた。
ドアを開けると、変わらない雰囲気と、見慣れた顔ぶれが迎えてくれた。
「お、田中くん、久しぶり。春休みはどうだった?」
新しく部長となった河餅が、朗らかな声で声をかけてきた。
「まあ、平和……でした」
祐一は、少しだけ目を逸らしながら答える。河餅は笑顔で頷いた。
「平和が一番だな」
やがてメンバーが集まり、河餅がホワイトボードの前に立って話し始めた。
「さて、今日は新年度最初の顔合わせということで、今後の活動方針について話そうと思う」
副部長の岡田めぐみが補足するように続ける。
「私たちは、あくまで一般の学生です。だから、無理に霊的な事件に首を突っ込むのではなく、調査と研究を主軸に置くのがいいと思います」
「賛成」一谷が即座に手を挙げる。
「無謀な行動はトラブルのもとだし、資料分析や過去事例の研究も十分価値がある」
部室には静かな賛同の空気が流れた——その時。
「でも、私は……行動することも大事だと思う」
松井あゆみが口を開いた。瞳には強い意志が宿っていた。
「座学だけじゃ、実際の“異変”は見えてこない。もちろん、無茶はしない。でも、現場に立つことで見えてくるものがあると思う」
「僕も同感」
小川も静かに賛成する。
「ただし、しっかりと準備して、経験者や仲間と共に動くなら、現地調査もアリだと思う」
河餅は腕を組み、皆の意見を聞いた後、祐一の方を見つめた。
「祐一くんは、どう思う?」
部室に一瞬、静寂が満ちる。
祐一はゆっくりと息を吸い、答えた。
「……どちらの意見も正しいと思います。僕は春休みに実際の現場を体験して、どれだけの危険が潜んでいるかを知りました。同時に、それでも向き合わなければならない現実があることも……」祐一は、先日の心霊スポットの浄化の出来事を思い出しながら答える。
「大事なのは、知識と経験、そして支え合い。それを重ねて、少しずつ前へ進むことだと思います」
河餅は微笑みながら頷いた。
「なるほど。それぞれの立場から、いい意見が出たね。今年はまず安全第一を基本に、みんなが無理なく活動できる形を探っていこう」
そのとき、峯川が手を挙げた。
「でも……研究だけじゃつまらないな。やっぱり、実地での体験も、オカルト研究会の本質だと思う」
小川も続く。
「未知の世界に向かう時こそ、冷静さと覚悟が必要だよね。僕たちなら、地に足をつけて進めると思う」
みんなの顔が、静かに頷いた。
祐一は、そんな仲間たちを見回しながら思った。
——この場所から、また新しい物語が始まるのかもしれない。
ご購読、ありがとうございました。
一部、名前の誤記などあったので修正しています。
久しぶりの執筆活動になってしまい、勘違いしてしまった所もあります。




