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オカルト研究部 田中祐一 今日も怪異あり  作者: waku


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早春の出発 〜再びトンネルへ〜

 祐一と松井あゆみは、自分の将来について不安と迷いがあった。

その中、寮が示す未来の道を確かめる気持ちからトンネルの浄化活動に参加する事を決意した。


 冬の冷たい空気がようやく和らぎ、街にはかすかに春の気配が漂い始めていた。


 つばき壮の前では、祐一が静かに荷物を整えていた。防寒着の内ポケットには、春香から授かったお守り。そして、陽菜から託されたパワーストーンのブレスレットが、左腕にしっかりと巻かれている。


 そこへ、やや緊張した面持ちの松井が姿を現した。


「……おはよう、田中くん。準備、できてる?」


「うん、大丈夫だよ。……緊張してる?」


「……うん。少しだけ。初めてのことだし……正直、何が起きるのか、まだ想像もつかなくて」


 祐一が笑みを浮かべたそのとき、寮が玄関先に現れ、真剣な眼差しを三井あゆみに向けて言った。


「松井さん、今日は参加してくれてありがとう。でも君はまだ経験が浅い。霊力の制御にも不安がある。……だから、無理は絶対にしないでくれ」


 そして、間を置いて、さらに念を押す。


「一番大切なのは、僕たちから離れないこと。勝手な行動をすれば、結界の外に出てしまいかねない。何があっても、必ず僕の指示に従ってほしい」


「……はい、わかりました」

松井あゆみは深くうなずき、少し躊躇いながらも口を開いた。


「一応……オンラインの魔法スクールで、プロテクション魔法を習ってて……簡単な結界くらいなら張れるんです。あと、身に付けてるお守りも……」


 寮は小さく笑いながらも、真剣な目でうなずいた。


「なるほど。確かに、それらは、ちょっとした悪霊には有効かもしれない。でも、今回の相手はそれより格が上の可能性がある。簡単に破られる恐れもあるってことは、頭に入れておいてほしい」


 そう言いながら、寮はウェストポーチから小さなスプレーボトルと銀のペンダントを取り出す。


「これが、僕が調整した浄化スプレーと、魔よけのペンダントだ。少しでも君の守りになるように……」


「……ありがとうございます!」


 松井あゆみは、両手でそれを受け取りペンダントを身に付けた。


「でも、どんな道具も万能じゃない。だからこそ、自分の身を第一に考えること。無理をすれば、自分だけじゃなく周りにも危険が及ぶ。それだけは、忘れないでくれ」


「……はい。気を引き締めて行きます」


*** 車内の会話と、目的地への道程 ***


 三人は車に乗り込み、一路オカルト編集部へと向かった。


 ビル前で寮が車を停めると、國府田と橘美紀が合流し、車に乗り込む。出発前の短いミーティングを済ませ、全員で目的地へと向かう――それは、以前、浄化を試みた、あの曰くつきのトンネルだった。


 道中、車内では慎重な会話が交わされていた。


「今回のトンネルの浄化が無事完了すれば、このエリア一帯の主要な霊的スポットは、ひとまず浄化済みという形になります。ただ……」國府田が画面を見ながら口を開く。


「完璧には、程遠いですね。まだまだ、不幽霊や悪霊が彷徨っているポイントはいくつもあります」


「確かに、全部を一つ一つ浄化していくのは難しいな……」寮がハンドルを握りながら言った。「たとえば、小山さんの自宅周辺。あの辺も完全に清められたわけじゃないしね」


「……そういった地道な浄化も、少しずつ進めていかないといけませんね」橘美紀が静かに応じる。


「でも……そこまで時間も人手も足りないですし。活動資源にも限りがありますから」國府田が現実的な視点を加えた。


 祐一も小さく頷いた。


「僕たちオカルト研究会の活動として、こういう浄化に協力できればいいんですが……今の体制では、ちょっと難しそうですね」


 その言葉に、松井あゆみもそっと声を重ねた。


「私も……たまに道を歩いていて、嫌な感じがする場所って、あります。……ああいう所にも何かあるのかもしれないなって」


「そうなんだよ」寮が頷いた。「本当は、街全体に広がる霊的なズレを整えられるのが理想だけど……現実には、ピンポイントで対応するのが精一杯なんだ」


*** トンネル到着、そして始動 ***

 

そんな会話を続けながら、一行はついに目的の心霊スポット――あのトンネルへとたどり着いた。


 以前に比べ、周辺を包んでいた重苦しい気配は幾分和らいでいた。神社の神気の影響が、周囲の気の流れを改善しつつあるようだった。


「……空気が少し、軽くなってる気がします」祐一が呟いた。


「うん。でも、油断は禁物だ。早速、準備に取りかかろう」寮が静かに言った。


 車を近くの空き地に停め、全員が装備を整え始める。


「國府田さん、祐一くん、松井さんは外側の浄化を。僕と美紀で、トンネル内部に入って浄化を行う」


 寮と橘美紀は、トンネルの闇の中へと足を踏み入れていった。


 國府田は、トンネルの両脇にエネルギーグッズを設置しトンネルの外側の浄化と結界の強化を行った。

 

祐一はお経を唱えながら、焚いたお香の煙で周囲の気を清めていった。


 松井あゆみも、緊張した面持ちのまま浄化スプレーを周囲に撒き清めて行った。


 静かな時間の中に、少しずつ空気の変化が感じられていった。


 しばらくして、寮と美紀がトンネル内部から姿を現す。


「……ひとまず、トンネル内の浄化は完了した」寮が静かに告げた。


「これで……問題も解決、ですか?」祐一が尋ねる。


 寮は少し間を置いてから、視線を遠くにやった。


「……いや。多分、また時間が経てば、邪気が集まってくるかもしれない。完全な終わりなんて、そう簡単には来ない」その言葉に、誰もが静かに頷いた。


 しかし、その表情に迷いはなかった。


 ——終わりが見えないからこそ、立ち向かう意味がある。

 そんな想いを胸に、彼らは新たな一歩を踏み出していた。


*** 帰路の車内にて 〜揺れる気持ちと確かな一歩〜 ***


 夕暮れが山の端を染め、静かに夜の帳が下り始めていた。


 トンネルでの浄化を終えた一行は、寮の運転する車に乗り込み、帰路についていた。


 車内には穏やかな沈黙が流れていたが、その中で松井あゆみがぽつりと口を開く。


「……私、少しだけだけど、向き合う事ができた気がします」


 その言葉に、助手席の祐一がゆっくりと頷いた。


「……そうですね。今回は寮さんがいてくれたから、僕も安心して行動できました。でも……もしこれから先、僕たちだけだったり、松井さんが一人で向き合う場面が来たら……どうしたらいいんでしょうか」


 しばしの静寂の後、運転席の寮が前を見据えたまま、柔らかく語りかけた。


「……もう、今から向き合っているじゃないか」


 その一言に、祐一も松井あゆみも、目を伏せるようにして静かに耳を傾けた。


「誰だって、急に怖いものに対して踏み込めるわけじゃない。……でも、今日のように、小さな一歩を積み重ねていくことで、少しずつ慣れていける。経験を積んで、自分の中に答えが育って行く」


「目を背けているだけでは、何も変わらない。何も、解決しないんだよ」


 寮の声は、厳しさの中に、どこか温かさを帯びていた。


 彼はミラー越しに松井あゆみへ目を向け、ゆっくりと続けた。


「松井さん、今日は君にとって、大きな学びがあったと思う」


「たとえば――浄化スプレーで周囲を清め、環境の気の流れを整えようとしたこと」


「それから、僕が渡した結界ペンダントを身に着けることで、邪悪な存在から身を守る力が強まったこと」


「そして……何より、君自身が“浄化活動に参加する”という決断をし、実際に行動したということだ」


 松井あゆみは、そっと胸元にあるペンダントを指でなぞりながら、目を閉じた。


  外はもう、すっかり夜になっていた。

 だが、その闇の中に、松井あゆみの中で確かな光が生まれていた。


「……私、自分でも驚いています。こんなふうに……行動できたこと」


「でも、まだ怖いです。次も、きっと怖いと思う。でも……逃げるよりは、ずっといいです」


 祐一もまた、小さく頷いた。


「僕も……まだ迷ってばかりです。でも、向き合うために何が必要なのか……少しずつ、見えてきた気がします」


 その時、車のフロントガラスの向こうに、夜空が広がった。


 静かな星が、ひとつ、またひとつと瞬いている。


それは、彼らの胸の内に灯った小さな光と、どこか呼応するようだった。


 購読、ありがとうございました。

祐一と松井あゆみは、オカルト研究会の示す道と違う道に進む事を決意した。

それが正しい事なのかは、分からなかったが後悔は無かった。

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