祐一の新たなる道しるべ
祐一たちは、神社の浄化と神気を呼び戻す事に成功し、一旦、近くの旅館に宿泊する事になった。
*** 静けさの中の作戦会議 〜旅館にて〜 ***
神社での再生の儀式を終えた祐一たちは、夕暮れの山道を下り、車に乗り込んだ。全身に残る霊的な疲労感は、心地よい達成感と共に彼らを包んでいた。
予約していた古民家風の温泉旅館に到着すると
それぞれの部屋に荷物を置き、館内の畳の広間に集まった。
湯上がりの浴衣姿で集まった四人は、温かい番茶を手に一息ついていた。
「今日は、本当にお疲れ様。よく動いてくれたね」
寮が湯呑みを置きながら、柔らかな口調で切り出す。
「明日の予定、そろそろ確認しておこうか」國府田がタブレットを開きながら応じる。
「私は池の調査に行きたいです。地元で近づくと具合が悪くなるって言われてる池……霊道の交点でもあるようだし、神社と繋がっている可能性があると思います」
「はい、それは私も気になってます……」
橘美紀がゆっくり言葉を続ける。
「私は、やっぱりトンネルのほうが優先じゃないかと思っています。あそこには、まだ何かがいます。神社の神気が蘇っても、全体のバランスが整うには、まだ時間がかかりそうです。そういう時こそ、強い負の存在が再び動き出します」
その意見に、祐一もうなずきながら口を開いた。
「確かに、神社の力は回復し始めています。でも、全体の気の流れが整うには……時間が必要だから。あくまで始まりに過ぎない気がします」
寮は腕を組み、静かに考えを巡らせたあとで言った。
「……そうだな。お前たちの言う通り、どちらも気になる。だけど、現実的な問題として、エネルギー残量のことも考えないといけない」
そう言って、真剣な顔で告げた。
「僕の霊光弾……最大出力で放った影響で、しばらくの間は使えない。少なくとも、数日は回復が必要だ。今の僕じゃ、強力な浄化を一気に行うのは厳しい」
國府田も表情を引き締めて続けた。
「私も、エネルギーグッズの残りはあと一回分。浄化という意味では、次の調査がこの旅の最後のチャンスになるかもしれないわ」
橘美紀が静かに霊府を取り出して見つめる。
「私も、式神と霊府の数はかなり減っています。どちらか一方しか対応できないのが現実ね……」
沈黙が広間に落ちた。
だが、重苦しさというより、慎重な覚悟を込めた静寂だった。
「どちらかを選ぶしかない、か……」祐一がぽつりとつぶやく。
「けれど……もし、より影響の強い場所を優先するなら……」祐一の言葉に、皆が目を向ける。
「……僕は、池だと思います。神社に近く、水は気を伝える媒体でもあるから池が汚れていると霊道そのものが歪み続けるかもしれません」
その提案に、國府田が頷く。「確かに、水脈と龍脈は繋がりやすい。池が濁っていると、神社の浄化の効果も流れていかない可能性があるわ」
美紀も頷き「じゃあ……トンネルの再調査は、霊力が回復してからってことで、一度保留にしましょう」
寮は頷き、決意を固めるように言った。
「よし、明日は池の調査を優先しよう。今回の旅の、本当の核心に近づくためだ」
こうして、祐一たちは旅館の夜を静かに過ごしながら、次なる試練への準備を整えていった。
*** 池に潜む影 〜最後の浄化儀式〜 ***
翌朝、祐一たちは静まり返った山道を車で抜け地元で“近づくと気分が悪くなると噂される池へと向かった。薄曇りの空から時折差す朝日も、どこか冷たく感じられた。
車を降りた瞬間、全員が空気の異変を察した。
「……ここ、やばいですね」國府田が眉をひそめながら、周囲を見渡す。
池は自然に囲まれた静かな場所のはずだった。だが、そこには不自然な冷気と、鈍く重い気が立ち込めていた。濁った水面は波もなく静まり返り、まるで底から何かがこちらを見上げているようだった。
「悪霊の気配……相当、います」
橘美紀が霊府を握りしめながら呟く。
「準備を始めよう」
寮がそう言うと、四人は一斉に動き出した。
*** 池の結界と戦いの始まり ***
祐一は魔除けのお香を取り出し、池の近くで静かに焚いていく。
「この香りが、結界のサポートになります。悪霊の影響を防ぎながら、浄化の儀を支えます」
國府田は浄化グッズを池の四隅に設置。塩と清酒、霊符が一体となったその装置は、弱った龍脈を活性化し、霊道の乱れを整える役目を果たす。
「あと一回分しかないけど……これが最後の勝負ね」
美紀は社の中心に立つように、池の畔に座し、静かに目を閉じた。
「これより、浄化の儀を開始します――式神、現界せよ」
彼女の声と共に、四体の式神――青龍・朱雀・白虎・玄武――が現れ、池を囲むようにその場を守り始めた。浄化の旋律が空気を震わせるように広がっていく。
しかし、それと同時に――池の水面が激しく泡立ち始め黒い得体の知れない影の存在が現れ始めた。
「……出てきたな!」寮が構え、手に霊術の印を刻む。
「霊術・封裂斬――!」
寮が霊力の波動を刃に変え、突如現れた悪霊の群れに切り込んでいく。だが、数があまりにも多い。彼の霊力が徐々に削られていくのが、周囲にも伝わった。
「寮さん……!」祐一が駆け寄るも、寮は苦笑しながら言った。
「大丈夫だ……だが、霊光弾を昨日使ったばかりだから……ここまでが限界だ」
その言葉と共に、寮は膝をつく。次に、美紀の周囲を護っていた式神の結界がゆらぎ始める。
「時間が足りない……!」國府田が叫ぶ。
「……任せてください」祐一は前に出た。
手には春香の寺で写経したお経と祈祷のお守り、左腕には陽菜から授かったパワーストーンのブレスレットが光を帯びていた。
「連環浄化――!」
祐一の手から放たれた光の魔法が、悪霊たちをひとつ、またひとつと包み、浄化していった。祐一の中で、かつてなかった力の感覚が広がっていた。
これは、ただの魔法じゃない。春香の教え、心を開く修行、仲間との絆……すべてが重なりあって生まれた信念の力だった。
「この地を守りたい――ただそれだけなんだ!」その叫びと共に、最後の悪霊が光に包まれ、静かに消えていった。
そして、ついに。
「浄化の儀、完了しました」美紀の静かな声が、戦いの終わりを告げた。
*** 鎮まった水面と、新たな朝 ***
池の水面は鏡のように澄み渡り、かつての濁りは跡形もなかった。
風が通り抜け、木々が揺れ、陽の光が優しく池に差し込む。
「……終わったんですね」祐一が、深く息を吐きながら呟いた。
「ええ。池の悪霊は、すべて浄化されました」美紀が静かに微笑む。
寮は地面に座り込みながら、肩をすくめた。
「おかげで完全にガス欠だ……けど、良い浄化だったな」
國府田が水面を見つめながら、そっと言った。
「……ありがとうって、また聞こえました。たぶん、この土地の声なんでしょうね」
全員が無言で、澄んだ水面に目を向ける。
それは、確かに応えてくれているようだった。
*** 帰還と、それぞれの想い ***
「よし、一旦撤収だ」寮のひと声で、祐一たちは車へと戻る準備を始めた。全員、泥と汗にまみれながらも、どこか清々しい表情を浮かべていた。
最後に池のほとりを一瞥すると、あれほど重苦しかった気配が嘘のように消え、静けさと安らぎが戻っていた。
車に乗り込み、ゆるやかに坂道を下りて行く。その車内で、國府田が祐一に声をかけた。
「今回の活動、ご苦労様。祐一くん、本当に頑張ってたよ」
「……ありがとうございます。でも、まだまだです。僕なんて、まだ修行中の身ですから」
その言葉に、運転席の寮がバックミラー越しに笑みを浮かべる。
「いや、本当に助かったよ。今回は祐一がいてくれてよかった。正直、僕たち三人だけだったら……完全にアウトだったな」
「そんな……僕は、ただできることをやっただけで……」祐一は視線を落としながらも、少しだけ誇らしげにブレスレットに手を添える。
「でも……沢田部長からは、心霊スポットには近づくなって言われてます。また、部長が卒業してからも、そういう危険な場所に行くことは禁じられていますし……」
「そうだな。沢田の意見は間違っていない。学生の身で命を危険に晒すようなことは、あまり褒められたことじゃない」寮は真面目な口調で応じつつも、どこか懐かしそうに窓の外を眺めた。
「でも――」國府田がふっと笑って口を挟んだ。
「寮さんが高校生の頃って、かなりぶっ飛んでたって話、聞いてますよ」
祐一も興味を惹かれたように振り返る。「えっ? どんなことをされてたんですか?」
國府田はいたずらっぽく笑いながら指を折る。
「例えば……超危険な心霊スポットを一人で浄化してしまったとか、古代悪魔の復活を防いだとか……もうほとんどチートキャラレベルの伝説、ありますよね」
「ちょ、ちょっとやめてくれよ……!」寮は苦笑しながら片手を上げた。
「昔の話だ。あの頃は、シャミィっていう強力な指導霊が傍にいてくれた。彼女のサポートがあったから、無茶もできた。今は、もうその力も失ってる。だからこそ、今の僕は身の丈に合ったやり方で活動しているんだ」その言葉には、過去を背負いながらも、今を生きる強さがあった。
沈黙が一瞬、車内を包んだが、どこか居心地のいい静けさだった。
祐一は窓の外に目をやりながら、小さく呟いた。「……でも、僕は……寮さんみたいになりたいです」
寮は少し驚いたように目を見開き、ふっと笑った。「目指すのは勝手だけど、真似はするなよ。君には君の道がある」
「……はい」風は穏やかに吹き、山間の道路をゆっくりと車が下っていく。
今日、彼らが守ったこの土地に、再び悪しき気配が戻らぬように――。
*** 帰還、そして未来への対話 ***
寮の運転する車は、静かにオカルト編集部の前に停まった。夕暮れが街を淡く染めるなか、國府田と橘美紀がドアを開けて降り立つ。
「今回のお仕事、お疲れ様」
國府田が軽く手を振って祐一に微笑む。
「祐一くん、ゆっくり休んでね。また次も頼りにしているわ」
橘美紀も優しい笑みを浮かべて、後部座席に向かって声をかける。
「……はい、こちらこそ、ありがとうございました」祐一は深く頭を下げた。
二人がビルに入っていくのを見送ると、寮は車を再び発進させた。目的地は《つばき壮》。
車内は、しばらく静けさに包まれていた。エンジン音と、街灯が流れる音だけが耳に残る。
やがて、祐一がぽつりと口を開いた。
「寮さん……僕は、これからどうしたら良いのでしょうか?」
寮は視線を前に向けたまま、落ち着いた口調で答えた。
「その時は、編集部で仕事をするのもアリだな」
「えっ……」
「祐一くんのような逸材は、そうそういない。僕の目的のひとつは、実は後継者を見つけることでもあるんだ」祐一は驚きとともに、言葉を失う。
「心霊問題を解決できる専門家ってのは、実際かなり少ない。僕が引退したあと、それができる人が誰もいなければ……社会の中で見えない不安がさらに広がっていくだろう」
「……信じてない人も多いですよね」
「ああ、大半は、信じていない。むしろ、信じたくないんだ。目を逸らして生きていく方が楽だからね」
寮は窓の外に流れる景色を見つめながら、続けた。
「けど、霊的な影響ってのは、決して小さくない。戦争も、災害も、事件も、利権の衝突も……すべてが霊のせいだとは言わないが、波のように、確実に影響はしている」
祐一はその言葉を黙って聞いていた。
「だから僕たちは、表に出ることなく、影で問題を解決していく。……沢田部長の言うことも正しいけどな。危険を伴うことには変わりないし、学生の活動としては行きすぎだってのもわかる」
「でも……」
「でも、だ。見て見ぬふりをして、それでも知っているまま生きるのは、きっと苦しい。僕は、そう思っている。祐一くんも……同じじゃないか?」祐一は目を伏せながら、小さく頷いた。
「……そうですね。僕も、もう後戻りできないと思います」
「はは、少し話しすぎたな。気にしないでくれよ」寮は少し照れたように笑った。
やがて車は、《つばき壮》の前に滑るように停まった。冬の夜風が、どこか清々しく頬を撫でた。
「じゃあ、また明日からは普通の日常に戻るぞ。しばらくは無理するなよ」
「……はい。でも、また何かあったら呼んでください」
祐一が車を降りようとすると、寮が背後から声をかけた。
「……そうだ。トンネルのこと、気になるなら、待っている。君一人でも、浄化できるはずだけどね。訓練にもなるしな」
祐一は驚いた顔で振り向いた。
「本当に、僕でも……?」
「もちろんだよ」
寮は笑う。「そのために、君は修行してきたんだろ?」
その言葉に祐一は静かに頷いた。
「……はい」
夜空に浮かぶ星のように、祐一の胸の奥に、またひとつ新たな光がともった。
だが、祐一は沢田部長の忠告と寮のアドバイスに心が揺れ動いていた。
購読、ありがとうございました。祐一は沢田部長の忠告と寮の意見に心が揺れています。
祐一は、どうするのか?また結論は出ないままだった。




