ふれあいの温度 ― さくら、商店街へ
青空商店街は、かつての賑わいとは、また違った方向で活気を取り戻そうとしていた。
翌日。
風に揺れるカーテンの向こうで、小鳥のさえずりが響いていた。さくらはいつもより少し早く目を覚ました。夢の中で見たのは、どこか懐かしい路地と、笑顔で並ぶ人々の姿――それが、なぜか青空商店街と重なっていた。
「……行ってみようかな」
ぽつりと呟きながら、さくらはベッドから立ち上がった。
昼過ぎ、さくらは青空商店街のアーチをくぐった。昔ながらの瓦屋根の商店が並び、シャッターを開けた店主たちが掃除をしたり、道に水を撒いたりしていた。数日前よりも活気がある。
「あっ、さくらさん!」
声をかけてきたのは、商店街で手作りの小物を売っている恵子さんだった。祐一が何度か紹介してくれた、元気な中年女性だ。
「来てくれたんだねぇ。ちょうど今日、子どもたち向けの絵本読み聞かせ会があるのよ。よかったら手伝ってもらえない?」
さくらは一瞬戸惑ったが、すぐに頷いた。
「はい、私で良ければ……」
小さな商店の空きスペースを使った読み聞かせ会には、十人ほどの子どもたちが集まっていた。絵本の表紙を見せながら、さくらが声に抑揚をつけて読むと、子どもたちは真剣に見つめたり、時には笑ったりした。
読み終えると、小さな男の子がさくらの袖を引っ張った。
「おねえさんの声、やさしかった」
その一言が、胸の奥にじんわりと染み込んだ。(……この場所には、何かがある)
さくらは、確かにそう感じた。
その後も、商店街の人々はさくらを自然に迎え入れてくれた。花屋のおばあちゃんが育てている花の手入れを一緒にしたり、駄菓子屋で子どもたちと輪投げをしたり、たった数時間のうちに、さくらの顔に自然な笑顔が戻っていた。
夕暮れ時、商店街の中央で簡単なミーティングが開かれた。祐一も顔を出していた。
「さくらさん、どうだった?」
祐一が尋ねると、さくらは頬に少し汗を残しながらも、どこか晴れやかな表情で答えた。
「うん……すごく、いいところね。人のぬくもりって、こういうことなんだなって……ちょっと、忘れてたかもしれない」
祐一はその言葉に目を細める。
「ここには、特別な何かがある気がするんだ。便利さとか効率とは別の、もっと根っこの部分……うまく言えないけどね」
さくらはしばらく黙ったあと、ぽつりと話した。
「私ね、昔はこういう人付き合いがちょっと苦手だったの。でも今日、いろんな人と話して……ここにいてもいいって思えた。祐一くんが関わっている場所って、やっぱり不思議と安心できる」
「僕は何もしてないよ。ただ、なんとなくここが好きなだけなんだ」
その答えに、さくらは小さく微笑んだ。
「……それが、すごいことなのよ」
そして、ふと視線を空に向ける。
沈みかけた太陽が、青空商店街の屋根をやわらかく照らしていた。人と人とのあたたかいつながり――それは、確かにここにあった。
――その夜、さくらはつばき荘の自室で、日記を開いた。
《今日、青空商店街に行った。笑ったり、話したり、少し泣いたり……。あんなふうに人とふれあったの、いつぶりだろう。私にも、できることがあるのかもしれない。》
ページを閉じたその手は、ほんの少し震えていた。けれどその震えは、不安ではなく、明日への小さな希望の光だった。
***さくらの提案 ― 青空商店街にひかり射す日***
つばき荘の縁側に腰かけながら、さくらは祐一にそっと語りかけた。
「ねえ、祐一くん。あの空き店舗……使わないままになってるの、もったいないと思わない?」
「うん、確かにね。最近も空き店舗増えてきてるし、ちょっと寂しいよな」
「それでね……もし、あそこを子どもたちの預かり場所にしたらどうかなって思ったの。親御さんたちが働いてる間、安心して子どもを預けられる場所って必要でしょ?」
祐一は、少し驚いたように目を見開いた。
「……それ、いいな。商店街の人たちも協力してくれそう。見守り役なら、定年退職されたご近所さんやお店の人たちも交代でできるかもしれないし」
「そうそう。留守番って感じじゃなくて、ふれあいの場にできたら素敵よね」
話はさらに広がっていく。
さくらは隣接する空き店舗を保育や一時的な宿泊も可能な施設に改装し、簡易保育所や「こども一時ステイ所」にできないかと考えていた。
「急な残業とか、夜遅くなるお仕事の人も多いから……安心して子どもを預けられる場所、絶対に必要よ」
祐一もそれに頷く。
「そして……あの銭湯、覚えてる? 商店街の裏にあるやつ。今も残ってるけど、設備が古くてほとんど使われてないって聞いたんだ」
さくらは、微笑んだ。
「そこをね、『青空商店旅館』として生まれ変わらせたらいいんじゃないかな。商店街の人たちの憩いの場にして、泊まれる場所にもして、スピリチュアルツアーのお客さんも迎え入れたら……」
その言葉に、祐一はポンとと手を打った。
「それだよ、さくらさん! 寮のさんのオカルト雑誌で紹介してもらえれば、スピリチュアルなイベントも開催できるかもしれない」
そこから先は早かった。
青空商店街の有志が集まり、子ども預かり所の設計や必要物品の寄付が始まり、古い空き家には明かりがともる。祐一とさくらは、日々の進捗を確認しながらも、時折手を取り合って笑っていた。
ある週末。オカルト雑誌の繋がりで招かれたヒーラーが、イベント会場で「ヒーリング会」を開いた。その空間はまるで別世界のように静謐で、香の香りと癒しの音楽が流れていた。
「なんだか、心まであったかくなるね」と、子育てに疲れた母親が涙をぬぐいながら呟いた。
また、別の日には、霊能者のトークイベントが開催され、小さな旅館に泊まりながら参加する“青空スピリチュアルツアー”が口コミで話題となった。
訪れた客のひとりが呟いた。
「昔ながらの人情と、不思議な力に満ちたこの商店街……どこか懐かしくて、また来たくなるね」
そしてある日、ふとした会話の中で、さくらは祐一に話しかけた。
「ねえ祐一くん、私、ここに来て変われた気がする。自分に何ができるかを、やっと見つけた気がするの」
祐一はうなずいた。
「さくらさんのひと言で、みんなが動き出した。僕も……もっとできること、探していくよ」
夕暮れ、商店街の通りには子どもたちの笑い声と、遠くから聞こえる鐘の音が重なっていた。空は、どこまでも青く澄んでいた。
青空商店街。そこには、確かに「心と心を結ぶ力」が生まれつつあった。
青空商店街のアーケードに差し込む光は、以前よりもあたたかく、やわらかく感じられた。
かつてはひっそりと静まり返っていた通りに、今は人の声が絶えない。
大学生たちが出店した手作りアクセサリーの店、占いやタロットリーディングのブース、ヒーリング音楽の体験スペース——
まるで、小さな文化祭が毎日開かれているかのようだった。
その中心には、いつも自然体の祐一と、穏やかな笑みを浮かべたさくらの姿があった。
「……なんか、夢みたいだね」
さくらがぽつりとつぶやいた。
「うん。でも、現実なんだよな」
祐一はアーケードの屋根を見上げながら答えた。
この変化の始まりは、小さな提案からだった。
子どもたちの預かり所をつくるという、さくらの発案が地域の人の心を動かし、そこに集まった人たちの思いが、次の動きを呼び込んでいった。
さらに、寮たちが神社の浄化を行った頃から、不思議と空気が変わり始めた。
「何かが解き放たれたような」——そんな感覚を抱く人も多かった。
祐一とオカルト研究会の仲間たちも、商店街で定期的にスピリチュアル体験会やトークイベントを開き、地域の人と不思議について語り合う夜が増えていった。
そして、ある日——
「この空き店舗、使わせてもらえませんか?」と、訪ねてきたのは、東京で修行していた若い靴職人だった。彼は「本当に足に合った一足を作る」ことに情熱を注ぎ、商店街に小さな工房を開いた。
その後も、ひとり、またひとりと職人が集まってきた。
オーダーメイドスーツの仕立屋、天然素材にこだわった石鹸や香りの専門店、さらには、有名ホテルで修行したシェフが本格フレンチの店を開くという話まで出てきた。
「ここには、余計なものがない。人の心と、時間と、想いがまっすぐ届く。だから面白いんだ」
ある職人がそう語ったように、青空商店街は、ただの商売の場所ではなくなっていた。
そして、ある日。
地元テレビ局が「話題のスピリチュアル商店街」として取材に訪れ、祐一とさくらはインタビューを受けることになった。
「この場所の魅力はなんですか?」と尋ねられた祐一は、少し照れながらも答えた。
「ここには、偶然の出会いがあって、ふれあいがあって、時々、不思議なこともあって……。でも、それが全部、今を生きてるって感じさせてくれるんです」
さくらも、そっと付け加えた。
「人が人と出会って、つながっていく。……それが本当の癒しなのかもしれません」
日が暮れる頃、アーケードに設置されている時計台の鐘が音を響かせた。
笑い声、話し声、子どもたちのはしゃぐ声。
人々が自然と集まり、ふれあい、やがてまた誰かを呼び寄せる——
青空商店街は、ただの商業施設ではなく、「人と心が交わる場所」として生まれ変わっていた。
そして、これからも変わり続けていく。
時代に合わせながらも、変わらない“ぬくもり”を残しながら——。
ご購読、ありがとうございました。
今回のテーマは、人との触れあいと活気を取り戻して行く青空商店街の話になりました。
こんな商店街があったら行って見たいな。と、いった気持から描いて見ました




