貴婦人の謎
再び、夜になり祐一は、夢の世界に入っていった。
その夜、祐一は再び夢の中にいた。
前夜と同じ、西洋の古びた洋館——
だが今回は薄暗い蝋燭の光が揺らめき、不気味な静寂が支配していた。
部屋の中央に、あの貴婦人が立っている。
彼女は変わらず優雅なドレスをまとい、静かに微笑んでいた。
「ようこそ、祐一様」
彼女の声は、まるで深い井戸の底から響くように、奇妙に反響していた。
「昨夜は突然でしたね。けれど、今夜は違う。貴方は私に聞きたいことがあるでしょう?」
祐一は貴婦人に対して慎重に問いかけた。
「あなたは誰なんですか?」
貴婦人は微かに笑い、長い指で自らの胸元をなぞった。「私の名前は……アナスタシア」
祐一「アナスタシア……?」
「ええ。この本を編纂した者の一人。もっとも、私はただの記録者に過ぎませんでしたが」
祐一の心臓が高鳴る。
「つまり、あなたはこの本が作られた経緯を知っている?」
貴婦人——アナスタシアは、ゆっくりと頷いた。
「ええ。そして、それを知る者は、これまでに皆……」ふっと、彼女の笑みが消える。
「消えました」祐一は息を飲んだ。
「それは、どういう意味ですか?」
「……さて、今夜はここまで。貴方が本当に知る覚悟があるのなら、明日の夜、再びお会いしましょう」
アナスタシアの体がゆっくりと溶けるように消えていく。
その瞬間、洋館がぐらりと歪み、意識が引き戻され——
祐一は、はっと目を覚ました。
冷や汗が額を伝っている。
時計を見ると、まだ午前3時だった。
「アナスタシア……?」
彼女が言ったことが頭から離れない。本の編纂者……? 記録者……?
だが、最も気になったのは——
「それを知った者は、皆消えた」彼女の言葉の真意だった。
***真相への手がかり***
翌朝。
オカルト研究会の部室には、すでに全員が集まっていた。誰もが昨夜の夢について語り合っていたが——
「俺も同じ夢を見た。でも……貴婦人と会話はできなかった」沢田部長が険しい表情を浮かべる。
「僕もだ。気づいたら目が覚めてた」星川が答える。
「私も同じです」と松井あゆみも答える。
他のメンバーたちも口々に同じようなことを話す。
だが、祐一だけは、明らかに違う体験をしていた。
(なぜ僕だけ……?)すると、沢田部長が静かに口を開いた。
「夢の中で、彼女は何か言っていたか?」
祐一は一瞬迷ったが、正直に話すことにした。
「名前はアナスタシア、本の編纂者の一人と、聞きました……」
「アナスタシア……!? 」沢田部長が興味深く尋ねる。
祐一は、「はい……今、分かっている事は、それだけです」
沢田部長はしばらく考えた後、
「……アナスタシアについて、何か手掛かりを調べてみよう。岡崎、ネットで情報を調べてくれ」
「はい。さっそく調べてみます」岡崎めぐみは、さっそくノートパソコンに向かい検索を始めた。
岡田めぐみが検索を続ける中、部室には緊張した空気が流れていた。
「アナスタシア……この名前に関する記録が何か出てこないか……」彼女がキーボードを叩く音だけが静寂を破る。
「見つかった?」沢田部長が尋ねる。
「うーん……」岡崎は眉をひそめた。「ロシア皇族のアナスタシアとか、古い文献の編纂者らしき名前は出てくるけど、どれも直接関係があるかどうか……」
「ロシアのアナスタシアとは関係ないと思うけど、本の編纂者なら何かの組織に属していた可能性があるな」と星川が推測した。
「なら、学術系や神秘主義的な団体を調べてみるのも手かもしれませんね」宮村が提案する。
岡田めぐみが新たな検索ワードを入力した瞬間——
「……これ、どういうこと?」
彼女の顔色が変わった。
「どうした?」
「ある海外のオカルトフォーラムで、アナスタシアって名前が出てる。でも……」
「でも?」
「アナスタシアと名乗る者が本の真実を知った者は消えるって……まるで祐一の夢と同じことが書かれてる」
「なに……!?」祐一の背筋に冷たいものが走った。
「しかも、このスレッド……去年のある日を境に、投稿がピタリと止まってる。書き込んでた人たちも、その日を最後に消息不明になったみたい」
「……つまり、それを調べた人間は本当に消えた?」部室内の空気が一層重くなる。
「そんなことが……」祐一は無意識に拳を握りしめた。
昨夜の夢——アナスタシアの言葉。
「それを知る者は、皆消えました」
彼女は警告していたのだろうか。
「でも、僕は、まだ無事だ」
「いや、これからかもしれないぞ」沢田部長が険しい顔で言う。
「どうする?これ以上調べるか?」星川が慎重に問いかけた。
祐一は、少し考えた後、「椿寺の住職に尋ねてみます。多分、これ以上調べても手掛かりが、見つかる可能性も低そうです。住職でしたら、どうしたら良いか教えて頂ける思います」
***住職の助言***
祐一は、つばき壮に戻り、さっそく椿寺に赴き、これまであった出来事を話す。
住職は静かに目を閉じ、しばらくの沈黙の後、こう告げた。
「ふむ……望みと引き換えに魂を奪う者か。ならば、こう答えなさい。
『望みは無い』と」
祐一は驚きつつも納得した。「確かに、望みがなければ引き換え交渉は起こりませんね」
「今夜、そう答えてみます」
その夜——
夢の中、再びアナスタシアが立っていた。
「あなたの望みを聞かせてください」祐一は住職の言葉を思い出し、ゆっくりと言った。
「望みはありません」アナスタシアは微笑を消し、静かに問い返す。
「本当に?」
「はい。何も望むことはありません」
彼女は祐一をじっと見つめた。
「……では、ご用はありませんね。ごきげんよう」
その瞬間、視界が歪み、夢が途切れた。
翌朝、祐一は住職にこのことを報告し、オカルト研究会にも共有した。
「これで終わったのか……?」
「おそらくな」
沢田部長が安堵の表情を見せる。
封印のため、問題の書物は特別な箱に納められることになった。
こうして、本は再び深い眠りにつくことになった——。
だが、それが本当の終わりなのか。
祐一は、まだ心のどこかで不安を拭えずにいた……。
その夜、祐一はもう夢を見なかった。
しかし、どこかで誰かがまた彼女と出会うのではないか——そんな予感がした。
ご購読、ありがとうございました。
今回は、未解決な展開になりました。理由は、かなり大長編になってしまう可能性もあり、
単純に、今の私では、望む物語が掛けそうもなかったので序章といった形にしました。また、新たなる秘密に挑戦来る時があれば、再び、本に向き合う事もありそうです。




