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オカルト研究部 田中祐一 今日も怪異あり  作者: waku


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36/139

山中邸調査――魔法学校の課題と試練

 祐一たちは、魔法学校の課題のためある心霊スポットの調査を行う事になった。それぞれの力試しと

経験を積み重ねる為に。

*** 深夜の訪問者***


 深く沈んだ夜空から、月の光が大地を淡く照らしていた。雲一つない夜空には、無数の星々が煌めき、まるで天空の劇場のようだった。山道を進む四人の足音だけが、静寂を穏やかに切り裂いていく。


 目の前にそびえ立つ山中邸は、まるで時が止まったかのように、闇の中に孤独な影を落としている。かつては裕福な実業家が住んでいたという三階建ての洋館は、今や朽ち果てた威容を見せるだけだった。廃墟となって久しい建物からは、異様な空気が漂っていた。

「本当に、ここに入るんですよね……?」

松井あゆみの声は不安げだった。彼女の繊細な霊感は、この建物から放たれる異様な霊気をはっきりと感じ取っていた。普段から霊の気配を察知できる彼女だが、これほど強い波動にさらされるのは初めてだった。その波動は、まるで建物全体が生きているかのように、不規則な脈動を放っている。


「松井さん、大丈夫?」と祐一が心配そうに声をかける。

彼女は小さく頷いたが、その表情には緊張の色が濃く残っていた。


 寮は、一行から少し離れた場所に立ち、静かに目を閉じる。彼の黒いコートが夜風に揺れ、月明かりに照らされて幻想的な光景を作り出していた。ベテラン霊術師である寮の表情には、いつもの冷静さが漂っていた。

「確かに、これはただの廃墟じゃない……強い念が残ってる。しかも、複数の霊が絡み合っているようだ……」低い声でそう呟くと、寮はゆっくりと目を開け、祐一たちを振り返った。その瞳には、いつもの鋭い光が宿っていた。


「よし、みんな装備の最終確認をしよう。今夜は特に慎重に行動する必要がある」

全員が持参した道具を再チェックする。祐一は首から下げた銀のペンダントを握りしめた。月明かりに照らされて青白く輝いている。ペンダントの中心には、古代の呪文が刻まれた深紅の宝石が埋め込まれていた。


 峯川は、最新型の温度計と地図を取り出し、高性能な懐中電灯の電池を確かめた。いつも冷静な彼の表情にも、わずかに緊張の色が見える。彼は、これまで数々の廃墟を探索しており落ち着いていた。


 松井あゆみは、護符を大切そうに胸ポケットにしまい込んだ。護符には、古来より伝わる強力な結界の呪文が記されている。彼女の繊細な霊感は、チームの中で最も鋭く、その能力は今夜の調査で重要な役割を果たすはずだった。


寮はそんな3人を見回し、満足げに頷いた。彼の口元には、かすかな笑みが浮かんでいる。

「よし、行こう。今夜の調査で、君たちの実力が試されることになる」

錆びついた門が、ギギギ……と不吉な音を立てて開かれた。その音は、まるで屋敷そのものが彼らを歓迎しているかのようだった。


***霊の影***


 山中邸の内部は、月明かりが窓から差し込み、幻想的な光景を作り出していた。埃っぽい空気が漂う中、四人は慎重に一歩一歩を進めていく。

突然、松井あゆみが立ち止まった。

「……誰か、いますよね」彼女の声は震えていた。その視線の先、二階の窓には、うっすらとした人影が立っていた。それは女性の姿のようにも見えたが、はっきりとはわからない。

「どこに?」

峯川が即座に反応し、最新型の懐中電灯を向ける。しかし、光が届いた瞬間、影はスッと消えた。まるで、光を避けるかのように。

「間違いなく霊の気配だ。しかも、かなり強い」

寮が冷静に分析する。彼の声には、わずかな緊張が混じっていた。

「この霊には、深い悲しみが感じられます」とあゆみが付け加えた。「まるで……誰かを待っているような」


 祐一はゴクリと唾を飲んだ。全員が沈黙する中、寮がゆっくりと屋敷の玄関に近づく。腐食した木の扉を押し開くと、微生物の発する異臭が鼻をついた。何十年もの間、人の気配が絶えた場所特有の匂いだ。

「慎重に進もう。床が腐っている可能性がある。それに……」

寮の言葉が途切れた瞬間、何かが変化した。


 屋敷に足を踏み入れた瞬間、室内の空気が一変した。冷たい空気が流れ込むように彼らを包み込む。温度計の数値が急激に下がり始めた。


 「気温が急降下しています。通常ではありえない現象です」と峯川が報告する。

祐一はカメラを構え、峯川は建物の状態をノートに記録し、松井あゆみは霊の気配を探る。それぞれが、自分の役割に集中していた。


 「よし、まずは一階の調査からだ。でも、気を抜くな。この屋敷には、普通ではない何かが潜んでいる」寮の警告に、全員が無言で頷いた。


***一階の異変***


 一行は広間、書斎、台所、そして和室へと順に進んだ。各部屋には、かつてここに住んでいた者たちの生活の痕跡が色濃く残っていた。時が止まったかのような空間に、過去の記憶が染み付いている。

書斎で祐一が埃まみれの写真立てを見つけた。ガラスに積もった塵を指で拭うと、そこには家族の写真が収められていた。

「これが、山中家……?」

写真には、優雅な洋装をまとった家族が写っていた。紳士然とした父親、上品な母親、そして二人の子供たち。しかし、彼らの表情はどこか不安げで、まるで何かに怯えているようだった。

「この写真、異常です」と峯川が指摘する。「撮影された時期から考えて、こんなにカラーが鮮明なはずがない。それに……」

彼は写真をより詳しく観察した。


「写っている人物の影が、全て逆向きに落ちています」

その指摘に、全員が息を呑む。確かに、不自然だった。光源に対して、影が逆方向に伸びている。

その時、松井あゆみがピタリと立ち止まった。彼女の顔から血の気が引いていく。

「この部屋……とても重い気配がする。まるで、誰かの強い思いが……」

彼女の指先が微かに震え、額には冷や汗が浮かんでいた。

「慎重に調べよう。でも、決して一人にならないように」

寮が促し、祐一たちは慎重に部屋を調査する。古びた家具、床に散らばった古書類、埃を被った調度品。それらの一つ一つに、かつての住人の記憶が刻まれているようだった。


 突如、障子が軋む音が響いた。

全員が振り返る。しかし、風は吹いていない。室内は、むしろ異常なほど静かだった。

「……誰か、いますか?」

祐一が勇気を出して声をかける。その声が、重苦しい空気の中に吸い込まれていく。


――次の瞬間。


 白い着物を纏った女性の霊が、すっと部屋の奥から現れた。その姿は、月明かりに透けるように儚く、しかし確かな存在感を放っていた。女性の表情には、深い悲しみの色が浮かんでいる。


***初めての対峙***


「来た……!」

松井あゆみが震える声で言う。彼女の霊感が、この存在の強大な力を感じ取っていた。

「僕がやる!」

祐一はペンダントを握りしめ、魔法の詠唱を始めた。彼の声が、静寂を切り裂く。

「聖なる光よ、闇を祓え! 浄化――!」


 彼の手から霊光が放たれたが、完全に見当違いの方向へ飛んで行った。


 古いタンスが霊光に包まれた。

「うわっ!? しまった!」

「どこ狙ってるの!」松井あゆみが叫ぶ。彼女の声には焦りが混じっている。

「ま、間違えた……! こんな時に限って……!」

祐一は狼狽えながら、再び詠唱の準備を始める。しかし、その手は小刻みに震えていた。

「仕方ない……私もやるわ!」

松井あゆみが魔除けの呪文を唱える。彼女の手から放たれた光が、幽霊に向かって飛んでいく。しかし、発動した魔法は、なぜか部屋の温度を下げるだけの効果しかなかった。

「……え? これ、ちゃんと効いてるの?」

「いや、全然だな」峯川がぼそっと言う。彼は冷静さを保ちながら、状況を分析している。

そんな中、峯川は落ち着いていた。彼は理論に基づいた対処を心がける。

「こういう時こそ、まずは空間を浄化しないと。霊の活動を抑制できるはずだ」

彼は浄化スプレーを霊の周囲に撒いた。すると、霊の形が一瞬ぼやけた。効果はあるものの、完全な解決には至らない。

「くっ、でも完全には消えない!」



状況が膠着する中、寮が前に出る。彼の表情には、いつもの冷静さが戻っていた。


「霊光弾」

寮の手から放たれた光が部屋全体を包み込み、白装束の女性の霊は静かに光の中に溶けていった。その表情には、最後の瞬間、安らぎの色が浮かんでいたようにも見えた。

光に包まれる瞬間、霊の目が一瞬だけ揺らぎ、まるで何かを伝えようとするかのように口を開いた。


霊の目が揺らぎ、寮をじっと見つめる。


「……あの人を……止めて……」


彼女の声はかすかに響き、そして、光の中に消えていった。

かすかに、か細い声が聞こえた。


その声が消えた直後、祐一がふと床に落ちている古びた日記帳を見つけた。


「これは……?」

彼は埃を払いながら、慎重に日記を開いた。中のページには、滲んだインクで何かが書かれていた。


――『夫が突然変わってしまった……夜ごとに、誰かと話しているような声がする。私が話しかけても、まるで別人のように冷たい……』


――『あの鏡に映る彼は、もう私の知っている人ではない』

――『この家に何かがいる。夜になると、廊下の奥から囁き声が聞こえる……』

――『お願い、助けて……』


ページの最後は、「私も、あの人と一緒に……」 という不穏な言葉で途切れていた。


「この霊……山中家の奥さんだったのかもしれない」祐一が呟く。


「彼女は、家に取り憑いた何かに怯えていたみたいね……」松井あゆみが震える声で言う。


「そして……最後は、もしかすると……」峯川が口をつぐんだ。


「そうか。彼女は、この家に囚われていたんだな……でも、もう大丈夫だ」

寮は静かに目を閉じ、最後に小さく祈るように呟いた。


「安らかに眠れ」


その瞬間、部屋を満たしていた重苦しい空気がすっと消え、まるで霊の浄化を象徴するかのように、柔らかな月光が窓から差し込んだ。


「……終わったな」

峯川が静かに言う。


「これで、彼女はようやく解放されたのね」

松井あゆみが胸の護符をそっと撫でた。


「僕たちは、ただ霊を祓うだけじゃなく、彼らの想いにも寄り添う必要があるんだな……」

祐一は、消えていった霊の姿を思い浮かべながら、小さく呟いた。


祐一が屋敷を出た後に、鏡に一瞬人影が映った。



***課題の総括***


「……やれやれ」

寮は肩をすくめた。その仕草には、いつもの余裕が戻っていた。

「寮さん、もう少し早く助けてくれても……!」

「今回は君たちの実戦研修だからね。理論や訓練は大切だが、実際の現場での経験こそが、最も重要な学びになる。でも、良い経験になっただろう?」


「僕、全然ダメでした魔法がブレてしまった……」祐一が悔しそうに呟く。「もっと冷静に対処しないとな。焦らず、冷静に対処することが大事だ。それに、君の魔法の基礎は間違っていない。あとは経験を重ねることだ」次に寮は峯川の方を見て頷いた。

「峯川君は冷静だったな。浄化スプレーの使い方が的確だった。理論に基づいた対処は、時として直接的な力よりも効果的だ」

「いや、まあ……一応、冷静でいられたかな」峯川が照れくさそうに笑う。「でも、まだまだ改善の余地はあります」


 松井あゆみは、胸ポケットの護符に手を当てながら考え込んでいた。

「私の霊感は役に立ったけど、それを活かす術をもっと磨かないと」

寮は3人を見渡し、満足げに笑った。


 「君たちは、それぞれに成長している。経験は、これからの成長の糧となるはずだ」

夜空には無数の星が瞬いていた。山中邸を後にする四人の後ろ姿を、月明かりが優しく照らしている。

「さて、報告書の作成だな」と峯川が呟いた。「今夜の温度変化のデータは興味深いものになりそうです」

「私は、感知した霊気の波動パターンをまとめておくわ」

松井あゆみは、小さなメモ帳に記録を取り始めた。


 こうして、魔法学校の課題研修を終え、それぞれレポートをまとめて提出する準備を整えて行った。


 つばき壮に戻ると祐一、松井あゆみ、峯川は、それぞれの調査結果をまとめる。

「実地調査における注意点と改善点」と祐一がペンを走らせた。「一つ目、霊に対する詠唱は慎重に行うこと。二つ目、チームワークの重要性……」


 松井あゆみは、霊の気配や場の雰囲気など、ポートにまとめる。


「よし、これで報告書は完成だ」

峯川が調査した地点と地図を照らし合わせまとめる。最後のページを閉じ詳細な報告書が、ようやく完成した。


「みんな、お疲れ様」祐一が立ち上がり、

報告書に目を通す。理論的な分析と実践での気づきや改善点まで、よくまとめられていた。


 翌朝、寮にもレポートを見せて感想を聞く事にした。

「寮が一通り、目を通して、中々、良い出来だと思うよ。これで、魔法学校の課題を終えた事で、一歩魔法使いに近づいたと思うよ」と、感想を述べた。


 祐一、松井あゆみ、峯川が、顔を見合わせて笑顔に包まれた。


だけど「実践では、まだまだかな。僕が居なかったら、霊に憑りつかれていたかもしれないからね」とくぎを刺す。「それでも、魔法使いとしての第一歩を踏み出せた事は大きいね」と感想を述べた。


 祐一たちは、嬉しさと、まだまだ学びが足りない事や経験を得て行く事の重要性を改めて実感した。




彼らの冒険は、まだ始まったばかりだった。

ご購読、ありがとうございました。オカルト路線の話もけっこう好きなので、たまには、こういったエピソードも良いと思いました。

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