古井戸跡の浄化
祐一たちは、深夜、リビングで寝る事になった。寮の絶対に外に出るな。と、いった忠告に不安を覚えながら。。。。
深夜。リビングの明かりが消え、家全体が静寂に包まれる中、コンコン……と窓を叩く音が響いた。規則的で不気味なその音は、夜の静寂を突き破り一種の緊張感を家全体に広げていく。
リビングで眠っていた一谷がその音に気付いて目を覚ます。音のする窓を見つめると、コンコン……コンコン……と同じリズムで音が続いていた。薄暗い部屋で音の正体が見えないことに、額には冷たい汗が滲む。
「……この音は?」一谷が小声で呟いた。
隣で眠っていた祐一も目を覚まし、低い声で一谷に話しかけた。「誰か来たのか?」
一谷は首を振りながら窓をじっと見つめた。「……分からない。でも、物理的な現象じゃないかもしれない。」
その時、橘美紀が静かに起き上がった。「何かいる……」彼女は目を閉じ、霊視を始める。
「窓を叩いているのは……小学1年生くらいの女の子の霊みたいです。でも、反応しないでください。そのままにしておきましょう。」美紀は慎重に言葉を選びながら、静かに注意を促した。
祐一が眉をひそめた。「女の子の霊……何が目的なんだ?」
窓を叩く音が止み、リビングに緊張した静けさが戻った。
祐一は周囲を見渡し他のメンバーの様子を確認した。 リビングの端で寝ている松井あゆみは、少し震えながら「霊がまた、現れたのですね」と言葉を詰まらせる。
「落ち着いて。今のところ、危険を加えようとしている様ではないわ」 橘美紀が静かに話す。
星川と峯川は深く眠りに落ちていた。星川が微かに寝返りを打つが、二人とも目を覚ます気配はない。
「調査で疲れてるみたいだな。今は無理に起きないほうがいい。」 祐一がそう言うと、美紀も聞いていた。
美紀は小さく息を吐き、言葉を続けた。「おそらく、何かを伝えたいのかもしれない。でも、今はこちらから関わるのは危険です」
窓の外から続いていた音がふと止まり、静寂が戻った。だが、安堵する間もなく――
ピンポーン……。
ドアのチャイムが突然響き、その後にドンドン……とドアを叩く激しい音が家全体に響き渡る。
「僕だ、寮だ。深夜になったが帰ってきた。ここを開けてくれ!」
ドアの向こうから聞こえる声は確かに寮のものだった。しかし、どこか違和感がある。その声が本物なのかを確かめようと祐一と一谷が顔を見合わせ、玄関に向かう。
「寮さんですか?」祐一がドア越しに尋ねると、すぐに返事が返ってきた。「そうだ、寮だ。」
「一人ですか?」一谷がさらに確認するように問いかけると、「そうだ。一人だ。」という返答が返る。
その時、橘美紀が再び霊視を始めた。そして、すぐに顔を青ざめさせた。「ダメ……開けちゃダメ!寮さんじゃない。黒い影の霊がいる。」
祐一が驚きつつも冷静さを保ちながら問う。「霊?でも、声は……」
「寮さんは陽菜さんと春香さんを連れて戻ると言ってたでしょ?今日は一人で帰ってくるはずがない。この声は霊が真似ているのよ。」美紀の言葉に一谷も警戒を強める。
「寮さん、今日は車の中で泊まってください!」祐一がドア越しに言葉を放つと――
外から激しくドアを蹴る音が響く。ゴンッ!ゴンッ!その音はしばらく続いたが、やがて静かに消えた。
「……行ったのか?」一谷が声を潜めて尋ねる。
美紀は首を横に振りながら言った。「まだ近くにいる……でも、今は反応しないほうがいい。」
一同はしばらく息を潜めて玄関前に立ち尽くしていた。その時、ふと子どもの笑い声が微かに家中に響いた。それはどこか冷たく、不気味で……。
「……まだ終わってない。」美紀の呟きが深夜の静けさに溶けていった。
***夜が明け、静寂が戻る***
深夜の出来事から数時間が経過し、家の中は張り詰めた緊張感で満ちていた。窓の外がほんのりと青白く明るくなり、朝が近づいていることを知らせていた。
リビングに集まった祐一、一谷、橘美紀の3人は、眠れぬままソファに腰掛けていた。松村あゆみは、布団の中で震えていた。
「……なんとか、夜が明けそうだな。」祐一が重い口調で呟く。
一谷は疲れた表情を浮かべながら時計を見つめ、「何事もなく朝を迎えられるなら、それに越したことはないけど……あの霊、本当に消えたのか?」と疑問を口にする。
橘美紀は霊視を続けながらゆっくりと首を振った。「完全には消えていないわ。姿を現していないだけで、この場所をまだ諦めていない。」
その言葉に祐一も眉をひそめた。霊がいなくなったわけではないことに、全員が内心警戒を緩められなかった。
ふと、玄関近くから「カタン」という音が聞こえた。一瞬全員が硬直し、緊張が高まる。しかし、続く音はなかった。
「気のせいか……?」祐一が呟き、玄関の方を見やる。
「念のため、もう一度玄関を確認してみましょう。」美紀が言うと、3人は慎重に玄関へ向かった。
***玄関での確認と新たな足跡***
玄関の扉には朝日が差し込み、外が明るくなりつつあることが分かる。祐一が覗き穴から外を覗くと、周囲には誰の姿もない。「……誰もいないな。」と振り返り、一谷が「安心だな」と肩を撫で下ろした。
美紀は霊符を手に持ち、扉の周囲を確認する。「負のエネルギーが残っているわ。ここを浄化しておきましょう。」彼女は祈りを唱えながら霊符を貼り、周囲を清める動作を繰り返した。
「よし、これで少しは大丈夫だと思う。」美紀が清め終わった瞬間、祐一が外の地面に視線を向けて眉をひそめた。「……これ、何だ?」
外には小さな泥の足跡がいくつも残されていた。それは、まるで子どもの足跡のように見えた。
***朝のリビングで***
祐一は、深夜起きた出来事を星川と峯川に伝えた。
星川と峯川は前日の調査活動で疲れており熟睡していて気付かなかったようだった。
星川「僕たちは、引き続き周辺の調査を行ってみます。何か手が掛かりが見つかるかも知れません」
峯川「今日は、近所回りの住人にもこの住まいの噂を尋ねてみます」と話す。
松井あゆみは、昨夜、怖くて布団の中でじっとしていた事を伝え「ごめんなさい。私、怖くて、布団の中から出る事が出来ませんでした」と、話す。
一谷は「前の住人の書き残した日記を引き続き調べる事にする。何か手が掛かりが見つかるかも知れないからね」とみんなに伝える。
***庭の調査と墓石の発見***
祐一と橘美紀は、小さな足跡が続いている庭に出て調査を始めた。朝日が差し込み始めたとはいえ、庭にはどこか薄暗く重苦しい雰囲気が漂っている。
「この辺りに強い霊気を感じるわ……」橘美紀が足を止め、地面に手をかざして言った。祐一も目を凝らして庭を見渡す。確かにその一角だけ空気が異様に重く感じられた。
「ここを清めておこう。」祐一がスコップで地面を軽くならし、塩を円状に撒き、日本酒を静かに注いでいく。
「この程度じゃ気休めかもしれないけど……やらないよりはいいだろう。」祐一がそう言いながら作業を終えると、美紀がさらに庭を念入りに調べて回る。
その間、書斎では一谷が、前夜に見つけた古びた日記をリビングで読み進めていた。その日記には、以前この家に住んでいた住人が徐々に体験していった心霊現象の記録が詳しく綴られていた。
「最初は気のせいだと思っていたが家族が次々と体調を崩し、精神的に追い詰められていった……」「霊能者に相談しに行ったり、お祓いを受けても状況は変わらなかった……」そんな記述に、一谷は眉をしかめる。
「この家、普通じゃない……」一谷が小声で呟いた。
***墓石の発見***
庭の調査を続けていた美紀は、ふと庭の奥で足を止めた。「……ここ、何か埋まってる気がする。」彼女は地面を見つめながら手をかざし、重たい気配を感じ取った。
祐一がスコップを持って駆け寄る。「何かあるのか?」
「ええ。たぶん……何かがこの地面の下に。」美紀が慎重に答えると、祐一がその場を掘り始めた。一谷と松井あゆみも加わり、少しずつ土を掘り進めていくと、やがて湿った土の中から灰色の石が現れた。それは……墓石だった。
墓石には、小さな女の子の名前と「あゆみ」という文字が刻まれている。その名を見た松井あゆみが目を見開いた。「……私と同じ名前……?」
「この墓石、夜中に現れた女の子の霊と関係があるかもしれないな。」祐一が墓石を見つめながら言った。
「おそらくそうね。この土地が再開発される前、ここに眠っていたのに居場所を奪われて彷徨っていたのかもしれないわ」橘美紀が静かに話す。
***青空不動産の担当者・谷口の訪問***
昼前、青空不動産の担当者・谷口が訪れ、リビングで祐一たちと向かい合った。谷口はどこか緊張した表情を浮かべ、これまでの話をじっくりと聞いていた。
「これまで起きたことはすべてお話ししましたが、この土地には何かあるとしか思えません。」祐一が真剣な口調で伝える。
谷口は手元の資料を見ながら、深いため息をついた。「正直なところ、私も前任者からこの土地について詳しい話を聞いたことはありません。ただ……確か、この土地は再開発前に格安で手に入れたと聞いています」
「なぜ格安だったのか、調べられますか?」一谷が質問すると、谷口はうなずきながら答えた。「古い記録を調べてみます。実は過去にも数件、この物件に関して入居者からの苦情がありました。騒音や異常現象が理由で退去された方も多いようです」
「やはり、何か隠された過去があるようですね」橘美紀が静かに言う。
「分かりました。調査結果が分かり次第、すぐにご連絡します」谷口がそう告げて帰ると、リビングにまた重い空気が漂った。
***寮、陽菜、春香の到着***
昼過ぎ、寮が陽菜と春香を連れて戻ってきた。祐一たちは彼らをリビングで迎え、これまでの進展を説明した。
「墓石を掘り出し、女の子の霊と関係があることが分かりました。そして、井戸跡が霊道に繋がっている可能性が高いです。」祐一が説明すると、寮が頷きながら話を続けた。
「その墓石と井戸跡が、土地全体に悪影響を及ぼしている元凶だろうな。まずは井戸の封印と、墓石の供養を優先して行おう」
陽菜が庭に目を向けながら呟く。「ここには長年の負のエネルギーが積み重なっているわ。それを一度に解消するのは難しいかもしれないけど、できる限りのことをしましょう」
***墓石の供養***
庭に設置した簡易祭壇の前で、春香が墓石を丁寧に清め、供養の準備を進めていく。橘美紀は霊符を貼り付け、周囲に結界を張った。祐一と一谷は供物を並べ、松井あゆみは震えながらも墓石の名前をじっと見つめていた。
「この名前……私と同じ『あゆみ』。私がこの家に来たのも何かの縁なのかもしれません……」松井は涙ぐみながら呟いた。
春香が供養の言葉を唱え始めると、祭壇の上に薄い光の筋が立ち上がり、庭に漂っていた不気味な気配が少しずつ和らいでいくのが分かった。
「これで安らかに眠れるはずよ。」春香が静かに語りかけると、松井あゆみは深く息を吐き、「ありがとう……」と呟いた。
***井戸跡の封印と浄化の儀式***
次に、祐一たちは井戸跡に向かった。そこには、まだ重たい気配が漂い、地面の奥深くから黒い影が蠢いているような感覚があった。
「この井戸跡が霊道に繋がっているのは間違いない。このままでは霊の活動が続いてしまう」寮が強い口調で言い放つ。
4人は井戸跡の周囲に祭壇を設置し、それぞれ東西南北に配置された。陽菜が静かに呪文を唱え始めると、霊符が淡い光を放ち始め、空気が震えるような感覚が広がった。
「まだ抵抗している……」橘美紀が朱雀の霊符を掲げ、負の気配を抑え込むように力を込める。
その瞬間、井戸跡から黒い霧が立ち上り、霧の中から歪んだ顔が浮かび上がった。霊たちは最後の抵抗を試み、井戸跡から力強く影を伸ばそうとしている。
「こんなに強い執念が残っているなんて……!」春香が額に汗を滲ませながら呪文を唱える。
寮が声を張り上げた。「負けるな!ここで完全に霊道を封じるんだ!」
4人は一斉に呪文を唱え、霊符の光を強めた。その光が井戸跡を包み込み、黒い霧を徐々に押し戻していく。そして、約1時間に及ぶ儀式の末、黒い影は完全に消え去り、井戸跡から漂っていた負の気配も消滅した。
「これで……霊道は完全に封印されたわ。」橘美紀が静かに呟く。
祐一は深く息をつき、「これで一歩前進だな。」と安堵の表情を浮かべた。
***さらなる疑念***
儀式が終わり、庭の空気は清らかで穏やかになった。
しかし、陽菜は地面を見つめたまま、険しい表情を浮かべていた。
「井戸跡の霊道は封じたけど……この土地全体に漂う負のエネルギーはまだ残っているわ」陽菜が静かに言うと、全員が不安そうな顔をした。
「つまり、まだ何かが残っているってことですか?」祐一が尋ねる。
「ええ。井戸跡と墓石が解決しただけで、この土地の闇が完全に消えたわけじゃない。この場所そのものに何か深い過去があるのかもしれないわね」陽菜の言葉に、全員の緊張が戻る。
「これからどうする?」一谷が尋ねると、寮が力強く答えた。「ひとつずつ解き明かしていくしかない。この土地の歴史を調べ、原因を突き止めるんだ」
祐一も頷き、「そうですね。まだ完全には終わっていないけど、ここで止まるわけにはいかない」と決意を口にした。
井戸跡と墓石の浄化により夜中の恐怖は和らいだ。しかし、この土地に秘められた闇のすべてが解き明かされたわけではない。女の子の霊が何を伝えたかったのか、土地全体に漂う負のエネルギーの正体とは何か――。
静まり返った庭の片隅では、まだ誰も知らない新たな手がかりが静かに姿を現そうとしていた――。
ご購読、ありがとうございました。今回は、予想より長編になっています。オカルトな展開が続いています。




