科学的な調査と「心霊現象」の正体
祐一は再び、用水路の再調査を行う事になった。果たして声の正体は幽霊だったのか?
祐一とオカルト研究会のメンバーたちは、用水路で聞こえる「助けて」という声の正体を突き止めるため、再び調査に出かける事が決定した。前回の調査で得られたデータを基に、今回は科学的な機材をさらに増強した。音波解析装置、地形センサー、赤外線カメラに加持ち込む本格的な態勢で挑む事になった。
「これで何かわかるはずだ!」祐一は興奮を隠せず、装置を調整する手が震えていた。
メンバーたちも同じ気持ちだった。オカルト研究会は普段そこまで目立つ活動をしていないため、こんな大掛かりな調査は珍しい事だった。部長の沢田が指示を出す中、部員たちはそれぞれの役割をこなしていった。
調査は深夜から始まり、静まり返る用水路の周囲に風の音と水の流れが響き渡る。メンバーが配置に着き、それぞれの機材を作動させてから10分ほど経ったころ、再び「助けて……」という声が薄暗い闇の中に響いた。
「聞こえました! 録音はちゃんとできていますか?」祐一が声を張り上げる。
「問題ない。データを確認してみる」一谷が迅速に装置を操作する。
しかし、解析を進めると驚くべき事実が判明した。音波の波形は明らかに風の音に近く、水の流れが特定の地形にぶつかることで反響していた。
「つまり、これは地形と水の音が作り出した“錯覚”だったってことか……」
河餅が肩を落とし、部長の沢田もやや残念そうに呟いた。
「幽霊じゃなかったんだな……」
祐一も一瞬がっかりした様子を見せたが、すぐに笑顔を浮かべた。
「でも、これも立派な成果だよ。科学的に解明できたんだから、すごいことだ!」
沢田が周囲を見渡しながら話す。
「今回は科学的な分析がメインだったから、これで良しとしよう。今日はこれで解散だな」
メンバー全員が頷き、用水路を後にした。
***桜との会話***
翌日、祐一はアパートで桜に調査結果を報告した。桜は大学の帰って祐一が玄関先で掃除をしているのを見て声をかけた。
「田中君、昨日の調査どうだったの?」
祐一はデッキブラシを置いて答える。
「結局、あの声は風と水の音が混ざって反響しただけだったんだ」
桜は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに柔らかく微笑んだ。
「それなら安心ね。でも、そんな心霊現象が本当に起きていたら、それこそ大変だったんじゃない?」
祐一は頷きつつも、どこか釈然としない様子で話す。
「そうだけど……正直、ちょっと拍子抜けしたというか……。なんだか納得がいかなくて」
桜は彼の様子に気付き、少し真剣な表情で答えた。
「祐一君、気持ちの問題や心理的な影響って思った以上に大きいのよ。人間は怖いと思い込むと、普通の影でも幽霊に見えることがあるわ。それに……」
彼女は少し間を取って続けた。
「解明できたことを喜ぶべきじゃない? 全てが謎のままじゃ、もっと怖かったでしょ?」
「そうかも知れないけど……」祐一は小さく頷いたものの、心の中にはまだモヤモヤした感情が残っていた。
桜はふと考え込むように下を向き、そして顔を上げた。
「じゃあ、私もその用水路に行ってみるわ。現実をしっかり見つめることも大切だから」
祐一は目を輝かせた。
「本当ですか? 桜さんも一緒なら心強いです!」
***用水路での出来事***
その夜、祐一と桜は用水路に向かった。風が冷たく、用水路の周囲は昼間の雰囲気とはまるで違っていた。桜は懐中電灯を握りながら、足元に注意を払い、ゆっくりと歩を進めた。
「確かに不気味ね。でも、これが錯覚だってわかっていれば平気よ」と桜は笑った。
祐一も慎重に辺りを見回しながら、「そうですね……」と答える。
しばらく観察を続けたが、特に変わったことは起きなかった。桜は少し退屈そうに水面を眺めながら言う。「やっぱり、ただの用水路ね。幽霊なんているわけ――」
突然、祐一が声を上げた。
「桜さん、あれ……!」
桜もその方向に目を向け、次の瞬間、息を呑んだ。
水面にかすかに浮かぶ白い影。それは、髪の長い女性の姿だった。
息が詰まるような感覚が押し寄せ、何かが自分を見ている――そう感じた瞬間、冷たい汗が背中を流れた。桜は必死で自分に言い聞かせる。『ただの影。そう、影に違いない……!』だが、その視線の重さに耐えきれず「嘘でしょ……何これ……!」
「きゃあああ!」桜は叫び声を上げると、桜は反射的にその場から駆け出した。
「桜さん、待ってください!」祐一も慌てて後を追った。
5分ほど走り続けた後、ようやく二人は落ち着きを取り戻した。桜は息を切らせながらも震えた声で話す。「あれ、何だったの……? ただの影じゃなかったわよね……」
祐一は真剣な表情で桜に問いかけた。
「桜さん、あれを科学的に説明できますか?」
桜は一瞬言葉に詰まったが、しばらくして静かに答えた。
「……錯覚の可能性もあると思う。でも、あれは……正直、怖かったのは事実ね」
祐一は彼女の言葉を聞いて、小さく頷いた。
「そうですよね。怖いと思ったなら、それはただの錯覚じゃないかもしれません」
***祐一の報告と新たな調査***
翌日、祐一は、オカルト研究会で今回の出来事を話した。
部員たちはその話に驚き、そして真剣に考え込んだ。
「でも、それを幽霊だと断定するのは難しいな」と河餅が慎重に言う。
「確かに、現時点では判断がつかない」と沢田も同意する。
その時、一谷が提案した。
「以前オカルト研究会にいた山田先輩に相談してみるのはどうだろう? あの人、今は霊能者として活動しているって聞いたよ」
メンバーは賛成し、山田先輩に連絡を取ることになった。
***山田先輩との浄霊***
後日、山田先輩が現場を訪れた。
彼は用水路でしばらく目を閉じて祈りを捧げた後、霊がここに長く留まっていた理由を語った。
「この霊は、自分の存在を知ってほしかったんだ。事故で亡くなった後、助けを求め続けていたんだろう」山田先輩は静かに語りかけ、祈りを捧げた。
すると、不思議なことに空気が軽くなり、その場の不気味な感覚が消えた。
「これで霊は成仏したと思う」と山田先輩が告げた。
オカルト研究部員たちは後日調査したところ、この用水路は昔、大雨の際に氾濫し、複数の事故が起き用水路に落ちて溺れてなくなった女性の事が分かった。雨の日、用水路が溢れてしまい、足を踏み外して行方不明になり後日発見された場所だった。地元の人々はそれ以来、この場所を避けていたらしい。
この事を山田先輩に報告すると「きっと、その事故で亡くなった人たちの思いが残っていたんでしょう」と静かに語った。
部員たちは静かに手を合わせた。
***調査の終了***
しばらく過ぎ、祐一の所属しているオカルト研究会に訪れた山田が、
「これで、この用水路では、少なくとも、これ以上『助けて』という声が聞こえることはないはずだよ」と話す。
祐一は「ありがとうございました。これで、用水路が少しでも平和になればいいですね」と答えると、山田先輩は頷きながら「ただ、あの用水路一帯は、他にも霊的な問題が隠されているみたいだから、安易に近寄らない方が安全だ」と、メンバーたちに語りかけた。
今の祐一たちオカルト研究会には特別霊力の強いメンバーは居なく、安易に心霊スポットに近寄らない方が安全と言う事だった。
一通り、話が終わると、山田は「もし、何か心霊現象で困った事が合ったら、いつでも協力するよ」と、話し、帰った。
***新たな日常***
祐一は、いつもの様に、つばき壮の玄関前を掃除していた。
「祐一君、相変わらず熱心ね」と、声を掛けられる。
振り向くと桜が大学から帰宅して来た所だった。
祐一は桜に今回の出来事を報告した。
桜は驚きながらも、少しだけ納得した様子で話した。
「そういう風に解決できるなら、それはそれでいいことだと思うわ。でも、やっぱり私は現実的な視点を大切にしたいけどね」
祐一は「もちろん、桜さんの意見も大事です。でも、僕はこれからもオカルトの世界を探求していきます!」と力強く答えた。
桜はため息をつきながらも微笑んだ。
「私は科学と心理学の視点で祐一君の話を分析するわ。でも、程々にね」
「まずは、このアパート全体の風水を整える事が僕の目標です」と、祐一は箒を握りしめて答えた。
桜は、少し呆れたように「それって、ただの掃除でしょ?掃除を風水と言うんだ」と突っ込む。
祐一は「他にも西に黄色い物を置いたり、東に赤い物を置いて、北東に盛り塩と……」と、続けた。
桜は熱心に説明する祐一に「それって迷信でしょ?」と、半ば呆れて答えた。
***新たな日常***
祐一は、今回の調査と出来事から、心霊現象について深く考えさせられた。
単純に霊が現れる現象を確認できても解決策が難しい事や霊能力の強いメンバーがいない事もあった。
大学生になった祐一のオカルト探求の一歩を踏み出す事になった。
ご購読、ありがとうございました。以前、考えていた話を少しずつアップしています。12月はスローペースの更新になる予定です。