食事の準備と報告・・・
祐一は、寮に電話しこれからの活動について相談する事にした。
***寮への報告***
祐一は、乗って来た軽バンに乗り込み運転席に座り、ダッシュボードからノートパソコンを取り出した。画面を開き、今日の調査内容を打ち込んでいく。
『月影湾・調査報告(1日目)』
『発見事項:
・墓地の荒廃(墓石多数倒壊)
・祠の破損(地蔵含む石材散乱)
・霊道開放の可能性
・実施事項:祠修復、結界設置、浄化儀式』
タイピングを終え、ファイルを保存する。
それから、スマホを取り出した。
連絡先から「寮・遼」を選び、発信ボタンを押す。
二回のコール音の後――。
『もしもし』
落ち着いた声が返ってきた。
「もしもし、寮さん。祐一です」
『おう、祐一か。調査、順調か?』
「はい……ただ」
祐一は、少し言葉を選んだ。
「今回の場所も、かなり危険な可能性があります」
『ほう』
遼の声が、わずかに真剣味を帯びる。
「共同の調査活動ですが、範囲も広く……」
祐一は、これまでの経緯を話した。
昨夜の集会所での霊的現象。
津波の記憶を追体験させられたこと。
そして、今日発見した倒れた墓と祠。
修復作業と結界の設置。
「……という状況です」
電話の向こうで、少し間があった。
遼が、情報を整理しているのだろう。
『……なるほどな』
やがて、遼が口を開いた。
『中々、良い感じで進んでいるね』
「え……良い感じ、ですか?」
『ああ』
遼の声は、冷静だった。
『焦らず、着実に対処してる』
『祠の修復も、正しい判断だ』
「ありがとうございます」
祐一は、少しホッとした。
『週末には、行けそうだから、慎重にな』
「寮さんが、来てくれるんですか?」
『ああ。様子を見に行く』
力強い言葉だった。
『今の調子で、集会所周辺の調査と修復を続けるのが堅いな』
「はい」
『他にも、小さな祠の修復や、住んでいる住民への聞き取り調査も必要そうだね』
「住民……ですか?」
祐一は、少し驚いた。
「ここ、ほとんど無人だって聞いてましたけど」
『ほとんど無人、だろ?』
遼の声に、含みがあった。
『完全に無人なら、集会所の鍵が開いてることもない』
『誰かが、まだ残ってる可能性がある』
「……確かに」
祐一は、昨日の違和感を思い出した。
開いていた扉。
生活の痕跡。
誰かが、出入りしていたような――。
『その人物を見つけられれば、情報が得られるかもしれない』
『この村で何が起きてるのか、な』
「分かりました」
祐一は、メモを取る。
「住民の聞き取り調査も、やってみます」
『無理はするなよ』
遼の声が、少し優しくなった。
『お前は、いつも頑張りすぎる』
『メンバーを守ることも、忘れるな』
「……はい」
祐一は、小さく笑った。
「ありがとうございます、遼さん」
『じゃあ、また連絡する』
『何かあったら、すぐに電話しろ』
「はい。失礼します」
通話が切れた。
祐一は、スマホを置き、深く息を吐いた。
***新たな方針***
車の外では、夕闇が深まっていた。
公会堂の窓から、明かりが漏れている。
メンバーたちが、準備を進めているのだろう。
祐一は、メモを見返した。
『今後の方針:
集会所周辺の調査継続
小さな祠の発見と修復
住民への聞き取り
亜里沙チームとの情報共有』
「……やることは、まだ山積みだな」
呟きながら、車を降りる。
冷たい風が、頬を撫でた。
潮の匂い。
そして、どこか遠くから聞こえる波の音。
祐一は、公会堂へと歩き出した。
その時――。
ふと、視界の端に何かが映った。
振り返る。
坂の下。
暗がりの中に、人影が立っていた。
「……え?」
祐一は、目を凝らす。
だが、次の瞬間――。
影は、消えていた。
まるで、最初からいなかったかのように。
「……気のせい、か?」 祐一は、首を振った。
だが、胸の奥に小さな引っ掛かりが残る。
――誰かが、見ている。
そんな感覚が、拭えなかった。
祐一は、公会堂の扉を開けた。
中では、メンバーたちが待っている。
そして、もうすぐ亜里沙たちも戻ってくる。
情報を共有し、次の一手を決める。
長い夜が、また始まろうとしていた。
***夕食の準備***
祐一が軽バンから戻ると、公会堂の中は賑やかになっていた。
オカルト研究会のメンバー達は、夜ごはんの準備を行っていた。
集会所のキッチンスペースでは、松井あゆみ、宮田、広末がリーダーとして調理に追われていた。
「お湯、沸いたわよ!」
松井が、大きな鍋を火から下ろす。
「じゃあ、パスタ茹でるね」
宮田が、乾麺の袋を開ける。
「こっちは野菜を切るよ」
広末が、まな板の上で玉ねぎを刻んでいく。
包丁のリズミカルな音が響く。
簡易キッチンとはいえ、三人の連携は見事だった。
「部長、お帰りなさい」
松井が、祐一に気づいて声をかけた。
「ただいま。順調そうだな」
「ええ。今夜はトマトパスタとサラダ、それにスープよ」
「持ってきた食材で、何とか作れそう」
宮田が、缶詰のトマトソースを開けながら言う。
「人数分、足りるかな?」祐一が尋ねる。
「大丈夫です。部長」広末が頷いた。
「東都大学の分も計算に入れてるから」
「そろそろ戻ってくる頃でしょ?」
「ああ、無線では『これから戻る』って言ってた」
祐一は、時計を見る。
午後六時半。
日は完全に暮れていた。
***準備を手伝うメンバーたち***
他のメンバーも、それぞれ役割を果たしていた。
星川と峯川は、テーブルと椅子を並べている。
「よいしょ……っと」
「ここでいいか?」
「ああ、そこで」
小川は、食器を並べていく。
紙皿、プラスチックのコップ、割り箸。
使い捨てだが、人数分はしっかり揃っている。
「飲み物は、お茶とコーヒーでいいか?」
「うん、それでいいと思う」
一年生たちは、ホール全体の掃除をしていた。
「床、もう少し拭いておこう」
「窓際も、埃が溜まってるぞ」
「ゴミ、まとめてくるね」
全員が、自然と動いていた。
まるで、合宿のような雰囲気。
だが――。
窓の外には、暗闇が広がっている。
静かな村。
誰もいない、廃墟の村。
そこに、自分たちだけがいる。
その事実が、どこか非現実的だった。
***キッチンでの会話***
「そういえば」
松井が、パスタを茹でながら言った。
「今日の調査、どうだったの?」
「ああ……」
祐一は、キッチンの端に腰を下ろした。
「墓地を見つけた。それと、祠も」
「祠?」
宮田が、顔を上げる。
「どんな?」
「小さな地蔵の祠。完全に崩れてたから、修復してきた」
「修復……大変だったでしょ?」
広末が、心配そうに言う。
「まあな。でも、必要なことだった」
祐一は、遠くを見るような目をした。
「あの祠が壊れたままだと、霊道が開いたままになる」
「それが、この村の怪異の原因かもしれない」
「なるほど……」
松井が頷く。
「じゃあ、修復したことで、少しは落ち着くかしら?」
「分からない。でも、やらないよりはマシだ」
その時。
キッチンの奥から、湯気が立ち上った。
「あ、パスタ茹で上がる!」
宮田が慌てて火を止める。
「ザル、ザル!」
「はいはい」
広末が、手際よく湯切りをする。
熱い湯気が、部屋に広がった。
***亜里沙チームの帰還***
その時――。
公会堂の入口が開いた。
「ただいま戻りました」
亜里沙の声だ。
「お帰りなさい!」祐一が立ち上がる。
亜里沙、そして東都大学のメンバーが入ってきた。
全員、少し疲れた様子だったが、無事のようだ。
「調査、どうだった?」
「はい……色々と、見つけました」
亜里沙の表情は、複雑だった。
「詳しくは、食事をしながら共有しましょうか」
「ああ、そうしよう」
祐一が頷く。
「ちょうど、夕食ができるところだ」
「わあ、ありがとうございます」
東都大学のメンバーも、ホッとした顔をする。
「お腹空いてたんです」
「じゃあ、タイミング良かったわね」
松井が笑う。
「あと五分で、出来上がるから」
***夕食の始まり***
数分後。
長机の上に、料理が並んだ。
大皿に盛られたトマトパスタ。
野菜サラダ。
温かいコンソメスープ。
そして、買ってきたパンとバター。
「いただきます!」
全員で手を合わせる。
それぞれが、皿に料理を取り分けていく。
「うまい……」
峯川が、パスタを頬張りながら呟く。
「やっぱり、温かい飯は最高だな」
「でしょ?」
宮田が、得意げに笑う。
「缶詰だけど、ちゃんと味付けしたから」
星川も、スープを飲みながら頷く。
「これ、体が温まるわ」
公会堂の中に、久しぶりに笑顔が戻った。
食事をしながら、会話が弾む。
だが――。
祐一は、窓の外をチラリと見た。
暗闇の中。
波の音だけが、遠くで続いている。
そして、もうすぐ――。
亜里沙が、海岸で見つけたものを話すだろう。
その内容次第で、今夜の動きが変わるかもしれない。
祐一は、静かにフォークを置いた。
「じゃあ……情報共有、始めようか」
一同の視線が、祐一と亜里沙に集まった。
***情報共有の始まり***
祐一の言葉で、ホール全体が静かになった。
食事の手を止め、全員が二人のリーダーに注目する。
「まず、こちらから報告するよ」
祐一が口を開いた。
「今日、公会堂の北側を調査した」
メモを取り出し、簡潔に説明する。
「墓地を発見。ほとんどの墓石が倒れたまま放置されていた」
「それと、奥に小さな祠があった」
「地蔵を祀った祠だったが、完全に崩壊していた」
亜里沙が、真剣な表情で聞いている。
「それで、峯川たちと一緒に修復作業を行った」
祐一は続ける。
「石を元に戻し、お経を唱えて浄化。結界も張った」
「祠が壊れたままだと、霊道が開きっぱなしになる」
「それが、この村の怪異の原因の一つかもしれない」
「なるほど……」
亜里沙が頷く。
「確かに、祠や墓の荒廃は霊的な不安定さを招きます」
「修復は、正しい判断だと思います」
「ありがとう」
祐一は、一息ついた。
「あと、寮さんに連絡を入れた」
「寮さん?」
小川が聞き返す。
「ああ。週末に、こっちに来てくれるそうだ」
「マジか!」
星川が目を輝かせる。
「それは心強いな」
「ああ。それと……」
祐一は、少し声を落とした。
「寮さんから、アドバイスをもらった」
「この村に、まだ住民が残っている可能性がある」
一同が、顔を見合わせる。
「住民? ここに?」峯川が眉をひそめる。「無人じゃなかったのか?」
「ほぼ無人、だ」祐一が訂正する。
「完全に無人なら、集会所の鍵が開いてることもない」
「誰かが、出入りしているはずだ」
「……確かに」
松井が呟く。
「生活の痕跡、残りすぎてたもんね」
「その人物を見つけられれば、情報が得られるかもしれない」
祐一は、全員を見渡した。
「明日以降、聞き取り調査も視野に入れよう」
***亜里沙の報告***
「では、こちらの報告を」
亜里沙が立ち上がった。
リュックから、小さなノートを取り出す。
「今日、海岸と砂浜を中心に調査しました」
全員が、耳を傾ける。
「まず、津波の痕跡が至るところに残っています」
「壊れた防波堤、流された漁船の残骸、崩れた堤防……」
亜里沙の声は、静かだが重かった。
「そして、供養碑も見つけました」
「供養碑?」 祐一が聞き返す。
「はい。海岸の岩場に建てられていました」
亜里沙は、スマホの写真を見せる。
灰色の石碑。
そこには、犠牲者の名前が刻まれていた。
五十三人分の、名前。
「……これは」
祐一が、息を呑む。
「でも、この供養碑……」
亜里沙の表情が曇る。
「荒れていました」
「荒れてた?」
「はい。花も供物もなく、石碑自体も傾いていて……」
亜里沙は、言葉を選ぶように続けた。
「誰も、手入れをしていないようでした」
静寂が流れる。
五十三人もの犠牲者を出した村。
なのに、その供養碑が放置されている。
「それだけじゃありません」
亜里沙が、さらに続ける。
「砂浜に、不自然な漂着物が大量にありました」
「漂着物?」
「服、靴、鞄……生活用品です」
亜里沙の声が、わずかに震える。
「でも、それが……十年前のものとは思えないほど、新しく見えたんです」
「新しい?」
峯川が眉をひそめる。
「十年も経ってたら、ボロボロになってるはずだろ?」
「そうなんです。なのに……」
亜里沙は、もう一枚写真を見せた。
砂浜に散らばる、衣服や靴。
確かに、色褪せていない。
まるで、つい最近流れ着いたかのような――。
***不気味な発見***
「それと……もう一つ」
亜里沙が、声を落とした。
「海の中から、声が聞こえました」
一同が、息を呑む。
「声……?」
「はい。波の音に混じって……」
亜里沙は、目を閉じる。
「『帰りたい』『寒い』『助けて』……そんな声が」
「複数の声が、重なって聞こえたんです」
部屋の空気が、一気に冷えた。
「……昼間でも、か?」
祐一が尋ねる。
「はい。午後三時頃でした」
「夜だけじゃない……」
星川が呟く。
「昼間も、霊が活動してるってことか」
「おそらく」
亜里沙が頷く。
「この村の霊的活動は、時間帯に関係なく起きている可能性があります」
「それだけ、強い未練が残っているということです」
祐一は、腕を組んだ。
状況は、思ったより深刻だ。
祠の修復だけでは、足りない。
供養碑も荒れている。
海からは、声が聞こえる。
そして、新しい漂着物。
「……亜里沙さん」
祐一が口を開く。
「その漂着物、回収してきましたか?」
「いえ……」
亜里沙が首を横に振る。
「あまりにも量が多くて、手をつけられませんでした」
「それに、触れるのが怖くて……」
「分かりました」
祐一は頷いた。
「明日、もう一度海岸を調査しよう」
「供養碑の修復と、漂着物の確認」
「それが、次の優先事項だ」
***今夜の対策***
「それで……」
峯川が、不安そうに言った。
「今夜も、何か起きるのか?」
「可能性は高い」
祐一が答える。
「でも、昨夜よりは準備ができてる」
「公会堂は結界で守られてる」
松井が補足する。
「私たちが、しっかり強化したから」
「それに、祠も修復した」
小川も言う。
「少しは、霊の動きも落ち着くんじゃないか?」
「そうだといいんだけど……」
祐一は、窓の外を見た。
暗闇の向こう。
海が、静かに波打っている。
「とにかく、今夜は全員で警戒する」
「交代で見張りを立てよう」
「了解」
全員が頷いた。
長い夜が、また始まろうとしていた。
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