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オカルト研究部 田中祐一 今日も怪異あり  作者: waku


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134/139

霊的に歪んだ地

 祐一たちは、集会場に留まり、調査を進める事を決定した。

***夜明けの決意***

 

 空が白み始めた頃。

 メンバーたちは、ようやく落ち着きを取り戻していた。

 祐一は、窓辺から振り返り、全員を見渡した。

「……みんな、聞いてくれ」

 疲れた顔が一斉に祐一を向く。

「僕たち、オカルト研究会は、今日、この場と周辺を整えよう」

「整える……?」星川が聞き返す。

「ああ。集会場を、きちんと浄化して結界を張って強化する」

 祐一は、部屋の中を見回した。

「このままじゃ、また夜に同じことが起きるかもしれないからね」

「確かに……」峯川が頷く。

「中途半端じゃ、危ないな」

「それに」

 祐一は続ける。

「ここと周辺を調査して拠点として、しっかり使えるようにしよう」

「安心して、休める場所として、整えよう」


***集会場の設備***


「幸い、この集会場には風呂とキッチン、トイレもある」

 小川が、奥の部屋を指さす。


「さっき確認したんですが、給湯設備も残ってます」

「水道は?」

「使えそうです」松井も報告する。

「電気も通っているから問題なさそうね」

「なら、きちんと掃除をして浄化すれば十分使える」

 祐一は頷いた。

「全員で手分けして、ここを安全な拠点にしよう」

 一同が、顔を上げる。

 疲れてはいるが、目には決意の光があった。

「分かった」

「やろう」

「拠点がちゃんとしてれば、調査もやりやすいしな」


***調査の分担***


 祐一は、簡単な地図を広げた。

 月影湾の全体図だ。

「整備が終わったら、周辺の調査を始める」

 ペンで、集会所の周囲に円を描く。

「僕と峯川、2年生たちは、集会所周辺を調査する」

「民家、路地、廃屋……怪異の原因となりそうな所を探す」

「了解」峯川たちが頷く。

 

 そして、祐一は地図の下部――海岸線を指した。

「亜里沙さんたちは……」

「はい」

 亜里沙が、真剣な表情で応える。

「海岸や砂浜の調査をお願いします」

「分かりました」

「昨夜の霊たちは、海と深い関わりがあるかもしれない」

 祐一は、静かに続けた。


「本命は、やはり海だと思う」

「そこに、何かがあるはずだ」

 亜里沙は、地図をじっと見つめる。

「……津波の痕跡。供養碑。漂着物」

「そういったものを、重点的に調べます」

「頼みます」祐一は深く頷く。

「ただし、無理はしないでください」

「危険を感じたら、すぐに引き返してください」

「はい。そちらこそ、お気をつけて」


***浄化と整備の開始***

 

方針が決まると、メンバーたちは動き出した。

 祐一は、手早く指示を出す。

「まずは、公会堂と敷地内の浄化と結界の強化は松井さん、星川君、それに広末さん、1年生に頼む」

「分かったわ」

 松井が頷いた。

「結界の強化は任せてくれ」

 星川が答える。

「私は掃除と整理を行うよ」

 広末が手を挙げる。

 山田ら一年生も、真剣な表情で頷く。

「僕と、峯川君、小川君、それと2年生は、近所の調査を始めよう」

「了解」

 峯川が腕を組む。

「どのあたりを重点的に?」

「まずは、公会堂から半径二百メートル圏内だ」

 祐一は、地図を指で示した。

「民家、商店跡、路地……怪異の痕跡を探す」

「分かった」

 小川も頷く。

「じゃあ、俺たちは北側から回るか」それぞれ、行動に移った。


***公会堂内部:浄化班***


 松井、星川、広末、そして一年生たちは、公会堂の中に残った。

「じゃあ、手分けしましょう」

 松井が、護符の束を取り出す。

「星川君は、結界の配置を」


「私と一年生は、掃除と整理ね」

 広末が、箒とバケツを手に取る。


「分かった。じゃあ、まず建物の四隅から確認するか」

 星川は、羅針盤と護符と結界の為の水晶を持って歩き出した。

 建物の東西南北を正確に測り、結界の要となる場所を定めていく。

「……ここが東か」地面に水晶を置き、呪文を唱える。


 一方、松井は中央の部屋で、浄化スプレーを撒き清める。

「清め給え、守り給え部屋の中心に……」静かに呟きながら、周辺に浄化スプレーを散布する。


 一年生の山田、林も手伝う。

「松井先輩、次はどうすれば?」

「窓枠と扉に、塩を少しずつ置いていって」

「はい!」


 広末は、奥の部屋や廊下を掃除していた。

 溜まった埃、散らばった砂など。丁寧に掃いて行く。

「……だいぶ汚れているね」

 独り言のように呟く。


「広末さん、こっちの掃除は任せてください」1年生のメンバーたちが声を掛ける


***墓地の発見***


 祐一、峯川、小川、そして二年生たちは、公会堂を出て北側の民家群へと向かった。

 昼間の月影湾は、夜とはまた違う雰囲気を持っていた。

 陽の光が、朽ちた家々を照らしている。

 だが――静かすぎる。

「……鳥の声、しないな」峯川が呟く。

 坂道を登り、曲がりくねった路地を抜けると――。

 視界が開けた。

 そこには、小高い丘があった。

「……墓地か」

 小川が、立ち止まる。

 斜面に、無数の墓石が並んでいる。

 いや――並んでいた、というべきか。

 ほとんどの墓石が、倒れていた。

「ひどいな……」

 二年生の一人が、呟く。

 地震と津波の時、この辺りの墓石が倒れてしまったままの様だった。

 草が生い茂り、石は苔むし、供花の跡もない。

 まるで、誰も手入れをしていないかのように。

「十年以上、放置されてるのか……」

 峯川が、眉をひそめる。

 

 祐一は、墓地をゆっくりと歩いた。

 足元に、折れた卒塔婆が転がっている。

 名前の彫られた石が、土に埋もれている。

 胸が、重くなった。


 ***祠の発見***

 

 墓地の奥。さらに小高い場所に、小さな祠があった。

 いや――あった、というべきだろう。

 祠は、ほぼ崩壊していた。

 屋根は落ち、柱は傾き、石組みはバラバラに散らばっている。

「……これ、地蔵か?」

 小川が、倒れた石像を指さす。

 草に埋もれて、かろうじて顔の部分だけが見えていた。

 祐一は、近くを見渡した。

 祠の周りにも、石が散乱している。

 台座、供物台、鳥居の残骸。

 全てが、倒れたままになっていた。

「……これが原因かもしれない」

 祐一が、静かに言った。


「え?」

「霊道が開いていた可能性がある」

 祐一は、祠の跡を見つめる。

「祠や墓は、霊を鎮める場所だ」

「それが壊れたまま放置されれば……」

「霊が、安らげなくなる……か」

 峯川が、腕を組む。

「なるほどな」

「ここを放っておいたから、霊たちが彷徨い始めた」

「そういうことかもしれない」

 祐一は、深く息を吐いた。

「まずは、この祠の倒れた石を元に戻そう」

「その後、再び結界を張り直す」

「分かった」

 小川が頷く。

「重い石もあるけど……やるしかないな」


***祠の修復***


 メンバーたちは、散らばった石を一つずつ集め始めた。

 台座の石。

 柱の破片。

 地蔵の本体。

 どれも重く、苔や泥で滑りやすい。

「よいしょ……っと」

 峯川と小川が、大きな台座を持ち上げる。

「こっちに……もう少し……」

 祐一が、元の位置を指示する。

「そこだ。慎重に置いてくれ」

 ゴトン、と鈍い音を立てて、石が収まった。

「次は、地蔵本体だな」

 二年生たちが、倒れた地蔵像を起こしにかかる。

 顔は風化し、手足の一部は欠けていた。

 だが、どこか優しげな表情が残っている。

「……ごめんな」

 峯川が、小さく呟いた。

「こんなに長い間、放っておいて」

 地蔵を台座の上に据える。

 少し傾いているが、何とか安定した。


「供物台も、元に戻そう」

 祐一の指示で、周囲の石も配置していく。

 完全な修復ではない。

 だが、少なくとも――祠の形は取り戻せた。

「……よし」

 全員が、汗を拭う。

 陽は、少しずつ傾き始めていた。


 ***浄化の儀式***


 「次は、浄化だ」

 祐一が、リュックから線香とマッチを取り出した。

 小川は、小さな香炉を置く。

「お香を焚こう」

 マッチを擦る。

 小さな炎が、線香に火を灯した。

 白い煙が、ゆらゆらと立ち昇る。

 静かな風に揺れながら、空へと消えていく。

「全員、手を合わせて」

 祐一の声に、メンバーたちが従う。

 地蔵の前に、一列に並ぶ。

 祐一は、目を閉じた。

 

 そして――。

 低く、厳かな声で、お経を唱え始めた。

「観自在菩薩……」

「行深般若波羅蜜多時……」

 

 峯川も、小川も、二年生たちも――。

 それぞれ、知っている範囲で声を合わせる。

「照見五蘊皆空……」

「度一切苦厄……」

 声が、重なっていく。

 お香の煙が、風に乗って広がっていく。

 墓地全体を、包み込むように。


***結界の設置***


 お経を唱え終わると、祐一は護符を取り出した。

「結界を張る」

 祠の四方に、一つずつ水晶で出来た浄化グッズを埋設して行く。

 東、西、南、北。

 

 そして、中央の地蔵の台座にも、水晶を設置した。

「峯川、塩を頼む」

「おう」

 峯川が、持ってきた塩の袋を開ける。

 祠を囲むように、円を描くように撒いていく。

 白い線が、地面に浮かび上がった。

「これで……」

 祐一は、もう一度地蔵に向かって手を合わせた。

「どうか、安らかに」

「この場を、お守りください」

 静かに、祈る。

 

 すると――。


 風が、少し変わった気がした。

重苦しかった空気が、軽くなったような。

地蔵の表情が、わずかに微笑んでいるようにも見えた。

「……どうやら戻ったみたいだ」小川が、安堵の息を吐く。

「うん」祐一も頷く。

「少なくとも、ここは鎮まったね」


***帰路***

 

祠を後にして、一行は公会堂へと戻り始めた。


 日は、さらに傾いている。

影が長く伸び、村全体がオレンジ色に染まっていた。

「部長」

 峯川が、歩きながら言った。

「今ので、大丈夫か?」

「分からない」

 祐一は、正直に答える。

「まだ、他のエリアも調べてみないと」

「祠や墓が荒れたままなら、霊は安らげない」

「それに、少しでも霊を鎮められたら、良くなる筈だ」

「……そうだな」

 峯川は、小さく笑った。

「お前らしいや」空が、茜色に染まっていく。

 もうすぐ、夜が来る。

 そして――。


 今夜もまた、何かが起きるかもしれない不安も残っていた。

 だが、祐一たちは少しずつ前に進んでいた。

 この村の、悲しみと向き合いながら。


***公会堂へ帰還***


 公会堂に戻ると、松井たちが出迎えてくれた。

「お帰りなさい」

「こっちは、結界の強化が終わったわ」

 松井が報告する。

「建物全体に、しっかり張れたと思う」

「ありがとう」

 祐一が頷く。

「こっちも、祠を修復してきた」

「祠?」

 星川が、眉を上げる。

「墓地の奥にあったんだ」

 祐一は、簡単に説明した。

 倒れた石、荒れた墓地、そして修復と結界の事を。

「なるほどね……」

 広末が、腕を組み「今回も霊道が開いてたのか・・・」

「あくまで推測だけどね」

「でも、理にかなってるね」星川も頷く。

 その時、電話が鳴った。


『東都大学です』亜里沙の声だった。

「状況は、どうでした?」祐一が応答する。

『これから、公会堂に戻ります』

『こちらも……少し、気になるものを見つけました』

「分かりました。帰りを待っています」電話が切れる。


 祐一は、窓の外を見た。

 夕闇が、じわじわと迫ってきている。

 海の向こうから、風が吹いてきた。

 冷たく、湿った風。

 潮の匂いを運んでくる。

「……今夜も、来るかもな」

 祐一は、小さく呟いた。

 だが――今度は、準備ができている。

 祠も修復した。

 公会堂も結界で守られている。

 そして、仲間がいる。

「よし」

 祐一は、振り返った。

「亜里沙さんたちが戻ったら、情報を共有しよう」

「それから、今夜の対策も考えよう」

「了解」全員が、頷いた。

 

 長い夜が、また始まろうとしていた。

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