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オカルト研究部 田中祐一 今日も怪異あり  作者: waku


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133/139

集会所の夜

祐一達は、集会所を拠点にする為、中に入った。

***集会所内部***


 ――ギィ……。


 重たい音とともに、扉が開いた。


 中は、思っていたよりも広かった。


 薄暗いホールに、長机と折り畳み椅子が無造作に並んでいる。


 天井には、錆びついた蛍光灯。


 床には、砂と枯れ葉が積もっていた。


「……意外と、形残ってますね」

 山田が小声で言う。


「誰かが、たまに掃除してる感じだな」

 星川が周囲を見回す。


 壁には、色あせた掲示物が貼られていた。


 ――防災訓練のお知らせ

 ――津波避難経路図

 ――行方不明者情報


「……これ」


 松井が、一枚の紙を指さした。


 そこには、数十人分の名前と写真が並んでいる。


「犠牲者名簿か……」


 峯川が呟く。


 祐一は、その一枚をじっと見つめた。


 端の方に、赤いペンで丸がついた名前がいくつもある。


「……印、つけてあるな」


「生存未確認者、かもしれません」

 亜里沙が静かに言った。


 誰も、すぐには返事ができなかった。


***古い記録***


 奥には、小さな事務室があった。


 棚には、埃をかぶったファイルやノートが並んでいる。


「資料、残ってるな」


 祐一は手袋をはめ、一冊を取り出した。


 表紙には、かすれた文字でこう書かれていた。


 ――月影湾・被災記録


 中を開く。


『○月×日

 避難所、満員。

 食料不足。

 子ども二名、行方不明』


『○月△日

 夜間、海の方から声。

 捜索、成果なし』


「……ん?」


 星川が顔を近づける。


「今の噂と、同じじゃないか」


 さらにページをめくる。


『○月□日

 避難勧告後も戻らぬ者あり。

 “呼ばれる”と言っていた』


 空気が、冷えていく。


「……呼ばれる?」

 山田が小さく呟く。


「誰に……?」


 誰も答えられなかった。


***夜の準備***


 調査の拠点は、集会所に決まった。


 簡易ベッド、照明、結界札、防犯カメラ。


 手際よく設営が進んでいく。


「日が落ちる前に、周囲も見ておこう」

 祐一が言う。


 数班に分かれ、村内を調査した。


 どの家も、途中で放棄されたようだった。


 食器が残り、写真が倒れ、テレビは砂まみれ。


「……逃げたって感じじゃないな」

 峯川が呟く。


「置いていきすぎですよね」松井も同意する。


 まるで――。


 途中で帰れなくなったような感じだった。


***最初の現象***


 夜。


 月影湾に、闇が降りた。


 波の音だけが、遠くで続いている。


 集会所の中では、最低限の明かりだけが灯されていた。


「22時。異常なし」


 星川が記録をつける。


「このまま何も起きなければ――」


 その時。


 ――ピチャン。


「……今の、何?」


 松井が顔を上げた。


「水の音?」


 天井から、雫が落ちている。


 ぽつ、ぽつ、と。


「雨?」山田が窓を見る。


 外は、晴れている。


「……上、見てみる」

 峯川が立ち上がった。


 懐中電灯で天井を照らす。


 次の瞬間――。


「……おい」声が震えた。


「これ……水じゃない」


 光に照らされた天井には、


 濡れた手形が、いくつも浮かんでいた。


 天井から、垂れるように。


 まるで――。


 海から這い上がってきた者たちが、

 そこにしがみついたかのように。


 部屋の空気が、一気に凍りついた。


***浄化の始動***


 天井に浮かぶ、無数の濡れた手形。


 ぽたり、ぽたりと、水音が続いている。


「……信じられない」星川が呟いた。


「天井から、手が……」


「みんな、落ち着いて」その声は、はっきりしていた。


 亜里沙だった。


 彼女は、冷静に状況を判断する。


「これは強い悪意では、無いわ」一同が、彼女を見る。


「未練が溜まって、形になっているだけね」


 リュックから、細い木箱を取り出し中には数珠と護符、小さな鈴が収められていた。


「……集団残留思念ね」亜里沙は、静かに続けた。


「津波で亡くなった人たちの、記憶のかたまり」


「成仏できてないってことか……」峯川が呟く。


「はい。今から浄霊を行います」


***結界展開***


「全員、私の後ろに集まってください」


 亜里沙の声に、迷いはなかった。


 祐一は、即座に指示を出す。


「言われた通りにしよう」一同は、素早く移動した。


 亜里沙は床に小さな護符を四枚並べる。


 東西南北。


 簡易結界だ。


「松井さん、鈴を鳴らしてください」


「は、はい!」澄んだ音が、空間に広がって行く。


 ちりん……ちりん……。


 それと同時に、空気がわずかに震える。


 手形が、ゆっくりと蠢く。


「……反応してる」山田が息を呑む。


***鎮魂の言葉***


 亜里沙は、目を閉じた。


 数珠を握り、低く唱え始める。


「――帰る場所は、ここでは、ありません」声は、静かだが、芯があった。


「あなたたちを、忘れていません」波の音が、強まる。


 窓ガラスが、小さく震えた。


「苦しかったでしょう」


「怖かったでしょう」


「……でも、もう大丈夫」


 その瞬間。天井の水滴が、一斉に止まり手形が、淡く光りだした。


 青白い、やさしい光だった。


 そこに、かすかな声が混じる。


『……ありがとう……』


 誰かの、いや――。


 何十人もの声が、重なっていた。


***浄化完了***


 光は、ゆっくりと天井へ溶けていった。


 やがて。全て跡形もなく消えた。


 床も、壁も、乾いていた。


 さっきまでの異変が、嘘のようだった。


「……終わったのか?」星川が恐る恐る尋ねる。


「はい、終わりました」


 亜里沙は、小さく息を吐いた。


「一次浄化、完了です」


「一次?」小川が聞き返した。


「ここは、まだ入口みたいなものね」


「本命は、たぶん……海辺です」


 その言葉に、全員が息を呑む。


***深まる信頼***


「……すごいな」峯川が素直に言った。


「正直、ここまでとは思っていなかった」


「ありがとう。峯川さん」亜里沙は微笑んだ。


 祐一は、彼女を見て頷いた。


「やっぱり、部長しているだけありますね。僕より頼りになりそうだ」


「田中さんも、素晴らしい力をお持ちです」二人の間に、確かな信頼が生まれていた。


 だが――。


 その時。


 机の上に置いてあった調査用のレコーダーが、突然、再生された。


 ――ザザッ……。


『……か……え……れ……』


 低く、歪んだ声。


 一同が、凍りついた。


 亜里沙の表情が、引き締まる。


「……まだ、終わってないわ」本当の月影湾の闇は、これからだった。


***海からの呼び声***


***レコーダーの声***

 ――ザザッ……。

『……か……え……れ……』

 レコーダーから流れる声は、一つではなかった。

 何十、いや何百もの声が、重なり合っている。

『かえれ……』

『かえりたい……』

『ここは……ちがう……』

「誰が録音したんだ、これ!」

 星川が叫ぶ。

 だが、レコーダーは誰も触れていない。

 勝手に再生されたのだ。

「電源……切れないぞ!」

 峯川がボタンを押すが、反応しない。

 声は、だんだん大きくなっていく。

『海……海へ……』

『みんな……海に……』

 その時。

 窓の外から、光が見えた。

「……あれ」

 山田が震える手で、窓を指す。

 海岸線に、無数の光が揺れていた。

 青白い、ぼんやりとした灯り。

 人魂のように、ふわふわと漂っている。

「数が……多すぎる」

 松井が青ざめる。

 数十、いや百近い光が、海沿いに並んでいた。

 そして――。

 

その光が、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。


「まずいわ……」亜里沙の声に、初めて恐怖が混じった。

「これは、集団霊です」

「さっきのとは……違う霊ですか?」祐一が尋ねた。

「はい……」亜里沙は唾を飲み込んだ


***包囲***

 光は、集会所を取り囲むように集まってきた。

 窓の外、すぐそこに。

 青白い光の中に、ぼんやりと人の形が見える。

 濡れた髪。

 海藻のまとわりついた衣服。

 虚ろな目。

「うわあああ!」

 一年生の一人が悲鳴を上げた。


 窓ガラスに、手形がべったりと押し付けられている。

 ぬるり、ぬるりと、何本もの手が這いずる。

 ガラスの向こうから、こちらを見つめている。

 表情のない、白い顔たちが。


「早く結界を!」亜里沙が叫ぶ。


「全員、建物の中から出るな!」祐一は即座に指示を出す。


「誰も動くな! 窓に近づくな!」

 

だが――。


 ――バキッ。

 窓ガラスが、ひび割れた。

 外から、何かが押している。

 じわじわと、圧力が強まっていく。


『……いれて……』


『さむい……』


『かえりたい……』 声が、壁を通して聞こえてくる。

 

 何十もの声が、同時に。


***侵入***


 ――ガシャン!

 一枚の窓が、ついに砕けた。

 冷たい風が、部屋に吹き込む。

 潮の匂いと、腐敗臭が混じった空気。

「くそっ!」峯川が浄化スプレーを吹きかける。

 だが、光は止まらなかった。


 窓から、霧のような何かが流れ込んで来る。

 その霧の中に、無数の影が蠢いている。


「全員、離れるんだ!」祐一が叫び指示を出す。

 

 一同は、部屋の奥へ後退した。

 

 だが――背後の扉が、勝手に開く。


 廊下から、冷たい空気が流れ込み、濡れた足跡が続いていた。

 「挟まれた……」星川が呟いた。


 前方には、窓から侵入してくる霊たち。

 後方には、暗い廊下と奥の部屋。


「どうする、部長!」峯川が叫ぶ。

 祐一は、一瞬迷ったが――。

「……奥へ行こう」

「え?」

「前は無理だ。奥の部屋なら、窓が少ない」苦渋の決断だった。

「全員、奥へ移動するんだ」


***奥の部屋へ***


 懐中電灯を手に、一行は廊下を通り奥の部屋に向かった。

 床の濡れた足跡を踏みながら。

 背後から、ガラスの割れる音が続く。

 霊たちが、次々に侵入してくるのだ。

『まて……』

『いかないで……』

『ひとりは……いや……』

 声が、すぐ後ろから聞こえる。

 

 振り返ってはいけない。

 本能が、そう告げていた。

 奥の部屋に辿り着く。

 扉を開けると――。

 

そこには、先ほど祐一が見た光景が広がっていた。

 

 濡れた衣服の山。

 黒く塗りつぶされた写真。

 そして、開いたままの押し入れ。

「中に入れ! 扉を閉めるぞ!」

 全員が部屋に駆け込んだ。

 祐一が扉を閉めようとした、その瞬間――。

 廊下の向こうから、何かが走ってくる音がした。

 ばしゃ、ばしゃ、ばしゃ。

 水を撒き散らしながら。

「早く!」星川が叫んだが、間に合わなかつた。

 

 廊下の暗闇の中から――。

 濡れた髪の少女が、這うように現れた。

 手足をねじ曲げて、床を這いながら。

 その顔は、青白く。

 目は、虚ろで。

 口からは、海水が溢れていた。


***絶望の瞬間***


 ――バタン!

 祐一は、力任せに扉を閉めすぐに鍵をかける。

 次の瞬間。

 扉の向こうから、ドン、ドンと叩く音。

 そして――。

『……あけて……』少女の声。か細く、悲しげな声が響き渡る。

『……さむいの……』

『……くるしいの……』

『……ひとりは……いや……』

 扉が、軋む。

 内側から押されているように。

「結界を!」亜里沙が叫ぶ。

 峯川と祐一が、扉に札を貼り付けると、音が、わずかに弱まった。

 だが――。

「……後ろ」

 松井が、震える声で言った。

 全員が振り返る。

 押し入れの中。

 さっきまで真っ暗だった空間に――。

 今、無数の目が光っていた。

 濡れた何かが、ぬらりと這い出してくる。

 一つではない。

 二つ、三つ、四つ――。

 数え切れないほどの何かが、押し入れから溢れ出してきた。

 

逃げ場は、ない。

 前方の扉は封鎖。

 後方には、這い出る霊たち。

 窓は、鉄格子で塞がれている。

 完全に罠だった。

 

 祐一は、拳を握りしめた。

「……全員、部屋の中央に集まって。亜里沙さん……頼みます」


「……やってみます」亜里沙の顔は、青ざめていた。

  数珠を握りしめ、唱え始めるが這い出る霊たちは、じわじわと近づいてくる。

 海の匂い。

 腐敗臭。

 そして――。

 無数の手が、伸びてきた。


***津波の記憶***


 霊たちの手が、一斉に伸びてきた瞬間――。

 世界が、歪んだ。

「――っ!」祐一の視界が、激しく揺れる。

 部屋が消える。

 気づけば――。

 自分は、海岸にいた。

「……え?」

 目の前には、穏やかな波。

 青い空。

 後ろを振り返ると、月影湾の村が見える。

 だが、壊れていない。

 新しい家々が、整然と並んでいる。

 人々の声も聞こえる。

「これ……過去?」

 その時。

 遠くから、地鳴りのような音が響いた。

 ゴゴゴゴゴ……。

 海が、引いていく。

 異常なほど、遠くまで。

 そして――。

 水平線の向こうに、黒い壁が立ち上がった。

「……嘘だろ」

 祐一の全身が、恐怖で震える。

 津波だ。

 巨大な、黒い壁のような波が、こちらへ向かってくる。


***それぞれの悪夢***


 同じ瞬間。

 部屋にいた全員が、同じ光景を見ていた。

「お母さん! お母さん!」

 松井は、必死に走っていた。

 背後から、轟音が迫ってくる。

 振り返ると、巨大な波が家々を飲み込んでいく。

「いやあああ!」

 峯川は、家の二階にいた。

 窓から見える景色が、一瞬で水に沈む。

 車が、家が、人が――流されていく。

 そして、波が建物に激突する。

 ガラスが砕け、壁が崩れ――。

 水が、一気に押し寄せてきた。

「誰か……助けて……!」

 星川は、濁流の中にいた。

 何かにしがみつこうとするが、全てが流れていく。

 息ができない。

 水が口に、鼻に入ってくる。

 苦しい。

 冷たい。

 暗い。

 ――これが、死ぬということ?


***現実の部屋で***


 部屋では、全員が床に倒れていた。

 体を震わせ、うめき声を上げている。

「うっ……あ……」

「たすけ……て……」

 まるで、溺れているように。

 呼吸が浅く、唇が青ざめていく。

 亜里沙も、同じ幻覚に囚われていた。

 波に飲まれ、流され、沈んでいく。

 意識が遠のく――。

 その時。

 低く、力強い声が響いた。

「――摩訶般若波羅蜜多」


***祐一の覚醒***


 祐一は、幻覚の中で気づいた。

 ――これは、記憶だ。霊たちが見せている、最期の記憶。

 

 苦しみ。恐怖。絶望。

それを、今、自分たちは追体験させられていた。

「……このままじゃ、まずい」

 祐一は、必死に意識を保つ。

 波に飲まれながらも、心の中で唱え始めた。

 


 最初は、心の中だけだったが、声を出して唱え始める。

「かん……じ……ざい……ぼさつ……」

 


***お経の力***


 祐一の声は、最初はか細かったが一文字ずつ進むにつれ、力を増していった。。

「ぎょう……じん……はんにゃ……はらみた……じ……」

 部屋の空気が、わずかに変わって行く。


 押し入れから這い出ていた霊たちが、動きを止める。

「しょう……けん……ごうん……かい……くう……」

 祐一の体が、淡く光り始めた。

 金色の、やさしい光。

 幻覚の中の津波が、少しずつ透けていく。

「やく……しゃり……し……」

 声は、まっすぐに、力強く響き渡り、光が、部屋全体に広がっていった。

 

 倒れていたメンバーたちの顔からも苦しみの色が消えていった。

 呼吸が、ゆっくりと戻ってくる。


***浄化の光***


 祐一は、立ち上がった。

 目を閉じ、両手を合わせる。

 そして、最後の一節を――。

「ぎゃ……てい……ぎゃ……てい……」

「はら……ぎゃ……てい……」

「はら……そう……ぎゃ……てい……」

「ぼう……じ……そわか……」

「はんにゃ……しん……ぎょう!」

 その瞬間。

 部屋が、まばゆい光に包まれた。


 温かい、やさしい光。

 押し入れから這い出ていた霊たちが、光の中に溶けていく。

 苦しげな表情が、穏やかなものに変わっていく。

『……ありがとう……』

『……やすらぎを……』

『……もう……いける……』

 無数の声が、感謝を告げる。

 光は、やがて天井へと昇っていった。

 霊たちとともに。

 

 そして――静寂が訪れた。


***目覚め***


 一人、また一人と、メンバーが目を覚ましていく。

「……う……」星川が、体を起こす。

「……夢……?」

「いや……幻覚だ」峯川が答える。

「津波の……記憶を見せられた」

 松井は、涙を流していた。

「怖かった……本当に……」

 山田も、体を震わせている。

「あれが……あの人たちが経験したこと……」

 亜里沙が、ゆっくりと立ち上がった。

 そして、祐一を見る。

 彼は、まだ目を閉じて、両手を合わせたままだった。

 額には、汗が浮かんでいる。

 だが、その表情は――穏やかだった。


***感謝の言葉***


 やがて、祐一が目を開けた。

 深く息を吐き、手を下ろす。

「……みんな、大丈夫か?」

「ああ……なんとか」

 峯川が答える。

「部長……助かった」

「お経の力があんなに凄いなんて」星川も驚きを隠せない。

 だが、祐一は小さく首を横に振った。

「春香さんに教わっただけだ。それと写経も続けていたからね」

 


 亜里沙が、深く頭を下げる。

「田中さん」

「……はい」

「ありがとうございます」

 その声は、心からのものだった。

「あなたがいなければ……私たちは、あの幻覚から抜け出せませんでした」

「いえ……」

 祐一は、少し照れたように頭を掻く。

「みんなで乗り越えたんです」

「でも」

 亜里沙は、顔を上げる。

 その目には、確かな信頼の光があった。

「あなたの力も……本物。浄化の力を持っているわ」

 

 祐一は静かに頷く。

 部屋には、もう霊の気配はなかった。

 濡れた足跡も、手形も、全て消えていた。

 窓から差し込む月明かりだけが、静かに床を照らしていた。


 長い夜の、最初の試練が終わった。


***静寂の後***


  集会所の中に、再び静けさが戻っていた。

 メンバーたちは、それぞれ休んでいた。


「……もう朝か」星川が、窓の外を眺めると、

 東の空が、うっすらと明るくなり始めていた。

 波の音が、穏やかに響いている。

 

 まるで、さっきまでの出来事が嘘のように。

 祐一は、窓辺に立ち、海を見つめていた。



 ――まだ、終わっていない。



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