新たなる共同調査 海辺編
祐一達、オカルト研究会は、共同合宿を終え、また普段の活動に戻りつつあった、
そんな矢先、また、新たなる彫塑の申し出のメールが届いた。
***新たな申し出***
お盆山での共同研修から、二週間が過ぎていた。
秋の風が、キャンパスの木々を静かに揺らしている。
部室で資料を整理していた祐一のスマホが震えた。
――西峰亜里沙。
画面に表示された名前を見て、祐一は小さく息を吐く。
「また……何かありそうだな」
そう呟きながら、メールを開いた。
件名:共同調査のお願い
田中部長
先日は、本当にありがとうございました。
私たちは、あの経験で多くを学びました。
つきまして、新しい共同活動をお願いしたく、ご連絡しました。
今回の調査地は、海辺にある「月影湾」です。
詳しくは、直接お話しできればと思います。
ご検討、よろしくお願いいたします。
西峰亜里沙
「……海辺か」
祐一は画面を見つめた。
これまで、山や廃村を巡ってきた彼らにとって、海は未知の領域だった。
だが、同時に、嫌な予感も胸をよぎる。
「とりあえず……みんなを集めよう」
祐一は、すぐにメンバーへ連絡を送った。
――緊急ミーティング。部室集合。
***ミーティング***
三十分後。
部室には、青空大学オカルト研究会の全員が集まっていた。
祐一は、亜里沙からのメールを読み上げる。
「……ということで、今回は『月影湾』での共同調査だ」
しばらく、沈黙が流れた。
最初に口を開いたのは、峯川だった。
「また、東都大学と共同か……」
腕を組み、渋い顔をする。
「正直、前回は危なかっただろ」
「確かに……」
小川が小さく頷いた。
「石碑の奥が、ヤバすぎた……」
空気が重くなる。
だが――。
「でもさ」
星川が静かに口を開いた。
「メリットも多いだろ」
「メリット?」
「広範囲を一度に調べられる。
結界も強化できる。
役割分担もできる」
「それに」
峯川が続けた。
「前回より、東都大学は明らかに慎重になってる」
「それは、確かね」
松井あゆみも同意した。
祐一は、全員を見渡してから言った。
「今回の調査は、強制しない」
一同が顔を上げる。
「危険もある。だから、自分で決めてほしい」
祐一は静かに続けた。
「参加したい人は、手を挙げて」
――一瞬の沈黙。
そして。
最初に手を挙げたのは、峯川だった。
「……俺は行くぜ」
「峯川君?」
「部長一人に任せるわけにいかないだろ」
照れくさそうに笑った。
続いて――。
「俺も」
「私も」
「行きます」
次々に手が上がる。
最後は、一年生たちだった。
「僕たちも行きます!」
山田が真剣な表情で言う。
「調査活動のチャンスを、無駄にしたくありません」
祐一は、その光景を見て、静かに笑った。
「……全員参加、だな」
「あたりまえだ」
星川が肩をすくめる。
「チームなんだから」
「ありがとう」
祐一は深く頷いた。
「じゃあ、東都大学に返事をする」
***月影湾の実情***
その夜、祐一は亜里沙と電話で話していた。
「ありがとうございます、田中さん!」
亜里沙の声は明るいが、どこか緊張している。
「場所の詳しい話を聞かせてください」
「はい……月影湾は、十年前の津波で……」
声が少し沈む。
「村の三分の一が流されました。
犠牲者は五十三人です」
「……」
「今は、ほとんど無人です」
祐一は、拳を握った。
「最近、怪奇現象が?」
「夜、海から声が聞こえる。
人影が出る。
灯りが勝手につく……」
亜里沙は、相談された内容を伝えた。
「地元の噂では、還れなかった人たちって……」
「……重い場所ですね」
「はい。でも、だからこそ……放っておけなくて」
「分かりました」
祐一はきっぱり言った。
「慎重に、安全第一で行きましょう」
「はい!」
電話を切った後、祐一は窓の外を見た。
静かな夜空に、月が浮かんでいる。
「月影湾……か」
また、新しい試練が始まろうとしていた。
***月影湾への道***
出発は、土曜日の早朝だった。
青空大学と東都大学の合同チームは、それぞれの車に分乗し、海沿いの国道を南へと走っていた。
窓の外には、灰色がかった冬の海が広がっている。
「……思っていたより、寂れているわね」
後部座席から、松井あゆみが呟いた。
「観光地って感じじゃないですね」
一年生の山田も頷く。
「昔は漁村だったらしいけど」
運転席の祐一が、ナビを確認しながら言った。
「目的地まで、あと十分だ」
その言葉に、車内が少し引き締まった。
***廃村・月影***
舗装された道は、いつの間にか細い山道へと変わっていた。
両脇には、雑草と枯れ木が覆いかぶさるように伸びている。
「……ここ、本当に人、住んでないよな?」
星川が不安そうに呟く。
「十年以上、ほぼ無人らしい」
峯川が答えた。
「復興計画も、途中で止まったとか……」
やがて、視界が開けた。
そこに現れたのは――。
海を背にして並ぶ、古びた家々だった。
瓦は崩れ、窓ガラスは割れ、壁には潮風による錆とひび割れが刻まれている。
「……うわ」
星川が思わず声を漏らす。
「映画のセットみたいだ……」
だが、そこには作り物ではない、“時間の重み”があった。
人の気配はない。
波の音だけが、静かに響いている。
***最初の違和感***
車を空き地に止め、一行は外へ出た。
潮の匂いが、強く鼻を突く。
「まずは、拠点を決めよう」
祐一が指示する。
「公会堂があるって話だったな」
「はい。あそこです」
先に到着していた亜里沙が、坂の上を指さした。
少し離れた場所に、コンクリート造りの建物が見えた。
外壁は黒ずみ、看板の文字はほとんど読めない。
――月影集会所。
かろうじて、そう読めた。
一行は、そこへ向かって歩き出す。
砂利を踏む音だけが、やけに大きく響く。
その時だった。
「……あれ?」
山田が立ち止まった。
「どうした?」
「さっきから……誰か、見てる気がしませんか?」
一同が足を止める。
周囲には、崩れかけた家と、伸び放題の草。
人影など、どこにもない。
「気のせいじゃないか?」
峯川が言う。
「……そうですかね」
だが、山田の表情は硬かった。
祐一は、周囲をゆっくり見回した。
「……風の音だろ」
そう言いながらも、胸の奥に小さな違和感が残った。
集会所の前に着いたとき。
祐一は、ふと足を止めた。
「……おかしい」
「何が?」
星川が尋ねる。
「鍵が、開いてる」
錆びついた扉は、わずかに開いていた。
本来、無人のはずの建物。
誰かが、最近出入りしたようにも見える。
「……誰か、いるんですか?」
松井が小声で言った。
祐一は、深く息を吸った。
「全員、固まって入るぞ」
そして、ゆっくりと扉を押した。
――ギィ……。
嫌な音を立てて、扉が開く。
中から、冷たい空気が流れ出してきた。
まるで――。
ずっと、誰かが中で待っていたかのように。
購読、ありがとうございました。今回は、共同調査編の話で書いてみます。




