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オカルト研究部 田中祐一 今日も怪異あり  作者: waku


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131/139

東都大学オカルト探求部との共同調査

 オカルト研究会は、あの山の調査から日が過ぎ、静かに活動を続けていた。

そんなある日、東都大学オカルト探求部から、共同調査の申し入れがあった。

***夏の転換***


 夏休みに入り、青空大学オカルト研究会の空気は、以前とは明らかに違っていた。

「今日の相談は、アパートの物音調査だけか」

 峯川がホワイトボードを眺める。かつては心霊スポットの探索や危険な除霊が並んでいた予定表は、今や地味な案件ばかりだった。


「うん。悪夢の相談が一件、古い倉庫の簡易浄化が一件」祐一は淡々と答える。

「つまらなくなったな」と、峯川が呟きかけて、すぐに言い直した。「いや……これでいいんだよな」

 あの山での経験以来、研究会の方針は変わった。危険な調査は避けている。できる範囲で、できることだけをする。

「部長」

 一年生の山田が、おずおずと尋ねた。

「僕たち、このままでいいんでしょうか。オカルト研究会なのに……」

「今は、これでいいんだ」祐一が窓の外を眺める。

「生きて帰れなければ、研究もできないからね」

 その言葉に、山田は黙り込んだ。彼もまた、あの山で死にかけた一人だった。

 静かで、穏やかな日々。

 それを壊したのは、一通の通知だった。


***不吉な予感***


「他大学との共同研修……?」

 小川が書類を読み上げた瞬間、部室の空気が凍りついた。

「相手は東都大学オカルト探求部」

「東都……あそこか」星川の顔が曇った。


 「知ってるのか?」

「去年、知り合いの研究会と合同調査したらしい。結果は……最悪だったと聞いた」

「最悪?」

「相手のやり方を全否定。最後はケンカ別れになったそうだ」峯川が苦笑する。

「嫌な予感しかしないな」

「場所は『お盆山』」

 祐一が地図を広げる。小さな観光地。標高も低く、家族連れで賑わう普通の山だ。

「普通の山、か」星川が呟く。「でも、普通の場所なんて――存在しない」

 

祐一が続ける「分かってるよ。油断はしない」

 準備を始めながら、祐一は胸の奥に引っかかるものを感じていた。

 この研修は、何かが違う感じがした――。


***出会い***


 お盆山は、確かに普通の観光地だった。

 笑い声、子供たちの声、賑やかな雰囲気。

 だが――。

「あそこだけ、誰も近づいてないな」

 星川が、広場の端を指差す。木々が密集した一角。そこだけ、妙に静かだ。

「……嫌な感じがする」松井あゆみが呟いた。


 その時、声がかかった。「お待ちしていました」

 振り返ると、黒髪ショートの女性が立っていた。鋭い目。自信に満ちた笑顔。

「東都大学オカルト探求部、西峰亜里沙です」握手を求める手は、力強かった。

「青空大学の活動、話題ですね。色々と学ばせていただきたくて」

 祐一は違和感を覚えた。「学ばせていただく」――その言葉の裏に、何かが潜んでいるようだった。

「オカルト研究会部長の田中祐一です。よろしく」

 自己紹介が始まろうとした瞬間――。


 「ちょっといいですか」眼鏡の男子学生が割り込んできた。名札には「佐々木」。

「青空大学って、清掃活動で有名ですよね。オカルト研究というより、ボランティアサークルっていうか」

 

空気が凍る。


「それに……」

 佐々木は、わざとらしく首を傾げた。

「調査の大半が未解決なんですよね? それって、要するに――」

「佐々木くん」 亜里沙が制する。だが、その目は笑っていた。

「すみません。うちの部員、率直すぎて」

 

彼女は祐一を見た。その視線は、まるで保護者が問題児を見るようだった。

「実は今回、調査だけでなく……アドバイスもさせていただこうかと」

「アドバイス?」

「ええ。青空大学は、かつて優れた方がいらっしゃいました」

 過去形。

「でも今は……正直、ただのサークルに見えます」


 峯川の拳が震える。

「歴史ある研究会が廃れるのは忍びない。だから、私たちの技術を――」

「結構です」祐一の声は、静かだが鋭かった。

「僕たちには、僕たちのやり方があります」

 亜里沙の表情が、一瞬強張る。

「アドバイスは聞きます。でも、採用するかは僕たちが決める」

「……そうですか」彼女の笑顔が、冷たくなった。

「では、共同調査を始めましょう。ただ――」

 彼女は山の奥を見た。

「途中で逃げないでくださいね」

 その言葉に、祐一は何も答えなかった。

 ただ静かに、山の暗い一角を見つめていた。

 何かが、そこで待っている――。


***それぞれの流儀***


「では、私たちは調査に向かいます」

 亜里沙が宣言した。

「青空大学の方々は……」

 彼女は、まるで子供に言い聞かせるように続けた。

「拠点の準備をお願いできますか? テントの設営、食事の用意、その辺りは得意でしょう?」

 峯川が立ち上がろうとする。祐一が肩を押さえた。

「分かりました。拠点は任せてください」

「助かります」

 亜里沙たちは、満足そうに笑うと最新の霊探知機器を手に山へと消えていった。


 沈黙の時が流れた。


「……部長」峯川が震える声で言う。

「なんで黙ってるんですか。あいつら――」

「いいんだよ」祐一がテントを取り出す。

「向こうは向こうのやり方。僕たちは僕たちのやり方がある」

「でも……」

「峯川くん」星川が割って入った。

「部長の考え、分からないのか?」

「……まさか」

 小川が気づく。

「失敗するのを、待ってるんですか?」

 祐一は答えず、ただ黙々とテントを張り始めた。

 その背中を見て、メンバーたちは理解した。

 これは、待機ではない。

 

救出の準備だ。


「部長、結界の範囲は?」

「広場全体。それと――」

 祐一が山の方を見る。

「石碑まで、簡易結界を延ばせるか?」

「石碑……まだ見つけてませんが」

「必ずある」

 松井あゆみが頷く。

「こういう場所には、必ず封印があるわ」

 準備は黙々と進む。

 水晶玉の配置。浄化スプレーの準備。札と霊符の確認。

 そして、広場の清掃。

「ゴミ、結構あるな」峯川がペットボトルを拾う。

「土地を清めるには、まず物理的に綺麗にする事も重要だ」祐一が落ち葉を集める。

「これが、僕たちのやり方だ」

 その時――。

 山の奥から、かすかに声が聞こえた気がした。


***石碑***


 オカルト探求部は、山の奥深くへ進んでいた。

「反応が強くなってる」

 蜂谷が霊探知機を見つめる。

「このまま進めば、発生源を特定できる」

「いいわ。徹底的に浄化しましょう」 亜里沙が先頭を歩く。自信に満ちた足取りだった。

 やがて、開けた場所に出た。

 そこに――黒い影が立っていた。

「来た!」

 

蜂谷が呪文を唱える。

「浄化――!」


 光が黒い影を貫く。影は消えた。

「やった!」

「まだいるわ。全部浄化する!」次々と現れる影を、次々と浄化していく。

 十体、二十体、三十体――。

「すごい数だ……」佐々木が息を切らす。

「でも、浄化できてる。このペースなら――」

 その時、蜂谷が叫んだ。

「部長、あれ!」

 木々の奥。

 倒れた石碑が見えた。真っ二つに割れ、文字は削られている。

「封印……の石碑?」亜里沙が近づいた。

 かろうじて読める文字――「鎮」「封」「霊」。

「まさか……」

 佐々木の顔が青ざめる。

「俺たちが浄化してたのって……」

「封印から解放された霊……」

 蜂谷が震える声で言う。

 その瞬間――。

 周囲の空気が、重くなった。

 木々の影から、無数の黒い影が這い出してくる。

 一体、二体、十体、数十体――数え切れない。

「……嘘だろ」佐々木が後ずさる。

「に、逃げるぞ!」蜂谷が叫ぶ。

「待って! 冷静に――」

 亜里沙の言葉は、悲鳴にかき消された。

 影たちが、一斉に襲いかかってきた。


***救難信号***


 広場では、祐一たちが最後の準備を終えていた。

「結界、完成しました」星川が水晶玉の配置を確認する。

「食事の準備も。あとは向こうが戻ってくるのを――」

 その時、祐一のスマホが震えた。

 着信。亜里沙。

 祐一は一瞬、画面を見つめた。そして――。

「もしもし」

 『た、田中さん……!』

 背景で、悲鳴と爆発音が響く。

 『助けて……囲まれて……数が……!』

 蜂谷の叫び――『部長、後ろ!』

 佐々木の悲鳴――『やばい、逃げ――』

 ブツッ。

 通話が切れた。


「……峯川」

「はい」

「装備を」

「了解」

 全員が動く。迷いはなかった。

「でも部長」

 小川が複雑な表情で言う。

「あいつら、俺たちを馬鹿にしてたんですよ?」

「知ってる」

 祐一が春香の札を懐に入れる。

「それでも、見捨てるわけにはいかない」

「……ちくしょう」

 峯川が悔しそうに笑う。

「分かってましたよ。部長は絶対そう言うって」

「俺もだ」

 星川が霊符を確認する。

「だから、準備してた」

 松井あゆみが静かに微笑む。

「私たちは、そういうチームだから」

 祐一が全員を見渡す。

「全員連れて帰る。一人も欠けさせない」

「了解!」主要メンバーたち五人は山へ駆け出していった。

 夕日が、長い影を作る。


***救出***

 石碑の先。

 地獄だった。

 亜里沙たち三人が、背中を合わせて立っている。周囲を、百体近い黒い影が取り囲んでいた。

「浄化――!」

 蜂谷が気を放つ。一体消える。だが、すぐに別の影が迫る。

「くそっ、キリがない!」

 佐々木が札を投げる。また一体。しかし減らない。

 亜里沙の顔は蒼白だった。

「こんな……こんなはずじゃ……」

 その時――。

「亜里沙さん!」

 祐一の声が響いた。

「た、田中さん……!?」

「今助けます!」祐一が春香の札を放つ。

 札が光り――巨大な光が広がって行き影たちを次々と浄化していく。

「こっちへ!」

 星川が水晶玉で結界を張る。

 三人が転がり込む。

「させるか!」

 峯川が浄化スプレーを全開放。白い霧が影を押し戻す。

「連射――!」

 小川のワンドから光の矢が乱舞する。

「退散しなさい!」

 松井あゆみの霊光が周囲を照らす。

 だが――。

「数が多すぎる……!」

光が弱まり始める。奥から、さらに影が湧いてくる。

「部長!」星川が叫ぶ。

「分かってる!」祐一が橘美紀の霊符を取り出す。

「これで道を開く!」霊符を放った。

 炎の朱雀が現れ、咆哮した。

 浄化の炎が一本の道を切り開く。

「今だ、走って!」

 八人が一斉に駆け出す。

 峯川が後方にスプレーを撒き続ける。

 小川が走りながら魔法を放つ。

 松井が霊力で追撃を遅らせる。

 星川が水晶玉を落としながら、退路に結界を張る。

「もうすぐ……もうすぐ石碑だ!」

 石碑が見えた。再封印された石碑が、淡い光を放っている。

「あそこまで!」

 全員が最後の力を振り絞る。

 そして――石碑の結界内に飛び込んだ。

 瞬間、影たちが止まった。

 結界に阻まれ、進めない。

 影たちは恨めしそうにこちらを見つめ、やがて闇に消えた。


***石碑の前で***


 全員が地面に倒れ込んだ。

 荒い息。汗。疲労。

 しばらく、誰も何も言わなかった。

 そして――。

「……すみません」

 亜里沙の声が震えていた。

「すみません……すみません……」

 涙が頬を伝う。

「私たちが……馬鹿で……」

 蜂谷も、佐々木も、俯いている。

 祐一は、彼女の隣に座った。

「怪我は?」

「……ない、です」

「なら、良かった」

 その優しい声に、亜里沙の涙が溢れた。

「あなたたちの忠告を無視して……それなのに……助けに来てくれた……」

「当前です」祐一が微笑み続けた。

「僕たち、同じオカルト研究をする仲間じゃないですか」

 

 峯川がぼそりと言う。「部長は、最初から分かってたんだ。こうなるって」

「ああ。だから広場で待機してた」星川が苦笑する。「全く……お人好しにも程がある」

「でも、それが俺たちの部長だ」小川が続ける。

 松井あゆみが優しく微笑む。

「これが、私たちのやり方です」

 

 亜里沙は泣き続けた。やがて、顔を上げた。

「……ありがとうございました」

 心からの言葉だった。

「でも……」

 彼女は複雑な表情で続ける。

「私、まだ完全には納得できていません」

「え?」峯川が驚いた。

「あなたたちのやり方が正しいのは分かったわ。でも、私たちのやり方も、完全に間違ってるとは思えないわ」

 

祐一が笑って答える「それでいいんだ」

「え……?」

「意見が一致する必要は、ありません。大事なのは――」祐一が立ち上がって続ける。

「互いを尊重すること。そして、危険な時は助け合うことです」


 星川が頷く。「お前らのやり方を全否定するつもりはない、ただ・・・」

 

 峯川が真剣な顔で言う。「無茶はするな。命を大事にしろ」

 亜里沙が、小さく笑った。

「……はい。約束します」彼女は立ち上がる。

「今回は、完敗です」少し間を置いて。

「でも、いつか……あなたたちのやり方と、私たちのやり方の、いいとこ取りができるようになりたい」

「いい目標ですね」祐一が微笑む。

 夕日が、八人を照らしていた。


***焚き火を囲んで***


 その夜、二つのグループは同じ焚き火を囲んだ。

 朝とは違い、空気は柔らかい。

「田中さん」亜里沙が火を見つめながら話す。

「なぜそんなに『引く』ことにこだわるんですか?」

「経験です」祐一が答える。

「過去に、無理をして危険な目に遭った。何度も。だから学んだ」

「引き際を見極めることの大切さを」星川が続ける。

「でも」蜂谷が尋ねる。

「それじゃ解決できない問題も多いですよね?」

「ええ」小川が頷く。

「でも、生きていれば、またチャンスはある」

「死んだら、それで終わりだからな」峯川が付け加えた。

 亜里沙が深く息を吐く。

「……そうですね。私たち、勘違いしてたわ」

「勘違い?」

「オカルト研究は、全てを解明することだと思ってた・・・」亜里沙が静かに答える

「でも違うんですね。分からないことを認めることも、大切という事ね」

「そうです」祐一が微笑む。

「人間にできることには限界がある。それを認めた上で、できることをする」

 焚き火がパチパチと音を立てる。

「でも」

 佐々木が、少し不満そうに話す。

「やっぱり、全部解決できたらかっこいいじゃないですか」

 全員が笑った。


「確かにな」峯川が笑った。

「俺も、たまにはそう思う」

「でも、生きてる方がもっとかっこいいんだ」星川が話した。

 また笑い声が起きた。

 

 その夜、二つのグループは、互いの経験を語り合った。

 完全に意見が一致したわけではない。

 でも、互いを尊重する姿勢が生まれた。

 それで十分だった。


***それぞれの道***


 翌朝、両グループは共に下山した。

 麓で、別れの時。

「田中さん」

 亜里沙が手を差し出す。

「本当にありがとうございました」

「こちらこそ。いい経験になりました」

 お互いに握手を交わした。

 今度は、対等な立場だった。

「また、機会があれば……」

「共同調査、しましょう」

 

祐一が笑った。「ただし、次はちゃんと計画を立てて」

「はい」亜里沙も笑顔を見せた。

 蜂谷と佐々木も頭を下げる。

「すみませんでした。そして、ありがとうございました」

「気にしないで。俺たちも、昔は同じようなもんだったから」

 小川が答える。

 二つのグループは、それぞれの車に乗り込んだ。

 窓から手を振り合い、別々の方向へ。


 祐一の車の中。

「……結局、未解決だったな」

 峯川が呟く。

「ああ。石碑を再封印しただけ。根本的な解決じゃない」

「でも、あれでよかった」

 星川が続ける。

「僕らにできることには、限界があるから」

 松井あゆみが頷いた。

「でも、いつかまた戻ってくるかもね」

「ああ」祐一が微笑んだ。「もっと準備を整えて。もっと強くなって。そして、あの山の謎を解こう」

 車は静かに街へ向かう。

 お盆山は、バックミラーの中で小さくなっていく。

 

 完全な勝利ではなかった。でも、全員無事だった。

 新しい仲間ができた。それで十分だった。


 祐一は、ふと呟く。

「過去に蓄積された出来事が、澱として土地に染みついた場所は、どこにでもある」

 小川が窓の外を見ながら頷いた。

「俺たちは、たまたまその事を知り、力を持っただけという事だ」

 松井あゆみが静かに続ける。

「でも、そういった者たちも、全てを解決しようとは思わないのよ」

 祐一がバックミラー越しに彼女を見る。

「ただ、目の前の出来事を鎮めて、そっと立ち去る事が僕らの出来る事なんだ」

 星川が深く息を吐く。

「それが、今の僕らにできる最大限のこと……、また1つの経験を積み学ぶ事が出来た」

 峯川が前を向く。

「次は、もっとうまくやれるさ」

「ああ」

 祐一が頷く。

 車窓の外、夏の光が眩しい。

 オカルト研究会の旅は、まだ続く――。




土地には、記憶がある。

それを全て消すことはできない。

ただ、鎮め、封じ、共に在ること。

そして、時には引くこと。

それが、人にできる唯一のことなのだから――。

購読、ありがとうございました。今回も、未解決な感じの話になりました。

全ての謎を知り、解決する事は、難しいからです。

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