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オカルト研究部 田中祐一 今日も怪異あり  作者: waku


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河川の上流に向かっての出来事と一年生の冒険

 祐一達は、河川の調査を行っていた。この先に何があるのか?未知数だった。

***川上への調査と水霊の襲撃***


 石積みの祠を清めた後、祐一たちはさらに川上に向けて進んだ。

 次第に川幅も狭くなり、川の流れも少し急になっていた。

 また、より郊外へと進むようだった。木々が密集し、日差しが届きにくくなっている。


「なんだか寂しい感じのする場所だね」広末が周囲を見渡しながら、そう呟いた。


 人里から離れ、文明の気配が薄れて行く。自然が濃くなるほど、何か別のものが近づいてくるような感覚が強まって来る。


 その時だった。


「……何か、水の中から感じる」松井あゆみが立ち止まり、川面を見つめた。その表情が強張っていた。

 祐一たちも視線を水面に向けた。

 水の中に、顔が一体、二体、数体と、次々と浮かんでいた。

 蒼白い顔。虚ろな目。口が動いているが、声は聞こえない。

 

 そして、その中の一体が水中から手を伸ばし広末に向かって頭の中で優しく囁いた。

 「ねえ、こっちに来て…」


その瞬間、広末は水辺に向かって引き寄せられるように進む。

「はい……今、行きます……」広末は操られているかの様に水辺へと向かっていった。

「ダメ!」鮎川が広末の腕を掴む。「広末さん、しっかりして!」

 

 星川が険しい表情で水面を睨みつけ「……水で亡くなった霊達だ、引き込もうとしている」

 水霊たち、溺死者の霊が、次々と姿を現し始める。

 

 小川がワンドを構え、魔法を唱えた「浄化せよ――光の矢よ!」

 光の魔法が水に向かって放たれ、一体の水霊に命中し苦悶の声を上げて消滅した。

 だが、それで終わりではなかった。


  さらに次々と水辺から手が伸びてくる。

 五体、十体、数え切れないほどの腕が、水面から這い上がろうとしていた。

「星川くん、結界を」祐一が冷静に指示を出す。


 星川は素早くバッグから水晶玉を取り出し、周囲に並べ始めた。

「早く、中へ!」水晶玉が光り、簡易的な結界が形成された。

 

 松井あゆみも霊力を込め、手をかざす「退散しなさい!」霊光が放たれ、また一体の水霊が浄化された。

 

峯川は浄化スプレーを周囲に撒き。水霊たちから伸びて来る手を撃退していた。

「これは、ヤバイ……どうなっているんだ……」峯川の声に焦りが滲む。

 

 これほどの数の水霊が現れるのは予想外だった。

星川が冷静に分析する「あの石積みも結界だったんだ……でも、その先を超えた事で霊が集まって来たんだ」

 祐一も同意する「あの石積みが目印で、霊があまり近寄らなかったのかもしれない」


「完全に霊のテリトリーに踏み入れたという事か……」小川が険しい表情で続ける。

「それに彷徨っていた悪霊たちが、動き出した可能性もある」水面から、さらに多くの手が伸びてくる。

 結界の外側で、霊たちが、うごめいている。


「このままじゃヤバイ!」様子を見ていた織田が叫ぶ。

 

祐一は素早く判断し「撤退しよう。今すぐだ!」

 バッグから橘美紀の霊符を取り出し、水面に向かって投げた。

 霊府が朱雀に変化し水面から姿を現している水霊たちを浄化の炎で次々と焼き尽くして行く。


 「今のうちだ、みんな走れ!」一行は一斉に来た道を駆け戻り始める。

 背後から、水音と、何かが引きずられるような不気味な音が聞こえてくる。

 

 追ってくる――。

 

全員が必死に走り石積みの祠を通り過ぎると、追撃が、止まった様だった。


 「……追ってこないわ?」鮎川が息を切らしながら振り返る。

 水霊たちは、祠のある場所を境界に先へは進んでこなかった。

「多分……」祐一が息を整えながら言った。

「どうやら、この石積みの祠が結界になって居るんだ。だから一部の霊しか、ここには現れなかったんだ。」

 広末が膝に手をつき、深く息を吐く。

「……危なかった。あのまま川に入っていたら……」

「ありがとう、鮎川さん。止めてくれて」鮎川が広末の肩を軽く叩く。


 祐一は川の上流を見据えて眺めた。

この山と川には、想像以上に深い闇が潜んでいる様だ。

「……一旦、拠点に戻ろう」祐一の言葉に、メンバー全員が頷いた。

 

 調査は続く。だが、今はまず態勢を立て直す必要があった。


***一年生たちの独断行動***


 その頃、拠点で待機していた一年生の山田、林、斎藤の数名は、テントの陰で密かに話し合っていた。

「先輩たちだけが凄いわけじゃない」山田が周囲を見回しながら、小声で仲間に語りかける。

「僕たちもオカルト研究会だし、これまでトレーニングしてきたんだ」

「でも……部長たちは、あれだけ苦戦したって……」林が不安そうに話す。


「大丈夫だよ。田中部長たち先輩が言っていた、浄化グッズを埋設した場所まで見に行くだけだ」山田が自信ありげに答えた。「あそこまでなら、浄化されているはずだろう? それに、昨日の対峙でかなりの悪霊が消えたって聞いたし」

「確かに……調査の経験を積むには、いい機会かもね」斎藤が頷いた。


「よし、じゃあ行こう。先輩たちが戻ってくる前に、ちょっと見てくるだけだ」山田が立ち上がり、装備を確認する。

 

 浄化スプレー、お香、魔よけのお守り――基本的な道具は揃っていた。

「岡村は?」

「彼は残るって。誰かが拠点にいないとまずいからって」林が答える。


「そうか。じゃあ、行こう」山田を含む1年生、林、斎藤は、周囲の目を盗んで結界の境界をそっと越え、山道へと足を踏み入れていった。


 昨日、祐一たちが通った道だった

木々の間を進むと、確かに空気が重くなっていくのを感じた。

「……やっぱり、普通の山じゃないね」林が呟く。

「でも、昨日よりはマシな気がする。浄化グッズの効果だろう」山田が前を向いて歩き続ける。

 十分ほど登ったところで、地面に埋設された浄化グッズの目印を見つけた。

「ここだ。先輩たちが設置した場所」周囲を見渡す。


確かに、ここまでは比較的穏やかな気配だった。

「写真を撮っておこう。証拠になる」林がスマホを取り出し、周囲を撮影し始める。

 だが、その時だった。

 

 ざわり――。木々が揺れた。風ではなかった。

「……何か、いる」山田の声が震えた。

 

 木立の向こう、影が動いた。林、斎藤が身構える。

だが、それは、猫だった。


「なんだ、脅かすな」と、林がほっとした声で答える。


山田が「よし、先に進もう」と、号令を出し、さらに山の奥へと向かった。



だが彼らは、周囲からじっ見つめている黒い影には、気付いていなかった。



***一年生たちの遭遇***

 

 山田、林、斎藤の三人は、さらに山の奥へと進んでいった。

木々が密集し、日差しがほとんど届かなくなっている。空気は冷たく、重い。

「……なんか、さっきより雰囲気が変わってきたね」斎藤が不安そうに周囲を見回す。


「大丈夫だって。浄化グッズのおかげで、悪霊も弱ってるはずだから」山田が強がるように答える。

 

 さらに五分ほど進んだところで――。

 

 前方に、黒い影が立っていた。

 人の形をしているが、輪郭が曖昧で、揺らめいている。


 「……っ!」三人が同時に足を止めた。

 

 黒い影は、こちらをじっと見つめていた。

 

 感情のない、虚ろな視線。

「や、山田……あれ……」林の声が震える。


「わ、分かってる……」山田は震える手で、バッグから春香の札を取り出した。

 

 田中部長が「緊急時に使え」と渡してくれたものだ。


 「えいっ!」山田が札を黒い影に向かって投げた。

 札は光を放ち、影に命中する。

 

 ジュウッ――という音とともに、黒い影が光に包まれ、悲鳴のような音を上げて消滅した。

 静寂が戻った。


 「……や、やった!」山田が拳を握りしめる。


 「すごい、山田! 悪霊を倒したよ!」林が興奮気味に叫ぶ。


 「やっぱり、僕たちでもできるんだ!」斎藤も笑顔を浮かべた。

 三人は安堵と達成感で、ハイタッチを交わす。


 「これで証明できたね。僕たちも、ちゃんと戦えるって」

「ああ。先輩たちに報告したら、きっと驚くぞ」

 

 だが――。

 彼らは気づいていなかった。

木々の陰から、さらに多くの黒い影が、じっと彼らを見つめていることに。

 

一体、二体、三体……十体以上。


そして、ゆっくりと、包囲するように近づいてきていることに。


 ざわり。木々が揺れた。

 

 今度は、風ではなかった。

「……え?」山田が周囲を見回す。

 そして、凍りついた。

 

 四方八方から、黒い影が現れていた。

「う、嘘だろ……こんなに……」

 林の顔が蒼白になる。

「に、逃げよう!」斎藤が叫ぶ。

 三人は慌てて来た道を駆け下り始めた。

 背後から、重い気配が追ってくる。

 一体倒しただけで、調子に乗りすぎた。

 

 ここは、まだ彼らが来るべき場所ではなかった――。


***一年生たちの危機***


「やばい!」山田が声を上げた。

 帰り道にも、黒い影が塞ぐように現れていた。

 

前からも後ろからも、そして左右からも――完全に囲まれている。

「ど、どうする……」林の声が震える。


「こ、これを使うしかない!」斎藤が震える手で、バッグから橘美紀の霊符を取り出した。

 部長から「本当の緊急時にだけ使え」と厳重に言われていたものだ。

「いくぞ!」

 

 斎藤が、帰り道を塞いでいる黒い影に向かって霊符を放った。

 霊符は空中で光り輝き――朱雀へと変化した。

 

 炎の鳥が雄叫びを上げ、黒い影たちを浄化の炎で次々と焼き払っていく。

 影たちは悲鳴を上げながら消滅していった。

「今のうちに、早く……山を下りよう!」林が叫んだ。


 朱雀が切り開いた道を、三人は必死に駆け抜けた。

 だが、朱雀の炎も永遠には続かなかった。


 次第に光が弱まり、再び黒い影が集まり始める。

「くそっ、まだ追ってくる!」


 山田が後ろを振り返りながら叫ぶ。

「浄化スプレーを撒け!」斎藤が走りながら浄化スプレーを後方に撒く。

 白い霧が立ち込め、黒い影たちの動きが一瞬鈍る。

「もう少し……もう少しで浄化グッズの埋設地点だ!」林が前方を指差す。

 三人は最後の力を振り絞って走った。


 息が切れ、足が重い。

だが、止まるわけにはいかなかった。


 そして――。


 浄化グッズが埋設されたエリアに入った瞬間、追撃が止まった。

 黒い影たちは、そこから先へは進んでこなかった。

「はぁ……はぁ……」

 三人は地面に倒れ込み、荒い息を繰り返す。

「た、助かった……」山田が震える声で呟いた。


「もう……二度とこんな無茶はしない……」林が涙目で答える。

「田中部長たちに……怒られる……」斎藤が力なく笑った。

 

 三人は、自分たちの未熟さを痛感していた。

 春香の札も、橘さんの霊符も使い果たしてしまった。

 

もし、あの札がなければ――。


 考えたくもなかった。

「……とにかく、拠点に戻ろう」山田がよろよろと立ち上がる。

 三人は、重い足取りで山を下り始めた。

 

拠点に戻ったら、きっと部長に叱られる。


でも、それでも――生きて戻れただけ、幸運だったのかもしれない。


***予想外の事態***


 三人はゆっくりと、ほっとした足取りで山を下りていった。


 浄化グッズが埋設されたエリアに入れば、もう安全なはずだった。


 だが――。


 ざわり。


 またしても、木々が揺れた。そして、目の前に黒い影が現れた。


「そ、そんな……ここは、安全なはずじゃなかったのか!?」山田が絶望的な声を上げる。


「浄化グッズがあっても……完全じゃないのか……」林が青ざめる。


 斎藤が慌ててバッグを漁る。

「霊符は……残ってるのは、通常の霊符が十枚程度だけだ……」


「それしかないなら、使うしかない!」山田が叫んだ。


 三人は走りながら、霊符を黒い影に向けて投げ始めた。


 一枚――影が一体、光に包まれて消える。


 二枚――また一体が浄化される。


 三枚――。


「くそっ、次から次へと……」


 霊符の数が、確実に減っていく。


 四枚、五枚、六枚――。


 背後からも、横からも、黒い影が追ってくる。


「あと四枚しかない!」斎藤が叫ぶ。


「拠点まで……あとどれくらいだ!?」林が必死に前方を見据える。


 七枚――。


 八枚――。


 影は尽きない。


「もうダメだ……」


 山田が絶望しかけたその時――。


 空気が、少し変わった。


「これは……岩の結界だ!」


 斎藤が気づく。祐一と春香たちが儀式を行った岩の結界のエリアに入ったのだ。


 黒い影たちの動きが、明らかに鈍くなり始める。


「今だ、走れ!」三人は最後の力を振り絞って駆け抜ける。


 九枚目の霊符を投げ――。


 十枚目、最後の霊符を後方に投げた。


 光が弾け、追ってきた影が留まる。


 そして、視界が開けると、岩のある空き地、拠点が見えた。


「着いた……!」


 三人は結界の内側に転がり込んだ。


 その瞬間、追ってきた黒い影たちは、ぴたりと止まった。


 結界の境界を越えることができない。

影たちは、恨めしそうにこちらを見つめていたが、やがてゆっくりと山の闇へと消えていった。


「はぁ……はぁ……はぁ……」三人は地面に倒れ込み、荒い息を繰り返した。


 霊符は全て使い果たした。


 もし、あと少し遠かったら――。


 もし岩の結界がなかったら――。考えるだけで、背筋が凍った。


「……生きて、帰れた……」山田が震える声で呟いた。


 戻ると拠点は、変わらない様子で誰も気づいていなかった様だった。


 祐一たちは、まだ河川の調査から戻っていない。

三人は、重い沈黙の中で、部長たちの帰りを待つしかなかった。


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