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オカルト研究部 田中祐一 今日も怪異あり  作者: waku


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河川調査チーム

 祐一達が山に登っている頃、別のチームは、河川の調査に出掛けていた。

比較的、平坦で何もない事から数名での簡単な調査だった。

一方その頃――。


山の反対側を流れる河川沿いでは、広末摩耶、鮎川、織田の三人が調査を続けていた。

川幅はそれほど広くない。だが、水は山の影を映し込み、底知れない色を帯びてゆったりと流れている。せせらぎは穏やかなはずなのに、耳に残る音だけが妙に重かった。


「……特別、おかしな所はなさそうね」


 そう言いながらも、鮎川はしゃがみ込み、じっと川面を覗き込んでいた。水の揺らぎに、自分たちとは違う何かの視線を感じたからだ。


「もう少し、上流に向かってみましょう」


 広末の提案に、二人は無言で頷く。

川沿いの道を踏み分けながら進むと、空気が少しずつ冷えていくのが分かった。


 十五分ほど歩いたところで、織田が足を止めた。


「……あれ、見てください」


 川岸の一角。苔に覆われた石が、不自然なほど整然と積み上げられている。


「自然に崩れた感じじゃないな……誰かが、意図して積んだものだ」


「かなり古そうね」


 広末が近づきかけて、ふと足を止める。


「何かを……祀っていたのかもしれないわ」


 その言葉に、三人の間に沈黙が落ちた。


「部長が言ってましたよね。――不用意に触るな、深入りするなって」

織田の声は低く、慎重だった。


「この山だけじゃない。この川も……同じ何かを抱えてるのかも」


 鮎川がカメラを構え、石積みを撮影する。シャッター音がやけに大きく響いた、その直後だった。


 ちゃぷん――。


 三人は一斉に水辺へ視線を走らせる。

 だが、水面には波紋だけが広がり、そこには何もない。


「……今日は、ここまでにしましょう」


 広末が静かに言った。


「簡単に場を清めて、一旦引き上げるわ」


 バッグから取り出したお香に火を点けると、白い煙が細く立ち昇り、川風に流されていく。

その匂いに紛れるように、湿った土と鉄のような、得体の知れない匂いが鼻をかすめた。


 その時だった。


「……っ!」


 織田が思わず声を詰まらせ、川辺を指差す。


「今……水の中に……人の、顔が……」


 水面のすぐ下。

一瞬だけ、こちらを見上げる何かが、確かに存在していた。


「織田くん、どこ!?」


 鮎川が慌ててカメラを向ける。しかし、ファインダーに映るのは揺れる水と石だけだった。


「……もう、いない」


「ひとまず、引き返しましょう」


 鮎川が息を整えながら言う。

「今回は、河川ルートの簡易チェックが目的。これ以上は、役割を越えてるわ」


「ええ。私たちだけで対処できる相手じゃないかも」広末の言葉に、織田も強く頷いた。


 帰路は、来た時よりもずっと静かだった。

 広末は進むごとに間隔を空け塩を取り出し、後方へと撒いて行く。


「これで簡易的なお祓いと結界になる。……少なくとも、簡単には追って来られない筈」


 その言葉を裏切るように――。


 ちゃぷん。


 また、水音がした。


「……まだ、いる」織田の声が震える。


「水の中を……並走してるみたいだ……」


「走るわよ」


 三人は小走りになり、やがて全力で岩のある空き地――拠点へと駆け戻った。


 息を切らしながら境界を越えた瞬間、不思議と背後の気配が途切れる。

 水音も、もう聞こえない。


 ようやく三人は、深く息を吐いた。


***岩のある拠点***


 三人が辿り着いた拠点は、河川から少し離れた小高い山の麓の空き地だった。

岩が配置され、自然の地形そのものが結界の役割を果たしている様に感じられた。


「……ここまで来れば、大丈夫よね」広末の声は安堵の声になっていた。


 この場所は、事前に祐一と春香たちが入念な浄化と封印を施していた。

外とは別世界のように、空気が澄み、胸の奥にあった重さがゆっくりと薄れていった。


「助かった……」織田が空き地に入り苦笑する。「この結界、本当に効いてますね」


「春香さんの力よ。追って来た気配が消えたのも、そのお陰」鮎川が周囲を見渡しながら頷いた。


 そこへ、拠点で待機していた一年生が駆け寄ってくる。


「早いですね。もう調査は終わったんですか?」


「ええ。予定より早いけど……」


 広末はカメラとノートを確認し、表情を引き締めた。


「重要な発見があったわ。上流に、古い石積み。それと――水に関係する霊的存在の気配」


「……え」


 一年生が息を呑む。


「大丈夫。この結界内なら安全よ」


 鮎川の言葉に、少しだけ肩の力が抜けた。


「それより、山側のチームは?」


「まだ戻っていません。連絡も……」


 織田が腕時計を見る。


「時間的には、そろそろのはずだけど」


 三人は同時に山の方角を見上げた。

 夕日が稜線に沈み、山影がゆっくりと濃くなっていく。


「……無事だといいわね」


 広末の呟きが、結界に守られた静寂の中に、かすかに溶けていった。


 空き地にはすでにいくつものテントが張られ、端には簡易トイレも設置されていた。地面にはソーラーライトが等間隔に並べられ、薄暗くなり始めた空の下で、淡い光を放っている。

 夜に備えた準備は万全だった。


 念のため、結界の内側では魔よけのお香が焚かれ始め、白い煙がゆっくりと岩の間を漂っていく。その香りは心を落ち着かせる一方で、この場所が“普通ではない”ことを静かに主張していた。


 中央では、夜ごはんのバーベキューの準備も進んでいる。網や炭が並べられ、食材の入ったクーラーボックスが開かれる様子だけを見れば、山中でのキャンプを楽しむ学生グループのようにも見えた。


 だが、その笑顔の裏で交わされる会話は、霊的存在、結界、封印、異変――。

 彼らがここに集まった目的は、娯楽でも合宿でもない。


 この空き地は、束の間の休息を許す拠点であると同時に、得体の知れない何かを調べ、対峙するための最前線だった。


***山からの帰還***


 その頃、祐一たち山の調査グループは、元来た道を慎重に辿りながら下山していた。

 歩みは決して速くない。要所要所で足を止め、余った浄化グッズを追加で設置しながら、周囲の気配を確かめるように山を下っていく。


「この山自体は、それほど広くない」峯川が、地形を確認しながら言った。

「標高もせいぜい百五十メートル前後。登ってきた方位を意識して降りれば、人里に出られる。道に迷う心配は、普通ならないはずだ」それに対して、星川が慎重な口調で返す。


「普通の山なら、ね。でも今回は霊的な影響を考慮しないといけない。地形的な安全と、霊的な安全は、必ずしも一致しないから」


 その言葉に、祐一も頷いた。

「今日の調査が昼間だったのは、不幸中の幸いだと思う。日が暮れていたら……同じ判断ができたか分からない」


 足元に視線を落としながら、続ける。


「浄化グッズを埋設して、どれだけ山全体の磁場が整うかは正直未知数だ。でも、何もしないよりは……霊的な影響を多少なりとも和らげられればいいんだけど」


「確かに……」小川が低く息を吐いた。


「ずっと、重たい気が山全体に溜まっている感じがする。一人で来るなんて、とても無理だ」


 立ち止まり、木々の間を見渡す。

「重い気が強い場所には、応急的に魔法で浄化をかけてるけど……正直、キリがない。触れてはいけない何かが、この山にはある気がする」


「うん……私も同じことを感じてる」松井あゆみが静かに同意する「場所によっては、空気が一段沈むというか……ここに長く留まったら、引きずられそうな感じがする」


 一行は言葉少なに、再び歩き出す。

 山は静かだった。だがその静けさは、安らぎではなく、何かを潜ませた沈黙のように感じられた。


***山の調査班 下山と撤退***


 祐一たち山の調査グループは、来た道を慎重に辿りながら下山していた。

 要所要所で足を止め、余った浄化グッズを埋設し、山に溜まった歪んだ気配を少しでも和らげていく。


「この山自体は、それほど広くない」


 峯川が地形を確認しながら言う。


「標高も百五十メートル前後。普通なら、方位を意識して下りれば迷うことはない」


「普通の山なら、ね」星川が慎重に返した。「霊的な影響を考えると、地形の安全と一致しないリスクもある」


祐一も同意するように頷く。「昼間の調査で助かった。日が暮れていたら、状況は全然違ったはずだ」


 だが、重い気配は下山中も消えなかった。

 場所によっては空気が沈み込み、触れてはいけない“層”があることを、全員が感じ取っていた。


 岩のある空き地まで、残り十分ほどの地点まで下りてきた時だった。


「ここで一度、態勢を整えよう」祐一が提案する。


「残っている浄化グッズも、使えるだけ使っていこう。次の調査のためにも有利に働くだろう」


 星川も頷いた、その瞬間――。

空気が、圧し潰されるように重くなった。


「……何か近づいて来る!」星川は即座に周囲の地面に水晶玉を設置し、結界を張る。

「全員、結界の中へ!」


 小川はワンドを引き取り出し抜攻撃魔法の詠唱に入った。


 松井あゆみは周囲を見渡し告げる「囲まれてる……四方から来てるわ」


 峯川は浄化スプレーを構え、接近に備える。

やがて、黒い影の怨霊が姿を現した。

 人の形を模してはいるが、感情だけが凝縮された存在。


 星川の放った光のエネルギーが直撃し、怨霊は雄たけびと共に消滅する。


「終わりじゃない、まだ来る!」


 祐一も霊力を込め、霊光の弾を放つ。

 

次々と現れる悪霊は浄化されるが、数は尽きなかった。


 二十分以上、悪霊との戦いが続いた。


「キリがない……」峯川が息を切らす「でも、思っていたよりなんとかなっている。途中で埋設した浄化グッズの効果だ」


「確かに」小川も同意する。「動きも遅い。本来の力じゃない」


 さらに三十分が経過し、日が傾き始める。

「……このままだと、日没を迎える」祐一は決断する。

香炉と魔よけのお香を焚き、霊府を次々と投げて悪霊を浄化する。


「突破する為に春香さんの札と、橘さんの霊府を使う」


 一瞬、空気が張り詰めた。


「その後、撤退する。全員、魔よけのコートを着用」


 メンバーは魔よけの呪文が描かれたレインコートを羽織り、備える。


 祐一が橘美紀の朱雀の札を放つと炎の朱雀へと変じ、悪霊を焼き払っていった。


「今の隙に下りよう!」一行は朱雀が悪霊達を切り開いてできた場を通り山道を駆け下りた。


  十分ほど進むと、再び重い気配が迫って来た。

祐一が春香の札を取り出し、悪霊の迫る方向に向けて放つと、

強烈な霊光が周囲を照らし、悪霊を一掃した。


 「今のうちだ」星川が合図を送る


 さらに下りていくと、また気配が近づいて来た。


「……あと少しだ……」祐一が前を向いて走る中、松井あゆみが限界の声を上げた。


「もうダメ。追いつかれる……そこまで来てるわ!」


 だが、次の瞬間、追撃は、そこで止まった。


 あれほど執拗だった悪霊たちは、ある地点から一歩も踏み込んでこなかった。


「……追ってこない?」小川と峯川が警戒するが、気配は境界線の向こうで留まっていた。


「多分……」祐一が気づいたように言う。


「岩の結界だ。ここから先は、あいつらは入れない」


 さらに五十メートルほど下ると、視界が開けた。


 岩に囲まれた空き地――結界に守られた拠点が、静かに彼らを迎え入れた。

「岩の結界に守られている」祐一たちは、ようやく安堵の息を吐いた。


 だが同時に、全員が理解していた。

 この山には、まだ終わっていない何かが残っている事を。



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