山根にある空き地の調査
春香のお寺で写経を行ってからしばらく経った頃、さくらからある相談を持ち掛けられた
***相談***
春香のお寺で写経を行ってからしばらく経った頃、
つばき壮の裏庭カフェで祐一がお茶を飲んでいた。
「ねえ、祐一くん」さくらが話しかけて来た。「実は、相談があるんだけど……」
「相談?」
「うん。私の同級生の大原由美ちゃんからなんだけどさ」さくらが説明し始める。
「由美ちゃんの家の近くに、空き地があるらしいんだけど……」
「空き地?」
「うん。元々は畑だったみたいなんだけど、今は誰の所有地かも分からなくて」
さくらが続ける。
「その空き地から、なんとなく不穏な空気……不気味な空気が流れてるらしいの」
「不穏な空気か……」祐一が真剣な表情になる。
「由美ちゃんは、その空き地の近くを通学路として毎日自転車で通ってるんだけど……」
「毎日、通っているんだ……」
「うん。それで、最近すごく不安を感じているって」さくらが心配そうに言う。
「近所の人たちも、その道を通るのが怖いって言ってるらしいの」
「何かあるのかも……」祐一が考え込む。
「それで、祐一くんに問題を解決できないかって……」
「分かった調べてみよう」祐一が頷く「一度、その場所を見に行ってみよう」
「本当!?」
「それから詳しく話を由美さんから聞かせてもらわないと」
***由美の家へ***
翌日、祐一の軽バンが、山の麓へ向かっていた。
「由美ちゃんの家、この辺だ」さくらがカーナビを確認する。
「ああ。小高い山の側だって言ってたね」「うん。あ、あそこ、橋を渡って」さくらが指差す。
車が1台通れる小さな橋を渡って少し進むと住宅が見えた。
家の前にある向かいの空き地に車を停め、玄関に前に行く。
「こんにちは」さくらがインターフォンを押し話しかける。
少し経ってから玄関から、一人の女子学生が出てきた。大原由美だった。
「さくらちゃん、それに……」
「紹介するね。田中祐一くん。オカルト研究会の会長で、こういう問題に詳しいの」
「初めまして。大原由美です」由美が頭を下げる。「よろしくお願いします」
「初めまして。田中祐一です」祐一も頭を下げ「まず、詳しく状況を聞かせてもらえますか?」
「はい。中へどうぞ」由美が二人を家に招き入れる。
リビングで、由美が説明を始めた。
「その空き地は、ここから徒歩で五分くらいの所にあります」
由美が説明する。「元々は、畑だったみたいなんですけど……」
「今は?」
「誰の所有地かも分からなくなってて、完全に放置されてるんです」由美が続ける「雑草も雑木も伸び放題で……」
「それで、不穏な空気を感じると」
「はい……」由美が不安そうに頷く。
「特に夕方になると、あの辺りの空気が重くなるんです」
「夕方に……」祐一がメモを取る。
「近所の人たちも、同じように感じてるんですか?」
「はい。特にお年寄りの方々が、あそこを通るのは良くないって……」
「なるほど……」祐一が考える。
「それで、その場所の整備とお清めと調査を、僕に依頼したいということですね」
「はい! お願いできますか?」由美が真剣な表情で言う。
「分かりました。引き受けます」祐一が頷いた。
「まずは、現場を見に行こう」
***現場調査***
三人は、空き地へ向かった。
徒歩で五分程進むと、「……あそこです」由美が指差す。
確かに、空き地があった。
「これは……」祐一が驚く。完全にジャングルと化していた。
雑草が人の背丈以上に伸び、雑木が鬱蒼と茂っている。
「ひどい状態だね……」さくらが呟いた。
祐一が、空き地に近づく。「……」確かに重い感じがし、不穏な気配が漂っていた。
「祐一くん……」さくらが不安そうに言う「何か、感じる?」
「うん……」祐一が頷く「確かに、普通じゃない感じだ」祐一が周囲を見渡す。
「まず、この雑草と雑木を伐採しないと、調査もできないな」
「伐採……?」
「うん。これだけ茂ってると、中の状態が分からない」祐一が乗って来た軽バンに戻り道具を取ってくる。
***伐採作業***
のこぎりと枝切りハサミ、鎌を取り出し、空き地に戻って来た。
「じゃあ、始めようか」祐一が軍手を付けて空き地に入っていった。
「私も手伝います!」由美が声を掛ける。「私も」と、さくらも続いた。
「ありがとう。じゃあ、枝切りハサミで雑草を刈ってくれる?」
「はい」三人で作業を始める。
祐一は、のこぎりで雑木を切り倒していく。ギコギコギコ……
一本。二本。
さくらと由美は、枝切りハサミで枝と雑草を刈っていくのを手伝う。
ザクザクザク……
「うわあ……」さくらが驚く「すごい量だね」
「本当に……そうね」由美も汗を拭く。
一時間。二時間。
「……ふう」祐一が額の汗を拭う。「一旦、休憩しよう」
「うん……」三人は、祐一の軽バンへ戻る。
祐一がクーラーボックスからドリングを取り出す。「お茶を」
「ありがとうございます」由美が受け取る。「元々、畑だったみたいだけど……」
さくらが空き地を見ながら言う。「本当にジャングルになってるね」
「本当にそうですね……」由美が疲れた様子で答える。「思ってる以上にです……」
「うん。でも、少しは開けてきたよ」祐一が答える。確かに、入口付近はかなり開けていた。
雑木も何本か伐採し、視界が少し良くなっている。
「このペースで行けば、今日中にある程度は目途が付きそうだ」
「本当ですか?」
「うん。午後も頑張ろう」祐一が立ち上がった「休憩は終わり。続けよう」
「はい!」三人は、再び作業に戻った。
***岩の発見***
休憩しながら作業を続けて午後四時を過ぎた。
「……やっと、奥まで見えてきた」祐一が呟く。
空き地の大部分が、開けてきた。切り倒した雑木や刈った雑草は、端に積み上げてある。
「祐一くん」さくらが声をかける。
「奥に、何かある」
「え?」祐一が奥を見ると、大きな塊が見えた。
「行ってみよう」三人が草をかき分けて近づくと数メートルの岩があった。
「岩……?」由美が驚く。
「こんなものが、あったなんて……」
祐一が岩に近づくと、何か文字が、刻まれている様だった。
「『供養……』」祐一が読む。「供養?」
「ああ……これは」祐一が周囲を見渡した。「もしかして、ここは昔……」
その時、風が通り抜け一瞬冷たく感じられたなった。「!」三人が身を固めた。
「祐一くん……」さくらが震える声で言う。
「何か……感じる……」祐一が話す。
この石碑の周りを見渡し「……やっぱり」祐一が呟いた。「この空き地、ただの空き地じゃないかもしれないね」
祐一が由美を見て「大原さん、この土地の歴史、何か知ってますか?」
「え……いえ、私は……」由美が戸惑う。
「でも、母が知ってるかもしれません」「なるほど……」祐一が考え込んだ。
「今日はここまでにしよう」
「え?」
「まず、この土地の事を調べてみる必要がある」祐一が真剣な表情で話す。
「それから、本格的な浄化を行おう」
「分かりました……」三人は、一旦、空き地を後にした。
祐一は振り返り、岩をもう一度見つめた「……何かの封印かもしれない」祐一は心の中で呟いた。
空き地には、夕日が差し込んでいた。
そして、岩が、静かにそこに佇んでいた。
***由美の母からの話***
その夜、三人は由美の家に泊まることになった。
夕食の後、リビングでお茶を飲みながら、祐一は由美の母親に例の空き地について尋ねる。
「実は、あの空き地のことで少し調べていまして……昔のことをご存じでしたら、教えていただけますか?」
由美の母親は、少し懐かしそうに目を細めた。「ああ、あそこね。ずいぶん昔だけど……」
「もともとは、おばあさんが一人で畑をやっていたのよ」
「おばあさんが?」さくらが身を乗り出す。
「ええ。とても働き者でね。季節ごとに野菜を作っては、近所にも分けてくれていたわ」
「でも、そのおばあちゃんが亡くなってから、手入れする人がいなくなってしまって……」
由美が静かに言った。「それで、荒れ地になっちゃったんですね……」
「そうなの」母親は頷く。
「娘さんはお嫁に行って、ずっと遠くで暮らしているから、畑もそのまま」
「この辺りも高齢化が進んでいてね。他にも草むらや荒れ地は増えているの。だから、特別珍しいことでもないのよ」
祐一はメモを取りながら、ふと顔を上げた。
「そのおばあさんの事は分かりますか?」
母親は少し考えてから答える。
「名前は……確か、みよさんだったかしら」
「おじいさんの方は、近くの神社で神主をしていたって聞いたことがあるわ」
「ありがとうございます」祐一は、その内容を丁寧にノートに書き留めた。
***車中泊***
祐一は、車に戻り車中泊の準備を始めた。さくらは、由美の家に泊まる事になった。
軽バンの後部座席を倒してシートを広げ、簡易的な寝床を作った。車内灯の明かりの下、スマホとノートパソコンを並べて情報を整理していく。
「供養……封印……」祐一が呟きながら、地域の歴史について検索を続ける。
この地域の古い記録を調べていくと、いくつか気になる情報が見つかった。
「……江戸時代後期に、この辺りで疫病が流行したという記録がある」
祐一がノートに書き込む。
「それと……明治時代に山崩れがあって、何人か亡くなったらしい」
スマホの画面を見つめながら、祐一は考えを巡らせる。
「みよさんのおじいさんが神主だったということは……」
祐一が地域の神社について調べ始める。
「この近くの神社は……山王神社か」
祐一は、翌日その神社を訪ねることを決めた。
そして、もう一つ気になることがあった。
「あの岩の周りだけ、妙に草木の生え方が違っていた……」
祐一が今日撮影した写真を確認する。
確かに、岩の周囲だけ、植生が異なっているように見えた。
「何かのエネルギーが、集中しているのか……それとも、逆に避けているのか……」
その時、ふと車の外が静かすぎることに気づいた。
虫の声も、風の音も、何も聞こえない。
「……」祐一が窓の外を見ると、空き地の方から、かすかな光が見えた気がした。
「気のせい……か?」
祐一は、しばらく窓の外を見つめていたが、やがてカーテンを閉め、作業に戻った。
翌朝、早めに山王神社を訪ねて、神主さんから話を聞こう。
そして、あの岩についてもっと詳しく調べる必要がある。
祐一は、そう決めると、ノートパソコンを閉じた。
車内は、静かな暗闇に包まれていった。
***翌朝・山王神社へ***
翌朝七時。祐一が目を覚ますと、朝日が車内を照らしていた。
「……よし」祐一が身支度を整え、軽バンから降りる。
由美の家の方を見ると、すでに朝の準備をしているようだった。
祐一は、玄関のインターフォンを押す。
「おはようございます」由美が出てきた。
「おはようございます。今から、山王神社に行ってきます」
「山王神社に?」
「ええ。あの岩について、何か分かるかもしれないので」
「分かりました。気をつけて」
祐一は、軽バンで山王神社へ向かった。
ナビによると、ここから車で十分ほどの場所にあるらしい。
山道を登っていくと、森の中に小さな神社が見えてきた。
「……ここか」
祐一は、車を停めて、神社の境内に入る。
古びた石段を上がると、本殿が見えた。
「すみません」祐一が声をかける。
しばらくすると、六十代くらいの神主が出てきた。
「はい、どうされました?」
「初めまして。田中祐一と申します」祐一が頭を下げる。
「実は、この辺りの土地の歴史について、お聞きしたいことがあるのですが……」
神主は、祐一を境内の休憩所に案内した。
「それで、何をお知りになりたいので?」
「実は……」祐一が、昨日発見した岩のことを説明する。
神主は、祐一の話を聞きながら、何度か頷いていた。
「ああ……あの場所ですか」神主が深いため息をついた。
「実は、私もあの岩のことは知っています」
「ご存じなんですか!?」
「ええ……」神主が重い口を開いた。
「あれは、供養塔なんです」
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