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オカルト研究部 田中祐一 今日も怪異あり  作者: waku


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写経会の一日

祐一とさくらは春香のお寺の写経会に参加する事になった。

***春香のお寺へ***


休日の午前十時。

祐一の軽バンが、つばき壮を出発した。

「今日は、いい天気だね」助手席のさくらが、窓の外を眺める。

「ああ。写経日和だよ」祐一が微笑む。

「春香さんのお寺、楽しみだね」

「うん。さくらさんも、写経は初めて?」

「ええ。でも、興味があって」

さくらが少し緊張した様子で言う。

「祐一くんが、いつも写経会に参加してるって聞いて、私も行ってみたいなって」

「そっか。写経は、心を落ち着かせるのにいいんだ」

祐一が説明する。

「一文字一文字、丁寧に書いていくと、雑念が消えていく」

「へえ……」


 車は街を抜け郊外へ。山の麓に、春香のお寺が見えてくる。

「着いたよ」祐一が車を停める。

石段を登ると、立派な山門が見える。

「わあ……」

さくらが感嘆の声を上げる。

「立派なお寺だね」

「うん。春香さんの実家だからね」

二人は、境内へ入っていく。


 本堂の前で——

「あら」若い尼僧が、二人を出迎えた。春香だった。

「お久しぶりです、春香さん」祐一が頭を下げる。

「今日の写経会を、楽しみにしていました」

「お久しぶりですね、田中さん」


 春香が穏やかに微笑む。

「あれから、少しは成長されたみたいですね」

「え……?」

「以前より穏やかで……霊力も高まっています」春香が祐一をじっと見つめる。


「そうですか……」祐一が照れくさそうに笑う。

「まだまだ修行不足です」


「いえいえ」春香が首を振る。

「着実に、成長されていますよ」

「ありがとうございます」

「それで……」

春香が、さくらに視線を向ける。

「こちらは?」

「あ、同級生のさくらさんです」祐一が紹介する。

「今日は、写経会に一緒に参加したいということで」

「初めまして、さくらです」

さくらが丁寧に頭を下げる。

「よろしくお願いします」

「初めまして。春香です」春香が優しく微笑む。「写経は、初めてですか?」


「はい……」


「大丈夫ですよ。丁寧に教えますから」春香が本堂へ案内する。

「さあ、どうぞ。もうすぐ、他の参加者も来られます」


***写経会の始まり***


 本堂の中には、すでに数人の参加者が座っていた。

「それでは、皆さんがお揃いになりましたので、始めましょう」


春香が前に立つ。

「今日は、般若心経の写経を行います」春香が説明を始める。

「写経とは、お経を書き写すことです」

「ただ文字を写すのではなく、一文字一文字に心を込めて書きます」

「そうすることで、心が落ち着き、雑念が消えていきます」

参加者たちが、真剣に聞いている。


 「それでは、皆さん、準備してください」

机の上には、写経用紙、筆、墨が用意されている。

「まず、姿勢を正して」春香が実演する。

「深呼吸を三回」参加者たちが、一斉に深呼吸する。

「それでは、始めてください」


 静寂。


 本堂の中に、筆の音だけが響く。

祐一は、慣れた手つきで筆を動かしていく。

「摩訶般若波羅蜜多心経……」

一文字一文字、丁寧に。

心を込めて。


 隣では、さくらが少し緊張した様子で筆を持っている。

「……」さくらが、ゆっくりと文字を書き始める。

最初は、少し震えていた手が——

だんだんと、落ち着いてくる。


 祐一が、そっとさくらを見る。

さくらの表情は、真剣そのものだった。

時間が、ゆっくりと流れていく。

本堂の中は、穏やかな空気に包まれている。

三十分。

一時間。

「……」

祐一が、最後の一文字を書き終える。

「……ふう」筆を置く。

心が、とても穏やかになっている。

「祐一くん……」

さくらも、書き終えたようだ。

「どうだった?」

「うん……」さくらが微笑む。

「すごく、落ち着いた」


「そうだろう?」


「うん。最初は緊張してたけど……途中から、無心になれた」さくらが自分の写経を見つめる。

「不思議な感覚だった」


「それが、写経の効果だよ」祐一が優しく言う。


「それでは、皆さん」春香が声をかける。

「写経が終わった方は、こちらへお納めください」

参加者たちが、順番に写経を春香に渡していく。


祐一とさくらも、写経を納めた。「ありがとうございました」


春香が一礼する「皆さんの写経は、本堂に納めさせていただきます」


***境内の散策***


 写経会が終わり、参加者たちは解散した。

「春香さん、ありがとうございました」祐一が頭を下げる。

「いえいえ。また、いつでもいらしてください」春香が微笑む。

「それと……」

春香が少し真剣な表情になる。

「田中さん、少しお話があります」

「え?」

「さくらさんも、一緒にどうぞ」

春香が二人を、境内の奥へと案内する。


静かな庭園。池があり、鯉が泳いでいる。

「ここは……」

「私の、修行の場所です」春香が説明する。


「田中さん、最近、何か不思議なことはありませんでしたか?」

「不思議なこと……?」祐一が考える。


「……ああ、実は」祐一が、森の公園での出来事を話し始めた。

異次元の村、境界の封印。


「……そうでしたか」春香が真剣に聞いている。

「それは、異次元と繋がった世界のようですね」

「はい……」

「私も、色々とご相談を受けて、たまにそういった異次元と繋がった場所に出くわすことがあります」

春香が静かに語る。

「この世界と別の世界……あの世と繋がる場所もあります」


「あの世と……」祐一が息を呑む。


「ええ。田中さんが遭遇されたのは、まさにそういった場所だったのでしょう」

春香が続ける。

「これからの活動でも、そういった所に対して、十分お気をつけください」


「はい……気をつけます」祐一が頷く。

「最近は、青空市と大学周辺の調査活動やボランティア活動が主な活動になっています」


「青空市と大学周辺……」春香が考え込む。

「そうですね。やはり、そういった違和感のある場所は、どこか別世界と繋がっている可能性もありそうですね」


「やっぱり……」祐一が呟く。

「時々、妙な違和感を感じる場所があるんです」

「それは、田中さんの霊力が高まっているからです」春香が説明する。

「感じ取れる範囲が、広がっているのでしょう」


「そうなんですか……」

「ええ。霊的な存在も、別の世界と繋がっていることがあります」

春香が立ち上がる。


「少し、お待ちください」春香が本堂の方へ歩いていく。


数分後——春香が戻ってきた。


 手には、包みを持っている。

「田中さん、こちらのお経とお札をどうぞ」春香が包みを差し出す。


「これは……?」祐一が受け取る。

「より強力なお経とお札になります」


 春香が真剣な表情で言う。

「前回お渡ししたものより、強い結界を張ることができます」

「ありがとうございます」

祐一が深く頭を下げる。

「大切に使わせていただきます」

「それと……」

春香が、さくらに視線を向ける。

「さくらさん」

「はい?」

「あなたも、不思議な力を持っていますね」

「え……?」

さくらが驚く。

「私が……?」

「ええ。まだ、自覚はされていないようですが……」

春香が微笑む。

「あなたには、人を癒す力があります」

「癒す……力?」

「ええ。今日の写経でも、感じました」

春香が説明する。

「あなたの書いた文字には、温かい気が宿っていました」

「そんな……」さくらが戸惑う。


「大丈夫です。怖がることはありません」春香が優しく言う。

「その力は、人を助けるための力です」

「……」さくらが、自分の手を見つめる。


「田中さん」春香が祐一に言う。

「さくらさんを、大切にしてあげてください」

「え……あ、はい」祐一が照れながら答える。

「彼女は、あなたの良きパートナーになるでしょう」

春香が微笑む。


「二人で協力すれば、きっと多くの人を助けることができます」

祐一とさくらは、顔を見合わせる。

「……はい」二人は、同時に頷いた。

「それでは、またのお越しをお待ちしております」春香が一礼する。


「今日は、ありがとうございました」

祐一とさくらも、深く頭を下げた。


***帰路***


お寺を後にする。


「今日は、色々勉強になったね」祐一が車を運転しながら話す。

「うん……」さくらが窓の外を見つめている。

「私に、癒す力があるなんて……信じられない」

「でも、春香さんが言うなら、本当だよ」


 祐一が答える。

「春香さんは、そういうことを見抜く力がある人だから」

「そうなんだ……」さくらが自分の手を見る。

「でも、どうやって使えばいいんだろう……」

「きっと、必要な時が来れば、自然と分かるよ」祐一が微笑む。

「僕も、最初は自分の力をどう使えばいいか分からなかった」

「そうなの?」

「ああ。でも、色々な経験を通して、少しずつ分かってきたんだ」

祐一が続ける。

「だから、さくらさんも、焦らなくていい」

「……うん」さくらが微笑む。「ありがとう、祐一くん」


車は、つばき壮へと向かって走る。


「それにしても……」さくらが呟く。

「写経って、本当に心が落ち着くね」


「だろう?」

「うん。また、参加したいな」

「じゃあ、次回も一緒に行こう」

「うん!」

さくらが嬉しそうに笑う。

午後三時。

車は、つばき壮に到着した。

「ただいま」

「お帰りなさい」

寮が出迎える。

「どうだった? 写経会は」

「とても良かったです」

祐一が答える。

「さくらさんも、初めての写経を楽しんでくれました」

「そうか。良かったな」寮が微笑む。

「それと……」

祐一が真剣な表情で言う。

「春香さんから、興味深いお話を聞きました」

「興味深いお話?」

「はい。さくらさんには、癒しの力があるそうです」

「癒しの力……」寮が、さくらを見る。

「そうか……確かに、さくらさんには、そういう雰囲気があるな」

「え……?」さくらが驚く。


「寮さんも、分かるんですか?」


「ああ。なんとなくだけどな」寮が優しく微笑む。

「君がいると、周りが明るくなる気がする」

「そんな……」

「それが、君の力なんだよ」

寮が続ける。

「その力を、大切にしてくれ」

「……はい」さくらが頷く。


裏庭カフェで、三人はお茶を飲む。

「今日は、本当にいい一日だったね」


 祐一が呟く「うん」

さくらも頷く「写経も楽しかったし、春香さんのお話も勉強になった」

「これからも、一緒に色々なことを学んでいこう」

「うん!」二人は、微笑み合った。

新しい発見。新しい力。そして新しい絆。

今日の写経会は、二人にとって、大切な一日となった。

青い空の下、穏やかな時間が流れていく。

つばき壮の裏庭に、笑い声が響いていた。

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