山奥の公園 ―異次元への扉
祐一とさくらは、公園の探索をしていた。公園の秘密を調べる為に。
***隠された石碑***
祐一が草を払う。
そこには、もう一つ、小さな石碑があった。
草に隠れて、見えなかったのだ。
「これは……」
祐一が、石碑に手を近づける。
その瞬間——
ビリッ
「!」祐一が手を引く。
「祐一くん!」さくらが駆け寄る。
「大丈夫?」
「ああ……でも」
祐一が石碑を凝視する。「この石碑……強力な気を発している」
「気……?」
「ああ。かなり強い……それに」
祐一が石碑の文字を読もうとする。
しかし、文字は古すぎて、ほとんど読めない。
わずかに読めるのは「『境界……扉……』」祐一がたどたどしく読み上げる。
「境界の扉……?」さくらが首を傾げる。
その時、ゴゴゴゴ……
空気が、震え始めた。
「え……?」二人が顔を見合わせる。
神社の社殿が、淡く光り始める。
「祐一くん、あれ……!」
さくらが指差す。社殿の奥には、ぼんやりとした光の膜のようなものが見えた。
まるで、水面のように揺らめいている。
「これは……」
祐一が慎重に近づく。
「異次元への入口……?」
「異次元……?」
「ああ。この石碑が、境界を繋いでいるんだ」
祐一が振り返る。
「僕たちがここから出られなかったのは……」
「この境界のせい……?」
「そうだ。多分、僕たちは無意識のうちに、この異次元の影響を受けていたんだ」
その時、光の膜が、さらに大きく揺らめいた。
そして、向こう側に、何かが見えた。
「……村?」さくらが目を凝らす。
確かに、光の向こうに、村のような景色が見える。
古い木造の家々。
田んぼ。
畑。
そして、人々の姿。「人が……いる?」
祐一が驚く「でも、あの村……」
祐一が何かに気づいた。
「掲示板に書いてあった、土砂崩れで消えた村……」
「まさか……」さくらが息を呑む。
***失われた村***
祐一は、しばらく考えた。
「……行ってみよう」
「え、あの中に?」
「ああ。もしかしたら、ここから出られない理由が分かるかもしれない」
祐一が光の膜に手を伸ばす。
手が、すっと入っていく。
「大丈夫そうだ。さくらさん、僕の手を離さないで」
「う、うん……」さくらが祐一の手を強く握る。
二人は、ゆっくりと光の膜をくぐると、視界が、一瞬、真っ白になる。
そして気づくと、二人は村の入口に立っていた。
「……着いた」祐一が周囲を見渡す。
確かに、村だった。
古い木造の家々が並んでいる。
「静かだね……」さくらが呟く。
人の気配はあるのに、音がない。
鳥の声も、風の音も、聞こえない。
まるで、時間が止まっているような——
そんな、不思議な静けさだった。
「あ……」
その時、一人の老人が、家から出てきた。
老人は、二人を見て、微笑んだ。
「おや……久しぶりに、来客じゃな」
老人が穏やかな声で言う。
「あの……」
祐一が声をかける。
「ここは……どこですか?」
「ここ? ここは、森の村じゃよ」
老人が答える。
「森の村……?」
「ああ。わしらの、大切な村じゃ」
老人が優しく笑う。
「さあ、中へおいで。お茶でも飲んでいくとよい」
「あ、ありがとうございます……」
さくらが戸惑いながらも、老人について行く。
祐一も後に続く。
しかし、祐一は、心の中で違和感を感じていた。
この村。この人々。
何かが、おかしい違和感を覚えた。
***違和感***
老人の家に招かれ、二人は座敷に通された。
「さあ、どうぞ」老人が、お茶を出してくれる。
「ありがとうございます」さくらが受け取る。
しかし、祐一は、まだお茶に口をつけなかった。
「あの……」祐一が尋ねた。
「この村は、いつからここにあるんですか?」
「いつから……?」老人が首を傾げる。
「昔から、ずっとここにあるよ」
「昔から……」祐一が続ける。
「土砂崩れのことは、ご存知ですか?」
「土砂崩れ?」老人が、不思議そうな顔をする。
「ああ、そんなこともあったかのう……」
老人の表情が、一瞬、曇る。
「でも、わしらは、ここで平和に暮らしておる」
「平和に……」祐一が周囲を見渡す。
確かに、村は平和そうだった。
しかし時計が、止まっていた。
カレンダーも、古いままだった。
そして、
「あの……」さくらが小声で祐一に言う。
「この人たち……影が、薄い気がする……」
祐一も気づいていた。
この村の人々は、確かにそこにいる。
しかし、どこか実体感が薄い。
まるで「……そうか」祐一が理解する。
「この村は……」祐一が立ち上がる。
「すみません、僕たち、そろそろ戻らなければ」
「戻る? どこへ?」
老人が不思議そうに尋ねる。
「僕たちの……元の世界へ」
祐一が真剣な表情で答える。
「元の世界……?」
老人の表情が、また曇る。
「そうか……お前たちは、まだ『こちら側』の者ではないのじゃな」
「こちら側……?」
「ああ。わしらは……もう、長いこと、ここにおる」
老人が遠くを見る目をする。
「土砂崩れで、村が……そして、わしらも……」
老人の姿が、一瞬、揺らいだ。
「!」
さくらが驚く。
「祐一くん……」
「分かってる。さくらさん、行こう」
祐一がさくらの手を引く。
「待ちなさい」
老人が声をかける。
しかし、祐一は振り返らなかった。
「すみません! でも、僕たちは、戻らなければ!」
二人は、家を飛び出した。
村の入口へ、全速力で走る。
「待て!」
後ろから、村人たちの声が聞こえる。
しかし、二人は走り続けた。
そして、光の膜をくぐり抜けると視界が、また真っ白になった。
気づくと、二人は、神社の前に戻っていた。
***境界の封印***
「はあ……はあ……」
二人は、息を切らせる。
「祐一くん……あれは……」
「ああ……」祐一が頷く。
「あの村は……失われた村の、残像なんだ」
「残像……?」
「土砂崩れで消えた村。そこに住んでいた人々の……記憶や想いが、この異次元に残っているんだ」
祐一が石碑を見る。
「この石碑が、境界を繋いでいる。だから、僕たちは何度もここに戻されていた」
「じゃあ、どうすれば……」
「この境界を、封印するしかない」祐一が立ち上がる。
「車に、結界石を取りに行こう」
二人は、急いで駐車場へ戻った。車の後部から、布袋を取り出す。
「この結界石で……」
祐一が神社へ戻る。
そして、神社の周囲を見渡す。
「ここだ」祐一が、神社を中心に、四方に結界石を埋め始める。
東。西。南。北。
四つの石が、神社を囲むように配置された。
「さくらさん、少し離れて」
「うん……」
さくらが後ろに下がる。
祐一が中央に立ち、両手を広げる。
「天地四方、境界を閉ざせ」祐一が呪文を唱える。
「この世とあの世の狭間、今ここに封印せん」
結界石が、淡く光り始めた。
その光が、線となって繋がる。
神社を、四角形の光が囲む。
「封印!」祐一が手を振り下ろす。
光が、一瞬、眩しく輝いた。
そして静寂に包まれた。
社殿の奥にあった、光の膜が消えていた。
「……成功した」祐一が安堵の息を吐き「境界は、封印された」
さくらが近づく「本当に……?」
「ああ。もう、異次元には繋がっていない」
祐一が石碑を確認する。
強力な気も、感じられなくなった。
「これで……帰れるはずだ」二人は、神社を後にした。
***帰路へ***
車に戻り「さあ、もう一度試してみよう」
祐一がエンジンをかける。
カーナビを設定する。
「今度こそ……」
車は、ゆっくりと動き出した。
山道を下る。
木々の間を抜ける。
「……」
二人とも、息を呑んで前方を見つめる。
十分。
二十分。
「あ……」
さくらが声を上げる。
「舗装道路……」
前方に、見慣れた舗装道路が見えてきた。
「やった……!」
車は、山道を抜け、舗装道路へ出た。
「本当に……出られた!」
さくらが喜びの声を上げる。
「ああ……」
祐一も、ほっとした表情を浮かべる。
「封印が、うまくいったんだ」
車は、順調に走り続ける。
もう、公園に戻ることはなかった。
「良かった……」さくらが、涙ぐむ。「本当に、良かった……」
祐一が、ハンドルを握りながら「ああ。今度は無事に帰れる」
カーナビは、確かにつばき壮への道を示していた。
さくらがスマホを確認すると「あ、電波が戻ったみたい」画面を見る。
「着信が……何度も届いている、心配かけちゃったかな」
「うん。着いたら、すぐに連絡しよう」車は、街へと入っていく。
見慣れた景色「帰ってきた……」
さくらが、安堵のため息をついた。
「本当に、帰ってきたんだね」
午後一時。
祐一の軽バンは、つばき壮の駐車場に滑り込んだ。
「ただいま……」二人は、車を降りる。
つばき壮の玄関が開き——
「祐一くん!さくらさん!」寮が飛び出して来た。
「大丈夫だったか!? 連絡が取れなくて、みんな心配していたんだ!」
「すみません……」祐一が頭を下げる。
「山の中で、電波が届かなくて……」
「とにかく、無事で良かった」寮が安堵の表情を浮かべる。
「さあ、中に入って。詳しく話を聞かせてくれないか」
***報告***
二人は、つばき壮の中へ入っていった。
裏庭カフェで、温かいお茶が用意される。
「それで……何があったんだ?」寮が尋ねる。
祐一とさくらは、順番に話し始めた。
森の公園のこと。
何度も戻されたこと。
小さな神社を見つけたこと。
境界の石碑のこと。
そして——
異次元の村に入ったこと。
「……そんなことが」
寮が驚く。「異次元の村……失われた村の残像……」
「ええ。土砂崩れで消えた村の人々の想いが、あそこに残っていたんだと思います」
祐一が答える。
「それで、境界を封印したのか」
「はい。これで、もう誰もあの異次元に迷い込むことはないはずです」
「でも……」
寮が少し悲しそうな顔をする。「あの村の人たちは…………ずっとあの世界に留まっているのか」
祐一が空を見上げる。
「僕たちが封印したことは、正しかったのでしょうか?」
さくらも頷く。
「あの老人……最後、何か言いたそうな顔してたね」
「うん……」三人は、しばらく黙っていた。
「でも、二人とも、よく無事に帰ってこれて良かった」寮が微笑む。
「はい。祐一くんが、冷静に判断してくれたおかげです」
さくらが祐一を見る。
「いや……さくらさんも、よく頑張ってくれたよ」
祐一が照れくさそうに答える。
「さて」寮が立ち上がる。
「今日は、ゆっくり休もう。疲れているだろ?」
「はい……」
「それと」寮が真剣な顔で言う。
「この件、オカルト雑誌の記事にしてもいいかい」
「そうですね……」祐一が頷く。
「異次元の境界……村の出来事」
二人は、温かいお茶を飲みながら、ほっと一息ついた。
森の公園での出来事は、終わった。
あの失われた村の人々が、どうなったか?分からない。
そして、窓の外を見る。
青い空が、どこまでも広がっていた。
まるで、あの「青空神社」のように。
「……ねえ、祐一くん」さくらが呟く。
「また、青空神社に行きたいね」
「ああ……今度は、普通のドライブでね」二人は、微笑み合った。
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