広場での待機
祐一は広場で前田と國府田と待機していた。拠点で、寮たちの帰りを待ちながら周囲の異変にも気を配っていた。
祐一は、美紀から受けたアドバイスを思い出していた。彼女が言っていた言葉が、今、非常に重く響いていた。「霊的な場所では、常に準備が必要です。どんな小さな兆しも無視せず、守りの術を忘れないように」その言葉を胸に、祐一はバッグから取り出した小さな袋を開けた。その中には、美紀からもらった魔よけのお香が入っていた。
「よし、これを焚けば少しは安心できるだろう」と呟き、祐一はお香を立て始めた。香りが広がり、静かに空気を満たしていく。それと同時に、祐一は浄化スプレーも取り出して、オープンテントの周りにまんべんなく撒き始めた。霊的なものが寄りつきにくくなるように、そして一刻も早くこの場所の気を清めるために。
「これで少しでも、空間が落ち着いてくれれば」と思いながら、祐一は前田と國府田に声をかけた。「もしもの時は、神社で祈祷をしている山田さんを呼びに行きましょう。あの人なら、きっと力になってくれるはずです」
前田は肩をすくめ、のんびりと答える。「ま、霊山に来てこんなことで慌てても仕方ないよ。どんなことが起きても、どこかで繋がってるはずだし」彼は椅子にゆったりと腰をかけ、少しリラックスした表情を見せた。
それに対して、國府田もゆっくりと笑いながら言った。「まだ、大丈夫でしょう。霊的なトラブルなんて、ここにいる私たちには、もう日常的なことよ」
祐一は二人の余裕に少し驚きながら、言葉を続けた。「さすが、オカルト編集者の皆さんは、余裕ですね」その言葉に二人は顔を見合わせて笑った。
「まあ、どうしても怖くなる時もあるけどね」と、國府田が肩をすくめながら言った。「でもね、はっきり言って、私たちもどうしていいか分からないから、何もしないだけよ」その言葉には、皮肉や嘲笑の意味はなく、むしろ冷静であることが感じられた。
「そんなに余裕があるんですね?」と祐一が興味深そうに尋ねると、前田はゆっくりと答えた。「うん、だって、ここまで来て、いろんな現象を見てきたけど、結局、最終的には運もあるし、どんなに準備しても全てをコントロールできるわけじゃないから」
「それに、結局は何も無い、って思ってる方が気楽だしね」と、前田はにっこりと笑いながら続けた。「ただ…どうしても怖い時は、逃げるのが一番だよ」そう言って、前田は肩をすくめて大げさに手を広げて見せた。
「何か、凄い方法があるんじゃないんですか?」と祐一が尋ねると、前田はしばらく考えた後、あっさりと答えた。「何も無いよ。霊的なことに関して、確実な方法なんてない。あるとすれば、心の持ち方くらいかな」前田は軽く肩をすくめながら、言葉を続けた。「でも、もし何かが起きたら…その時は、その時だよ」
祐一はその言葉を聞き、少し安心したような気持ちになった。彼もまた、全てを知っているわけではないことを感じていたが、少なくとも今は冷静さを保つことが重要だということは理解できた。
***霊的な兆し***
お香の煙がゆっくりと空間に漂い、浄化スプレーの香りも交じり合い、広場の空気は次第に落ち着いていった。しかし、その時、ふと、空気が重くなったような気がした。風が吹き抜けたわけでもないのに、急に冷たい感覚が広場に広がり、祐一は背筋を伸ばした。
「何か…変じゃないですか?」と祐一が呟くと、前田もその空気を感じ取ったように顔をしかめた。「うん、なんだか…いや、違うかもしれないけど、感じるな。ちょっと不安になるような感じだ。」
その瞬間、再び、広場の端からかすかな物音が聞こえてきた。木々の中から、かすかに足音が聞こえるような気がする。それは人の足音ではないような、不規則で不安定な音だった。
「…また、あの音ですか?」と祐一が尋ねると、國府田が一瞬顔を曇らせた。「ええ、そうみたいね」
祐一はバッグの中を探り、美紀からもらった護符を慎重に取り出した。手の中に握りしめると、その小さな紙片がどこか温かく感じられる気がした。護符に込められた力を信じながらも、不安を完全に拭い去ることはできない。彼は小さな声でつぶやいた。
「これが効いてくれるといいんだけど…」
その様子を見ていた前田が静かに祐一の方に手を伸ばし、肩に軽く触れた。「祐一君、大丈夫だよ。少なくとも、このオープンテントの中にいる限りはね。」そう言って彼は、足元を指さした。「ここには魔法陣の結界シートを敷いてるから。急場をしのぐにはこれで十分」
「魔法陣の結界シート?」祐一は驚いて足元を見下ろした。言われてみれば、テントの地面には薄い布のようなものが敷かれており、その上には見慣れない模様が描かれていた。円形の模様には複雑なシンボルや文字が刻まれており、薄暗い光が漏れる中で微かに輝いているようにも見える。
「準備って大事だよね。でも、すぐに使うものでもないから、焦らずにいこう」前田は穏やかに笑みを浮かべながら続けた。「こういうのは、ギリギリまで温存するのが鉄則。奥の手は最後に使うもんさ」
その言葉に、祐一は一瞬肩の力を抜いた。自分がいかに緊張していたかを改めて感じ、護符を再びバッグにしまった。
「分かりました。でも、何かあったらすぐに教えてくださいね」祐一は軽く頭を下げ、気を引き締めるように深呼吸した。
國府田がそのやり取りを見ながら、少し笑って声をかけた。「前田さんがこう言うときは、本当にまだ大丈夫ってことよ。私もこれまで散々怖い目に遭ってきたけど彼が冷静でいる間は何とかなるから」
「頼りにしてますよ」祐一は、少し安心した表情で返事をした。
***迫りくる影***
しかし、そのとき、テントの外から再び物音が聞こえた。風が木々を揺らす音とも違い、低く不規則な音が響く。それは、何かが這いずるような、不気味な気配を感じさせるものだった。
祐一は顔をしかめてテントの入口を見つめた。「また、あの音ですね…」
「ええ、確かに聞こえる。」國府田が慎重にテントの外を伺うように耳を澄ませた。「でも、まだここには来ていないみたい。」
前田は、鞄から懐中電灯を取り出し、テントの外に向けて光を当てた。光の先には何も見えないが、確かにその音は続いている。「少し気味が悪いな。どこかで何かが動いているみたいだけど、正体は分からない。」
祐一は、またしても緊張感が戻ってくるのを感じた。「本当にこれで守り切れるんでしょうか…?」
前田は、護符のことを思い出したかのように言った。「ほら、さっきも言っただろう。まだ奥の手は使わない。焦らずに、冷静に状況を見極めるんだ」
その言葉を聞き、祐一はもう一度深く息を吸い込んだ。前田と國府田の落ち着きは、祐一の心にも少しずつ伝わり始めていた。だが、外の音が止む気配はなく、次第に音が近づいてくるようにも感じられる。
「とにかく、様子を見ながら、必要なら山田さんを呼びに行きましょう。」國府田が提案した。「でも、もう少しだけこの結界に頼ってみるべきね」
「分かりました。」祐一は頷きながら、周囲を見回した。
夜の静けさの中、不気味な音がテントの周辺を取り巻き始めているかのようだった。その音の正体が何なのか、彼らにはまだ分からない。しかし、3人は、それぞれの役割を胸に、冷静さを保ちながら事態を見守り続けていた。
夕暮れがそろそろ近づいて来る4時頃、前田は昼寝をしていた。一方、國府田は小説を読んでいた。
祐一は、緊張したまま周囲を警戒していた。
國府田が「そろそろ夕食の準備をしましょう」と料理の準備を始めた。
車の中に前もって準備していた食材を持ち出しオープンテントの近くに設置していた調理場で料理を作り始める。祐一も、國府田の手伝いを行った。
午後6時を回り、祐一は設置していたLED照明の明かりを灯して回る。
何か気配を感じていたが、前田と國府田のアドバイスを受け入れ、気にしないふりをした。
カレーの準備も整い、午後7時、3人は先に夕食を食べ始めた。
祐一は「こんなに待つ事が疲れるとは、思って無かったです。」と素直に感想を述べた。
前田は「そう、何も無い時間待つのが一番、疲れるんだ。だから、なるべく気分転換をする事が大切なんだ。食べ終わったら少し、休むといい。今夜は眠れないかも知れないからね」と、アドバイスをした。
國府田「暇な時は、十分に暇な時間を有意義に使う事も大切よ。ずっと、張り詰めていたら、後が続かないわ」と、続ける。
祐一は、食事が済んだ後、オープンテントにある寝袋に入り仮眠を取る事にした。
國府田に声を掛けられ、目を覚ますと1時間ほど眠っていた。
そろそろ、みんな帰って来る時間よ。とみんなの無事と祠の封印に成功した事を知らせた。
祐一は前田、國府田と共に広場で寮たちの帰還を待っていた。霊山の祠での封印が成功したという連絡は受けていたが、実際に彼らの姿を見るまで心配が消えることはなかった。
やがて、明かりが見え、近づいてくるのが見えた。広場の照明に移るメンバーたち寮、美紀、陽菜たちの疲れた顔が見えた時、國府田が安堵の声を上げた。「寮さん、みんな、無事で良かった!」その言葉に祐一も「美紀さん、大丈夫でしたか?」と声をかけると、美紀は疲れた笑顔で「大丈夫よ」と、小さくうなずいた。
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