寮との対話 ― 活動の限界と意義
祐一たちオカルト研究会はアパートの浄化に成功し
次の浄化活動について考えていた。寮にこれからの事について尋ねアドバイスを聞く事を祐一は決心した。
***つばき壮での報告***
その日の夜、つばき壮に戻った祐一は、寮の部屋を訪ねた。
寮は今回の調査には参加していなかったが、オカルト研究会の相談者的存在として、重要な案件は常に報告することにしていた。
「入ってくれ」寮の部屋は、いつものように本で埋め尽くされている。古文書、地図、郷土史の資料。それらが整然と、しかし大量に積み上げられていた。
「今日の調査、お疲れ様」寮がお茶を入れながら言う。
「報告したいことがあって」祐一は、今日の調査について詳しく説明した。
絵里子の部屋の浄化、二〇三号室での火災霊の成仏、霊道の封印、そして周辺調査で分かった旧墓地の存在。土地全体に問題が残っていること。
寮は黙って聞いていた。時折頷きながら、メモを取っている。
「……というわけで、根本的な解決には、土地全体の大規模な浄化が必要だと思うんです」
祐一が説明を終えると、寮は少し考え込んでから口を開いた。
***寮の見解***
「確かに、祐一くんの言っていることは、正しいと思う」
寮が静かに言う。「だが……」寮はノートパソコンを開き、地図を表示した。
「その地域を僕が調べたところ、他にも処刑場だった土地や、色々な曰くがある場所が数多くあることが分かった」
画面には、アパート周辺の地図。いくつもの印がつけられている。
「ここが、君たちが今日調査したアパート。そして、ここが旧墓地の跡地」
寮が指差す。「しかし、この辺り一帯を見てほしい」
寮がマウスを動かし、地図を拡大する。
「ここは江戸時代の処刑場跡。ここは明治の火葬場跡。ここは戦時中の防空壕があった場所で、空襲で多くの人が亡くなっている」
祐一が息を呑む。
「これだけの曰く付きの場所が、半径一キロ圏内に集中しているんだ」
「そんなに……」
「祐一くんが解決したのは、その中の小さな出来事の一つに過ぎないということなんだ」
寮の言葉が、重く響く。
***現実の限界***
祐一が真剣な表情で言う。
「だったら、僕たちオカルト研究会は、解決に向けて全力で取り組む必要があります」
寮が頷く。「確かに、それが理想だけど……」
寮は少し間を置いてから続けた。
「それだけの準備を行うための資金も、ゆとりも、時間もない」
「でも……」
「仮に僕たちが協力しても、この地域全体の一部を浄化できるのが精一杯だ」
寮が地図を指差す。
「もちろん、祐一くんたちが活動を行った分だけ、確実に改善できる。それは間違いない」
「だったら……」
「でもね、祐一くん」
寮が祐一の目を真っ直ぐ見つめる。
「例えば、夜、雨の中、祐一くんが車中泊を行っているとする」
「はい」
「祐一くんは、車内の中では快適かもしれない。温かくて、乾いていて、安全だ」
寮が窓の外を見る。
「でも……その外で、雨に打たれている人たちがいる。助けを求めている人たちがいる」
「……」
「祐一くんは車の中にいて、そこから出られない。車を停めた場所から、遠く離れることはできない」
寮が続ける。
「君が助けられるのは、車を停めた場所の、すぐ近くの人だけなんだ。それ以外の人たちは……助けられない」
祐一が黙り込む。
寮の言葉が、胸に刺さる。
*** 活動の意味***
しばらくの沈黙の後、祐一がゆっくりと口を開く。
「つまり……僕たちが今回行った活動は、絵里子さんと、下宿先のアパートのみ……ということですか?」
「そういうことだ」
寮が頷く。
「君たちは、確かに絵里子さんを助けた。二〇三号室の霊を成仏させた。霊道を封じた。それは、素晴らしいことだ」寮が真剣な表情で続ける。
「でも、地域全体の問題は……」
「解決できない」寮がはっきりと言う。
「少なくとも、今の僕たちの力では」
部屋に、重い沈黙が流れる。
祐一は、自分たちの限界を突きつけられた気がした。
「じゃあ、他の場所で苦しんでいる人たちは……」
「助けられない」寮が静かに答える。
「それが、現実だ」
祐一が拳を握りしめる。悔しさと、無力感。
「これ以上の活動は……難しいということですか」
「ああ」寮が頷く。
「今の君たちには、これが限界だ」
***それでも***
祐一が顔を上げる。
「でも……」
「うん?」
「今日、僕たちが助けた絵里子さんは、救われたんですよね」
「ああ、そうだ」
「二〇三号室の霊も、成仏できた」
「その通り」
「だったら……」
祐一が言葉を選ぶ。
「それだけでも、意味があったんじゃないでしょうか」
寮が微笑む。「そうだよ、祐一くん」
寮が言う。「僕たちにできることは、目の前の人を助けることだけだ。全てを救うことはできない。でも、一人でも多く、救える人を救う」
「……」
「今日、君たちが助けた絵里子さんにとって、君たちは英雄だ。二〇三号室の霊にとって、君たちは救済者だ」
寮が続ける。「それで、十分じゃないか?」
祐一が頷く「全てを救えなくても……目の前の人を、救い続ける」
「そうだ」寮が力強く言う。
「それが、僕たちオカルト研究会の活動だ。派手じゃない。地味で、終わりのない戦い。でも、確実に、誰かの日常を守っている」
祐一が深く頷く。
「……分かりました」
「君は、よくやっている」寮が祐一の肩を叩く。
「今日も、お疲れ様」
***部屋を出る時***
祐一が寮の部屋を出ようとした時、振り返って言った。
「寮さん、一つ聞いてもいいですか?」
「何だい?」
「いつか、この地域全体を浄化できる日は来るんでしょうか?」
寮が少し考えてから答える。
「分からない。でも……」
「でも?」
「君たちのような若者が、一つずつ問題を解決していけば、いつか、その日が来るかもしれない」
寮が窓の外を見る。「今はまだ、その時じゃない。でも、焦らず、一歩ずつだ」
「……はい」
「今回の活動は、これで終わりだ。これ以上は、今の君たちには難しい」寮がはっきりと言う。
「でも、また別の場所で、別の人が助けを求めている。そこへ、また向かえばいい」
「分かりました」祐一は、寮の部屋を後にした。
***その夜***
廊下を歩きながら、祐一は考える。
全てを救うことはできない。
この地域全体の問題も、今の自分たちには手に負えない。
でも、目の前の人は、救えた。
それを、続けていくしかない。
自室に戻り、祐一は今日の出来事を日記に記した。
```
二〇三号室の浄化、完了。
霊道の封印、完了。
しかし、地域全体の問題は未解決。
これ以上の活動は、今の僕たちには難しい。
僕たちにできることは、限られている。
全てを救うことはできない。
それでも、目の前の人を、一人でも多く救いたい。
それが、僕たちオカルト研究会の使命だ。
```
窓の外には、夜の街が広がっている。
どこかで、誰かが苦しんでいるかもしれない。
でも、今日、確実に救われた人たちがいる。
それだけで、十分だ。
祐一は、日記を閉じた。
明日も、また、目の前の問題に向き合おう。
全てを救うことはできなくても。
そう、心に決めて。
*** エピローグ***
数日後、絵里子から連絡があった。
「田中さん、あれから全然平気です。本当にありがとうございました」
「それは良かったです。何かあったら、いつでも連絡してください」
「はい! 田中さんたちのおかげで、毎日安心して眠れます」
電話を切った後、祐一は少しだけ微笑んだ。
地域全体は、救えなかった。
これ以上の活動は、難しい。
でも、一人は、確実に救えた。
それが、祐一たちの戦いだった。
派手ではない、地味な、しかし確かな戦い。
完璧ではない、限界のある活動。
それでも、誰かの日常を、守っている。
そして、それは今日も、どこかで続いている。
購読、ありがとうございました。
今回の話も、不完全なまま終わってしまいますが、リアリティと完全な解決と言ったのは、
難しいと思っている所もあります。
一時的には良くなっても、また時間と共に色々な事件や問題が生じてしまうのが世の中、時間の流れと思う所もあります。そういった中で1つの問題が解決された。といったテーマで書きました。




