二〇三号室の浄化と封印
祐一達オカルト研究会のメンバーは、二〇三号室の調査と周辺調査を続けていた。
***二〇三号室への突入***
祐一たち四人は、二階の二〇三号室の前に立った。
廊下は静まり返っている。昼間だというのに、薄暗く感じられた。
「……この部屋だ」
祐一が鍵を取り出す。
松井あゆみが周囲の気配を探る。
「確かに……何か、ある。はっきりと感じる」
星川も頷いた。
「気の流れが、かなり乱れています。淀んでいるというより……滞留している感じです」
小川が浄化スプレーを手に、警戒する。
「いつでも対応できるようにしておきます」
祐一が深呼吸をして、鍵を差し込む。
カチャリ。ゆっくりと、ドアを開けた。
室内の異様な雰囲気
ドアを開けた瞬間、冷たい空気が流れ出してきた。
「……重い」
松井あゆみが呟く。部屋の中は、整理されているものの、どこか生活感のない空間だった。家具は最低限。窓のカーテンは閉じられ、薄暗い。
だが、何よりも異様なのは、部屋全体を覆う重苦しい空気だった。
祐一が慎重に部屋の中へ足を踏み入れる。
「みんな、気をつけて。何かあったら、すぐに声を出してくれ」
四人は、それぞれの役割に従って調査を開始した。
星川は間取りと方角を確認し、風水的な問題点を探る。松井あゆみは霊的な気配を感じ取ろうと集中する。小川は浄化グッズを準備し、いつでも対応できるよう待機する。
そして祐一は、部屋全体の様子を観察していた。
「この部屋……何かが、残っている」祐一が呟いた。
松井あゆみが目を閉じ、集中する。
「……いる。ここに、まだいるわ」
「どこに?」
「奥の部屋……寝室の辺り」
四人は、慎重に寝室へと向かった。
***霊との遭遇***
寝室のドアを開けた瞬間、空気が一気に重くなった。
「うっ……」
小川が息を呑む。
松井あゆみが震える声で言う。
「……います。ここに」
祐一には見えないが、確かに「何か」がいる気配を感じる。
「松井先輩、どんな様子ですか?」
「お年寄り……男性。怯えている……苦しそう」
松井あゆみが目を閉じたまま続ける。
「煙……熱い……息ができない……」
「火災の時のまま、ここにいるんですね」
星川が呟く。
祐一が前に進み出る。
「小川、浄化の準備を。松井さん、その方に話しかけられますか?」
「やってみます」
松井あゆみが静かに語りかける。
「もう、大丈夫です。火事は終わりました。あなたは、もう苦しまなくていいんです」
部屋の空気が、わずかに揺れる。
「怖がらないでください。私たちは、あなたを助けに来ました」
***供養と浄化***
祐一が懐から数珠を取り出す。「これから、供養を行います」
小川が香炉に火を点け、浄化の香を焚く。白い煙が、ゆっくりと立ち昇る。
星川が部屋の四隅に、清めの塩を置いていく。
祐一は正座し、静かにお経を唱え始めた。
「オン、サラバ、タタギャタ、ハンナ、マンナ、ノウ、キャロミ……」
低く、途切れることのない読経の声。
松井あゆみも、霊に語りかけ続ける。
「もう、ここにいなくていいんです。あなたを待っている人が、向こうにいます。安心して、行ってください」
十分、二十分。
時間が経つにつれ、部屋の空気が少しずつ軽くなっていく。
そして——
「……行きました」
松井あゆみが目を開ける。
「成仏された……みたいです」
祐一が最後の一節を唱え終え、深く息を吐く。
「……ありがとうございました。どうか、安らかに」
部屋の空気が、明らかに変わっていた。
重苦しさが消え、清々しい空気が流れている。
***霊道の発見***
しかし、祐一は完全には安心できなかった。
「松井さん、まだ何か感じませんか?」
松井あゆみが再び集中する。
「……あれ?」
「どうしました?」
「霊が……また、流れてくる」
「流れてくる?」
星川が地図を広げる。
「もしかして……霊道ですか?」
「霊道?」小川が尋ねる。
「霊が通る道のことです」星川が説明する「この部屋、霊道が通っているのかもしれません」
祐一が頷く。
「だから、供養しても、別の霊が入ってきてしまうのか……」
「霊道を、封じる必要がありますね」松井あゆみが言う。
***霊道の封印***
「星川くん、霊道封じの、お札を出してもらえないか」
「今、探しています」星川は、持ってきた木箱の中から霊封じの霊府を取り出す。
小川が尋ねる「霊道の方角は?」
星川が羅針盤を確認する。
「北東から南西へ……鬼門の方角です」
「やはりか」祐一が頷く。
四人は、部屋の北東と南西の隅に、それぞれ霊府を貼る。
「霊道よ、閉ざされよ。この場所を、清浄なる空間と定めん」
祐一が印を結び、霊力を込める。
松井あゆみ、星川、小川も、それぞれの方法で霊道を封じる力を注ぐ。
数分後——「……封じられたわ」松井あゆみが確認する。
「もう、霊道の気を感じられないわ」部屋の空気が、完全に清まった。
「これで、この部屋は大丈夫だ」祐一が安堵の息を吐いた。
***周辺調査班の報告***
室内の浄化を終え、祐一たちが外に出ると、峯川たちが戻ってきた。
「おう、終わったか?」
「ああ、何とかな。そっちはどうだった?」
峯川の表情が曇る。
「それが……ちょっと厄介なことが分かった」
「厄介なこと?」
「裏手の空き地に、古い供養塔がありました」田村が地図を広げる。
「この辺りです。かなり古いもので、文字はほとんど読めませんでした」
「供養塔……」祐一が考え込む。
「それだけじゃない」峯川が続ける。
「近所の人に聞いたんだが、この辺り一帯、昔は墓地だったらしい」
「墓地?」
「ああ。明治時代に移転されたそうだが、供養塔だけ残されたんだと」
祐一が眉をひそめる。
「つまり……」
「このアパートだけじゃなく、この土地全体に問題がある可能性が高い地域なのね」
松井あゆみが呟く。
「だから、霊道ができていたのね……」
星川が地図を見ながら言う。
「旧墓地の気が、今も残っている。それが、霊を引き寄せているんです」
祐一が深くため息をつく。「つまり、今回の浄化は……一つの部屋を清めただけに過ぎない、ってことか」
峯川が腕を組む。
「根本的な解決には、この土地全体の浄化が必要だ」
小川が不安そうに尋ねる。
「それって……かなり大がかりな作業になりますよね?」
「ああ」祐一が頷く。
「今日の作業で、二〇三号室は安全になった。でも、この土地全体の問題は……まだ残っている」
***管理人への報告***
祐一たちは管理人室を訪ね、調査結果を報告した。
「二〇三号室の浄化は完了しました。霊も成仏し、霊道も封じました」
「本当ですか! ありがとうございます!」
管理人が深く頭を下げる。
しかし、祐一は慎重に続けた。
「ただし……この土地全体に、まだ問題が残っています」
「と、言いますと?」
「この辺り一帯、かつて墓地だったそうですね」
管理人の顔色が変わる。
「……ええ、聞いたことはあります」
「その影響が、今も残っている可能性があります。今回は一部屋を清めましたが、根本的な解決には、もっと大規模な浄化が必要です」
「そんな……」管理人が困惑する。
「ただ、すぐに何か起こるわけではありません」祐一が付け加える。
「定期的な清めと、適切な管理をしていけば、大きな問題にはならないはずです」
「分かりました……」
祐一は、用意していた護符と浄化グッズを手渡した。
「これを、管理人室と、建物の入口に置いてください。それから、月に一度は、日本酒で建物の周囲を清めることをお勧めします」
「はい、必ずそうします」
「また、何かあれば、すぐに連絡してください」
そう約束し、祐一たちはアパートを後にした。
***帰路 ― 残された課題***
帰りの車中で、メンバーたちは今日の調査について話し合っていた。
「二〇三号室は、これで大丈夫だと思う」祐一が見解を述べる。
「でも、根本的な解決には至っていないよね」松井あゆみが続ける。
「土地全体の浄化……それって、どれくらいの規模になるんですか?」
田村が尋ねる。
「大きな供養祭を行う必要があるかもしれない」
星川が答える。
「お坊さんや神職の方にも協力してもらって、しっかりとした儀式を……」
「それには、時間も費用もかかるな」
峯川が腕を組む。
「まずは、管理人や土地の所有者に、この土地の歴史と現状を理解してもらうことが先決だ」
祐一が続ける。
「今日の作業で、とりあえずの危機は回避した。でも、これは一時的な対処に過ぎない」
小川が呟く。
「オカルト研究会の、次の大きなプロジェクトになりそうですね」
「ああ、でも、難しい問題だ」祐一が頷き「今日のように、一つずつ丁寧に対処していけば、必ず解決できる筈さ」
夕暮れの街。人々は、何も知らずに日常を過ごしている中、
祐一達オカルト研究会のメンバーが話し合っていた。
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