絵里子の下宿先のさらなる調査
翌朝、祐一はオカルト研究会で恵梨子の下宿先であるアパート調査の話を行った。
*** オカルト研究会での報告***
翌日、祐一はオカルト研究会の部室で、アパートでの出来事を報告した。
メンバーたちは、真剣な表情で耳を傾けている。
「……というわけで、一応の浄化はしたんだけれど、完全には清まっていない可能性が高い。特に、入居者が長続きしない空き部屋が気になっている」
祐一が説明を終えると、星川が手を挙げた。
「風水的にも何か原因があるかもしれないな。僕も調査に参加します」
松井あゆみも興味を持ったようだった。
「私も霊的な何かがありそうだから、行くことに決めたわ」
峯川が腕を組んで頷く。
「仕方ない、俺も行くぜ。放っておけないしな」
小川と他の一年生二名、林と高橋も、調査に赴くことを決めた。
「じゃあ、明後日の午後、現地調査に出発しよう。装備は各自、必要なものを準備しておく様に」
祐一が指示を出すと、メンバーたちが頷いた。
「その前に、明日もう一度現地に行って、情報収集をしてくる。絵里子さんや近隣住民から話を聞いておきたい」
祐一がつばき壮に戻り、いつもの様にさくらに話すと、
「私も一緒に行くわ。絵里子ちゃん、私がいた方が話しやすいと思うし」
「頼む」祐一が頷いた。
***翌日 情報収集***
翌日、祐一とさくらは再びアパートを訪れた。
まず、絵里子の部屋を訪ねる。
ピンポーン。
チャイムを鳴らすと、すぐにドアが開いた。
「さくらちゃん、田中さん」
絵里子が笑顔で迎えてくれる。前回よりも表情が明るい。
「こんにちは。あれから、様子はどう?」
さくらが尋ねると、絵里子は部屋の中へ招き入れた。
「全然平気です。よく眠れるようになったし、部屋の空気も軽くなった気がします」
「それは良かったです」祐一が安堵する。
三人はリビングに座り、コーヒーを飲みながら話を始めた。
「実は、もう少し詳しく状況を聞きたくて」祐一が切り出す。
「このアパートや周辺について、何か気になることはなかったですか?」
絵里子は少し考え込んでから、話し始めた。
「そういえば……引っ越してきた時、不動産屋さんが少し変なこと言ってたんです」
「変なこと?」
「『この部屋は問題ないけど、二階の一部の部屋は避けた方がいい』って」
祐一とさくらが顔を見合わせる。
「どの部屋とは言わなかったんですか?」
「言わなかったです。でも、二〇三号室のことかなって、何となく思ってました」
「二〇三号室……」
祐一が呟く。まさに、管理人が言っていた空き部屋だ。
「それから、近所の噂なんですけど……」
絵里子が声を落とす。
「このアパートができる前、ここに古い木造の建物があったらしいんです」
「木造の建物?」
「はい。かなり古い建物で、三十年くらい前に火事で全焼したって」
さくらが息を呑む。
「火事……」
「詳しくは分からないんですけど……隣の棟に住んでる、おばあさんが少し話してくれたことがあって」
絵里子が続ける。
「その火事で、亡くなった方もいたらしいんです」
「……なるほど」祐一が頷く。
「そのおばあさん、今もいらっしゃるんですか?」
「はい。隣の棟の一階に住んでます」
「後で、話を聞かせてもらえないか頼んでみてくれる?」
「分かりました」
近隣住民への聞き込み
絵里子の紹介で、隣の棟に住む高齢の女性、山本ハナさんを訪ねることができた。
「あぁ、絵里子ちゃんのお友達ね。どうぞ、上がって」
山本さんは気さくに二人を迎え入れてくれた。
古い家具が並ぶ部屋。昭和の香りが残る空間だった。
「この辺りのこと、詳しく教えていただけますか?」
祐一が尋ねると、山田さんは遠い目をして話し始めた。
「あのアパートがある場所ね……昔は古い木造アパートがあったのよ。私が若い頃からあった、二階建ての建物でね」
「その建物で、何かあったんですか?」
「ええ……」
山本さんが少し躊躇してから続ける。
「もう三十年くらい前になるわね。平成六年の冬、あの建物で火事があったの」
「火事……」
さくらが呟く。
「夜中の火事でね。あっという間に燃え広がって、建物全体が全焼したの。消防車が来た時には、もう手遅れだった」
山本さんの声が震える。
「その火事で、二階に住んでいた方が……逃げ遅れて亡くなったのよ」
「亡くなった方は……」
「一人暮らしのお年寄りだったわ。煙に巻かれて、意識を失ったんでしょうね……」
祐一は静かに尋ねる。
「その方が住んでいたのは、建物のどの辺りでしたか?」
「二階の奥の部屋……今のアパートで言うと、ちょうど二〇三号室がある辺りだと思うわ」
祐一とさくらが顔を見合わせる。
「火事の後は、どうなったんですか?」
「焼け跡は取り壊されて、しばらくは空き地だったわ。みんな、あそこを通るのを避けてたのよ」
山田さんが付け加える。
「ニ十年くらい前に、やっと今のアパートができたんだけど……でもね、二階のある部屋だけ、妙に入居者の入れ替わりが激しいのよ。みんな、すぐ出ていっちゃう」
「二〇三号室ですか?」
祐一が尋ねると、山本さんが頷いた。
「そう、その部屋。きっと、あの火事で亡くなった方が……まだ、そこにいるんじゃないかって、近所では噂されてるのよ」
「供養は、されなかったんですか?」
「葬儀はあったわよ。でも、火事の現場そのものの供養は……どうだったかしらね」
祐一は、重要な情報を得たことを確信した。
「ありがとうございます。とても参考になりました」
二人は山本さんに礼を言い、部屋を出た。
***管理人への確認***
祐一とさくらは、管理人室を訪ねた。
「すみません、少しお聞きしたいことがあるんですが」
「はい、何でしょう?」
管理人が応対する。
「このアパートが建つ前、ここで火事があったそうですね」
管理人の表情が曇る。
「……ええ、そうです。実は、不動産会社からも聞いてました。平成六年の火災のことは」
「二〇三号室の位置は……」
「おそらく、その……火災で亡くなられた方の部屋があった場所だと思います」
管理人が重々しく答える。
「供養は、されたんですか?」
「建設前に、一応はしたと聞いています。土地を清めるお祓いもしたそうです。でも……やはり、完全には清まっていなかったのかもしれません」
祐一は頷き「分かりました。明日、本格的な調査と浄化を行います」
「お願いします」管理人が深く頭を下げた。
つばき壮へ戻る車中で、さくらが呟いた。
「三十年前の火事が、まだ影響してるなんて……」
「火災は、突然で苦しい死に方だ。強い未練や恐怖が残りやすい」祐一が答える。
「亡くなった方は、まだあの場所にいるのかな……」
「おそらく。明日の調査で、ちゃんと確認して、成仏させてあげよう」
祐一が力強く言った。
車は、夕暮れの街を走り続けた。
***調査当日 ― 管理人室での交渉***
翌日の午後、オカルト研究会のメンバーたちはアパートに集合した。
祐一は管理人室を訪ね、改めて調査の許可を求めた。
「前回お話しした、あの空き部屋の調査なんですが……」
「ああ、来てくれたんですか」管理人は安堵したような表情を見せた。
「調査のために、その空き部屋を借りたいんです」
「もちろん、構いません。むしろ、お願いしたいくらいです」
管理人は鍵を取り出し、祐一に渡した。
「二階の二〇三号室です。気をつけてください」
「ありがとうございます」
祐一は鍵を受け取り、メンバーたちのもとへ戻った。
***空き部屋への突入***
「じゃあ、班分けをする」祐一が指示を出す。
「室内調査班は、僕と松井さん、星川君、小川君の四人。峯川君と一年生の林君と高橋君は、下宿先の周辺の浄化活動と周辺調査を頼む」
「了解」
峯川が頷き、一年生たちを連れて外へ向かう。
祐一たち四人は、二階の二〇三号室の前に立った。
廊下は静まり返っている。昼間だというのに、薄暗く感じられた。
「……この部屋だ」祐一が鍵を取り出す。
松井あゆみが周囲の気配を探る。
「確かに……何か、あるわ」
星川も頷く「気の流れが、乱れています。かなり淀んでいる」
小川が浄化スプレーを手に、警戒する。
「いつでも対応できるようにしておきます」
祐一が深呼吸をして、鍵を差し込む。
カチャリ。
ゆっくりと、ドアを開けた。
室内の異様な雰囲気
ドアを開けた瞬間、冷たい空気が流れ出してきた。
「…重苦しい感じがする」松井あゆみが呟く。
部屋の中は、綺麗いだったが薄暗い感じがした。
だが、何よりも異様なのは、部屋全体を覆う重苦しい空気だった。
祐一が慎重に部屋の中へ足を踏み入れる。
「みんな、気をつけて。何かあったら、すぐに声を出してくれ」
四人は、それぞれの役割に従って調査を開始した。
星川は間取りと方角を確認し、風水的な問題点を探る。松井あゆみは霊的な気配を感じ取ろうと集中する。小川は浄化グッズを準備し、いつでも対応できるよう待機する。
そして祐一は、部屋全体の様子を観察していた。
「この部屋……何かが、残っている」祐一が呟いた。
その瞬間だった。
***周辺調査班の活動***
その頃、峯川たち周辺調査班は、アパートの外周を調査していた。
「このアパート、建物自体は問題なさそうだけどな」峯川が周囲を見回す。
一年生の田村が、地図に周辺の様子を記録していく。
「近くに神社とかお墓はないですね」
「でも、何か引っかかるな」峯川が呟く。
もう一人の一年生、岡村が指摘する。
「あの、裏手の空き地、気になりませんか?」
三人は、アパートの裏手に広がる空き地へ向かった。
草が生い茂り、放置されている土地。かつては何かの建物があったようだが、今は更地になっている。
「ここ……何があったんだろうな」
峯川が眉をひそめた。
空き地の一角に、古い石碑のようなものが残っている。近づいて確認すると、風化して文字は読めなくなっていた。
「これ、供養塔じゃないですか?」高橋が声を上げる。
「……まずいな。これ、管理人に確認した方がいい」
峯川が判断した。
三人は、急いで管理人室へ向かった。
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