公園での清掃活動
祐一は、自主活動として休日、公園の掃除や浄化活動を行っていた。
***午前 ― 公園での清掃活動***
この日、祐一は軽バンに乗り、市内から少し離れた公園へ向かっていた。
「今日は、ここの浄化をしよう」
祐一が公園の駐車場に軽バンを停める。後部座席には、清掃用具と浄化グッズが積まれている。ゴミ袋、トング、ほうき、バケツ、浄化スプレー、そして写経した半紙。
「まずは、ゴミ拾いからだな」
祐一は軽バンから降り、トングとゴミ袋を手に取った。
***ゴミ拾い***
公園は広く、遊具エリア、芝生エリア、散策路と、いくつかのエリアに分かれている。
「結構、ゴミが落ちてるな……」
祐一が眉をひそめる。空き缶、ペットボトル、お菓子の袋、タバコの吸い殻。様々なゴミが散乱していた。
「こんなに捨てる人がいるのか……」
祐一は黙々とゴミを拾っていく。トングでゴミをつまみ、袋に入れる。この作業を繰り返す。
一時間、二時間。気づけば、ゴミ袋が三つ、四つと増えていく。
「思ったより多いな」
祐一が額の汗を拭う。すでに正午を過ぎていた。
「一度、休憩しよう」
祐一はゴミ袋を軽バンに積み込み、車内へ戻った。
***昼食と休憩***
軽バンの後部座席を倒し、簡易的な休憩スペースを作る。
「さて、昼飯にするか」
祐一はクーラーボックスから食料を取り出した。レトルトパックのご飯、ハンバーグ、缶詰。簡単な食事だが、十分だった。
ポータブル電源に電気ポットを繋ぎ、湯を沸かす。
「便利だな、これ」
祐一が呟く。湯が沸くと、小さな鍋に注ぎ、レトルトパックのご飯とハンバーグを入れて温める。
数分後。
「よし、できた」
祐一はパックを開け、プラスチック容器に盛り付ける。温かいご飯に、ハンバーグ。缶詰のコーンスープも添える。
「いただきます」
車内で、一人静かに食事をする。窓の外には、公園の景色が広がっている。家族連れが遊んでいる。子どもたちが走り回っている。平和な光景。
「こういう日常を守るためにも……地道な活動が大切なんだ」
祐一が呟く。
食事を終え、しばらく休憩する。
午後二時。
「さて、午後の作業を始めるか」
祐一は清掃用具を手に取り、再び公園へ出た。
***午後 ― トイレ掃除と浄化***
次は、公園のトイレ掃除だ。
「ここが一番、気が淀みやすい場所なんだよな……」
祐一がトイレの入口に立つ。霊視をすると、確かに重い空気が漂っている。
「まずは、物理的に綺麗にしないと」
祐一はバケツに水を汲み、洗剤を溶かす。ほうきとブラシを持って、トイレ内へ入る。
床を掃き、便器を磨き、壁を拭く。
「結構、汚れてるな……」
黙々と作業を続ける。一時間ほどかけて、男女両方のトイレを綺麗にした。
「よし、これで物理的な掃除は終わりだ」
次は、霊的な浄化。祐一は浄化スプレーを取り出した。
「邪気よ、去れ——」
トイレ内に浄化スプレーを撒く。霊力を込めた浄化液が、空気を清めていく。
「だいぶ、空気が軽くなった」祐一が満足そうに頷く。
***浄化グッズの埋設***
トイレ掃除を終えた祐一は、公園内の各所へ移動した。
「この辺りに埋設しよう」
遊具エリアの近く、大きな木の根元、散策路の脇。写経した半紙を小さく折りたたみ、地面に埋めていく。
「ここも……ここも……」
一カ所、また一カ所と、丁寧に埋設していく。最後に、公園全体に浄化スプレーを撒いて回る。
「これで、この公園も清められたはずだ」祐一が深く息をつく。
空を見上げると、すでに夕方になっていた。
「思ったより時間がかかったな……」
時計を見ると、午後六時を過ぎている。
「今から帰ると、つばき壮に着くのは夜遅くになるな……」
祐一は考えた結果「よし、今日はここで車中泊をしよう」と決断した。
***日没 ― 車中泊の準備***
気づけば、空は橙色に染まり始めていた。公園の照明が、ぽつりぽつりと灯り始める。
祐一は軽バンを公園の入口近くのスペースへ移動させた。周囲を見渡すが、近くに店はなく、人影もほとんどない。
「……仕方ない。今日はここに泊まろう」車を停め、エンジンを切る。静寂が、すっと車内に入り込んできた。
祐一は窓に目隠し用のシェードを取り付け、後部座席にマットを敷く。寝袋を広げ、簡単に寝る準備を整える。
慣れた手つきだった。
***夕食***
「まずは、飯だな……」
ポータブル電源を取り出し、電気ポットを繋ぐ。水を入れてスイッチを入れてしばらく待つ。
「……まぁ、こんなもんか」
湯を鍋に注ぐ。レトルトのご飯とカレーを入れて温める。
しばらく経ち十分に温かいとは言えない程度だったが今日は文句を言わないことにした。
パックを開け、スプーンを持つ。福神漬けを添え、インスタントのお茶も用意する。
「いただきます」
生温かいカレーを口に運ぶ。決して美味とは言えないが、不思議と落ち着く味だった。
「……まぁ、食えればいい」食後に、デザート代わりのチョコレートとポテトチップスを少しだけつまむ。車内に甘い匂いと、油の香りが混じる。
***夜の静けさと電話***
タブレットを取り出し、動画を再生する。軽いバラエティ番組の音声が、車内に流れた。
外は、すっかり暗い。街灯の明かりが、公園の遊具をぼんやりと照らしている。
人の気配はない。風が、木々を揺らす音だけが聞こえる。
祐一は、寝袋に身体を預けながら呟いた。
「一人の車中泊も、だいぶ慣れてきたけど……」
一瞬、廃村の夜が脳裏をよぎる。あの、張り詰めた空気。息を潜めるような緊張感。
祐一は、軽く首を振った。
「……やっぱり、つばき壮の方が落ち着くな」
***電話***
タブレットの画面を消し、寝袋に身体を沈めた、その時だった。
――ピリリ。
静かな車内に、スマホの着信音が響く。
「……?」
祐一は一瞬だけ眉をひそめ、スマホを手に取った。画面には、見慣れた名前が表示されている。
「はい、もしもし。田中です」
『祐一くん?』聞き覚えのある声。さくらだった。
『今日は、どこに出掛けてるの?』
その声は、どこか呆れたようで、少しだけ拗ねている。
『約束、忘れちゃったの? 今日、一緒につばき壮の裏庭カフェで話があるって言ってたでしょ』
祐一は(しまった)と車内の天井を見上げた。
「あ……ごめん。今日は、帰れそうもないんだ」
『え?』
「公園の近くで、車中泊することにしてさ」
一拍、間が空く。『……仕方ないわね』
さくらは、小さくため息をついた。
『実はね、ちょっとした相談があって』
「相談?」
『私の友達の、絵里子のことなんだけど……』
その名前を聞いた瞬間、祐一の表情が、ほんの少しだけ引き締まる。
『変な怪奇現象が起きてるって言うの。それで、祐一くんに相談しようと思ってたんだけど……』
「分かった。明日には帰るよ」祐一は、静かに言った。
「それで、どんな話なんだ?」
『うん……大学の下宿先でね、幽霊を視たって話なの』
「……幽霊」
『それも、一人じゃなくて。同じ下宿の別の子も、"何かを見た"って騒ぎになってるみたい』
電話越しに、さくらの声が少しだけ小さくなる。
『偶然かもしれないけど……なんとなく、気になって』
祐一は、フロントガラス越しに、夜の公園を見た。街灯に照らされた遊具。静まり返った散策路。
今日一日、何も起こらなかった場所。
「……分かった」祐一は、短く答えた。
「詳しい話は、明日聞くよ」
『ありがとう。じゃあ、気をつけてね』
「うん。おやすみ」通話が切れる。
車内に、再び静寂が戻った。
祐一は、スマホを置き、寝袋の中で小さく息を吐く。
「……次は、下宿か」
それは、廃村のような大きな事件ではない。だが、確実に、日常のすぐ隣にある異変だった。
祐一は目を閉じた。
平穏な夜は、まだ続いている。だが、その先に、新しい調査が待っていることを、彼はもう理解していた。動画を止め、タブレットの画面を消す。車内は再び、静寂に包まれた。
今日は、何も起きなかった。それでいい。
祐一は寝袋の中で目を閉じ、穏やかな眠りへと、ゆっくり沈んでいった。
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