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オカルト研究部 田中祐一 今日も怪異あり  作者: waku


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五日目 ― 結界強化と分担行動

祐一達オカルトメンバーと寮たち編集者の取材活動は続けられていた。

***五日目の朝***


廃村は相変わらず静まり返っていた。


 空は晴れている。

だが、どこか薄曇りのような重さが、空気に混じっていた。


 寮たちは引き続き、廃村の取材と調査を続行する判断を下した。

神社周辺を重点的に確認した結果、封印跡に異常は見られないものの、予防的な結界の重ね張りが必要だと判断された。


「今は何も起きていない」寮は静かに言う。

「だが、起きない状態を保つことが重要だ」


 橘美紀によって、神社の周囲には新たな結界が展開された。

既存の結界を補強する形で、重ねるように張られた結界は、空気をわずかに震わせながら定着していく。


「これで、しばらくは安全性が高まります」

美紀の言葉に、國府田も小さく頷いた。


 一方、祐一たちオカルト研究会のメンバーも、拠点防御の強化に入っていた。

星川の指示により、拠点を中心とした広域結界の構築が決定される。


「点で守るんじゃない。線で囲む」

星川は地図を広げ、指で円を描いた。

「村全体からくる気の流れを遮断する」


 結界を張る地点は、村の要所だった。


  村外れ、松の木の下、村の中心部にある、古いお地蔵様、小さな川の近くにある、大きな岩場


 それぞれの地点に結界を張ることで、負の流れが拠点に集中するのを防ぐ狙いだった。


 作業は、松井・星川・小川の三グループに分かれ、それぞれに新入生が同行する形で行われた。


「慌てないで儀式は正確さが一番だから」松井が新入生に声を掛ける。


「気配を感じたら、すぐ合図を」小川も念を押した。


***川沿いの岩場 ― 星川の結界設置***


 星川のグループは、小川の近くにある大きな岩場へ到着した。


 水の流れる音が、静かに響いている。

岩場は苔むしており、長い年月をかけて川の流れに削られた跡が残っていた。


「ここだ」星川は岩場の根元、水脈が最も近い地点を指差した。


「風水では、水の流れは気の流れでもある。ここに結界を張ることで、負のエネルギーが川に沿って拡散するのを防げる」新入生の一人が、緊張した面持ちでスコップを取り出す。


「深さは……どのくらいですか?」


「三十センチほどでいい。大事なのは深さじゃない。正確に中心を掘ることだ」


 星川の指示に従い、新入生は慎重に穴を掘り始めた。土は湿り気を帯びており、スコップが重い。


 やがて、適切な深さまで掘り終えると、星川は用意してきた道具を並べた。


呪文が書かれた半紙、炭、塩、日本酒の小瓶、水晶で作られた結界用のエネルギーグッズ


「まず、半紙を敷こう」

星川は静かに、呪文が書かれた半紙を穴の底に敷いた。


「次に、炭を」

黒い炭が、半紙の上に丁寧に並べられる。


「塩を撒き、日本酒を注ぐ」

白い塩が炭の周囲を覆い、日本酒が静かに土に染み込んでいく。


 最後に、星川は水晶のエネルギーグッズを手に取った。

六角柱状の透明な水晶は、太陽の光を受けて、わずかに虹色の輝きを放っている。


「これが、結界の核となる」


 星川は水晶を穴の中央に置き、土を丁寧に埋め戻した。

新入生も手伝い、最後に土を平らに均す。


「これで、準備は整った」


 星川は立ち上がり、岩場の前で姿勢を正した。両手を胸の前で組み、深く息を吸う。


「天地四方、神霊来臨――」


 低く、しかし明瞭な声で、星川は呪文を唱え始めた。


「東方青龍、西方白虎、南方朱雀、北方玄武――」


 風が、わずかに強まった気がした。


「この地に結界を張り、邪気を遮断せん――」


 呪文が進むにつれ、空気が少しずつ変化していく。

新入生は息を呑んで、その様子を見守った。


「急急如律令!」


 最後の一言が放たれた瞬間、岩場から、強力な神気が発せられた。


 目には見えない。

だが、確かに何かが、岩場を中心に広がっていくのを感じられた。


 空気が震え、水の音さえも一瞬、途切れたように聞こえた。


「……完成だ」


 星川は静かに息を整え、振り返った。


「これで、この地点の結界は張られた。他の地点とつながれば、村全体を守る大きな結界になる」


 新入生は、まだ少し緊張した表情のまま、頷いた。


「すごい……本当に、何かが変わった気がします」


「それが気だ。感じ取れるようになったのは、成長の証だよ」


 星川は軽く微笑み、道具を片付け始める。


***各地点での結界設置***


 同じ頃――


 村外れの松の木の下では、松井あゆみのグループが結界を完成させていた。

古い松の木の根元に埋められた結界の核が、静かに大地と呼応している。


「結界は完璧ね」松井は満足そうに頷いた。


 村の中心部では、小川のグループが古いお地蔵様の前で作業を終えていた。


「こっちも完了だ」小川が無線で報告する。


 三つの地点。

それぞれに張られた結界が、目に見えない線でつながり、村全体を包む防護網を形成していく。


「よし……これで、拠点周囲の結界は完成した」

星川が地図を確認しながら言った。


「午後からは、田中部長の応援と、拠点の回収活動を行っていこう」


***午後 ― 村外の退避拠点へ***


 午後になり、祐一を除いたメンバーのグループが、それぞれ拠点へ戻ってきた。


 松井あゆみが報告する。

「結界は完璧ね。予定通り、三地点すべて完了したわ」


「こっちも完了だ」小川も頷いた。


 全員の無事を確認した後、小川と星川は軽トラックに乗り込んだ。

向かう先は、村の外にある小屋――新たな退避拠点だ。


 軽トラックが砂利道を進む。

村を出て、山道を少し下った場所に、古びた小屋が見えてきた。


 その頃、祐一と峯川は小屋にある物を外に出し、広末が掃除の最中だった。


 ほこりまみれの家具、古い農具、朽ちかけた木箱――

長年放置されていた小屋の中は、想像以上に散らかっていた。


「どうだい? 上手く行っているかい?」

小川が軽トラックから降りて、声を掛けた。


 広末は額の汗を拭いながら、苦笑した。


「さすがに、ここを拠点にするには、間に合いそうもないね」


「やっと、小屋の中のものを外に出すことができた所だ」祐一も続けた。


「掃除も、今日中に終わるか分からないよ」


 小川は小屋の周囲を見渡し、星川と顔を見合わせた。


「まず、僕たちは小屋の周りに結界を張っていく」小川が話す。

「その後、内部の浄化も進める。この状況だと、本格的な修繕は間に合いそうもない」


「テントを小屋の隣に設置しよう」星川が提案した。


「屋内が使えなくても、結界さえしっかりしていれば、テントでも十分に防御できる」


 祐一は頷いた。


「分かった。それじゃあ、僕たちは引き続き掃除と整理を進める」


 こうして――村の中では拠点を守る結界が完成し、

村の外では、新たな退避拠点の準備が進んでいった。



***六日目、異変の兆し***


 六日目。

朝の時点では、結界に異常は見られなかった。


 だが、時間が経つにつれ、少しずつ違和感が現れ始める。


 川沿いの岩場に張った結界が、微かに揺れていた。

誰かが触れたわけではない。それでも、外から圧を受けているような反応だった。


「……気の流れが変わってきている」星川が、眉をひそめる。


 神社周辺では、寮が異変を察知していた。


「結界は保たれているが……向こう側で、何かが集まり始めている」


 橘美紀も同意する。

「封印そのものより、空間の歪みが気になります」


 午後、村内に設置されたカメラの映像に、

一瞬だけ、人影のようなノイズが映り込んだ。


 新入生の一人が息を呑む。


「今の……見ました?」


「気のせいだと思いたいけど」祐一は否定しなかった。


 その夜、結界の消耗速度が、明らかに早まっていることが確認された。


「七日目……何か起きるかもな」

小川の低い声が、現実味を帯びて響いた。


 同時に、村外の小屋での作業も続けられていた。

だが、あまり作業は進んでいなかった。


 掃除は進んだものの、床の補修、窓の補強、屋根の雨漏り対策――

やるべきことは山積みで、一日では到底終わらなかった。


***七日目 ― 嵐の前触れと議論***


 七日目の朝。

村全体が、薄い霧に包まれていた。


 音が、吸い取られているようだった。

足音さえも、地面に届いていないような感覚だった。


 結界は機能しているが明らかに違和感を感じられた。


 村の外にある小屋の作業は板の張り替えや補修が追いつかない状態になっていた。


 村外の小屋での作業も、七日目まで続けられていた。

しかし――


「この調子だと、間に合いそうもないな」


 小屋の前で、祐一は腕を組んで呟いた。


 結界は張られた。

テントも設置された。

だが、小屋そのものの改修は、まだ半分も終わっていない。


「残り一日。全員、小屋に移動しよう」祐一が提案した。「今の段階では、何も異変が起きていない。だけどここに、留まり続けるよりは、安全性が高い方を選ぼう」



 新入部員の一人が、異議を唱える。


「でも、部長」その声には、明確な疑問が含まれていた。


「これまで拠点の強化を行っている分、ここに留まった方が、安全性が高いです」


「そうです」別の新入生も続けた。


「山小屋は村の外ですが、本当に村の外が安全だという保証は、あるんですか?」


「まだ、結界の強化や小屋の改修も、あまり進んでいないようです」


「作業を分散するより、こっちの拠点の強化に集中した方が安全です」

新入生たちの言葉は、論理的だった。


そして、一理あった。だが、祐一は、静かに首を横に振る。


「……いや」その声は、穏やかだが、揺るがなかった。「君たちの言うことは分かる。確かに、ここは強化されている」祐一は拠点の廃屋を振り返る「だけど強化されている事と安全である事は、別だと思う」


 新入生たちが、黙って聞いている。


「もし、もしも、ここで何かが起き閉じ込められてしまった場合、村から脱出する逃げ場がない」祐一が苦苦しく話した。


 祐一の言葉に、峯川も頷く。

「そうだ、、、、結界が破られた場合、村の中にいる限り、包囲されてしまう可能性が高い。突破して村の外に脱出するのは厳しい。」


「山小屋は未完成だが、、、」小川が続ける。「村の外に拠点を移すだけでも、脱出のリスクが減る筈だ」


 星川も、地図を指差し、

「風水的に見ても、この村は、気が淀みやすい地形だ。何かが起きるなら、神社から村の中へ向かって広がって行く。それに気付いて村から脱出する時間を考えると、初めから村の外に出た方が安全だ」


「えっと・・・・」広末が話を続けた。

「はじめから村の外にいれば、村から抜け出す時間分、猶予ができるという事ね」


 新入生たちは、互いに顔を見合わせる。論理では、新入生の主張も正しかった。

だが、経験と直感が、別の答えを示していた。


「根拠は……正直、ないけれど」祐一は率直に答える「この村の中にいるよりは、村の外の方が安全だと思う。仮に何も起こらなかったとしても、山小屋で一晩過ごす方が安心だ」


 その時、寮たちが帰って来た。

「どっちにしても、今の段階では何も起きていない」寮が穏やかに言う。


「だが、村の外で一晩過ごすのも、悪くない選択だと思う」


 國府田が、拠点の廃屋を見回した。

「ここも、だいぶ快適になっているし、改修した思い入れもあるわね」そして、肩をすくめる。「でも、ここにいるのも小屋にいるのも、どっちにしても同じことだと思うわ」


 橘美紀も、新入生たちに向かって微笑んだ。

「仮に、村の外の小屋で悪霊に襲撃されたとしても、私たちである程度、防げるから大丈夫よ」


 祐一たちと寮たちの言葉に――新入生たちも、しぶしぶながら、納得した様子だった。


「……分かりました」一人が頷き、他の新入生たちも続いた。「一時的な拠点の変更に、同意します」


「ありがとう」祐一は、安堵の表情を見せた。「決して、君たちを危険に晒したくないんだ。よし、それじゃあ、さっそく物資を移動しよう」祐一が指示を出す。


「できるだけ、今日中に作業を終わらせよう」


***物資の移動と拠点変更***


 その日の午後から、本格的な物資の移動が始まった。


 村内の拠点から、村外の山小屋へ、食料、水、浄化グッズ、結界用の道具、寝袋、テント。

必要最低限の装備が、小川の軽トラックと祐一の軽バンで運ばれていく。


「重いものから先に運ぼう」峯川が率先して動く。


「その荷物は丁寧に扱ってくれ」星川が新入生に指示を出す。


 広末は、拠点に残していく物と持っていく物を仕分けしていた。

「最低限、ここにも備えは残しておきましょう。万が一、こっちに戻ることになったときのためにね」


 寮たちも、撮影機材とモニタリング用のカメラを慎重に運び込む


「神社周辺と村に設置したカメラは、そのまま稼働させる」寮が確認する。


「村の中の映像を、山小屋からリアルタイムで見られるようにしておこう」


 橘美紀と國府田は、最後に拠点全体を見渡し、持ち出せるのを車に積み込む。


 作業は、日が傾くまで続いた。


***一日前 ― 山小屋への完全移転***


 そして、五月四日、前日午後前に祐一の軽バン、小川の軽トラック、峯川のバンに乗り込みオカルト研究会のメンバーは、山小屋の拠点に移った。改修は完全ではなかった。床は軋み、窓の一部は補強が完了していなかった。照明器具の設置も完全では無かった。だが、結界と浄化は万全に整っていた。


 小屋の周囲に張られた結界、内部に配置された浄化グッズ、

そして小屋の隣に設営されたテント、祐一、峯川、小川の車が敷地内に止められていた。


「今日は、ここで一晩過ごす事になる」祐一は、集まった全員を見渡し、話を続ける。

「何も起きないかもしれない。だけど、もし何か起きた時は、ここが一番安全な場所になる」


 「祐一は軽バンの荷室にマットを敷き横になって仮眠を取る事にした」他のメンバーもテントや小屋で仮眠を取った。



***最後の脱出***

 

 寮たちは、最後まで残り調査を続けた。午後4時過ぎになり、寮の軽自動車に乗り込み村を出た。

村を出る直前、橘美紀が、村の方角を振り返った。「……結界が、鳴いている」

「鳴いている?」國府田が聞き返す。


「抑え込まれている何かが、外に出ようとしている音よ」


 寮は静かに目を閉じた。「いよいよだな」寮たちは小屋へと移動した。


 

 村の出入り口には、あらかじめ結界が張られていた。

星川が風水に基づいて配置した結界は、村の内と外を明確に区切られていた。

寮の運転する車がゆっくりと結界を越えた。


 その瞬間――空気が、わずかに変わったのを寮、橘美紀、國府田、全員が感じとった。


 寮が山小屋に向かっている頃、星川が小屋の中で新入生たちに説明していた。「結界をいくつも張ってあるから安全性は折り紙付きだ。それに村の外だから村に閉じ込められてしまう心配も無い」



***寮たちの山小屋到着***


 寮たちの乗った車が十五分ほど車で進むと、仮の拠点にした山小屋が見えてきた。


 周囲の見張りを行っていた広末と新入生が、手を振って合図を送る。


「お疲れ様!遼さん、無事に着いたね」


 車から降りた寮たちに、広末が駆け寄ってくる。


「村の様子は、どうでした?」


「今のところ、よく分からない」寮が答える。「ただ……神社の結界が、何かによって干渉を受けている様だ」


 その言葉に、広末の表情が引き締まった。

「そうか……やっぱり、何かが起き始めているんだ」


 小屋の隣に張ったテントで待機していた小川が、出てきた。

「お疲れ様、遼さん、こっちは、拠点ほどは整っていないけど、ギリギリ休める場所は確保しています」

小川が小屋を指差し案内した。


小屋に入るといくつかの照明が灯りを灯していた「最低限、照明の確保と屋根の補修は完了しています」


星川が寮たちに気付いて補足説明をする「最低限、壁もシートで塞いでいます。後、魔除けの札も張っています」


 マットで休んでいた松井あゆみが寮に気付く「遼さん、村の様子はどうでした?狭いけどマットを敷いているので、ここで休んでください」

 

 寮は微笑みながら「ありがとう、美紀と國府田も少し仮眠を取った方が良い」と、マットの敷いている場所を譲った。



 

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