廃村調査記録 ― 四日目、小川の不安
小川はタロットカードの占い結果が気になり、資材と食料の買い出しと由香に相談する事にした。峯川も買い出しとオカルト研究会のメンバーの応援の為、朝、向かう事になった。
***四日目 ― 朝の集合と小川の出発***
四日目の朝も、前日までと変わらぬ澄んだ空気が村を包んでいた。
朝日が山の稜線を越え、中庭に集まったメンバーたちの表情は穏やかだ。
祐一が全員を見渡し、今日の予定を告げる。
「今日も引き続き、村周辺の調査を行う。昨日確認した範囲の補足と、新しい地点の記録が中心だ。慎重に進めよう」
新入生の中村真理が、少し気楽そうに手を挙げた。
「はい。でも……ここまで何も起きていませんし、思っていたより静かな場所ですよね。そこまで心配しなくても大丈夫そうな気がします」
その言葉に、峯川が腕を組んで応じた。
「確かに、今のところはな。だが、これは調査活動の実地訓練でもある。何も起きない時ほど、気を抜かないことが大事だ」
小川も静かに補足する。
「それに、僕たちはオカルト研究会だ。霊的な現象が“今は起きていない”というだけで、これからも起きないとは限らない。お守りは常に身につけておく事」
新入生たちは、少し表情を引き締めて頷いた。
***小川と峯川の買い出し***
朝のミーティングを終えると、小川と峯川はそれぞれ買い出しの準備に入った。
峯川はバンに乗り込み「俺は資材と日用品、それから食料を中心に調達してくる」
続いて小川が軽トラックに乗り「僕も資材と備品を追加で、それと由香さんにも相談してきますね」
峯川と小川の言葉に、祐一が軽く頷く。
「頼んだよ、安全運転で」小川の軽トラックに祐一が近づいて。「小川君、気をつけて。由香さんの占いも詳しく聞いてみて」
「夕方までには戻れそうです」エンジンがかかり、軽トラックとバンはほぼ同時に村を後にした。
残ったメンバーたちは、小さく手を振りながら見送った。
***小川の資材調達***
軽トラックは山道を抜け、やがて舗装された道路へ出る。
窓を開けると、爽やかな風が車内に流れ込み、廃村特有の重たい空気が嘘のように薄れていく。
「……まずはホームセンターだな」
1時間ほど走り、町のホームセンターに到着する。
小川はメモを取り出し、必要な資材を一つずつ確認していった。
床板、補強材、塗料、防水シート、釘や金具、工具類。
カートに積み上げ、会計を済ませると、荷台に丁寧に固定した。
続いて立ち寄ったスーパーでは、保存の利く食材を中心に買い込んだ。
レトルト食品、缶詰、米、調味料、野菜、肉。
「これで、しばらくは持つな」
荷台を確認し、小川は次の目的地へ向かった。
***由香の占いと警告***
事前に連絡を入れていた由香の占いショップに到着すると、由香がすぐに迎えてくれた。
「待っていたよ、小川くん」
奥の静かな部屋に通され、小川は昨夜引いたタロットの結果と、廃村での調査状況を説明した。
「『悪魔』のカード……しかも逆位置ね」
由香は真剣な表情で頷き、カードを取り出す。
「改めて、詳しく占ってみるよ」
テーブルの上にカードが並べられ、部屋の空気が張り詰めていく。
しばらくして、由香の手が止まった。
「……五月五日、はっきりと凶日として出てるね」
「五月五日……」
小川は低く呟いた。
「今日は五月一日。あと四日後です」
「しかも、この配置……その村が廃村になった原因と、強く結びついている日と重なるよ」
小川の背筋を、冷たいものが走った。
「やはり、何かがあったのか……」
「うーん、断定はできないけど、警戒は必要だね」
由香は棚から浄化スプレーやお香、アミュレットを取り出していく。
「以前より効果を高めているけど、あと、春香ちゃんに書いて貰ったお札も」
さらに、小さな包みを開くと、中には札が束になって入っていた。
「春香ちゃんが書いたお札だよ。数も十分あるから」
由香は小川の目をまっすぐ見つめた話す。
「五月五日前には、引き上げるのが安全だね。寮君にもそう伝えて、なるべく早く取材を切り上げる事だね。少なくても、できるだけ調査は控えるか、全員で行動して単独行動は避ける方が良いみい。。。」
最後に、小さな袋を差し出した。
「こっちは、緊急時用の浄化の塩。これも危険だと感じたら、迷わず使って」
小川は深く頭を下げた。「ありがとうございます。由香さん、必ず、田中部長と寮さんに伝えておきます」
***廃村への帰路***
由香の店を後にし、軽トラックは再び山道へ向かった。
荷台には、資材と食料、そして強化された浄化用品が積まれていた。
「五月五日……あと四日か」
車窓に流れる穏やかな景色とは裏腹に、小川の胸には、拭えない不安が残っていた。
(何も起きなければいいんだが――)
エンジン音だけが、静かな山道に響いていた。
*** 峯川の寄り道***
峯川のバンは、資材店と食品店を数軒回った後、大学の敷地内へと入っていった。
目的地は、オカルト研究会の部室だ。
「……一応、顔を出しておくか」
廃村での調査が順調すぎること。それが逆に、峯川の中で引っかかっていた。
経験上、何も起きない期間が長いほど、その反動は大きくなる。
バンを停め、峯川は部室棟に向かった。
***カルト研究会・部室***
ドアを開けると、部室の中には星川副部長が資料を広げ、広末が機材の点検をしていた。
「お、峯川くん。買い出しの途中かい?」星川が顔を上げた。
「ああ。ついでに、ちょっと相談があってな」
峯川は簡単に、廃村での調査状況を説明した。
整備が進み、表立った異変はないこと。
だが、村の消失時期や診療所の記録、神社の存在が不自然に一致していること。
星川は黙って聞き、やがて静かに口を開いた。
「……小川君からも、さっき連絡があった」
「由香さんの件か?」
「『悪魔』のカード、それに五月五日が強く出ているらしいんだ」
広末の手が、一瞬止まった。「五月五日……偶然にしちゃ、出来すぎね」
星川は腕を組み、少し考え込む。
「正直に言うと、今の人数と新入生だと何か起きた時に対応しきれない可能性が高い」
峯川が頷いた。
「だから応援に、調査への参加を頼みたい」
星川は即答せず、状況を整理するように話す。
「僕と広末さんが参加するのは賛成だ。ただ――」指を一本立て「メンバー全員を出すのは危険だ。メンバーは必ず残すべきだし、追加の資材や物資を運べる余力も必要になるかも知れない」
「確かにな」峯川が頷く。
広末も頷いた。
「救援の待機メンバーを残しておいた方が安全ね。もしもの時、山田先輩や春香さんにも連絡できるし」
峯川は短く息を吐いた。
「OK。じゃあ、二人とも来てくれるか」
星川は立ち上がり、迷いなく答えた。
「もちろんだ。行くなら、今がベストタイミングだ」
***出発準備***
三人は手早く準備に取りかかった。
星川は部室の棚から浄化用スプレー、護符、塩、簡易結界用の魔法陣シート、水晶で作られた浄化グッズを取り出し、バッグとリュックへ詰めていった。
広末は懐中電灯、予備バッテリー、簡易工具を確認する。
星川「装備は軽く、でも確実にね」
広末「はい」
二人は揃って、L2-Bタイプのメンバージャケットを羽織り、その上からツールベストを装着した。
動きやすさと収納力を重視した、実地調査用の装備だ。
「嫌な予感が当たらないと良いけど・・・・」広末が肩をすくめる。
***再び、廃村へ***
三人は部室を後にし、峯川のバンへ乗り込んだ。
エンジンがかかり、車はゆっくりとキャンパスを出ていく。
峯川「小川が戻る前に、拠点に着けそうだな」
星川は窓の外を見つめたまま、低く言った。
「余裕があるうちに、備えておこう。それが出来るかどうかが運命の分かれ道になるからね。」
バンは1時間ほど進み山道へと入り、廃村へ向かった。
静かな空の下、
確実に、何かが動き始めていた。
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