二日目の廃村調査と活動
二日目になり、寮、國府田、橘美紀は、廃村の調査に向かう事になった。
***朝食後の出発準備***
朝食を終えた全員が、中庭のテーブルに集まった。祐一が本日の活動について説明を始める。
「では、昨夜決めた通り、三つのグループに分かれて活動します」
「第一グループは峯川副部長が率いて、隣の廃屋の調査と清掃を行います」
「第二グループは僕と松井さん、宮田さんで、母屋の修繕箇所の確認を行います」
「第三グループは寮さん、國府田さん、橘さんで、村全体の初期調査に向かいます」
新入生たちが真剣な表情で聞いている。
その時、寮の車に乗っていた國府田と橘美紀が降りてきた。
國府田が祐一の方を見て、柔らかい笑みを浮かべる。
「祐一君も立派な部長になったんだね。以前と比べて、しっかりしてきたのがよく分かるよ」
祐一が少し照れくさそうに答える。
「まだまだです」
そして、橘美紀の方を向く。
「橘さんも、色々と忙しいみたいだけど、大丈夫?」
橘が微笑んで答える。
「ありがとう、田中君。陰陽師の仕事もあるし、今回の雑誌編集者のお手伝いもあるから、中々、ゆっくりできないの」
「でも、今回の取材では、少しゆっくりできるかもしれないから、色々と、話もできそうね」
祐一が頷く。
「はい、夜の時間に、また色々と教えて貰えると助かるよ」
***取材チームの出発***
寮が全員に向かって声をかける。
「よし、僕たちは取材に出発する」
「今日の予定通り、隣の調査と、建物の補修と片付けを頼むよ」そして、少し真剣な表情で付け加える。
「後、メンバーは、この建物周辺から遠くに出かけないように。何があるか、まだ分かっていないから」
「無理はせず、危険を感じたらすぐに作業を中断すること。いいね?」
「はい!」全員が返事をする。
峯川が確認する。「トランシーバーは持ちましたね?」
寮がポケットから取り出して見せる。
「ああ、ここにある。何かあったらすぐに連絡する」
「こちらも、何かあればすぐに連絡します」祐一が自分のトランシーバーを確認する。
國府田と橘が車に乗り込む。寮も運転席に座り、エンジンをかけた。
「では、行ってくる。夕方には戻る予定だ」
「気をつけて!」
「いってらっしゃい!」
メンバーたちが手を振る中、寮の車はゆっくりと拠点を離れていった。
***村への道中***
寮の車は、草に覆われた村の道をゆっくりと進んでいく。
助手席の國府田が、窓の外を眺めながら呟く。
「思っていたより、建物の状態が良いわね」
後部座席の橘も同意する。
「ええ。廃村になってから、それほど時間が経っていないのかしら」
寮が答える「資料によると、この村が完全に無人になったのは十五年前だそうだ」
「比較的最近なんだな」國府田がメモを取る。
「住民が去った理由は?」橘が尋ねる。
寮が説明する。「主な理由は過疎化と高齢化。若者が都会に出て行き、残った高齢者も次々と亡くなったり、施設に移ったりした」
「特に大きな災害や事件があったわけではない。ただ、静かに、村の灯が消えていったんだ」
車は村の中心部へと向かっていく。
***村の中心部***
しばらく進むと、少し開けた場所に出た。
「ここが村の中心部だ」
寮が車を停める。
三人が車から降りると、そこには小さな広場があった。
広場の周りには、かつての商店らしき建物、公民館、そして小学校の跡が残っていた。
「ここに、村の人たちが集まっていたんだろうな」國府田がカメラを構える。
橘が周囲を見渡す。
「霊的な気配は……感じないわね」
「ああ、私もだ。ただ、深い寂しさのようなものは感じる」寮が静かに言う。
「人の記憶が染み込んでいるんでしょうね」橘が頷く。
國府田が公民館の方へ歩いていく。
「この建物、中に入れそうだ」
寮が後を追う。「慎重にな。床が抜けているかもしれない」
三人は、慎重に公民館の中へと入っていった。
***公民館の中***
公民館の中は薄暗く、埃が舞っていた。
しかし、中はそれほど荒れていない。
「掲示板がまだ残っている」國府田が壁を照らす。
そこには、色褪せたポスターや回覧板が貼られたままになっていた。
「『第三十回 秋祭り開催のお知らせ』……」寮がポスターを読み上げる。
「『平成十八年十月十五日』……これが最後の祭りだったのかもしれない」
橘が奥の部屋を覗く。
「こちらには、古い写真が残っているわ」
三人が集まると、そこには村の人々が写った集合写真が何枚も飾られていた。
祭りの写真、運動会の写真、成人式の写真。
笑顔で写る人々の姿。
「賑やかな村だったんだな……」國府田がシャッターを切る。
寮が写真を見つめる。
「この人たちは、今、どこで何をしているんだろう」
「きっと、それぞれの場所で、新しい人生を歩んでいるんでしょうね」橘が優しく言う。
「でも、この村のことは、忘れていないはずよ」
***小学校跡へ***
公民館を後にした三人は、次に小学校跡へ向かった。
木造の校舎は、一部が崩れかけていたが、まだ原型を留めていた。
「入口は危ないな。窓から中を確認しよう」寮が判断する。
窓から覗くと、教室の中には机と椅子が残されていた。
黒板には、チョークで書かれた文字が薄く残っている。
「『明日は遠足です。お弁当を忘れずに』……」國府田が読む。
「最後の授業で書かれたものかもしれないわね」橘が静かに言う。
寮がカメラで記録する。
「この村の最後の日常が、ここに残っているんだな」
三人は、しばらく無言で校舎を見つめていた。
***元住民の家を訪ねて***
午後になり、三人は村の外れにある家を訪ねることにした。
寮が事前に連絡していた、元村長の家だ。
「この方は、村が無人になった後も、時々、様子を見に来ているそうだ」
車で山を下り、麓の町へと進む。
小さな家の前で車を停めると、七十代と思われる男性が出迎えてくれた。
「よく来てくれた。元村長の山田です」
「寮です。電話でお話しした者です」
「こちらは、國府田さんと橘さん。今回の取材に同行していただいています」
山田は温かい笑顔で三人を迎え入れてくれた。
***元村長の話***
お茶を出してもらい、山田が話し始める。
「あの村には、三百年以上の歴史があったんです」
「江戸時代から続く、小さいけれど、温かい村でした」
國府田がメモを取りながら聞く。
「村が無人になったのは、いつ頃からですか?」
「本格的に人が減り始めたのは、昭和五十年代からです」
「若者が都会に出て行き、残ったのは高齢者ばかり」
「平成に入ると、さらに加速しました」
「そして、十五年前、最後の住民が村を出ました」
寮が尋ねる。「最後まで残っていたのは?」
「私の母でした。九十歳を超えて、一人で暮らしていましたが、体調を崩して……」
「それで、町の施設に移ることになりました」
「母が村を出た日、私は泣きました」
山田の目が、少し潤む。
「三百年続いた村の、最後の灯が消えた瞬間でした」
橘が優しく言う「辛い決断でしたね」
「ええ……でも、仕方なかったんです」
「村には、もう学校もない、病院もない、店もない」
「若者もいない、子供の声もしない」
「それでも、村は美しかった」
「春には桜が咲き、夏には蛍が飛び、秋には紅葉が山を染め、冬には静かな雪が降る」
「今でも、時々、様子を見に行くんです」
「誰もいない村を歩きながら、かつての賑やかさを思い出します」
國府田が静かに尋ねる。
「村に、未練はありますか?」
山田は、しばらく考えてから答えた。
「未練……というより、感謝ですね」
「あの村で生まれ、育ち、多くの人と出会い、幸せな時間を過ごせた」
「それは、かけがえのない宝物です」
「だから、村が忘れられないように、記録を残してほしいんです」
「あなたたちのような人が、村を訪ねてくれることが、とても嬉しい」
寮が頭を下げる。「必ず、良い記事にします」
***帰路***
山田の家を後にした三人は、再び村へと向かった。
車の中で、國府田が呟く。
「重い話だったな……」
「でも、大切な話だったと思いました」橘が答える。
寮が前を見据える。
「廃村というのは、単に建物が朽ちていく場所じゃない」
「そこには、人々の人生があり、記憶があり、物語がある」
「それを記録し、伝えることが、私たちの役目だ」二人が頷く。
車は、再び山道を登っていく。
夕暮れが近づき、空が茜色に染まり始めていた。
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