新学期の始まり
祐一たちは新学期に入り進学し、新たなメンバーがオカルト研究会に入部する事になった。
***新たな部長として***
新学期の始まり。大学三年生になった田中祐一は、オカルト研究会の部長として活動する事になった。
以前と違うのは、祐一が入部した時は少人数だったオカルト研究会も、祐一が入会してから少しずつ活気を取り戻しつつあったことだった。
今年に入り入会希望者も増え、八名が参加することになった。
メンバーは十八名となり、以前と比べ規模も大きくなっていた。
祐一たちの浄化活動が噂となり、憧れて入会する希望者も増えていた。
***新人歓迎会***
新人歓迎会の会場は、大学近くの居酒屋の個室だった。
祐一は新入生たちの期待に満ちた視線を受けながら、ゆっくりと口を開いた。
「まず、我々は霊能者でも、特別な力を持っているわけでもない。ただの一般人なんだ。決してヒーローではない」
祐一は手元の資料を新入生たちに配った。
「その証拠に、この一年間の調査では、ほぼ全敗といってよい結果だ」
新入生たちは資料を見て、少しがっかりした様子だった。
そこに、新人の田村浩平が声を上げる。
「でも、先輩、色々な調査活動を行っていて凄いと思います」
峯川が代わりに答える。
「確かに、色々頑張っているが、ほぼ逃げ帰っている。それが現実だ」峯川は腕を組んで続けた。
「色々なまじないや魔法を使っても、このありさまなんだ。それだけ我々は無力ということさ。ちょっとだけ一般人とは違うかもしれないけど、ほんのちょっとした差でしかない」
そして、峯川は力強く宣言した。「我々は、勇気をもって臆病者と断言する」
その言葉に、一年生たちは様々な反応を示した。
少しショックを受ける者、冗談と受け止める者、真剣に考え込む者。
しかし、その中で田村が再び手を挙げた。
「それでも、先輩たちは調査を続けているんですよね?」祐一が頷いた。
「ああ。逃げ帰ることもある。全敗することもある。でも、それでも続けている」
星川が優しく補足する。
「確かに僕たちは無力かもしれない。でも、無力なりにできることがある。結界を張ること、浄化をすること、そして何より、危険を察知して逃げること」
小川が笑いながら付け加えた。
「逃げるのも立派な技術なんだぞ。命あっての物種だからな」
その言葉に、会場に笑いが広がった。
別の新入生、女子学生の中村真理が尋ねる。
「でも、怖くないんですか?」
松井が静かに答えた。
「怖いわよ。いつも怖い。でも、それでも誰かがやらなきゃいけないこともあるわ」
宮田が続ける。
「私たちは、霊的な現象に困っている人を見捨てられない。だから調査をする。それだけよ」
祐一が全員を見渡した。
「もし、ヒーローになりたいなら、ここは向いていない。でも、地道に、慎重に、時には逃げながらも、困っている人の力になりたいなら……歓迎する」
新入生たちは顔を見合わせた。
そして、田村が代表するように立ち上がった。
「先輩たち、よろしくお願いします!」
他の新入生たちも、それに続いて立ち上がる。
「よろしくお願いします!」
祐一は微笑んだ。
「こちらこそ、よろしく。まずは基礎から学んでもらう。結界の張り方、浄化の方法、そして一番大事な、危険の見極め方と逃げ方だ」
峯川がニヤリと笑った。「逃げ方の特訓は、俺が担当するぜ」
会場が再び笑いに包まれた。
こうして、新体制のオカルト研究会が始動した。
十八名という大所帯。果たして、この新しいチームはどんな活動を繰り広げていくのだろうか。
***最初の活動***
歓迎会の翌週、オカルト研究会の部室に全員が集まった。
祐一が新入生たちの前に立つ。
「今日から、新入生の基礎訓練を始める。まずは、この部の基本理念を理解してもらう」
祐一はホワイトボードに大きく書いた。
「安全第一、無理をしない、命を守る」
「これが我々の最優先事項だ。どんな調査よりも、どんな依頼よりも、メンバーの安全が最優先」
新入生たちは真剣な表情で頷いた。
「次に、基礎知識の習得。結界、浄化、霊符、お守り……これらの基本を学んでもらう」星川が教材を配り始める。
「それから、実地訓練。最初は安全な場所での浄化のトレーニングから始める」小川が補足した。
「危険な調査に同行できるのは、基礎訓練を全てクリアしてからだ。最低でも三ヶ月はかかると思ってくれ」
新入生の一人が手を挙げた。
「質問です。先輩たちは、どうやってこの知識を身につけたんですか?」
祐一が少し懐かしそうに答える。
「ほぐはこれまで色々な本を読んだり色々な霊能者に出会い経験を積んできた。その中でも寮さんという方から、より詳しく教わった。彼は……この道のプロフェッショナルだ」
峯川が付け加える。
「寮さんは、今でも時々指導に来てくれる。お前たちも、いずれ会えるだろう」
田村が興味深そうに尋ねる。
「その寮さんって、どんな人なんですか?」
祐一たち上級生は顔を見合わせて、微笑んだ。
「会えば分かる」
松井が笑いながら言った。
「とにかく、凄い人よ。私たちが何度も助けられたわ」
「じゃあ、早速始めよう。まずは座学から」
祐一の声で、オカルト研究会の新学期が本格的に始まった。
十八名のメンバーたち。
それぞれの思いを胸に、新たな活動へと踏み出していく。
果たして、この新体制で、彼らはどんな事件に遭遇するのだろうか。
そして、新入生たちは、この部の本当の厳しさと、そして温かさを知ることになる。
最初のトレーニング
初めてのトレーニングは、掃除と片付けだった。
初めての実地訓練は、ある空き地の清掃活動となった。
「えっと……これが訓練ですか?」
田村が戸惑いの声を上げる。
ゴミ拾いや草刈りなど、地味な活動だった。
新入生たちは、少し拍子抜けした様子で作業を進めていく。
一通り作業を終えた後、浄化用の水晶を埋設したり、日本酒や塩を撒いて場を清める。清められた砂を撒き、お祈りをする。
「先輩、これがオカルト活動なんですか?」
新入生が目を丸くする。
「もっと、こう、不気味な所を探索するとかでは、ないんですか?」
中村真理が不満そうに尋ねた。
祐一が穏やかに答える。
「確かにそういったこともあるけど、基本としては掃除や片付けを行うことが多い。それと、定期的に風水調査や、科学的な視点での調査もある。時には霊符を張ったり、お祈りの活動、お香を焚くなど色々だ」
「地味ですね……」
新入生の一人が正直に呟く。
「まあ、こういった活動は、大半が地味なんだ」小川が笑いながら答えた。
別の新入生が手を挙げる。
「いきなり廃墟とか行かないのですか?」
祐一の表情が真剣になった。
「廃墟や心霊スポットは、場合によってはかなり危険なんだ」
祐一は少し間を置いて続けた。
「最近、僕たちが調査を行った所では、無数の悪霊に襲撃されてしまい、全ての霊符や霊力を使い果たし、結界も次々と破られ、浄化グッズも使い果たしてしまった」
新入生たちが息を呑む。
静まり返った空気の中、田村が震える声で尋ねた。
「よく……助かりましたね」
峯川が腕を組んで答える。
「半分は運だったかもしれないな。運が悪ければ、今頃、全員行方不明だったかもしれない」
その言葉に、新入生たちの顔が青ざめた。
星川が優しく補足する。
「だから、基礎が大事なんだ。掃除や浄化、結界の張り方……これらを学んでから危険な場所に行く。順番を間違えたら、命に関わる事もある」
松井も頷く。
「この空き地だって、以前は少し気が淀んでいた場所なの。でも、今日の作業で随分と清められたわ。こういう小さな積み重ねが、いざという時の力になるのよ」
宮田が作業を振り返りながら言った。
「それに、掃除や片付けは、心を整える訓練でもあるわ。慌てず、丁寧に、一つ一つの作業に集中する。これができないと、危険な場所で冷静に判断できない」
新入生たちは、先輩たちの言葉を真剣に受け止めた。
田村が改めて尋ねる。
「じゃあ、どのくらい訓練すれば、危険な場所に行けるんですか?」
祐一が答える。
「最低でも三ヶ月。でも、人によってはもっと時間がかかる。焦らなくていい。自分のペースで、確実に基礎を身につけていこう」
「はい!」
新入生たちが声を揃えて答えた。
最初は地味だと思っていた活動も、その意味を理解し始めていた。
***訓練の日々***
それから、新入生たちの訓練が本格的に始まった。
一週目:清掃と浄化の基礎
毎週末、様々な場所での清掃活動。公園、古い神社の境内、使われなくなった建物の周辺。
「汗をかきながら掃除をすることで、その場所への愛着が生まれるの」広末が新入生たちに教える。
「愛着があれば、その場所を守りたいという気持ちが強くなる。それが、浄化の力を高めるのよ」
二週目:結界の基礎
部室での座学と、実際の結界石の配置訓練。
「結界石は、ただ置けばいいってもんじゃない」
佐藤が丁寧に教える。
「方角、距離、石の種類……全てに意味がある。一つ間違えれば、結界は機能しない」
新入生たちは、何度も何度も練習を繰り返した。
三週目:霊符の作成
「霊符は、心を込めて書くことが大事」
鮎川が筆を手に取りながら説明する。
「字が下手でもいい。大切なのは、この符で何を守りたいか、その思いを込めること」
新入生たちは、真剣な表情で霊符を書き始めた。
四週目:危険察知の訓練
「この訓練が一番大事かもしれない」
峯川が厳しい表情で言う。
「危険を感じたら、即座に逃げる。これができないと、命を落とす」
実際に、わざと不穏な空気を作り出し、それを察知する訓練を行った。
新入生の中には、敏感に察知できる者もいれば、鈍感な者もいた。
「感度が低いのは悪いことじゃない」
祐一が鈍感だと落ち込む新入生を励ます。
「その分、他のメンバーの警告を素直に聞けばいい。大事なのは、チームワークだ」
こうして、一ヶ月が過ぎた。
新入生たちは、少しずつオカルト研究会の活動の本質を理解し始めていた。
派手な活動ではない。
地道で、慎重で、時には退屈にすら感じる訓練の繰り返し。
しかし、その一つ一つが、いざという時に命を守る技術になる。
そして、二ヶ月目に入ったある日──
祐一の携帯に、一本の電話がかかってきた。
「もしもし、田中君?寮だ」
祐一の表情が引き締まる。
「寮さん……どうされました?」
「ちょっと相談がある。時間、作れるか?」
「はい、もちろんです」
電話を切った祐一を、峯川が見つめる。
「寮さんか?」
「ああ。相談があるそうだ」
「……また、何かあったのかも」祐一は頷いた。
新入生たちの訓練は順調に進んでいる。
しかし、彼らを実戦に投入するには、まだ早すぎる。
祐一たち上級生だけで対応することになるだろう。
果たして、遼が持ち込む案件とは、一体何なのか。
新学期の平穏な日々は、そろそろ終わりを告げようとしていた。
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