岩の拠点での協議と調査へ
祐一たちは山の調査を本格的に行う為の準備を行っていた。
***岩の拠点での協議***
祠の調査を終えた一行は、まず周囲の安全確認に移った。全員で手分けし、参道脇の樹々の間や、崩れた石垣の裏まで、慎重に歩いて回る。
「……まずは、最低限の浄化と結界を張ろう」
祐一の声は低いが、落ち着いていた。
星川と鮎川が白砂を撒き、宮田が静かに祝詞を唱える。峯川は周囲を見張りながら、結界の要となる石を所定の位置へ置いていく。
「ここにカメラを設置します」
織田が三脚を立て、祠を正面に捉える角度で固定した。
「映像は山小屋のモニターに送れるようにしておきます」
「よし。少しでも情報が掴めればいい」
祐一が頷いた。
結界が張られるにつれ、周囲の空気がわずかに温かく感じられてくる。祠から漂う重苦しい気配は薄れ、森の静けさが戻り始めていた。
「戻ろうぜ。帰りも気を抜かないように慎重にな」峯川の言葉に、全員が表情を引き締めた。
来た道を慎重に戻りながら、途中何度か簡易の浄化を行い、樹々に小型の結界符を貼っていく。山は静かだが、どこか遠くで何かが動いている気配だけは、まだ完全には消えていなかった。
やがて、木々が途切れ、巨大な岩が姿を現す。
「ああ……ここまで来れば、ひとまず安心だね」祐一が小さく呟いた。
その岩の周囲には、複数の結界と浄化が重ねて施してあり、緊急時の避難場所として設定されていた。既にテントも張られ、周囲の樹々が風除けのように囲んでいる。
岩と、その脇に祀られた小さな祠からは、ほのかな神気が漂っていた。それは頼もしさと同時に、山が持つ深い力の存在を静かに語っているようだった。
*** 拠点設営の協議***
祐一が周囲を眺めながら口を開いた。
「今後、ここを調査拠点にしよう。木に囲まれていて風当たりもないし、日陰にもなるからテントを張る場所にも最適だ」峯川も同意する。
「アウトドアとしても良い場所選びだ。物資置き場にすることで山小屋までの往復時間と労力の節約にもなる」
「岩の近くにオープンテントを設置して、休憩と会議スペースに使うのはどうかな」
星川の提案に、広末が続けた。
「こっちを炊事の場所にして、テントで寝泊まりするといいわ」
「六人くらいだったら、なんとか短期間、ここで暮らせそうね」松井が頷くと、小川も加わる。
「山小屋に四人、バックアップとして滞在して物資をここまで運んだり交代することで、調査も進みやすそうだね」
しかし、織田が不安そうに眉をひそめた。
「でも、メンバーが分散すると、何かあった時ヤバくないかな」
「もし悪霊に襲われてしまったら、対応できる先輩たちがいないと厳しいですね」
佐藤の言葉に、宮田が冷静に答える。
「この場合、山小屋と拠点にするこの場所は、かなり安全だと思います」
「これまでにしっかりと浄化を行って、結界も張っているから」鮎川が補足した。
祐一がしばらく考えてから言った。
「確かに力の分散になるし、リスクもある。しばらく様子を見てからというのはどうかな?」
「ここから山小屋までは十五分くらいだし、ルートもしっかりと結界を張っている」峯川の言葉に、織田が首を振る。「緊急時に十五分間のタイムラグは厳しいと思うけど」
「そうです、田中部長。仮に調査隊として先輩たちが出払った後、残ったメンバーだけでは太刀打ちできないリスクもあります」佐藤の懸念に、小川が考え込むように答えた。
「確かにそうだけど、全員で調査に出向くと、どうしてももたついてしまうしな。また、体力的に全員消耗してしまうと、救援にも行けなくなる」
「どっちにしても難しいわね」
宮田が溜息をついた。
松井が穏やかに言った。
「小屋からここまでは、かなり安全だし、そこまで心配しなくても良いと思うよ。それに、何かあったとしても、小屋と拠点までは十五分だし、簡単に次々と結界を破ってくる強い存在は、今のところ感じられないよ」
一同は静かに頷き合った。慎重さと効率、そのバランスを取りながら、この山での長い調査に備えることになる。
*** 拠点の整備と調査準備***
「――じゃあ、こうしよう」祐一が周囲を見回しながら提案した。
「ひとまず、この場所の拠点づくりを進める。それと、ここには僕と峯川、松井さん、宮田さんの四人が滞在する。ほかのメンバーは山小屋で待機して、照明弾や無線で合図を送り合う。定期的に連絡を取りながら運用していくのは、どうだろう?」
メンバーたちはそれぞれ頷き、真剣に耳を傾けていた。
「僕たち四人が拠点設備を整えて、その間の物資輸送は山小屋側に任せる。安全が確認できたら、この場所を本格的な拠点として強化しよう。調査も、そこから広げていく形になる」
そこで祐一は少し間を置き、柔らかい声で続けた。
「それから……もし疲れたり、休息が必要になったりしたら、全員で一度山小屋に戻る。無理はしない。それを前提にしたい」
メンバーの表情は自然と和らぎ、緊張がゆっくりとほどけていく。山の静けさの中で、彼らの新たな拠点計画が少しずつ形を成していった。
こうして祐一の提案は受け入れられ、岩のある場所での拠点づくりは数日のあいだ順調に進められた。
食料や水も十分に備蓄され、日が暮れると一度山小屋へ引き返し、翌朝になるとまた四人が岩の拠点へ戻って作業を続ける──そんな流れが自然と形になっていく。
作業の手を止めた夕刻、峯川が祐一の肩を軽く叩いた。
「ずっとここで寝泊まりするのは、さすがにキツいけどな。二、三日くらいなら問題ない。……明日から、調査に出るか」
祐一も頷き、調査メンバーの選出を告げた。
「調査チームは、僕と峯川、星川、織田、鮎川の五名。岩の拠点には残りの五名が待機する」
「五人では、少なくありませんか?」
小川が不安げに尋ねる。
しかし峯川は、いつもの豪快さを見せて笑った。
「むしろ五人くらいが動きやすいんだよ。小回りも利くしな。部長と星川がいたら、霊的な存在が出てきてもある程度は対処できる。それに、こっちに残るメンバーも霊力のあるメンバーが残っている。いざってときは対応できるさ。……留守は頼んだぞ」
その言葉に、拠点組のメンバーも力強く頷いた。
「みんな、留守を頼む」祐一が声をかけると、松井が明るく応えた。
「気をつけてね、田中部長、、、みんな」
「おいしいご飯を作って待ってるよ」広末が続く。
「小川くん、佐藤くん、留守を頼む」
鮎川の言葉に、小川が胸を張った。
「了解、僕と松井さんがいれば、多少の悪霊にも対抗できますから、安心して行ってください」
*** 調査の開始***
「よし、出発だ」
峯川の声とともに、調査チームの五名は身支度を整え、前回調査した祠の場所へ向けて歩みを進めた。
祠に到着すると、設置したカメラの映像を確認する。映像におかしな点はなく、周囲は静まり返っていた。
「田中部長、ここを次の拠点にするのもいいかもしれないね」星川が周囲を見渡しながら提案した。
「そうだな。簡単に結界を張っておこう」
一通り調べた後、さらに先へと進んでいく。
進んでいくと、木に囲まれた斜面が続いた。遠くでカラスの鳴き声が聞こえる。斜面を乗り越え、しばらく木の林を縫うように進むと、少し開けた場所に出た。
「ここだけ広場みたいになってるな……」
織田が周囲を見回す。確かに不思議な場所だった。森の中にぽっかりと空いた空間。鮎川がカメラに収めながら、一行は広場で休憩することにした。
時計を見ると、三時間ほど経過していた。
「織田くん、ドローンを飛ばして周囲を調査してくれ」
祐一の指示に、織田がドローンを展開する。
上空からの映像には、このまま先に進むと大木があることが映し出された。さらに別の方向には、巨大な岩も確認できた。
「まずは、大木の調査を行ってみよう」祐一が指示を出し、大木のある方向へと進んでいく。
三十分ほど進むと、大木のある場所に到着した。鮎川が大木をカメラに収めていく。
峯川がふと大木の根元を見ると、何か石が積まれていた。
「何か、あるのか……」
「何かの儀式や祭祀に使われていた可能性も考えられるね」
星川も真剣な表情で観察する。祐一も辺りを慎重に調べ始めた。
しばらくすると、霧が出てきた。
「何かヤバイかもしれない。一旦、撤収しよう」峯川の判断に、全員が頷いた。
撤収が決まると、祐一たちは引き返すことにした。引き返していく中、徐々に霧が深まっていく。
「視界が悪くなってきたな……」織田が不安そうに呟く。
広場に辿り着いた所で、霧が晴れるまで待機することにした。五人は円を描くように座り、周囲に気を配りながら、静かに霧が晴れるのを待った。
しかし、中々霧が晴れず、周囲から何かの気配を感じられる。
「何か……寒くなってきました」織田が震える声で呟いた。
冷気が辺りに立ち込めてくる。不自然な冷たさだ。
「全員、コートを着用」
祐一の指示に従い、メンバーはリュックからマウンテンコートを取り出して着用する。ゴアテックス素材で作られたコートを羽織り、雨風に備えた。
峯川が浄化スプレーを取り出す。星川は周囲に結界石を並べていく。
祐一は静かに、お経を唱え始めた。
「何か黒い影が近づいてくるわ」鮎川が張り詰めた声で知らせる。
「大丈夫、結界の中にいれば……」織田が自分に言い聞かせるように呟いた。
その後、しばらく緊張した時間が続いた。
お経の声だけが、霧の中に静かに響いている。黒い影は結界の外を彷徨うように動いていたが、やがてゆっくりと遠ざかっていった。
「……去ったか」
峯川が小さく息を吐く。
祐一はお経を唱え続けながら、周囲の気配に集中していた。冷気は徐々に薄れ、霧もわずかに晴れ始める。
「もう少しこのままで。完全に安全が確認できるまで動かないほうがいい」
星川が冷静に判断する。
五人は結界の中で身を寄せ合い、山の静けさが戻るのを待った。
*** 山小屋への撤収***
その後、霧も晴れてきて、祐一たち調査メンバーは元の場所に戻ることができた。
岩の場所の近くに来ると、広末の明るい声が響いた。
「おーい、お帰り!どうだった?」他のメンバーも手を振って出迎える。
祐一が深刻な顔をして告げた。
「今日は全員、山小屋に撤収しよう。話は帰ってからだ」
その表情に、出迎えたメンバーたちも緊張した空気を感じ取った。
時計は午後四時三十分を回っていた。少し疲れていたせいもあり、祐一たち調査メンバーは二十分過ぎて山小屋に到着した。
小川が小屋の周りの結界を慎重に調べる。調査メンバーたちは先にレトルト食品など簡単な食事を取り、順番に風呂に入り、ベッドで休むことにした。
*** 報告と対策会議***
祐一と峯川は、小屋の中にあるテーブルに座り、他のメンバーに今日起きた出来事を話す。
全員が食堂に集まり、真剣な表情で耳を傾けていた。
「黒い影……霧か」小川が真剣な顔で話を聞く。
「もしかして……ここに来る可能性も」
一緒に話を聞いていた佐藤が不安そうに続けた。
祐一が静かに頷く。「その可能性もあるかもしれない」
峯川が重々しく付け加えた。
「広場で囲まれた時は、相当な数の気配を感じたんだ……」
その言葉に、部屋の空気が一層重くなった。
松井が落ち着いた声で尋ねる。「結界は効いていたのよね?」
「ああ。結界の中にいる限りは、奴らは手出しできなかった」
星川が頷きながら答える。
「でも、あの数……もし結界が破られたら」
織田の言葉に、誰もが黙り込んだ。
宮田が冷静に分析する。
「つまり、あの広場は何かの境界線なのかもしれないわ。大木や石が積まれていたということは、昔から何かの封印か結界があった場所なのかも」
「それが今、弱まっているってことか」
広末が不安そうに呟く。
祐一が全員を見渡した。
「明日以降の行動を見直す必要がある。今日のような状況に備えて、より強固な結界と、緊急時の退避ルートを確保しないと」
「調査は続けるんですか?」佐藤が尋ねる。
峯川が力強く答えた。「もちろんだ。だが、無理はしない。安全第一で行く」
祐一も頷いた。
「そうだな。今日のことを教訓に、装備も態勢も見直そう。今夜はしっかり休んで、明日改めて対策を練ろう。判断は今夜の状況次第で決めよう」
メンバーたちは頷き合い、それぞれの部屋へと向かった。
山小屋の窓の外では、夜の闇が静かに広がっていた。
遠くで木々が風に揺れる音だけが、時折聞こえてくる。
結界に守られた小屋の中で、メンバーたちは束の間の安らぎを得ていた。しかし誰もが、明日への不安と覚悟を胸に秘めていた。
*** 夜の警戒態勢***
調査メンバーたちは、食事と風呂に入った後、ベッドで仮眠を取ることにした。
午後七時を過ぎており、調査チームたちは、疲れから深い眠りに落ちていた。
小川は他の待機メンバーたちと、夜の襲撃に備えて準備を行っていた。
霊符を窓やドアに貼り、魔除けのお香を焚く。小屋の中央には魔方陣のシートを敷いた。魔方陣のシートは強力な結界になっていて、この中にいれば、まず大丈夫だった。
「松井さん、宮田さん、広末さんたちは、食事とお風呂に入った後、屋根裏の部屋で休んでください」
小川が指示を出す。
「深夜に備えて、早めに寝ておきましょう」
三人は頷き、階段を上がっていった。
小川と佐藤が一階のテーブルに座り、警戒していた。
「佐藤、大丈夫さ。この小屋に来るまでは、いくつもの結界が敷かれているから。安心だ」
小川が落ち着いた声で語りかける。
「それに、この小屋の敷地内にも結界を張り、小屋の周りも結界を張っているから……安心しろ」
「はい、小川先輩」佐藤が緊張した面持ちで頷いた。
その後、風が強まってガラスの窓を叩く音が響いていた。
夜も更け、寒さも強まってくる。ヒーターを付けていたが、寒さが強まり、小川は他のヒーター二基のスイッチを入れた。
佐藤が魔方陣のある場所で寝袋に入り仮眠をする。浄化のお香を焚いている香炉は、テーブルの上に置かれており、小川が定期的にお香を継ぎ足しながら窓の外を見つめながら、静かに警戒を続けた。
風の音に混じって、時折、何か遠くから聞こえるような気配がする。しかし結界は健在だ。小川は祝詞を小さく唱えながら、長い夜に備えた。
時計の針が、ゆっくりと深夜へ向かって進んでいく。深夜へ向かって進んでいく。
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