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晴空の魔法使い  作者: ぱんぱんなこった
廃れたもの
49/51

思考

「……それが聞けて良かった」


 ジークは一息つき、また引き締める。まだ何も終わっていない。


「その魔術……多分、熱とか爆発を起こす魔術だと思うんだけど、自分で発動できる?」


 イルマの発言と見た目、そしてあの壁の惨状を見て概ねの推測は立っていた。


「……分からん。何故か制御がきかない。今は魔力が奪われるのを遅くするので精一杯だ」


「……そう。それじゃあ――」


 ダンの返答にジークは頷く。

 そして次の言葉を溜めるように一呼吸置き、二呼吸置き……

 次の言葉は……


「……おい、お前まさか……」


「ジーク、お主……」


 次の言葉は…………


「……えっと……どうしよう……」


 出てこなかった。


「あれだけ調子の良いことを言っておいてまさか策が無いとはな」


 呆れるようにため息をつくダンに、ジークは慌てて言い訳をする。


「い、いや全く策が無い訳じゃ無いよ!ただそうできれば話が早かっただけで……」


 イルマの視線を受けて何とか絞り出すと、


「あとは……右腕を切断するとか……」


「なッ……い、いや、それしか方法が無いと云うなら……」


 急な提案に衝撃を受けつつも、ダンは無理矢理納得しようとした。余裕そうに振る舞ってはいるものの、その顔色は酷いものだった。自分の魂を死神に手で吟味される恐怖は、本来ならその恐怖だけで死んでもおかしくは無い。

 だがダンにとって、死にそうな恐怖はどうでもよかった。そんなことは何度も経験してきたからだ。重要なのは死ぬ事そのもの。それが回避できるなら腕の一本も飲み込めた。


 しかしそんなダンに対して、イルマの思考はまだ止まっていなかった。


(まだ、何かあるはずだ。良い方法が……)


 頭を高速で回す中ふと目線を落とした先、そこにはダンが持つ赤い剣があった。不気味な唸り声をあげて奪った魔力を熱に変換している。剣の切先が触れている石畳は剣と同じような色に変わって溶けていた。

 だがイルマが見ていたのはそこではなかった。剣身にかかれた魔術。奇妙な文字のようなものが彫られていて、イルマはそれをじっと見つめると……


「ジークッ!!今すぐ雷の剣とあの女の剣を拾ってこいッ!!今すぐだッッ!!」


「は、はいッ!!!」


 必死な形相で叫ぶイルマにジークは一も二も無く返事をして即座に行動する。こうなったイルマの命令は素直に従うのが一番だと嫌でも理解していた。

 ダンは急に叫んで走り回るジークに呆気にとられるしかなかった。


 割と近くに落ちていたセシリアの剣に対しミゲルの剣は少し遠くにあったが、何となくの位置は分かっていたのでそこまで時間はかからなかった。

 そしてイルマは魔術が刻まれた面を上にして並べるように言い、ダンの剣も分かりやすいように並べさせた。

 訳の分からない、しかし似通った文字が並んだ。


(……やはりそうだ。赤い剣の文字は見覚えがある。これなら……)


 並べ、記憶を探り、理解しようとすることで、全く訳の分からなかった文字列の意味が分かるかもしれない。

 思考は、巡る。


(全てに共通するのは最初と最後これは魔力の吸収と放出?他にも同じような文字がある全体の構成が似ているのは幸いだったということは違っているのが自ずとそれぞれの特性になってくるはずそして赤い剣のこの文字が恐らく熱という意味記憶と微妙に違うのは……文字一つで意味と強弱を表しているから?何百年も経っているなら文字が変化してもおかしくない……いや、今はとにかく大体の意味が掴めれば良い)


「おい、何をしているんだ」


 突然剣を並べたかと思ったら今度は黙りこくったジークに訝し気に聞くが、ジークも良く分かっていない。


「えっと……この文字が分かる……気がする……?」


 訳の分からない返答にダンは閉口するしかない。


(そうなると熱に対応するこの部分が雷と斬撃でその前についているこれが変換するの意味しかし赤い剣にはある熱の後ろの文字がその他には無いのは何故?何が違う?……魔術全体の流れを考えると魔力の吸収変換放出で全部同じではないのか?赤い剣だけ……そうかこれは溜めるの意味だ!赤い剣だけが変換した熱を溜めている……ん?この文字端っこが少し潰れている……元々こういう文字か、いや他の文字はどれも細部まではっきりとしている……まさかこれが暴走の原因か?何らかの理由で文字の一部が潰れ溜めるという条件が変わった……論理の飛躍……いやそもそも道具が意思を持つように人間を使うなどありえないし文字が魔術発動の鍵なら曖昧な彫り方はしないはず……ならばこの文字だけを消せば……)


 イルマの推測は概ね当たっていた。イルマが溜めるの意味だと考えていた文字は保存の魔術。魔力から変換された力をその場に留める魔術で、本来なら一定量溜まった時、魔力の吸収と変換が終わり放出の魔術が発動するはずだった。しかしこの赤い剣は何故かは分からないが保存の魔術の一部が潰れたことにより一定量の意味が失われてしまった。結果、保存する量の上限が無くなり、使い手の魔力が尽きるまで吸収し変換し続ける意思なき化物が生まれてしまった。


(故に溜めるの文字そのものを無くし、変換から放出を直接繋ぐことで魔力の吸収も止まり今溜まっている分の熱が放出されるはず……いや、もう迷っている時間は無い!)


 ちょっとした音が雪崩を誘発するように地震によって火山が噴火するように、規模が大きくなるほど崩壊は突然起こる。


 イルマは先程のジークの発言を思い出し、


「ジーク!策はあるんだなッ!!」


「はい!あります!!!」


 訝し気な顔をするダンの前で作戦を伝えた。






 正面にはダン。剣を頭上に持ち上げ切先を空に向けるように構えている。魔術が書かれた面をジークに向けていた。

 ダンまでの距離は約三歩。ジークはもっと近づきたかったが、イルマは恐らくこの距離が限界だろうと言った。

 そいてダンを中心にした二人の周りには、いくつかの細長く引き裂いた布が大きめに砕いた石畳の下に挟んであった。

 ジークは右手に石ころを軽く握っている。


(失敗すれば、ぼく達もこの町も吹き飛ぶ……)


「おい、もう余裕は無いぞ……!」


 脳内麻薬が落ち着き痛みで熱くなる左腕。だがダンの言葉に頷けばそれもどこかに消え、


(絶対成功させる……ッ!!)


 魔力が漲る。


 体外に放出された魔力はゆっくりと少しづつ空気と混ざり合い、反時計回りに回転を始める。ほんの僅か、濡れた肌なら何とか感じられる程度の緩やかな風は、しかし確実に成長している。風速を上げ、周囲に設置された細長い布はなびき、その道筋を丁寧に教えてくれる。

 ダンを中心に半径約五歩。円周にして約三十数歩。

 ダンとの戦いで砂を巻き上げて作った砂塵の壁の三分の一程の大きさのつむじ風を、ジークは今作ろうとしていた。


(半径が小さくなるほど、風速は上がる。さっきみたいに上手くはいかない。……だけど良いんだ。最初から最後まで自分で全部する必要は無いんだ)


 風は速さを増し、限界が来た。今のジークはこの半径の遠心力を制御できない。だが、それで良かった。


 右手に握った石ころに魔力を籠め、弾き出す。

 狙うはあの一文字。


(風を操るんじゃない……風に乗るんだ……ッ!!)


 石ころは真っすぐ飛んで行き、甲高い音と共に一文字(保存の魔術)を潰した――

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