表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
晴空の魔法使い  作者: ぱんぱんなこった
廃れたもの
47/51

欲するもの

潜入を少し変えました。

 グロアとの決定的な違いを見せられた後も、俺は何度もグロア達と一緒に遊んだ。そうすれば食べ物を分けてくれるからだ。


 グロアと鬼ごっこをし、俺は圧勝した。グロアは膝に手をついて息を切らしながら、はやいね、と笑って言った。


 その日の夜も、路地裏で一人だった。


 トールがグロアの後ろから出てきてくれた。俺はなんて言って良いか分からなかったし、トールも黙っていた。そんな様子を見てグロアはクスクスと笑っていた。


 その日の夜も、路地裏で一人だった。


 二人の母親に会った。グロアに良く似ていて、太陽の様な女の人だ。殆ど毎日働いているらしく、その日は偶然休みになったようで、喜んではしゃぐグロアとトールを抱きしめた。三人の顔は、見たことが無い程幸せな表情をしている。

 対して俺は今、どんな顔をしているだろうか。

 ただあの人は手で招き、俺は誘われた虫の様にフラフラと近づいて、二人と一緒に抱きしめられた。温かく、柔らかく、甘い匂いがした。自分の知らない何かが胸を衝いて、俺は……肩に回された腕を跳ね除け逃げ出し、


「また、いらっしゃい」


 一人になった。




 何年か経った時、グロアとトールの母親が病気に罹った。なんてことの無い、普通の病だ。運が悪ければ罹り、もっと運が悪ければ死ぬ。それだけだ。

 グロアは懸命に看病していた。濡らした手拭いを額に当てて、粥を飲ませた。


(無駄だ。薬も無いのに、そんなのは気休めにしかならない)


 トールは医者を探していた。毎晩帰りが遅くなるほど町中を走った。


(無駄だ。あの壁の中にしか、真面な医者はいない)


「みんなで仲良く……ね……?」


 そしてあの人は、あっさりと死んだ。

 二人は泣いていた。俺はその涙の量も、漏れ出す声も、理解できなかった。それでも慰めようと、仕方がなかった、と言おうとして……言えなかった。俺は二人に対して、仕方がなかったと、言えなかった。




 いつの間にか、また数年が経った。そして今度は俺が病気になった。運が悪かったのだ。まだ動ける内に何とか屋根のある場所を見つけた。その点は運が良かったがこの後も運が良いとは限らない。

 高熱が出て、息が苦しくなる。全身が重く、もう指一本すら動かしたくない。視界がぼやける。ここまで体調が酷いのは初めてだ。

 俺も、あの人と同じように死ぬのかもしれない。

 ……いや、違うか。あの人の様に、傍で泣いてくれる人など俺にはいないのだから。



 俺は二度と開けたくない程に重い瞼を、閉じた。



 上も下も無い空間で、俺はただ浮いている。自分の手を見ても、そこには黒いもやしか無くて、ただフワフワと揺らいで形が無い。こんな手では、何も掴めはしない。


 意識がグルグルと回転して、記憶がごちゃ混ぜになる。死に向けて人生の整理をしようと、過去を無理やり持ってきて、今の様に見せる。今更見せられても、どうしようもない。思うこともあった。


 グロアは俺をどう思っていたんだろうか。

 トールは俺に懐いてくれたんだろうか。

 あの人は、何で俺を抱きしめてくれたんだろうか。


 俺は結局……何がしたかったんだろうか。


 目の前に、ガラスの欠片が現れた。


 ――何度もグロアに会ったのは、何故だ。


 希望が欲しかった。グロアと一緒にいることで、自分にも希望があると思いたかった。


 ――トールと仲良くなろうとしたのは、何故だ。


 一人は嫌だった。信用できる、助け合える仲間が欲しかった。


 ――あの人の腕を跳ね除けたのは、何故だ。


 知りたくなかった。あの気持ちを、あの感情を知ってしまったら、もう一人には戻れなくなる。孤独が、怖くなる。


 そうだ。俺は自分勝手でどうしようもない人間なんだ。


 希望が欲しいのに、助けてくれと言わない。


 仲間が欲しいのに、自分からは誘わない。


 家族が欲しいのに、温かさを拒絶する。


 求めるのに、何もしない。変えたいのに、変えようとしない。

 矛盾を抱えて生きているのに、不満は消えることなく溜まり続ける。

 グロアが必死に看病をしている時、俺は何をしていた?

 トールが息を切らして医者を探している時、俺は何をしていた?

 何もしない奴が、何もしようとしない奴が、諦めた顔をして行動する者に呪いを吐く。

 だというのに、慰める時は良い顔をして、仕方がなかったなどとほざこうとした。

 言って良い訳がない。ただ黙って見ていた奴が、仕方がなかったと言って良い訳がないッ!


 ……だが、もうどうでも良いことだ。今更過去を悔やんだところで、俺はもうすぐ死ぬ。何も成せず、何も成さず、一人で死ぬ。


 ――それで良いのか。


 良いも何も無い。もうどうしようもないんだ。


 ――諦めるのか。


 諦めたわけじゃない。もうできることが無いだけだ。


 ――また、仕方がなかったと言うのか。


 ……何なんだお前は。さっきから勝手な事ばかり言う。人の内側に土足で入って来るなッ!


 ――俺は、お前だ。縋りたいお前。諦めたくないお前。変えたいお前。壊れた心で成せなかったお前の集合。それが俺だ。


 ――また諦めるのか。また何もしないのか。どうしようもないと達観した気になって、動くこともせず、あの路地裏で死んでいった奴らの様に何も残さず孤独に死ぬのか。


 うるさいッ!俺だって……希望が欲しい。仲間が欲しい。家族が欲しい。愛が欲しいッ!

 だが……もう……俺には……


 ――俺はお前に、希望も、仲間も、家族も、愛も与えてやれない。しかし、一つだけ。一つだけお前に与えてやれる。


 ……一つ……?


 ――力だ。人よりもずっと強い力。俺なら、それを与えられる。


 ……それがあれば、全部変わるのか……?


 ――さあな。力があろうと何も成せない者はいる。変えるのは、お前自身だ。この力でお前の生活も、この町も、運命も、お前が変えるんだ!


 俺が……変える……


 ――そうだ。お前がいらないと言うのなら、お前が何もしないと言うのなら、俺もお前と同時に死ぬだけだ。

 だが、変えたいというのならッ!求めろ!欲しろ!叫べ!

 力が欲しいと!


 俺は……欲しい……


 ――力が欲しいか。


 力が……欲しい。


 ――力が欲しいか!


 力が欲しい!


 ――力が欲しいかッ!!


 力が……欲しいッ!!!


 ガラスの欠片が集まって、俺を形作った。黒いもやも取り込んで、俺は今、一つになった。




 朝だ。ボロボロの屋根から白い光が漏れている。目はすっかり冴え体を起こすと、軽い。病など嘘だったかのように消え去り、むしろ力が湧いてくる気さえする。


(力……?)


 何となく、手を見つめた。すると手の周りに力が揺らいで、歪んで見えた。


(これが……力)


 この力で何ができるのか。どこまでできるのかは分からない。だが、分かった。今、確信した。この力があれば……


「変えられる……いや、この力で……全部、俺が――」






「――俺が…………変え……る……」


 腹に打ち込まれた正拳。蒼い魔力の奔流はダンの腹で炸裂した。

 ダンは何とか意識を保っているが、もはや風前の灯だ。一歩、また一歩と後退り、意識が途絶え後ろに倒れかけた時、右手が赤い剣に()()()


 瞬間、剣は赤く光を放ち始めた……

いいね、感想、評価よろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ