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晴空の魔法使い  作者: ぱんぱんなこった
廃れたもの
31/51

「どうだ、奴は」


 深夜、月の光が屋根の隙間から漏れ出す廃れた建物の中でダンは報告に来た若い男に聞いた。

 焦っているのか期待しているのか、この暗さでは表情を読むことはできず若い男はどう伝えれば良いか分からなかった。

 しかし報告するのが自分の仕事で、ダンは理不尽に怒ったりしないことを知っていたので速やかに伝えた。


「奴はいつもこの近くをうろついている女と何やら話をした後、その女の家の近くまで送っていって、その後は別の女と町の外に出て戦闘をして、今は和解して奴が持っていた剣はその女に渡したようです」


 若い男は考え込みブツブツと呟くダンを見ながら、うろつく女もジークとかいう少年も捕まえてしまえばよかったのにと思った。

 ダンはうろついてる奴は放って置けとしか言わないし、あの少年に関しては秘密を喋った上で断れればそのまま返すと言われ自分の耳を疑った。

 だが自分達にはダンの考えは理解できないし、その上で準備は着々と進んでいるので文句は無かった。


「その女はまだこの町にいるのか」


「……はい、和解した後は二人で宿に入っていったと……」


 質問の意図が理解できず、意味がなさそうな情報も伝えた。未だにどこからどこまで報告すれば良いか分かっていないので迷ったら全て伝えることに決めていた。


「戦った女の強さは」


「……遠くで見ていたので正確な力は分かりませんが、最終的には奴に取り押さえられていたのでそこまで強くは無いと思います。ただ監視している者が言うには、女神の様な途轍もない美人だったそうです」


 実は監視役から聞いた話は、あの女が美人だったこととそれがどのような美しさだったかという話で八割を占めていて、真面に報告できるものは殆ど無かった。最初は監視役に真面目に仕事をしろと怒ったが、ここまで来ると逆にその女を見たくなってきた。


「そうか、報告は終わりだな」


 奴らから目を離すな、そう付け加えてダンは奥に消えていった。

 若い男は腑に落ちない部分もあったが、そんなことはすぐに忘れて女神の様な女を一目見ようと監視役の元へ向かった。




 真っ暗な道を歩きながらダンは呟く。


「運は俺に向いている」






 明かりが一つ、暗く小さい部屋の中にポツンと点き、熱を感じるような橙色の光が優しく照らす。その光に照らされ、顔は良く見えないが二人の人間がベッドの上に座っていた。

 明かりの火が揺れると、壁に映った二つの影は一方が近づけば一方は離れ、二つは同時に、同じ方向に動く。


「……早くしてくれないか」


 女は吐息交じりに言った。背中をはだけさせ、染み一つ無い玉の様な肌とうなじを晒し、その表面にはうっすらと汗がにじんでいた。揺れる光は滲む汗と、傍らに置いた鎧と、首の横から前に流した髪を火と同じ色にし、その全てを夕陽に映る水面のように光らせた。


「いや、でも……ちょっと……」


 男……と言っても影の大きさからしてまだ少年の様だが、決心がつかないのか伸ばそうとした手を引っ込め、また伸ばし引っ込め、中々二つの影は交わらない。

 ただ時間だけが過ぎ、そのうなじや脱いだ鎧から漂う以前にも嗅いだことがあった甘い香りを嗅ぐと、何故か鼓動が早くなり、物音一つしない部屋で自分の心臓の音がやたらとうるさく聞こえた。

 まごつく少年に待ちきれなかったのか、女は前を隠していた布を両手から左手に持ち替え、空いた右手で少年の手首を掴み強引に自分の首へと当てた。少年が持っていた固く絞った布巾は汗が蒸発して冷えた体には冷たく、ビクリと体が震え少し鳥肌が立ったが、鎧で蒸れた体をそのままにするよりずっと良かった。

 少年は観念したのか、髪の付け根から順に、うなじ、肩、背中、腰を拭いていく。肌の下にある薄い脂肪が背中の凹凸を緩やかにし、滑らかな肌と相まって布巾が止まることは無かった。そして薄い脂肪の下には強靭でしなやかな筋肉が詰まっていることが拭いている手を押し返してくる力で分かり、少年はその女の努力の一端を垣間見た。

 しかし途中で二回程水を張った桶で布巾を洗い、冷たくなった布巾を当てる度に跳ねる背中に、少年は良く分からない汗をかいていた。


「――助かった。人に拭いてもらうなど久しぶりだったよ」


 漸く拭き終わり浅くなっていた息を深く吐くと、少年は目線を外し、そそくさと立ち上がり扉へと歩いていく。


「ではぼくは外でゆっくり水を浴びてくるのであまり心配しないで下さいしばらくしたら戻ります」


 振り返らず一息で言うと、扉に手をかける直前動きが止まった。そして扉を少しだけゆっくりと開け、空いた隙間から廊下に誰もいないことを確認すると、体を滑り込ませて外に出て後ろ手で扉を閉めた。


「少し早く戻ってきても文句は言わんぞ」


 扉越しに聞こえた声を聞こえない振りをして足早に歩き出した。先程まで橙色の光に照らされていたので分からなかったが、その顔は真っ赤に染まっていた。


「フフッ、かわいい奴だ……」






「――セシリアさん、入りますよ」


 ジークは手の甲で扉を叩く。かなり時間をかけたつもりだが、女性の身支度にどれだけの時間がかかるかは分からないため一応声をかける。


「ああ、入って良いぞ」


 ジークは扉を開け中に入る。明るさを感じるのは開いた窓から月の光が入ってきているからか、肌を撫でる風も流れてくるが少し甘い香りも鼻を擽る。セシリアを見ると、白く薄い布の寝巻に着替えており鎧を着ていた時には気づかなかった豊満な胸が主張していて、ジークは思わず視線を外した。


「フフッ、思ったより遅かったな。もう少し早くても良かったんだぞ」


 からかうように言うセシリアにジークは顔を反らしながらセシリアが座っているベッドの反対側へと座った。シスターシグネの寝間着姿も見たことがあったはずだが、何故だか今のセシリアは見てはいけない気がした。


「そもそも何で一部屋だけなんですか?男女が同じ部屋なんて、その……」


 詳しい理由までは言われていないが、シスターシグネからは軽率に男女が一部屋に泊まったり体を密着させてはならないと言われている。もう既にその言いつけを破っている気がするが、更に破って良い訳でもない。


「おいおい、私に二部屋も奢らせる気か?私だってそう多くは持っていないんだぞ」


 それを言われてしまうと弱い。勘違いで襲ってしまったお詫びに宿を奢ると言われジークはそれを受け取ってしまった。受け取ったお詫びにケチをつけるなどするものではない。


「もう夜も遅い、寝るぞ」


 明かりの火を消し、窓を少しの隙間を残して閉めるとセシリアはベッドに横になった。ジークも並ぶように横になる。このベッドは思っていたより大きく、二人が横になってもまだ僅かに余裕があった。

 寝返りを打っても大丈夫かもしれない、とジークの硬さが取れベッドに体を預ける。ずっと野宿を続けるとベッドというだけでありがたく、今日の疲れもあってジークの心はもう溶けかかっていた。


「セシリアさん、おやすみなさい……」


「おやすみジーク。良い夢を……」


 月光が微かに差す殆ど真っ暗な部屋で、隣で寝ているジークを見るセシリアの目は、最初とは大きく異なり慈愛や優しさに満ちた柔らかな目だった。

この後どこかで言うかもしれませんが、セシリアには置いてきた弟がいます。

それはそれとして年上にからかわれる男の子っていいよなあ。


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