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晴空の魔法使い  作者: ぱんぱんなこった
廃れたもの
24/51

到着……?

「では、ぼくはそろそろ行きますね」


 晴れた空の下、ジークはカティ達に向かって別れの言葉を口にする。


「ジークくん、また来てね!」


「坊や、今度はうちにもいらっしゃいな」


 村の人達が挨拶をし終え、最後にカティとアドルフが分かれを告げる。


「ジークさん、娘とこの村を助けていただき本当にありがとうございます。またいらっしゃってください」


「はい、アドルフさん。また、いつか……」


 アドルフからの感謝を、今度は素直に受け取り再開の約束をした。

 そしてカティの番かと言葉を待つが中々話し始めず、ジークは体調が悪いのかと心配しだした。


「ね、ねえジーク。やっぱり私は……」


 あなたにこの村にいて欲しい。


 ジークの目を見れば、最後まで口にできなかった。ジークの旅の目的は知らない。だがその覚悟と希望を内包した瞳は自分の我儘で縛って良いものではないと、そう思ってしまった。


「カティさん……?」


「……ジーク、またこの村に来る……?」


 ジークはカティの顔を見上げ、笑顔で答える。


「はい!いつになるかは分かりませんが、必ず戻ってきます!」


「そう、それじゃあ……」


 カティは目を細め唇を舌で濡らし、ジークの頬へと口づけをした。

 初めて見るカティの表情に驚いているうちの、あっという間の出来事だった。


「なるべく早く戻ってきてね?私がおばあちゃんになったら、もう遅いんだから」


「は、はい」


 ジークはあっけにとられ、アドルフはやれやれと肩をすくめ、一部の女性はずるいとか抜け駆けと叫ぶ。


(あなたを縛ることはできないけど、糸を引っ掛けておくのはいいわよね……?)


 カティの思惑に気づかないまま、ジークは自分の頬に手を添える。良く分からない感情が芽生え、心臓がドクドクと高鳴った。


「ほら、行きなさいジーク。あなたの旅はこれからなんでしょう」


 カティに無理矢理振り向かせられ、背中を押されて歩き出す。

 そうだ、ジークの旅はまだまだ始まったばかり。

 ジークは前に進み、時々振り返って手を振った。今度の別れはなんだか悲しくない。それは多分、自分がこの旅を終えて帰って来ると心に決めたからだろう。

 ジークの足取りは軽く、心も晴れやかだった。






 更に数日駆け抜け、山の頂から遠くを見渡した時、奥の方になにやら大きい町が見えた。


「師匠、多分あれがアラハバイですよ」


「そうか、やっとだな。あそこで……」


「はい、魔王の情報集めと、仲間探しですね」


 ジークとイルマは既に仲間の必要性について話し合っていた。そもそも魔王やその配下を相手に一人で立ち向かうのは現実的ではない。人間が魔術を使うのはミゲルの一件で分かっている、ならば他の魔術を使う者と協力すれば来る脅威に対抗できるかもしれない。

 ただ、不安だったのは……


「でも、誰も魔術を知らないなんて不思議ですね」


 腰に差したミゲルの剣を見ながら呟く。

 村の人達に聞いても、誰も魔術どころか魔力すら知らなかった。確かに現代に存在する技術のはずだが、あまり普及していないのか。


「秘匿されているのかもしれんな。強い力を持てる技術をあまり広めたくないというのは理解できる」


 なるほど、と自分には無い視点からの意見に感心しつつ、とにかく行ってみなければ分からないので進み始めた。


 山の麓まで下り、何もない草原を駆ける。もうすぐ見たことが無い程大きな町に入れるとわくわくして飛び跳ねたくなる気持ちを抑え、その分足を速める。しかし……


「ジーク、ここからは歩け」


「え?でも、まだ結構遠いですよ」


 高鳴る気持ちに水を差されたようで、ジークは珍しく気分を損ねた様に言った。


「あれを見ろ」


 渋々言われた方向を見ると、遠くにゆっくり動くものが見えた。

 それは沢山の荷物を載せた馬車で、アラハバイに向けて進んでいるようだった。


「魔術が一般的では無い以上、高速で走る人間は目立ちすぎる」


 そう言われてしまってはジークも従うしかない。今日中に着けるかどうか分からず、好物を目の前で取り上げられた犬の様に肩を落とした。


「町は逃げたりせん。今の内に町に着いたら何をしたいか考えておいたら良い」


 ジークはあっさり機嫌を直して妄想に耽る。

 こういった所はまだまだ子供だな、とイルマは聞こえない様に呟いた。






 結局その日の内には到着できず、翌日の昼頃にやっとジークはアラハバイに着いた。


「これは、凄い。これが、町……?」


 近づいていた時から感じていたが、途轍もない活気。目の前には馬車が二台ほど通れる大通りがあり、その脇には所狭しと露店が並び大きな声で客寄せをしている。露店の奥にはまた別の店があって、更にその奥には何があるのかはもはやジークには見えなかった。


 そして大通りの先には大きな壁が町の中心を取り囲む様に立っており、壁の上には内側と外側を監視している兵隊が直立している。


 初めて見る風景の情報量にジークが圧倒されていると……


「坊や、道の真ん中に立つものではありませんよ」


 いつの間にか後ろに来ていた馬車の邪魔をしていたことに気づき、慌てて御者に謝って大通りの脇に退ける。すると今度は露店の人が狙ってきた。


「お兄さん、一人で旅してきたのかい?大変だったろ、でもこの薬を飲めばたちまち元気溌剌さ!」


「その首にかけてる石、いい石だねえ!どうだい、ここにも沢山奇麗な石があるんだ!」


「兄ちゃん剣を使うのか。ならここに世界に百本しかない名剣があるよ!今なら銅貨八十枚だ!」


「い、いや……ちょっと……」


 もう頭が破裂寸前のジークは何が何だか分からず、イルマははあとため息を吐いて、


「ジーク、一旦引け」


 そう言って手前の草原に逆戻りした。




「情報を集めるとか、仲間を集めるとか、そんな話できませんよ!」


 昨日からの期待に反して、思っていた以上の難易度の高さにジークの心は挫けてしまう。

 そもそもジークは話術に長けている訳ではないし、お金も持っていなかったので交渉もできる気がしない。


「しかしなあ、ここまで来て何も収穫が無いのはまずいぞ。他に行く当ても無いし。……とりあえず今日は様子を見て、明日は金を稼げないか探してみよう」


 ジークは涙目で頷いた後、西の空を見上げた。旅に出て初めて、自分の村が恋しくなった……

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