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出会い

 ある村の孤児院の中で一人の少年が死にかけていた。原因はわからない。この村に医者などなく、誰も判断できないからだ。できることは治りますようにと祈りながら看病することだけ。孤児でありながらシスターにその看病を受けているのだから、むしろ少年は幸せ者である。


「ああ、ジーク……かわいいジーク……あなたもいってしまうの……神よ、どうか慈悲をお与えください……」


 シスターシグネは膝をつき、少年――ジークの冷たくなった手を握りながら祈った。子供が死ぬことなど珍しくもないこの世界()で、また一人天に還ろうとする子供を前に、ただ祈り続ける。


(……外の世界、見たかったなあ……)


 朦朧とする意識の中でジークは思う。村の外に出てみたかったと。孤児院の本に書いてあった海や砂漠と呼ばれる場所に行きたかった。もっと色々な人に出会いたかった。それがジークの夢だった。だが最後に思ったのは……


(シグネお姉ちゃん……ありがとう……ごめんなさい……)


 ジークの幼いころに両親が病気で亡くなってからずっと育ててくれたことへの感謝。

 ジークをここまで育ててくれたのに、何も恩を返すことができないことへの謝罪。尽きぬ後悔の中でジークの意識は、心の奥深くへ沈んでいった。






(ここは……どこだろうか)


 そこはまるで深い深い水の底。ジークは昔川におぼれかけた記憶を思い出していた。ただここは川と違って流れは無く、より冷たかった。


(……これが死ぬってことなのかな……)


 だんだんと真っ黒な水底――死に沈みながらジークは静かに恐怖した。浮力のない体はゆっくり落ちていく……






 何かが瞬いた気がした。


(今のは……?)


 気のせいだと思った。こんなところに誰もいるわけない。だが瞬く光は輝きを強め、明確にこちらに近づいてきている。その光は紅く、温かく、太陽のようにジークの体を包み込んだ。冷え切った体は徐々に体温と浮力を取り戻し、死から離れていき、上へ上へと昇って行く。


「まったく、しょうがない奴じゃのう。わしの魔力で温めてやる」


(だれ……?もしかして、神様……?)


「はあ? わしは神なんかではない! 聞け! わしの名は――」






「目が覚めた……目が覚めたのねジーク! ああ、神よ。この慈悲に感謝します……!」


「シグネお姉ちゃん……」


 ジークは息を吹き返した。ほとんど死んでいたと言っていいほど低かった体温はすっかり元の温かさを取り戻し、真っ白だった顔色も今は血が巡り元気な子供そのものである。そしてジークはあの時見たものをシスターシグネに伝える。


「シグネお姉ちゃん……ぼく、光を見たんだ。大きくて、温かくて。ぼくを照らしてくれたんだ……あれは多分、神様だったんだよ!」


「え……本当に『だから神などではないと言っているだろうが!』


「……え……?」


 ジークは聞いたことのある声に目を向ける。シスターシグネの後ろに女性が立っていた。黒いマントにとんがり帽子。赤茶の長い髪を揺らして憤慨している女性は大きな声で名乗った。


「お主を助けたのはこのわし!悪逆非道を尽くしたあの魔王を倒した者!……魔女イルマじゃ!」

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